31 / 35
23 聖女と精霊の過去②
しおりを挟む
レッテムはわたしの様子を見て、話すのをやめて静かに待っていてくれた。
少ししてから、何とか気持ちを落ち着かせたわたしはレッテムに尋ねる。
「じゃあ、ピッキーは人間の時に何らかの理由で魔物になってしまって、そこから神様に助けられたということ?」
「うん。そうだよぉ。たまにね、魔物になっても人間の心を忘れない人がいるんだぁ。そして、自分がやってしまったことに嘆いている魔物がいたら、神様は助けてあげてるんだよぉ」
「そんなことができるなんて知らなかったわ」
「あまり、公にされてないんだよねぇ。それにそんなに多くある事例でもないんだぁ」
レッテムはそう言うと、ピッキーが魔物になってしまった理由を教えてくれた。
かなり昔の話になるけれど、ピッキーには恋人がいて、その人が病気になってしまった。
どうにかしてピッキーは彼女を助けたかった。
でも、特効薬も見つからなくて、日に日に弱っていく彼女を見たピッキーは自分の願いを聞き入れてくれない神様を恨んだ。
その思いがとても強かったのか、邪神がピッキーに近づいた。
邪神はピッキーの恋人を助ける代わりに信仰する神を自分にするように指示した。
そして、ピッキーはそれを実行した。
ピッキーの恋人はそのおかげで死なずに済んだ。
でも、ピッキーと彼女は人間ではなくなってしまった。
邪神は彼女を助けるとは言ったけれど、人間のままでとは言っていなかったのだ。
屁理屈かもしれないけれど、彼女の病気は魔物になることで消えたから、嘘をついたわけではない。
「ピッキーの恋人は命を助けるかわりに魔物になった。そして、ピッキーも邪神を信じたから魔物になったんだよぉ」
「ピッキーと恋人とは、その後どうなったの?」
「……魔物になっても二人共に人間の心が残っていたんだぁ。ピッキーは二人で生きていこうとしたけど、彼女は駄目だったんだぁ」
「駄目だった?」
「……うん。神様を裏切ったって、そんな自分が生きているのは罪だと言って命を絶ったんだぁ」
レッテムはしゅんと顔を下に向けた。
神様を信仰している人にとって、邪神は穢れたものでしかない。
だから、ピッキーの恋人は死を選んだのね。
せっかく助かった命なんだから大事にしてほしいという気持ちが湧くけれど、わたしが他人のことをどうこう言える立場ではない。
「こんなことを言うのはなんだけれど、神様はピッキーを助けたのに恋人は助けなかったの?」
「ピッキーは彼女が死んでから神様に詫びたんだよぉ。自分の命を捧げるから、せめて彼女に人生をやり直させてほしいってぇ。それを聞いた神様はピッキーに手を差し伸べたんだよぉ」
「ということは、彼女も助けてもらえたの?」
「元の姿で生き返ることはできなかったけど、新たに生まれ変わったよぉ」
生まれ変わって、新たな人生を歩めてたのなら、本当に良かった。
「でも、神様はピッキーを甘やかし過ぎじゃないかしら。今回の結界の件はさすがに駄目よ」
「だよねぇ。だから、ピッキーは人間とコンタクトを取れる精霊じゃなくなると思う」
「……どういうこと?」
「精霊にも色々とあるんだぁ。人間とコンタクトを取れるのは、エリートの精霊なんだよぉ」
レッテムが胸を張って誇らしげな様子を見せる。
その仕草が可愛くて、そんな場合じゃないのに、つい和んでしまった。
でも、すぐに気を取り直して尋ねる。
「ピッキーがエリートとは思えないんだけど」
「ピッキーは特別枠みたいなものだからねぇ。あと、昔の恋人に助けられていたんだぁ」
「そうなの?」
「うん。ピッキーは知らないけどねぇ。それから、ピッキーの恋人の見た目はリーニに似てるんだぁ」
ピッキーがわたしを好きになった理由は昔の恋人に似ていたからだったのね。
「ピッキーに彼女のことを伝えないの?」
「神様は彼女から言わないでくれと頼まれているから言わないんだよぉ」
「寛容になっているのも、彼女からのお願いなのね?」
