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5 有名な方のようです。
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「はじめまして、アリス・キュレルと申します」
「イグス・イッシュバルドです」
「リノア・ブルーミングと申します」
初対面の私達は簡単な挨拶を交わした後、キュレル子爵令嬢はイッシュバルド卿に話しかけた。
「それにしても失礼だと思わない? さっきの令嬢、私の顔を見て悲鳴をあげたんだけど」
「それだけ鬼婆みたいな顔してたんだろ」
「笑っていたつもりだったんだけど?」
「お前、目が笑ってない時が普通にあるからな」
「それは作り笑いしてる時」
キュレル子爵令嬢とイッシュバルド卿は仲がよろしい様で、2人で軽快な会話をされています。
「2人は婚約者同士で、今はキュレル子爵令嬢はシルキー夫人の侍女、イッシュバルド卿はシルキー公爵の側近を勤めている」
「そうなのですね」
ラルフ様が2人の関係性などを教えて下さりました。
シルキー公爵とラルフ様は仲が良いと聞いていますので、お2人はラルフ様の味方でもあるという事なのでしょうか。
イッシュバルド公爵家は公爵家の中でも王家に1番近しいと言われていて、権力も段違いです。
そんな方が味方であるなら、とても心強いのですが。
「ブルーミング伯爵令嬢一人では厳しいと思うので、アリスを使ってもらえたら、と思うんですが、放って置くと暴走するんで、逆に迷惑をかけるんじゃないかという不安が」
イッシュバルド卿は私の視線に気が付いたのか、キュレル子爵令嬢との会話を止めて、私に話しかけてくださいました。
「いえ、そんな。現に先程も助けていただきましたし」
「声をかけなくても大丈夫そうでしたけどね」
キュレル子爵令嬢の言葉に、私は首を横に振る。
「キュレル子爵令嬢のおかげで、彼女は逃げていきましたし、本当に助かりました。ありがとうございます」
「私の事はよろしければ、アリスとお呼び下さい。あと、彼の事はテツと」
「では、私の事はリノアと呼んで下さい」
ラルフ様とテツ様が仕事のお話があるというので、待っている間、私とアリス様もお話をする事にしました。
「イグス様なのに、なぜ愛称はテツ様なのですか?」
「話すと長くなるんですよ。あと、イグスって名前が嫌いみたいですね」
「そうなのですか…。あ、アリス様、楽な話し方にして下さいね。私は普段もこんな話し方ですので」
「私は子爵令嬢ですけど」
「公の場と使い分けていただけたら、と思います」
貴族社会は上下関係が厳しいですが、堅苦しいのは面倒くさいので、そうお願いすると、アリス様は笑顔で頷かれました。
「では、お言葉に甘えてそうさせてもらうわ」
アリス様は見た目は、意思の強そうな瞳を持つ、キレイ系のお姉さまといった感じで、私より1つ年上の19歳なんだそうです。
「どうしてアリス様は先程、間に入って下さったんです?」
「あまりにも幼稚なことをしてるから、見ていてムカついちゃって。だけど、何の理由もなく絡むわけにはいかないから、壁の花発言に食いついてみたの」
「あの令嬢は少し変わっているのです」
「頭が悪い事は間違いないわね。こんなに人がいる中で、あんな馬鹿な事をするんだから」
アリス様が呆れた顔でそう言った時でした。
私達の横を通る2人の令嬢が私に聞こえるようになのか、大きな声で言いました。
「あちらにいらっしゃるのはクラーク辺境伯様じゃない? イッシュバルド卿に話しかけていらっしゃるけれど、なんだか必死そうね」
「本当ね。名誉を挽回するのに必死ってところかしら」
くすくす笑いながら言われるので、これは黙っていられず、私から話しかけます。
「あの、2人で話される事に何か問題がありまして?」
「あら、ブルーミング伯爵令嬢ではないですか。この度はお気の毒な事ばかり続いておりますわね。以前の婚約者は捕まえられましたし、クラーク辺境伯様もブルーミング伯爵令嬢を大事にされておられないようですものね」
「大事にされているかいないかなんて、あなた方にわかりはしないでしょう? 大体、何をもって大事にされていないと?」
「婚約者として滞在されているにも関わらず、一緒に過ごす時間が少ないと聞きましたわ。しかも、その間、クラーク辺境伯様は他の女性に会いに行っていらっしゃるのでしょう?」
どうやら、ラルフ様に他に女性がいると言いたいようです。
そんな方がいないのは私が一番わかっています。
「それがただの噂だった場合、あなた方はその発言に責任を取れるのですか?」
「な、何を言っていらっしゃるの?」
「あなた方がそうやって信憑性のない噂を話す事によって、どんどん広がっていくわけです。その影響に対しての責任は取れるのですか、と聞いているんです」
2人の女性の事を詳しくは知りませんが、辺境伯以上ではない事は確かです。
さすがの私も貴族の全てを覚えているわけではありませんが、辺境伯以上の方のお顔や名前は全て覚えているつもりです。
それに当てはまらないという事は、伯爵家以下であるのは間違にないですから、ラルフ様の嘘の話を流すのは名誉毀損に当たります。
もちろん、辺境伯以上の方が言っても名誉毀損にはなりますが、罪に問いにくくなるので困ったものです。
「そ、それは…」
女性たちが口ごもると、黙って見守ってくれていたアリス様が笑顔で言います。
「そりゃあ、責任を取りますよねぇ? だって、ただの噂を本人に確認する事なく話している上に、しかも婚約者の方にその話を尋ねられたんですもの」
アリス様の言葉に、2人のご令嬢はびくりと身体を震わせました。
どうやら、私が社交界に疎かっただけで、アリス様はとても有名な方のようです。
「イグス・イッシュバルドです」
「リノア・ブルーミングと申します」
初対面の私達は簡単な挨拶を交わした後、キュレル子爵令嬢はイッシュバルド卿に話しかけた。
「それにしても失礼だと思わない? さっきの令嬢、私の顔を見て悲鳴をあげたんだけど」
「それだけ鬼婆みたいな顔してたんだろ」
「笑っていたつもりだったんだけど?」
「お前、目が笑ってない時が普通にあるからな」
「それは作り笑いしてる時」
キュレル子爵令嬢とイッシュバルド卿は仲がよろしい様で、2人で軽快な会話をされています。
「2人は婚約者同士で、今はキュレル子爵令嬢はシルキー夫人の侍女、イッシュバルド卿はシルキー公爵の側近を勤めている」
「そうなのですね」
ラルフ様が2人の関係性などを教えて下さりました。
シルキー公爵とラルフ様は仲が良いと聞いていますので、お2人はラルフ様の味方でもあるという事なのでしょうか。
イッシュバルド公爵家は公爵家の中でも王家に1番近しいと言われていて、権力も段違いです。
そんな方が味方であるなら、とても心強いのですが。
「ブルーミング伯爵令嬢一人では厳しいと思うので、アリスを使ってもらえたら、と思うんですが、放って置くと暴走するんで、逆に迷惑をかけるんじゃないかという不安が」
イッシュバルド卿は私の視線に気が付いたのか、キュレル子爵令嬢との会話を止めて、私に話しかけてくださいました。
「いえ、そんな。現に先程も助けていただきましたし」
「声をかけなくても大丈夫そうでしたけどね」
キュレル子爵令嬢の言葉に、私は首を横に振る。
「キュレル子爵令嬢のおかげで、彼女は逃げていきましたし、本当に助かりました。ありがとうございます」
「私の事はよろしければ、アリスとお呼び下さい。あと、彼の事はテツと」
「では、私の事はリノアと呼んで下さい」
ラルフ様とテツ様が仕事のお話があるというので、待っている間、私とアリス様もお話をする事にしました。
「イグス様なのに、なぜ愛称はテツ様なのですか?」
「話すと長くなるんですよ。あと、イグスって名前が嫌いみたいですね」
「そうなのですか…。あ、アリス様、楽な話し方にして下さいね。私は普段もこんな話し方ですので」
「私は子爵令嬢ですけど」
「公の場と使い分けていただけたら、と思います」
貴族社会は上下関係が厳しいですが、堅苦しいのは面倒くさいので、そうお願いすると、アリス様は笑顔で頷かれました。
「では、お言葉に甘えてそうさせてもらうわ」
アリス様は見た目は、意思の強そうな瞳を持つ、キレイ系のお姉さまといった感じで、私より1つ年上の19歳なんだそうです。
「どうしてアリス様は先程、間に入って下さったんです?」
「あまりにも幼稚なことをしてるから、見ていてムカついちゃって。だけど、何の理由もなく絡むわけにはいかないから、壁の花発言に食いついてみたの」
「あの令嬢は少し変わっているのです」
「頭が悪い事は間違いないわね。こんなに人がいる中で、あんな馬鹿な事をするんだから」
アリス様が呆れた顔でそう言った時でした。
私達の横を通る2人の令嬢が私に聞こえるようになのか、大きな声で言いました。
「あちらにいらっしゃるのはクラーク辺境伯様じゃない? イッシュバルド卿に話しかけていらっしゃるけれど、なんだか必死そうね」
「本当ね。名誉を挽回するのに必死ってところかしら」
くすくす笑いながら言われるので、これは黙っていられず、私から話しかけます。
「あの、2人で話される事に何か問題がありまして?」
「あら、ブルーミング伯爵令嬢ではないですか。この度はお気の毒な事ばかり続いておりますわね。以前の婚約者は捕まえられましたし、クラーク辺境伯様もブルーミング伯爵令嬢を大事にされておられないようですものね」
「大事にされているかいないかなんて、あなた方にわかりはしないでしょう? 大体、何をもって大事にされていないと?」
「婚約者として滞在されているにも関わらず、一緒に過ごす時間が少ないと聞きましたわ。しかも、その間、クラーク辺境伯様は他の女性に会いに行っていらっしゃるのでしょう?」
どうやら、ラルフ様に他に女性がいると言いたいようです。
そんな方がいないのは私が一番わかっています。
「それがただの噂だった場合、あなた方はその発言に責任を取れるのですか?」
「な、何を言っていらっしゃるの?」
「あなた方がそうやって信憑性のない噂を話す事によって、どんどん広がっていくわけです。その影響に対しての責任は取れるのですか、と聞いているんです」
2人の女性の事を詳しくは知りませんが、辺境伯以上ではない事は確かです。
さすがの私も貴族の全てを覚えているわけではありませんが、辺境伯以上の方のお顔や名前は全て覚えているつもりです。
それに当てはまらないという事は、伯爵家以下であるのは間違にないですから、ラルフ様の嘘の話を流すのは名誉毀損に当たります。
もちろん、辺境伯以上の方が言っても名誉毀損にはなりますが、罪に問いにくくなるので困ったものです。
「そ、それは…」
女性たちが口ごもると、黙って見守ってくれていたアリス様が笑顔で言います。
「そりゃあ、責任を取りますよねぇ? だって、ただの噂を本人に確認する事なく話している上に、しかも婚約者の方にその話を尋ねられたんですもの」
アリス様の言葉に、2人のご令嬢はびくりと身体を震わせました。
どうやら、私が社交界に疎かっただけで、アリス様はとても有名な方のようです。
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