12 / 26
10 伯父からの手紙
しおりを挟む
「な、な、な、そんな、馬鹿な」
お父様が安楽椅子から立ち上がり、コーミナ先生に詰め寄る。
「そんな馬鹿なことは信じられない! いや、認めないぞ! 財産は兄のたった一人の弟である私のものだ!」
「申し訳ございませんが遺言書に書かれてある通りです」
「認めないと言っているだろう! 無効だ!」
お父様はコーミナ先生の持っている遺言書を奪おうとしたけれど、レイ様が間に入ったので無理だった。
邪魔をされたお父様はすごい剣幕で叫ぶ。
「邪魔をするな!」
「ネイロス伯爵、遺言書を破棄する行為は罪に問われますよ」
「う、うるさい! それが本物かどうかはわからないだろう!」
お父様が声を張り上げた時、少し前に伯父様がお客様を招いていたことを思い出した。
あの人たちがわたしの思っている人たちだとしたら、かなり心強い。
「コーミナ先生、その遺言書が本物であるという証人がいらっしゃるんですよね」
「はい。ロイド様は自分の弟であるランドウ様が先程のようなことを言い出すだろうと仰り、お二方に証人になってもらっています」
私の質問にコーミナ先生が頷くと、今度はお母様が叫ぶ。
「証人だなんて! 一体、誰が証人になったと言うの! 相手によっては認められないわ!」
お母様にそんな権限はないのに、どうしてそんなことを言えるのかがわからない。
それだけ、お金に執着していて冷静になれていないということかしら。
呆れ返っていると、コーミナ先生が答える。
「証人はルモ公爵とローイ公爵です」
ローラム王国には公爵家は三家しかない。
だから、お母様だけでなくお父様たちも文句の言いようがなかった。
「リウ、手紙には何て書いてあるんだ」
レイ様に尋ねられ、伯父様からの手紙を握りしめていたことを思い出した。
コーミナ先生がスーツの内ポケットからペーパーナイフを取り出すと、レイ様がそれを受け取る。
「リウ、僕が開けてもいいか」
「わたしでも開けられますよ。今までだって開けてきましたから」
「立ったまま開けたことはないだろ。手を切ったりしたら大変だ」
「では、お願いします」
過保護のような気もするけれど、お姉様が悔しそうにしているし、ここはレイ様に甘えておくことにする。
開けてもらってから封筒を受け取ると、中に入っている便箋を取り出した。
シンプルな白い便箋には、伯父様の直筆の文章が書かれていた。
『
親愛なる姪 リウへ
ありきたりな始まりの文章で悪いが、君がこれを読んでいるということは、僕はこの世にいないということだ。
君にとって、僕の死は早すぎたかもしれない。
僕も頑張ってみたんだが、力及ばずで悪かったね。
意地悪されても自分の正義を貫く君が、僕の姪であることを、ずっと誇りに思っていたよ。
それから、遺言書が開示されて驚いたかな。
普通ならば、君の父であるノバンダが爵位を継ぐはずなんだが、君も知っての通り、彼は公爵には向いていない。
となると、次に考えられるのはデッスンだが、彼も向いていない。
ファーシバル家は多くの貴族が当たり前としているような平民への差別をするような貴族ではない。
志だけならば、リウの意志が一番近い。
だけど、この国は女性が爵位を継ぐことは認められていない。
だから、君の婚約者に爵位を譲ろうと思う。
君ならば相手が誰であっても上手く扱えるだろう。
最後に一つだけお願いがあるんだ。
僕の分も幸せになって、今まで笑えなかった分、たくさん笑ってくれ。
君の幸せを願う伯父より 』
お父様たちの前で泣きたくなかったし、手紙には笑ってくれと書いてあったから、必死に涙をこらえる。
レイ様がそんなわたしに気がついて、優しく頭をなでてくれた。
わたしが手紙を読んでいる間に、お父様たちも封を切ったらしく、手紙を読んだお父様が絶叫する。
「娘を平等に大事にできないような弟には爵位を継がせないだと!? ふざけるな! 私は弟でファーシバル家の血を引いているんだぞ!」
お父様は伯父様からの手紙を破り捨て、床に落ちた紙片を何度も踏みつけた。
「どうしたら良いの? ノバンダを頼むと言われても、お金がないんじゃどうしようもないわ!」
「酷いですわ、伯父様」
お母様は大声を上げ、お姉様は大粒の涙を流して、手紙をくしゃくしゃにして丸めた。
お兄様が隣に座っているお姉様に尋ねる。
「なんて書いてあったんだよ」
「可愛い姪だと思っていたから、レイ様を婚約者にしたのにって書かれていましたわ! それなら、もっと早くに言ってくだされば良かったのではないですか!? レイ様とフサス様ならレイ様のほうが良いに決まっていますわ!」
「それはお前が悪いだろう。平民になりたくないからって必死過ぎたんだよ」
お兄様の手紙には当たり障りのないことしか書かれていなかったようで、お姉様に冷たく言った。
そして、今度はわたしに顔を向けて話しかけてくる。
「リウ、今まで悪かったよ。本当はあんな意地悪はしたくなかったんだ。ファーラたちが意地悪しろってうるさくってさ。やりたくなかったのに意地悪させられてたんだ」
「はい?」
突然のお兄様の発言に驚き過ぎて、一瞬だけ思考が停止してしまった。
