許してもらえるだなんて本気で思っているのですか?

風見ゆうみ

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6  伯父の願い

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 パーティーが始まってからは、招待客の人は伯父様に挨拶に行くことがメインになったので、わたしのことを気にしなくなった。
 
 もう会えなくなるからといって、無理をしてでも招待客に笑顔を向けている伯父様を見ていると安静にしていてほしいという思いばかり浮かんでくるので気を紛らわすことにする。

 レイ様は他の人と話をしているので、会場の隅にある飲食スペースで暴食していると、突然、会場内が静かになった。

 どうしたのかと思って食事をする手を止めて、口の中の食べ物を飲み込んでから伯父様の姿を探す。
 すると、伯父様の声が聞こえた。

「リウ。どこにいるんだ?」
「……ここにいます!」

 お皿とカトラリーを近くのテーブルに置いて近寄ろうとすると、目の前に伯父様へと続く道が開かれていく。

 伯父様はわたしの姿を見て微笑み、隣に立つように指示をしたあと話し始める。

「本日は可愛い姪の婚約者が決まったので、そのお披露目をさせてもらおうと思う。本来はファーラの予定だったんだが、諸事情でリウになった」

 クスクスと笑う声が聞こえたので左横に顔を向けると、お姉様がフサス様に寄り添って笑っている姿が見えた。

 その笑顔がいつまで続くのか楽しみだわ。

 にこりと微笑んで見せると、お姉様は眉根を寄せ、フサス様の友人たちは馬鹿にするような笑みを見せた。

「リウのお相手を発表しよう」

 伯父様は満面の笑みを浮かべて声を張り上げる。

「シュード伯爵家の次男のレイが、リウの婚約者だ」

 発表された瞬間、周りにいた招待客は思考回路が停止してしまったのか、驚いた顔をして固まってしまった。

 お姉様がどんな顔をしているのか気になって見てみると、口をあんぐりと開けた状態で伯父様を見つめていた。

「ここまで驚かれるとは思っていなかったな」

 伯父様が苦笑してわたしに話しかけてきた。

「本当ですね。女性だけならまだしも男性までもが信じられないみたいですもの」
「どういう反応なのかわからないな」

 レイ様がわたしに近づいてきて言った。

 そこで我に返ったお姉様が叫ぶ。

「お待ちください! どうしてレイ様がリウの相手なのですか!」
「落ち着きなさい、ファーラ。元々は君の婚約者になるはずだったんだよ。それに、君の両親も許可しているんだ」
「リウ! あなた、知っていましたのね!?」

 伯父様が苦笑すると、お姉様はすごい剣幕でわたしに向かってきた。

「絶対に許しませんわ!」
「やめろ」

 お姉様がわたしに両手を伸ばした時に、レイ様が間に入ってくれたので、お姉様に掴みかかられずに済んだ。

 お姉様は手を下ろすと、レイ様に叫ぶ。

「レイ様! 本当に良いのですか!? 本来なら、わたくしとあなたが婚約者になるはずだったのですわよ!? それなのに!」
「君が選んだ結果だ」
「で、ですが、ですけどっ! 相手はリウなのです! 平民なんかと仲良くする娘ですのよ!? リウが相手なら断るべきですわ!」

 レイ様は取り乱しているお姉様を、何も言わずに冷たい目で見つめた。
 そのことに気が付いたお姉様は泣き出しそうになるのを堪えたのか、歯を食いしばった。

「ファーラ、もう良いじゃないか。シュード伯爵令息は嫡男じゃないから平民になるんだ。君は平民になるような女じゃないだろ」
「……そうですわ。わたくしは平民になるような女性ではないですわ」

 フサス様に宥められたお姉様は、わたしを睨みつける。

「平民になる婚約者なんていりません。譲ってあげますわ」
「ありがとうございます!」

 両手を合わせてお礼を言うと、お姉様はまた表情を歪めた。
 でも、多くの人に見られていることを思い出すと、大きく深呼吸して気分を落ち着けてから、フサス様と一緒に会場内から出ていった。
 少ししてから、レイ様がわたしに話しかけてくる。

「彼らは僕が平民になると思っているようだが、父は爵位を用意してくれると言っていたから気にしなくて良い」
「そうだったのですか?」
「ああ。でも、どうして次男は平民になると思い込んでるのかわからない」
「多くの人がそうなるからだと思います」

 ローラム王国は複数の爵位を持っている貴族が少ない。
 だから、長男が爵位を継いでしまうと、次男以下は平民になってしまうことが多いのだ。
 お父様の場合は、お祖父様が公爵という立場だったから、他の爵位を持っておられたので、お父様は平民にならずに済んだ。

「そんなものは確かめれば済むことだろう」
「そこまでしなくても良いと思っていたんだと思います。今のお姉様にはフサス様もいますしね。それに相手がレイ様だとは思っていなかったはずです」

 別に誰かに聞かれても困るわけではないので、普通の声の大きさで話をしていると、すすり泣く声が聞こえてきた。

「そんなっ、レイ様がっ!」
「レイ様は誰のものにもならないと思っていたのにぃっ!」
「しかも、どうしてあんな女とっ!」

 レイ様に婚約者ができたことがショックみたいだ。
 しかも、相手がわたしなのが余計に嫌らしい。
 
 パートナーが隣りにいるというのに涙を流す女性たちを見ていると、伯父様が話しかけてきた。

「リウもレイも今日は帰っていいよ」
「でも、まだ、パーティーは途中ですから」

 わたしが渋ると、伯父様は言い聞かせるようにゆっくりと話す。

「もう疲れてきたから、最後の挨拶までは僕も席を外すつもりなんだ」
「……わかりました」
「リウ、今までありがとう。レイ、君もだ。僕を支えてくれて本当にありがとう。結婚式を見られないのは残念だが、二人で末永く幸せになってほしい」
「伯父様、何を言っているのですか。お礼を言わなければならないのはこちらのほうです」
「そうです。閣下には本当にお世話になっているんですから」

 焦るわたしとレイ様を見て、伯父様は優しく微笑んでくれた。

 まさか、これが伯父様との最後の会話になるなんて思っていなかった。


 この日の晩、伯父様の病状が急激に悪化し、夜中の間に帰らぬ人となってしまったのだった。


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