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22 聖女と精霊の過去①
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「助けろと言われましても、お父様が怪我をしたところの傷は治っているのですよね」
聞き返すと、お母様は不服そうに顔を歪めて答える。
「傷は治っているけれど見たらわかるでしょう! 昔のお父様とはまったく違うことに!」
「それはわかりますが、お父様がこんな状態になっているのは怪我が原因ではないでしょう」
お父様の様子を見ていると、目は虚ろでどこか遠くを見ていて、こんなことを言いたくはないけれど、心が壊れているようにしか思えない。
嫌な思い出しかない家族だけれど、こんな状態になっているのを見るのはさすがに辛い。
それだけ、国王陛下に斬られた時のショックが大きかったのだと思う。
申し訳ないけれど、聖なる力の効力の中には心を癒やす力はない。
精神を安定させる薬を飲ませるか、記憶を操作するしか、今の段階で思いつくことはない。
記憶を操作することは違法だし、この世界にその魔法が使える人がいるかもわからないので、やはり、薬しかないように思える。
「あまり、リーニを困らせないでください」
フワエル殿下がお母様にそう言ったあと、わたしに近寄ってくる。
「やあ、リーニ、君に会えて嬉しいよ」
「フワエル殿下にお会いできて光栄です」
「君が来てくれたのは良いんだけど、どうしてディオン殿下までいるんですか」
眉根を寄せて尋ねるフワエル殿下に、ディオン殿下が微笑んで答える。
「リーニはソーンウェル王国の聖女であり、僕の婚約者になる女性ですから、私がエスコートしても良いでしょう」
「……エスコート? というか、婚約者になる女性というのは」
「わたしです」
挙手すると、フワエル殿下は驚いた顔をする。
「嘘だろう!? 僕との婚約が破棄されてから、そんなに時間も経っていないのに新たな婚約者を作ったのか!?」
「フワエル殿下に言われたくないのですが」
「い、いや、まあ、それはしょうがないだろう。僕の場合は両親が決めたことなんだから」
「そうだったとしましても、フワエル殿下に意見されることではないと思います」
「そ、そんな……、困るよ」
焦った顔でフワエル殿下は言ったあと、すぐに首を横に振る。
「わかった。婚約の件は諦める。だけど、ノーンコル王国の聖女に戻ってくれないだろうか」
「お断りします」
「フワエル殿下、いい加減にしてください。ソーンウェル王国と揉めたいんですか」
ディオン殿下に厳しい口調で問われたフワエル殿下は、目を泳がせながら答える。
「そういうつもりではありません。でも、弱い結界を張るような聖女では困るんです!」
「結界が破られた理由はわかっていないのでしょう。エレーナ様の結界が悪いわけではないと思います。それにわたしのことも役立たずだと思っていらしたのでしょう? それなのに、また聖女に戻れだなんておかしいでしょう」
「では、どうして結界が破られたんだ!? リーニの時はこんなことはなかったじゃないか!」
フワエル殿下からの問いかけに、わたしもディオン殿下も答えることはできなかった。
いつまでもフワエル殿下にかまっているわけにもいかないので、何かわかれば連絡すると話してから、わたしは問題の箇所の近くの結界を見て回った。
確認していくと、神様の力なのか、わたしたち聖女では難しい強固な結界が張られていて、その影に隠れて知っている誰かの感覚を感じ取れた。
結界を破ったのが誰だかわかったわたしは、神様が結界を張ってくれた理由がわかった。
でも、彼がどうしてそんなことをしたのかわからない。
結界のチェックを終えて、ソーンウェル王国に戻ったら、レッテムを呼んで話を聞いてみなくちゃいけないわ。
「リーニ、本当に戻ってきてくれないのか」
結界のチェックを終えて帰ろうとしていると、フワエル殿下が話しかけてきた。
「はい。わたしはソーンウェル王国の聖女になりましたから」
頷いてから、まだ諦めていないのか、この場に残っている家族を見つめる。
「昔の生活よりも今の生活は本当に幸せです。役立たずだと追い出していただいて、本当に感謝しています」
お母様はわたしの言葉を聞いて近づいてくる。
「まさか、あなた、過去のことがあるから、私たちを助けないつもりなの!?」
「いいえ。そういうわけではありません。申し訳ないのですが、心の病は聖女ではどうすることもできません。心のケアについて詳しい先生を探すようにはしますが」
「この親不孝者! 父親を助けられないなら、せめて俺たちは助けろよ!」
「俺たちを助けろという意味がわかりません」
「お前がいなくなってから、うちは貧乏なんだよ!」
お兄様は今まで、聖女の家族として受けていた恩恵が受けられなくなったことを怒っているみたいだった。
追出せばそんなことになることくらい、わからないほうがおかしい。
「追い出したのはお父様です。わたしを責めるのはおかしいでしょう」
冷たい言い方かもしれない。
でも、優しい顔をするつもりはなかった。
わたしはお兄様たちに背を向けて、ディオン殿下に話しかける。
「もう帰りましょう」
「そうだな」
まだ何か言いたげにしていた家族やフワエル殿下を残して、ディオン殿下の転移魔法でソーンウェル王国に戻ったのだった。
*****
その日の夜、寝る支度を整えてから、ベッドに座ってレッテムを呼んだ。
すると、すぐにわたしの隣にレッテムが姿を現した。
「レッテム、聞きたいことがあるんだけど」
「なぁに?」
「今日、ノーンコル王国の結界を見に行ったんだけど、破られたと思われる付近でピッキーの魔力を感じたの」
パートナーとして動いていた時にはわからなかった。
でも、パートナーが変更されてレッテムの魔力に慣れてくると、ピッキーの魔力を感じ取れるようになった。
ピッキーの魔力があそこにあってもおかしくはない。
彼はノーンコル王国の精霊だから。
でも、結界が破られた場所だったから気になった。
「リーニ、本当の話を聞いても、ピッキーに偏見を持ったりしないでねぇ」
「よくわからないけれど、ピッキーが嫌なことをしてこない限り、冷たい態度を取るつもりはないわ」
「ありがとう。じゃあ、言うねぇ」
レッテムはわたしを見上げて口を動かす。
「実はピッキーは精霊になる前は魔物で、その前は人間だったんだぁ」
想像もしなかったことを言われて困惑してしまい、すぐに聞き返すこともできなかった。
聞き返すと、お母様は不服そうに顔を歪めて答える。
「傷は治っているけれど見たらわかるでしょう! 昔のお父様とはまったく違うことに!」
「それはわかりますが、お父様がこんな状態になっているのは怪我が原因ではないでしょう」
お父様の様子を見ていると、目は虚ろでどこか遠くを見ていて、こんなことを言いたくはないけれど、心が壊れているようにしか思えない。
嫌な思い出しかない家族だけれど、こんな状態になっているのを見るのはさすがに辛い。
それだけ、国王陛下に斬られた時のショックが大きかったのだと思う。
申し訳ないけれど、聖なる力の効力の中には心を癒やす力はない。
精神を安定させる薬を飲ませるか、記憶を操作するしか、今の段階で思いつくことはない。
記憶を操作することは違法だし、この世界にその魔法が使える人がいるかもわからないので、やはり、薬しかないように思える。
「あまり、リーニを困らせないでください」
フワエル殿下がお母様にそう言ったあと、わたしに近寄ってくる。
「やあ、リーニ、君に会えて嬉しいよ」
「フワエル殿下にお会いできて光栄です」
「君が来てくれたのは良いんだけど、どうしてディオン殿下までいるんですか」
眉根を寄せて尋ねるフワエル殿下に、ディオン殿下が微笑んで答える。
「リーニはソーンウェル王国の聖女であり、僕の婚約者になる女性ですから、私がエスコートしても良いでしょう」
「……エスコート? というか、婚約者になる女性というのは」
「わたしです」
挙手すると、フワエル殿下は驚いた顔をする。
「嘘だろう!? 僕との婚約が破棄されてから、そんなに時間も経っていないのに新たな婚約者を作ったのか!?」
「フワエル殿下に言われたくないのですが」
「い、いや、まあ、それはしょうがないだろう。僕の場合は両親が決めたことなんだから」
「そうだったとしましても、フワエル殿下に意見されることではないと思います」
「そ、そんな……、困るよ」
焦った顔でフワエル殿下は言ったあと、すぐに首を横に振る。
「わかった。婚約の件は諦める。だけど、ノーンコル王国の聖女に戻ってくれないだろうか」
「お断りします」
「フワエル殿下、いい加減にしてください。ソーンウェル王国と揉めたいんですか」
ディオン殿下に厳しい口調で問われたフワエル殿下は、目を泳がせながら答える。
「そういうつもりではありません。でも、弱い結界を張るような聖女では困るんです!」
「結界が破られた理由はわかっていないのでしょう。エレーナ様の結界が悪いわけではないと思います。それにわたしのことも役立たずだと思っていらしたのでしょう? それなのに、また聖女に戻れだなんておかしいでしょう」
「では、どうして結界が破られたんだ!? リーニの時はこんなことはなかったじゃないか!」
フワエル殿下からの問いかけに、わたしもディオン殿下も答えることはできなかった。
いつまでもフワエル殿下にかまっているわけにもいかないので、何かわかれば連絡すると話してから、わたしは問題の箇所の近くの結界を見て回った。
確認していくと、神様の力なのか、わたしたち聖女では難しい強固な結界が張られていて、その影に隠れて知っている誰かの感覚を感じ取れた。
結界を破ったのが誰だかわかったわたしは、神様が結界を張ってくれた理由がわかった。
でも、彼がどうしてそんなことをしたのかわからない。
結界のチェックを終えて、ソーンウェル王国に戻ったら、レッテムを呼んで話を聞いてみなくちゃいけないわ。
「リーニ、本当に戻ってきてくれないのか」
結界のチェックを終えて帰ろうとしていると、フワエル殿下が話しかけてきた。
「はい。わたしはソーンウェル王国の聖女になりましたから」
頷いてから、まだ諦めていないのか、この場に残っている家族を見つめる。
「昔の生活よりも今の生活は本当に幸せです。役立たずだと追い出していただいて、本当に感謝しています」
お母様はわたしの言葉を聞いて近づいてくる。
「まさか、あなた、過去のことがあるから、私たちを助けないつもりなの!?」
「いいえ。そういうわけではありません。申し訳ないのですが、心の病は聖女ではどうすることもできません。心のケアについて詳しい先生を探すようにはしますが」
「この親不孝者! 父親を助けられないなら、せめて俺たちは助けろよ!」
「俺たちを助けろという意味がわかりません」
「お前がいなくなってから、うちは貧乏なんだよ!」
お兄様は今まで、聖女の家族として受けていた恩恵が受けられなくなったことを怒っているみたいだった。
追出せばそんなことになることくらい、わからないほうがおかしい。
「追い出したのはお父様です。わたしを責めるのはおかしいでしょう」
冷たい言い方かもしれない。
でも、優しい顔をするつもりはなかった。
わたしはお兄様たちに背を向けて、ディオン殿下に話しかける。
「もう帰りましょう」
「そうだな」
まだ何か言いたげにしていた家族やフワエル殿下を残して、ディオン殿下の転移魔法でソーンウェル王国に戻ったのだった。
*****
その日の夜、寝る支度を整えてから、ベッドに座ってレッテムを呼んだ。
すると、すぐにわたしの隣にレッテムが姿を現した。
「レッテム、聞きたいことがあるんだけど」
「なぁに?」
「今日、ノーンコル王国の結界を見に行ったんだけど、破られたと思われる付近でピッキーの魔力を感じたの」
パートナーとして動いていた時にはわからなかった。
でも、パートナーが変更されてレッテムの魔力に慣れてくると、ピッキーの魔力を感じ取れるようになった。
ピッキーの魔力があそこにあってもおかしくはない。
彼はノーンコル王国の精霊だから。
でも、結界が破られた場所だったから気になった。
「リーニ、本当の話を聞いても、ピッキーに偏見を持ったりしないでねぇ」
「よくわからないけれど、ピッキーが嫌なことをしてこない限り、冷たい態度を取るつもりはないわ」
「ありがとう。じゃあ、言うねぇ」
レッテムはわたしを見上げて口を動かす。
「実はピッキーは精霊になる前は魔物で、その前は人間だったんだぁ」
想像もしなかったことを言われて困惑してしまい、すぐに聞き返すこともできなかった。
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