お父様が安楽椅子から立ち上がり、コーミナ先生に詰め寄る。
「そんな馬鹿なことは信じられない! いや、認めないぞ! 財産は兄のたった一人の弟である私のものだ!」
「申し訳ございませんが遺言書に書かれてある通りです」
「認めないと言っているだろう! 無効だ!」
お父様はコーミナ先生の持っている遺言書を奪おうとしたけれど、レイ様が間に入ったので無理だった。
邪魔をされたお父様はすごい剣幕で叫ぶ。
「邪魔をするな!」
「ネイロス伯爵、遺言書を破棄する行為は罪に問われますよ」
「う、うるさい! それが本物かどうかはわからないだろう!」
お父様が声を張り上げた時、少し前に伯父様がお客様を招いていたことを思い出した。
あの人たちがわたしの思っている人たちだとしたら、かなり心強い。
「コーミナ先生、その遺言書が本物であるという証人がいらっしゃるんですよね」
「はい。ロイド様は自分の弟であるランドウ様が先程のようなことを言い出すだろうと仰り、お二方に証人になってもらっています」
私の質問にコーミナ先生が頷くと、今度はお母様が叫ぶ。
「証人だなんて! 一体、誰が証人になったと言うの! 相手によっては認められないわ!」
お母様にそんな権限はないのに、どうしてそんなことを言えるのかがわからない。
それだけ、お金に執着していて冷静になれていないということかしら。
呆れ返っていると、コーミナ先生が答える。
「証人はルモ公爵とローイ公爵です」
ローラム王国には公爵家は三家しかない。
だから、お母様だけでなくお父様たちも文句の言いようがなかった。
「リウ、手紙には何て書いてあるんだ」
レイ様に尋ねられ、伯父様からの手紙を握りしめていたことを思い出した。
コーミナ先生がスーツの内ポケットからペーパーナイフを取り出すと、レイ様がそれを受け取る。
「リウ、僕が開けてもいいか」
「わたしでも開けられますよ。今までだって開けてきましたから」
「立ったまま開けたことはないだろ。手を切ったりしたら大変だ」
「では、お願いします」
過保護のような気もするけれど、お姉様が悔しそうにしているし、ここはレイ様に甘えておくことにする。
開けてもらってから封筒を受け取ると、中に入っている便箋を取り出した。
シンプルな白い便箋には、伯父様の直筆の文章が書かれていた。
『
親愛なる姪 リウへ
ありきたりな始まりの文章で悪いが、君がこれを読んでいるということは、僕はこの世にいないということだ。
君にとって、僕の死は早すぎたかもしれない。
僕も頑張ってみたんだが、力及ばずで悪かったね。
意地悪されても自分の正義を貫く君が、僕の姪であることを、ずっと誇りに思っていたよ。
それから、遺言書が開示されて驚いたかな。
普通ならば、君の父であるノバンダが爵位を継ぐはずなんだが、君も知っての通り、彼は公爵には向いていない。
となると、次に考えられるのはデッスンだが、彼も向いていない。
ファーシバル家は多くの貴族が当たり前としているような平民への差別をするような貴族ではない。
志だけならば、リウの意志が一番近い。
だけど、この国は女性が爵位を継ぐことは認められていない。
だから、君の婚約者に爵位を譲ろうと思う。
君ならば相手が誰であっても上手く扱えるだろう。
最後に一つだけお願いがあるんだ。
僕の分も幸せになって、今まで笑えなかった分、たくさん笑ってくれ。
君の幸せを願う伯父より 』
お父様たちの前で泣きたくなかったし、手紙には笑ってくれと書いてあったから、必死に涙をこらえる。
レイ様がそんなわたしに気がついて、優しく頭をなでてくれた。
わたしが手紙を読んでいる間に、お父様たちも封を切ったらしく、手紙を読んだお父様が絶叫する。
「娘を平等に大事にできないような弟には爵位を継がせないだと!? ふざけるな! 私は弟でファーシバル家の血を引いているんだぞ!」
お父様は伯父様からの手紙を破り捨て、床に落ちた紙片を何度も踏みつけた。
「どうしたら良いの? ノバンダを頼むと言われても、お金がないんじゃどうしようもないわ!」
「酷いですわ、伯父様」
お母様は大声を上げ、お姉様は大粒の涙を流して、手紙をくしゃくしゃにして丸めた。
お兄様が隣に座っているお姉様に尋ねる。
「なんて書いてあったんだよ」
「可愛い姪だと思っていたから、レイ様を婚約者にしたのにって書かれていましたわ! それなら、もっと早くに言ってくだされば良かったのではないですか!? レイ様とフサス様ならレイ様のほうが良いに決まっていますわ!」
「それはお前が悪いだろう。平民になりたくないからって必死過ぎたんだよ」
お兄様の手紙には当たり障りのないことしか書かれていなかったようで、お姉様に冷たく言った。
そして、今度はわたしに顔を向けて話しかけてくる。
「リウ、今まで悪かったよ。本当はあんな意地悪はしたくなかったんだ。ファーラたちが意地悪しろってうるさくってさ。やりたくなかったのに意地悪させられてたんだ」
「はい?」
突然のお兄様の発言に驚き過ぎて、一瞬だけ思考が停止してしまった。
2,307
お気に入りに追加
3,458
あなたにおすすめの小説

