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17 やりすぎてはいけませんよ?

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「アリスさん! 来ちゃったじゃないのです! どうして来ちゃったんですか! というか、来るなら来るで連絡を入れてくださいよ!」
「サプライズしようと思ったのよ。だけど、あまり嬉しくなさそうね。せっかく、リノアが喜んでくれると思ったのに…」

 うう、と目に手を当てるアリスさんですが、そんな事くらいでは騙されません。

「急遽、来たくなったんですね?」
「当たりだよ。リノアもアリスの事がよくわかるようになったな」

 アリスさんの目を見て聞くと、アリスさんは苦笑し、いつの間にかラルフ様の横にいたテツくんが、彼女の代わりに答えてくれました。
 そして、ランドン辺境伯は、というと。

「アリス! 会いたかった!」
「うるさいわね。静かにしてくれる?」

 両手の指を組み合わせ、それはもう嬉しそうに言う、ランドン辺境伯に対し、アリスさんは半眼で鬱陶しそうに答えられました。

「君は来ないと聞いてたのに…。まさか、俺に会いに?」
「そんな訳ない、と言いたいところだけど、あんたに用事があるのは確かね」
「なんだ!? なんの用事なんだ!?」
「アリスに近付くな」

 食い気味でランドン辺境伯がアリスさんに近付こうとするのを、テツくんが間に入って止めました。

 こ、これは、恋のライバルのご対面というやつでは!?
 どんな感じになるのでしょう!?
 
 ワクワクしていると、ラルフ様に額を軽く小突かれました。

「今、面白がっていただろう?」
「ど、どうしてわかったのですか!?」
「顔に出ていた」
「気を付けますです」

 私とラルフ様が話している間に、テツくんとランドン辺境伯は何やら言い争っているようでしたが、アリスさんは自分の事で2人が争っているのに、全く興味がなさそうな顔をして、少し離れたテーブルにある食事の方に目を向けられていました。

「あの、アリスさん」
「何?」
「テツくん達は良いのですか…、と言いたいところですが、言っても気にされませんよね。ところで、ユディット伯爵令嬢と一緒にいらっしゃったようですが、何かお話されてたのですか?」
「ああ、一応、彼女に答えを聞きに行ったの」
「答え?」

 聞き返すと、アリスさんは私の耳元で、何を質問したのかを教えて下さいます。

「今からランドンの罪を暴きにいくけど、あんたはグルなの? って聞いたの。で、ランドンと自分の身、どっちを守るか決めなさいって言ったの」
「ユディット伯爵令嬢はなんて仰ったんです?」
「全く加担してないとは言わないって。だけど、ランドンと一緒に罰を受ける気はないらしいわ」
「…なんだか可哀想になってきますね…」

 ユディット伯爵令嬢が今はどうしているのか気になって、会場内を見回してみたけれど、彼女の姿は見えません。

「ユディット伯爵令嬢はどちらへ行かれたんでしょうか」
「帰ったわよ」
「え!?」

 驚いた私に向かって、アリスさんは自分の口元に人差し指を当てて言う。

「ランドンに気付かれないようにしないとね」

 アリスさんからの話を聞いたあとにランドン辺境伯を置いて帰られたという事は、ユディット伯爵令嬢は完全に彼を見捨てた感じなのでは?
 もちろん、罰を受ける気はないと言っていらしたので、おかしくない行動といえばおかしくない行動ですが。

 ランドン辺境伯の方を見てみると、先程までテツくんと言い争っていましたが、ラルフ様に止められたようで、今はテツくんとラルフ様が会話をしていて、ランドン辺境伯は黙って、少し離れたところでアリスさんを見つめておられました。

 なんだか怖いのです。

「あいつ、放っておいたらストーカーになりそうね」
「だな。だから、とっとと何とかしろ」
「もう証拠もなしに、とりあえずぶちこまない?」
「ぶちこむ?」

 テツくんにアリスさんが返した言葉の意味がわからなくて聞き返すと、ラルフ様が私に優しく言います。

「リノアは知らなくていい言葉だ」
「そうなのですか」

 平民の方の間で流行っている言葉なのでしょうか。
 今度、ラルフ様がいない時にアリスさんに聞いてみましょう。

「さて、早速、仕事にかかりましょうか。さっさと終わらせて美味しいものを食べて帰りたいし」
「美味しいものを食べたいなら、今日はやりすぎてはいけませんよ?」
「大丈夫よ。後処理は男達がやるから」

 アリスさんはテツくんとラルフ様を見て、にっこり微笑んだけれど、微笑みを向けられた2人はうんざりする様な顔をされたのでした。
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