「うん。それについてはぼくを含む他の精霊にも許可をとってくれてるよぉ。最近は調子に乗りすぎてるから、みんなも怒り始めてたんだぁ。でも、今回の件で堪忍袋の尾が切れたよねぇ」
その後、レッテムはピッキーがどうなるかという話をしてくれた。
ピッキーがまた闇に落ちてしまう前に、恋人のことを話すことも決まったらしい。
「ピッキーは嫌な奴だけど、だからってぼくらは彼を見捨てちゃ駄目なんだぁ」
「そうね。教えてくれてありがとう。ところで、話を聞いて気になることがあるんだけど、邪神はどんな風に人を選んでいるの? 神様を恨むような負の気持ちを感じ取れたりするのかしら」
「うん。神様を信じる声は強ければ強いほど神様に届きやすい。それとは逆に神様を恨む気持ちは神様には届かなくて、邪神に届きやすくなるんだよぉ」
「……レッテムはルルミー様のことをどう思う?」
わたしが尋ねた時だった。
レッテムが長い耳を動かして言う。
「ごめんね、リーニ。神様から招集されてるから行くねぇ」
「わかったわ。今日はありがとう」
「どういたしまして。おやすみ、リーニ。また明日ねぇ」
レッテムはそう言って、姿を消した。
そして次の日の朝、小島に行くと神様から聖女たちに話があると言われたのだった。
少ししてから、何とか気持ちを落ち着かせたわたしはレッテムに尋ねる。
「じゃあ、ピッキーは人間の時に何らかの理由で魔物になってしまって、そこから神様に助けられたということ?」
「うん。そうだよぉ。たまにね、魔物になっても人間の心を忘れない人がいるんだぁ。そして、自分がやってしまったことに嘆いている魔物がいたら、神様は助けてあげてるんだよぉ」
「そんなことができるなんて知らなかったわ」
「あまり、公にされてないんだよねぇ。それにそんなに多くある事例でもないんだぁ」
レッテムはそう言うと、ピッキーが魔物になってしまった理由を教えてくれた。
かなり昔の話になるけれど、ピッキーには恋人がいて、その人が病気になってしまった。
どうにかしてピッキーは彼女を助けたかった。
でも、特効薬も見つからなくて、日に日に弱っていく彼女を見たピッキーは自分の願いを聞き入れてくれない神様を恨んだ。
その思いがとても強かったのか、邪神がピッキーに近づいた。
邪神はピッキーの恋人を助ける代わりに信仰する神を自分にするように指示した。
そして、ピッキーはそれを実行した。
ピッキーの恋人はそのおかげで死なずに済んだ。
でも、ピッキーと彼女は人間ではなくなってしまった。
邪神は彼女を助けるとは言ったけれど、人間のままでとは言っていなかったのだ。
屁理屈かもしれないけれど、彼女の病気は魔物になることで消えたから、嘘をついたわけではない。
「ピッキーの恋人は命を助けるかわりに魔物になった。そして、ピッキーも邪神を信じたから魔物になったんだよぉ」
「ピッキーと恋人とは、その後どうなったの?」
「……魔物になっても二人共に人間の心が残っていたんだぁ。ピッキーは二人で生きていこうとしたけど、彼女は駄目だったんだぁ」
「駄目だった?」
「……うん。神様を裏切ったって、そんな自分が生きているのは罪だと言って命を絶ったんだぁ」
レッテムはしゅんと顔を下に向けた。
神様を信仰している人にとって、邪神は穢れたものでしかない。
だから、ピッキーの恋人は死を選んだのね。
せっかく助かった命なんだから大事にしてほしいという気持ちが湧くけれど、わたしが他人のことをどうこう言える立場ではない。
「こんなことを言うのはなんだけれど、神様はピッキーを助けたのに恋人は助けなかったの?」
「ピッキーは彼女が死んでから神様に詫びたんだよぉ。自分の命を捧げるから、せめて彼女に人生をやり直させてほしいってぇ。それを聞いた神様はピッキーに手を差し伸べたんだよぉ」
「ということは、彼女も助けてもらえたの?」
「元の姿で生き返ることはできなかったけど、新たに生まれ変わったよぉ」
生まれ変わって、新たな人生を歩めてたのなら、本当に良かった。