【完結】あなたに従う必要がないのに、命令なんて聞くわけないでしょう。当然でしょう?
チカフジ ユキ
恋愛
伯爵令嬢のアメルは、公爵令嬢である従姉のリディアに使用人のように扱われていた。
そんなアメルは、様々な理由から十五の頃に海を挟んだ大国アーバント帝国へ留学する。
約一年後、リディアから離れ友人にも恵まれ日々を暮らしていたそこに、従姉が留学してくると知る。
しかし、アメルは以前とは違いリディアに対して毅然と立ち向かう。
もう、リディアに従う必要がどこにもなかったから。
リディアは知らなかった。
自分の立場が自国でどうなっているのかを。

婚約破棄ですか? では、この家から出て行ってください
八代奏多
恋愛
伯爵令嬢で次期伯爵になることが決まっているイルシア・グレイヴは、自らが主催したパーティーで婚約破棄を告げられてしまった。
元、婚約者の子爵令息アドルフハークスはイルシアの行動を責め、しまいには家から出て行けと言うが……。
出ていくのは、貴方の方ですわよ?
※カクヨム様でも公開しております。

私を家から追い出した妹達は、これから後悔するようです
天宮有
恋愛
伯爵令嬢の私サフィラよりも、妹エイダの方が優秀だった。
それは全て私の力によるものだけど、そのことを知っているのにエイダは姉に迷惑していると言い広めていく。
婚約者のヴァン王子はエイダの発言を信じて、私は婚約破棄を言い渡されてしまう。
その後、エイダは私の力が必要ないと思い込んでいるようで、私を家から追い出す。
これから元家族やヴァンは後悔するけど、私には関係ありません。

真実の愛がどうなろうと関係ありません。
希猫 ゆうみ
恋愛
伯爵令息サディアスはメイドのリディと恋に落ちた。
婚約者であった伯爵令嬢フェルネは無残にも婚約を解消されてしまう。
「僕はリディと真実の愛を貫く。誰にも邪魔はさせない!」
サディアスの両親エヴァンズ伯爵夫妻は激怒し、息子を勘当、追放する。
それもそのはずで、フェルネは王家の血を引く名門貴族パートランド伯爵家の一人娘だった。
サディアスからの一方的な婚約解消は決して許されない裏切りだったのだ。
一ヶ月後、愛を信じないフェルネに新たな求婚者が現れる。
若きバラクロフ侯爵レジナルド。
「あら、あなたも真実の愛を実らせようって仰いますの?」
フェルネの曾祖母シャーリンとレジナルドの祖父アルフォンス卿には悲恋の歴史がある。
「子孫の我々が結婚しようと関係ない。聡明な妻が欲しいだけだ」
互いに塩対応だったはずが、気づくとクーデレ夫婦になっていたフェルネとレジナルド。
その頃、真実の愛を貫いたはずのサディアスは……
(予定より長くなってしまった為、完結に伴い短編→長編に変更しました)

熱烈な恋がしたいなら、勝手にしてください。私は、堅実に生きさせてもらいますので。
木山楽斗
恋愛
侯爵令嬢であるアルネアには、婚約者がいた。
しかし、ある日その彼から婚約破棄を告げられてしまう。なんでも、アルネアの妹と婚約したいらしいのだ。
「熱烈な恋がしたいなら、勝手にしてください」
身勝手な恋愛をする二人に対して、アルネアは呆れていた。
堅実に生きたい彼女にとって、二人の行いは信じられないものだったのである。
数日後、アルネアの元にある知らせが届いた。
妹と元婚約者の間で、何か事件が起こったらしいのだ。

侯爵令嬢は限界です
まる
恋愛
「グラツィア・レピエトラ侯爵令嬢この場をもって婚約を破棄する!!」
何言ってんだこの馬鹿。
いけない。心の中とはいえ、常に淑女たるに相応しく物事を考え…
「貴女の様な傲慢な女は私に相応しくない!」
はい無理でーす!
〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇
サラッと読み流して楽しんで頂けたなら幸いです。
※物語の背景はふんわりです。
読んで下さった方、しおり、お気に入り登録本当にありがとうございました!

【完結】婚約破棄される未来見えてるので最初から婚約しないルートを選びます
21時完結
恋愛
レイリーナ・フォン・アーデルバルトは、美しく品格高い公爵令嬢。しかし、彼女はこの世界が乙女ゲームの世界であり、自分がその悪役令嬢であることを知っている。ある日、夢で見た記憶が現実となり、レイリーナとしての人生が始まる。彼女の使命は、悲惨な結末を避けて幸せを掴むこと。
エドウィン王子との婚約を避けるため、レイリーナは彼との接触を避けようとするが、彼の深い愛情に次第に心を開いていく。エドウィン王子から婚約を申し込まれるも、レイリーナは即答を避け、未来を築くために時間を求める。
悪役令嬢としての運命を変えるため、レイリーナはエドウィンとの関係を慎重に築きながら、新しい道を模索する。運命を超えて真実の愛を掴むため、彼女は一人の女性として成長し、幸せな未来を目指して歩み続ける。

妹と婚約者は私が邪魔なようなので、家から出て行きます
天宮有
恋愛
伯爵令嬢の私アリカが作った魔法道具の評判はよかったけど、妹メディナが作ったことにされてしまう。
婚約者ダゴンはメディナの方が好きと言い、私を酷使しようと目論んでいた。
伯爵令嬢でいたければ従えと命令されて、私は全てがどうでもよくなってしまう。
家から出て行くことにして――魔法道具は私がいなければ直せないことを、ダゴン達は知ることとなる。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる