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8 穴があったら入りたいのです!
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「こんにちは、クラーク辺境伯。リノア様はいらっしゃいますか?」
数日後、トラジャス伯爵がクラーク邸に私宛に訪ねてこられたため、ラルフ様に報告すると、ラルフ様が応対して下さいました。
私は、こっそりとトラジャス伯爵から見えない所で、2人の会話を聞いています。
「リノアは君に会う気はないし、俺も君に会わせたくない。帰ってくれ」
「お願いします。彼女にひと目だけでも会わせて下さい。リノア様の笑顔を見たら、すぐに帰りますから」
笑顔を見たいだなんて止めてほしいのです。
この何日かの間に彼について調べましたが、20歳の独身、女性が大好きで、23歳になるまでは誰も嫁にはしない、と公言していらっしゃるようですが、とても野心家らしく、女性関係で足を引っ張られたくないとかいう理由で結婚をしないんだそうです。
暗に自分はハニートラップにかかりますよ、と言ってるようなものですが。
そんな人間が近付いてくるという事は何か狙いがあるのも確かです。
「では、クラーク辺境伯、よろしければ仕事の話をしませんか?」
「約束もなしに来た奴と話す時間はない」
ラルフ様はぴしゃりと言い放ち、扉を閉めると鍵をかけられました。
ラルフ様が私の方に歩いて来て下さったので、頭を下げます。
「ご迷惑をおかけして申し訳ございません」
「リノアが謝る事じゃない」
「ですが、お仕事の邪魔をしてしまっています」
「リノアとこうやって話せる時間が出来たんだからいいんだ。それに、俺の婚約者にちょっかいをかけようとするなんて、どんな男か、この目で確かめておきたかった」
「ど、どういう印象でしたか?」
ラルフ様の表情が少し怒り気味なので苦笑しながら尋ねると、吐き捨てるように答えて下さいます。
「…あいつは辺境伯の座を狙ってるんだろうな」
「どういう事です?」
「俺の女性関係に関する悪い噂はほとんど消えてきたのだが、俺がリノアにしか興味がない事を周りに知らしめてしまった」
「も、申し訳ございません」
そう言われてみればそうなのです。
他の女の人にうつつを抜かしていない事を証明するがために、ラルフ様が私にとても甘いというお話を自らしてしまっていましたからね。
弱点を明かしているようなものなのです。
これに関しては、完璧に私のミスです。
「リノアを責めてるんじゃない。それに本当のことだから別にかまわない」
ラルフ様は私の頬に優しくキスをすると、微笑んで続けます。
「トラジャスの様に、俺自身が無理なら、弱点であるリノアに近付こうとする輩がいてもおかしくない。今、俺が分別のない行動に出たら、それこそ地位が危ないからな」
「分別のない行動、とは?」
「極端な話をすればリノアに手を出されて、怒りであいつを殺そうとしてしまうとか」
「こ、殺しは駄目ですし、殺されたら、その人自身は何の意味もないじゃないですか!」
「リノアが止めると思っていたら? リノアのお願いを俺が断れないかもしれない。殺される前に止めてもらえばいいと思ってるのかもしれないぞ?」
「婚約者がいる私に手を出す時点で相手方が悪いじゃないですか」
ラルフ様ならそんな事くらいわかっているでしょうに…。
そんな風に思いながら言うと、ラルフ様は私の頬に手を当て、親指で優しく撫でながら言います。
「リノアがその男を好きになって、心を許していたら?」
「そんな事はありえません!」
「それはその時になってみないとわからないだろう?」
悲しそうな顔をされるので、なぜか信用されていない事に腹が立って、私はラルフ様のシャツをつかんで顔を下げさせると、頬に触れるだけのキスをした。
「ラルフ様はもう少し自信を持ってくださっていいと思います!」
「えっと、ああ、そうだな」
だいぶ驚かれたようで、私がキスした部分に手をしばらく当てておられましたが、少ししてから、優しく微笑んで下さいました。
「さっきのを口にしてくれると、もっと自信が持てるんだが」
「く、口だなんて贅沢なのです!」
「そうか?」
ラルフ様は楽しそうに笑うと、一度はなした私の頬に再度触れられました。
こ、これは。
この感じは本で読んだ事のあるあれですか。
こんなロマンス小説みたいなシチュエーションが自分でも起きるだなんて。
目を閉じようとして、気が付きました。
「ラ、ラルフ様、駄目です」
「どうしてだ」
視線を感じた方向を指差すと、ケイン様や他の騎士の方が一斉に違う方向を向かれました。
見てません、と言いたいようです。
というか、私の頬チューは見られていたわけです!
穴があったら入りたいのです!
「とにかく、ラルフ様は変な噂を聞かれても、まずは私に確認するようにして下さい! いいですね!?」
早口でまくし立てていうと、ラルフ様は私の頬を何度も優しく撫でつつ、笑いながら頷いてくださりました。
数日後、トラジャス伯爵がクラーク邸に私宛に訪ねてこられたため、ラルフ様に報告すると、ラルフ様が応対して下さいました。
私は、こっそりとトラジャス伯爵から見えない所で、2人の会話を聞いています。
「リノアは君に会う気はないし、俺も君に会わせたくない。帰ってくれ」
「お願いします。彼女にひと目だけでも会わせて下さい。リノア様の笑顔を見たら、すぐに帰りますから」
笑顔を見たいだなんて止めてほしいのです。
この何日かの間に彼について調べましたが、20歳の独身、女性が大好きで、23歳になるまでは誰も嫁にはしない、と公言していらっしゃるようですが、とても野心家らしく、女性関係で足を引っ張られたくないとかいう理由で結婚をしないんだそうです。
暗に自分はハニートラップにかかりますよ、と言ってるようなものですが。
そんな人間が近付いてくるという事は何か狙いがあるのも確かです。
「では、クラーク辺境伯、よろしければ仕事の話をしませんか?」
「約束もなしに来た奴と話す時間はない」
ラルフ様はぴしゃりと言い放ち、扉を閉めると鍵をかけられました。
ラルフ様が私の方に歩いて来て下さったので、頭を下げます。
「ご迷惑をおかけして申し訳ございません」
「リノアが謝る事じゃない」
「ですが、お仕事の邪魔をしてしまっています」
「リノアとこうやって話せる時間が出来たんだからいいんだ。それに、俺の婚約者にちょっかいをかけようとするなんて、どんな男か、この目で確かめておきたかった」
「ど、どういう印象でしたか?」
ラルフ様の表情が少し怒り気味なので苦笑しながら尋ねると、吐き捨てるように答えて下さいます。
「…あいつは辺境伯の座を狙ってるんだろうな」
「どういう事です?」
「俺の女性関係に関する悪い噂はほとんど消えてきたのだが、俺がリノアにしか興味がない事を周りに知らしめてしまった」
「も、申し訳ございません」
そう言われてみればそうなのです。
他の女の人にうつつを抜かしていない事を証明するがために、ラルフ様が私にとても甘いというお話を自らしてしまっていましたからね。
弱点を明かしているようなものなのです。
これに関しては、完璧に私のミスです。
「リノアを責めてるんじゃない。それに本当のことだから別にかまわない」
ラルフ様は私の頬に優しくキスをすると、微笑んで続けます。
「トラジャスの様に、俺自身が無理なら、弱点であるリノアに近付こうとする輩がいてもおかしくない。今、俺が分別のない行動に出たら、それこそ地位が危ないからな」
「分別のない行動、とは?」
「極端な話をすればリノアに手を出されて、怒りであいつを殺そうとしてしまうとか」
「こ、殺しは駄目ですし、殺されたら、その人自身は何の意味もないじゃないですか!」
「リノアが止めると思っていたら? リノアのお願いを俺が断れないかもしれない。殺される前に止めてもらえばいいと思ってるのかもしれないぞ?」
「婚約者がいる私に手を出す時点で相手方が悪いじゃないですか」
ラルフ様ならそんな事くらいわかっているでしょうに…。
そんな風に思いながら言うと、ラルフ様は私の頬に手を当て、親指で優しく撫でながら言います。
「リノアがその男を好きになって、心を許していたら?」
「そんな事はありえません!」
「それはその時になってみないとわからないだろう?」
悲しそうな顔をされるので、なぜか信用されていない事に腹が立って、私はラルフ様のシャツをつかんで顔を下げさせると、頬に触れるだけのキスをした。
「ラルフ様はもう少し自信を持ってくださっていいと思います!」
「えっと、ああ、そうだな」
だいぶ驚かれたようで、私がキスした部分に手をしばらく当てておられましたが、少ししてから、優しく微笑んで下さいました。
「さっきのを口にしてくれると、もっと自信が持てるんだが」
「く、口だなんて贅沢なのです!」
「そうか?」
ラルフ様は楽しそうに笑うと、一度はなした私の頬に再度触れられました。
こ、これは。
この感じは本で読んだ事のあるあれですか。
こんなロマンス小説みたいなシチュエーションが自分でも起きるだなんて。
目を閉じようとして、気が付きました。
「ラ、ラルフ様、駄目です」
「どうしてだ」
視線を感じた方向を指差すと、ケイン様や他の騎士の方が一斉に違う方向を向かれました。
見てません、と言いたいようです。
というか、私の頬チューは見られていたわけです!
穴があったら入りたいのです!
「とにかく、ラルフ様は変な噂を聞かれても、まずは私に確認するようにして下さい! いいですね!?」
早口でまくし立てていうと、ラルフ様は私の頬を何度も優しく撫でつつ、笑いながら頷いてくださりました。
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