「でも、神様はピッキーを甘やかし過ぎじゃないかしら。今回の結界の件はさすがに駄目よ」
「だよねぇ。だから、ピッキーは人間とコンタクトを取れる精霊じゃなくなると思う」
「……どういうこと?」
「精霊にも色々とあるんだぁ。人間とコンタクトを取れるのは、エリートの精霊なんだよぉ」
レッテムが胸を張って誇らしげな様子を見せる。
その仕草が可愛くて、そんな場合じゃないのに、つい和んでしまった。
でも、すぐに気を取り直して尋ねる。
「ピッキーがエリートとは思えないんだけど」
「ピッキーは特別枠みたいなものだからねぇ。あと、昔の恋人に助けられていたんだぁ」
「そうなの?」
「うん。ピッキーは知らないけどねぇ。それから、ピッキーの恋人の見た目はリーニに似てるんだぁ」
ピッキーがわたしを好きになった理由は昔の恋人に似ていたからだったのね。
「ピッキーに彼女のことを伝えないの?」
「神様は彼女から言わないでくれと頼まれているから言わないんだよぉ」
「寛容になっているのも、彼女からのお願いなのね?」
「うん。それについてはぼくを含む他の精霊にも許可をとってくれてるよぉ。最近は調子に乗りすぎてるから、みんなも怒り始めてたんだぁ。でも、今回の件で堪忍袋の尾が切れたよねぇ」
その後、レッテムはピッキーがどうなるかという話をしてくれた。
ピッキーがまた闇に落ちてしまう前に、恋人のことを話すことも決まったらしい。
「ピッキーは嫌な奴だけど、だからってぼくらは彼を見捨てちゃ駄目なんだぁ」
「そうね。教えてくれてありがとう。ところで、話を聞いて気になることがあるんだけど、邪神はどんな風に人を選んでいるの? 神様を恨むような負の気持ちを感じ取れたりするのかしら」
「うん。神様を信じる声は強ければ強いほど神様に届きやすい。それとは逆に神様を恨む気持ちは神様には届かなくて、邪神に届きやすくなるんだよぉ」
「……レッテムはルルミー様のことをどう思う?」
わたしが尋ねた時だった。
レッテムが長い耳を動かして言う。
「ごめんね、リーニ。神様から招集されてるから行くねぇ」
「わかったわ。今日はありがとう」
「どういたしまして。おやすみ、リーニ。また明日ねぇ」
レッテムはそう言って、姿を消した。
そして次の日の朝、小島に行くと神様から聖女たちに話があると言われたのだった。
172
お気に入りに追加
2,255
あなたにおすすめの小説
冤罪を受けたため、隣国へ亡命します
しろねこ。
恋愛
「お父様が投獄?!」
呼び出されたレナンとミューズは驚きに顔を真っ青にする。
「冤罪よ。でも事は一刻も争うわ。申し訳ないけど、今すぐ荷づくりをして頂戴。すぐにこの国を出るわ」
突如母から言われたのは生活を一変させる言葉だった。
友人、婚約者、国、屋敷、それまでの生活をすべて捨て、令嬢達は手を差し伸べてくれた隣国へと逃げる。
冤罪を晴らすため、奮闘していく。
同名主人公にて様々な話を書いています。
立場やシチュエーションを変えたりしていますが、他作品とリンクする場所も多々あります。
サブキャラについてはスピンオフ的に書いた話もあったりします。
変わった作風かと思いますが、楽しんで頂けたらと思います。
ハピエンが好きなので、最後は必ずそこに繋げます!
小説家になろうさん、カクヨムさんでも投稿中。
殿下が恋をしたいと言うのでさせてみる事にしました。婚約者候補からは外れますね
さこの
恋愛
恋がしたい。
ウィルフレッド殿下が言った…
それではどうぞ、美しい恋をしてください。
婚約者候補から外れるようにと同じく婚約者候補のマドレーヌ様が話をつけてくださりました!
話の視点が回毎に変わることがあります。
緩い設定です。二十話程です。
本編+番外編の別視点
私のことを追い出したいらしいので、お望み通り出て行って差し上げますわ
榎夜
恋愛
私の婚約も勉強も、常に邪魔をしてくるおバカさんたちにはもうウンザリですの!
