許してもらえるだなんて本気で思っているのですか?

風見ゆうみ

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9  伯父の遺言書

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 レイ様は馬車ではなく、自分の愛馬で来てくれていた。
 だから、馬車よりもかなり早い時間でわたしを助けに来れたのだとわかった。
 
 レイ様の愛馬のハクルは白毛の穏やかな目を持つ馬で、人が好きな優しい子だ。
 だから、レイ様と一緒にわたしが乗っても嫌がらずに走ってくれた。

 公爵邸の寮に着くと、夜中だというのに使用人たちは起きていて、わたしたちを出迎えてくれた。

 レイ様が執事に朝一番にお医者様を呼ぶように指示をしてくれたので、それを聞いたメイドが怪我の応急処置をしてることになった。

 その後は自分の部屋を使ってくれと言う使用人たちにお礼を言って断り、その日は本当にレイ様の部屋で眠った。
 しかも、レイ様のベッドでレイ様と一緒にだ。

 レイ様はわたしのことを妹みたいにしか思っていないみたい。
 少し悲しい気もするけれど、今までお互いのことをそういう目で見てこなかったのだからしょうがない。

 何にしても、レイ様がわたしの味方だということはわかるから安心できた。

 色々なことがあって眠れないかと思ったのに、背中に感じるレイ様の体温が心地良くて、すぐにまぶたが落ちていった。




*****



 次の日の朝、目が覚めた時にはレイ様は部屋にはいなかった。
 寝間着のまま扉を開けて部屋から顔を出すと、メイドが廊下に立っていて目が合った。

「おはようございます、リウ様」
「おはよう」
「着替えを手伝わせていただけますでしょうか」
「お願いするわ」

 頷くと、別室で整えてくれることになり、空いている個室に場所を移動した。

「レイ様はどこにいるのかしら」
「出発の準備を整えておられます。仕事も引き継ぎができませんので、最終確認をされるとのことでした」
「レイ様にばかりお任せしては駄目ね。着替えたらすぐに、わたしも行かなくちゃ」
「まずは、お医者様に診てもらいましょう」
「大丈夫よ。もう痛みはほとんどないわ」
「先生は別室で待ってくれていますので診てもらってくださいませ」
「わかったわ」

 来てくれているのなら、断るのも失礼よね。

 身支度が終わると待ってくれていたお医者様に、全身を診てもらった。
 腫れはあるけれど、大事ではなさそうということなので安心する。

 今度こそ、レイ様の所へ行こうとすると、昨日の騎士たちから、荷物はレイ様が手配した馬車に運び入れたと連絡をもらった。
 
「お会いできなくなってしまうのは、とても残念ですが、あのような家族でしたら出ていくことが一番ですね」
「ありがとう。わたしもせっかくここに慣れてきたのに残念だわ。ところでお姉様とお兄様は罪に問えないのかしら」
「警察が聞き取り調査をするとは思いますが、自分たちは関与していないと言いはりそうですね」
「わたしからも話はしてみるわ」

 警察の上層部はお金に弱い。
 それだけでなく、出世したいがために貴族の言うことを聞く人間も多い。

 わたしのように貴族に嫌われている人間の話を真面目に聞いても、彼らには何の得にもならない。
 そんなこともあり、警察は腐敗していると陰で文句を言う人も多い。

「捕まった二人は何か言っていた?」
「ファーラ様とデッスン様に命令されたと言っているそうですよ」
「その様子だと反省の色はなさそうね」

 騎士は苦笑して頷いた。

 その後は騎士と共にレイ様がいるであろう伯父様の執務室に向かった。



******


 お父様たちと顔を合わせたくなかったので、朝食後に出発しようとしていると、弁護士に止められてしまった。
 遺言書の開示の時に、わたしとレイ様もその場にいるようにと、伯父様から伝言を受けていたそうだ。

 伯父様の望みならしょうがないということで、わたしとレイ様は遺言書の開示場所となっている伯父様の部屋へと向かった。
 すでにわたしの家族は全員集まっていて、腹立たしいことに、お父様は伯父様のお気に入りの安楽椅子に座ってふんぞり返っていた。
 
 思い出の椅子を穢されているようで腹が立ち、お父様に話しかける。

「伝言は聞いていただけましたか」
「聞いていない。何を言うつもりだったんだ?」
「伯父様の財産を無駄なことに使わないでください」
「私の金になるんだ。お前にどうこう言われす筋合いはない」
「そうよ。リウ、どうしてあなたはそうやって反抗ばかりするの。遺言書の開示が終われば、あなたと私たちはなんの縁もゆかりも無いものにさせてもらうわ」

 割って入ってきたお母様の言葉を聞いて、わたしは頬がゆるみそうになるのを何とかこらえる。
 
 そうしてもらえると有り難いわ。
 もう、わたしのことなんて放っておいてほしい。
 たとえ、レイ様との婚約が解消されても、どうにかして生きていくわ。

「わかりました。もう二度とかかわらないと誓いますので、お父様たちもわたしのことは忘れてください」
「言われなくてもそうするさ!」

 お兄様が言うと、家族は一斉に大きな声で笑って頷きあった。

 ノックの音のあとに、ダークブラウンのスーツに身を包んだ弁護士のコーミナ先生が部屋に入ってきた。
 そして、わたしの家族を一瞥して咳払いをすると、それを機にお父様たちが静かになった。
 コーミナ先生は、皆が口を閉ざしたことを確認すると、お父様から順番に封筒を渡していく。

「これは故人様からのお手紙になります。遺言書の開示後に封を開いてください」

 お母様たちはソファに座ったまま受け取り、わたしは扉付近で立ったまま手紙を受け取った。

「では、読み上げます」

 白い封筒の中から真っ白な便箋を取り出し、コーミナ先生はわたしの横に立って内容を読み上げる。
 
「遺言者、ロイド、ファーシバルは次の通り遺言する。遺留分以外の財産の全てをリウ・ネイロスに、家督はリウ・ネイロスの婚約者に譲る」

 信じられなくて、わたしはコーミナ先生の顔を凝視した。
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