私は私で好き勝手やらせてもらうので、そちらもどうぞ自滅してくださいませ。
婚約破棄すると言われたので、これ幸いとダッシュで逃げました。殿下、すみませんが追いかけてこないでください。
桜乃
恋愛
ハイネシック王国王太子、セルビオ・エドイン・ハイネシックが舞踏会で高らかに言い放つ。
「ミュリア・メリッジ、お前とは婚約を破棄する!」
「はい、喜んで!」
……えっ? 喜んじゃうの?
※約8000文字程度の短編です。6/17に完結いたします。
※1ページの文字数は少な目です。
☆番外編「出会って10秒でひっぱたかれた王太子のお話」
セルビオとミュリアの出会いの物語。
※10/1から連載し、10/7に完結します。
※1日おきの更新です。
※1ページの文字数は少な目です。
❇❇❇❇❇❇❇❇❇
2024年12月追記
お読みいただき、ありがとうございます。
こちらの作品は完結しておりますが、番外編を追加投稿する際に、一旦、表記が連載中になります。ご了承ください。
※番外編投稿後は完結表記に致します。再び、番外編等を投稿する際には連載表記となりますこと、ご容赦いただけますと幸いです。
この度、皆さんの予想通り婚約者候補から外れることになりました。ですが、すぐに結婚することになりました。
鶯埜 餡
恋愛
ある事件のせいでいろいろ言われながらも国王夫妻の働きかけで王太子の婚約者候補となったシャルロッテ。
しかし当の王太子ルドウィックはアリアナという男爵令嬢にべったり。噂好きな貴族たちはシャルロッテに婚約者候補から外れるのではないかと言っていたが
【完結】無能な聖女はいらないと婚約破棄され、追放されたので自由に生きようと思います
黒幸
恋愛
辺境伯令嬢レイチェルは学園の卒業パーティーでイラリオ王子から、婚約破棄を告げられ、国外追放を言い渡されてしまう。
レイチェルは一言も言い返さないまま、パーティー会場から姿を消した。
邪魔者がいなくなったと我が世の春を謳歌するイラリオと新たな婚約者ヒメナ。
しかし、レイチェルが国からいなくなり、不可解な事態が起き始めるのだった。
章を分けるとかえって、ややこしいとの御指摘を受け、章分けを基に戻しました。
どうやら、作者がメダパニ状態だったようです。
表紙イラストはイラストAC様から、お借りしています。
将来を誓い合った王子様は聖女と結ばれるそうです
きぬがやあきら
恋愛
「聖女になれなかったなりそこない。こんなところまで追って来るとはな。そんなに俺を忘れられないなら、一度くらい抱いてやろうか?」
5歳のオリヴィエは、神殿で出会ったアルディアの皇太子、ルーカスと恋に落ちた。アルディア王国では、皇太子が代々聖女を妻に迎える慣わしだ。しかし、13歳の選別式を迎えたオリヴィエは、聖女を落選してしまった。
その上盲目の知恵者オルガノに、若くして命を落とすと予言されたオリヴィエは、せめてルーカスの傍にいたいと、ルーカスが団長を務める聖騎士への道へと足を踏み入れる。しかし、やっとの思いで再開したルーカスは、昔の約束を忘れてしまったのではと錯覚するほど冷たい対応で――?
政略より愛を選んだ結婚。~後悔は十年後にやってきた。~
つくも茄子
恋愛
幼い頃からの婚約者であった侯爵令嬢との婚約を解消して、学生時代からの恋人と結婚した王太子殿下。
政略よりも愛を選んだ生活は思っていたのとは違っていた。「お幸せに」と微笑んだ元婚約者。結婚によって去っていた側近達。愛する妻の妃教育がままならない中での出産。世継ぎの王子の誕生を望んだものの産まれたのは王女だった。妻に瓜二つの娘は可愛い。無邪気な娘は欲望のままに動く。断罪の時、全てが明らかになった。王太子の思い描いていた未来は元から無かったものだった。後悔は続く。どこから間違っていたのか。
他サイトにも公開中。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる