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19 認めてもらえない聖女たち

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 この日のわたしは身支度に時間がかかってしまい、いつもより少しだけ遅い時間に小島に着いた。
 聖女の多くはまだいたけれど、すでに二人の聖女は国に戻っていったとレッテムが教えてくれた。

 エレーナ様がいるかどうかドキドキしながら、祭壇に向かって走っていると、真正面にピッキーが立ちはだかった。

 慌てて足を止めてよく見てみると、ピッキーの背中には童顔の小柄な女性がしがみついていた。

 金色のふわふわのウェーブのかかった長い髪をおろし、青色の瞳は目が潤んでいるのかキラキラして見える。

「あれがエレーナだよぉ」

 一緒に走ってくれていたレッテムも立ち止まって、小さな声で教えてくれた。
 エレーナ様はわたしに話でもあるのか、ずっとこちらを見つめているので、祭壇に向かう前に彼女と話をしてみることにした。

「エレーナ様ですよね。はじめまして、わたしはリーニ・ラーラルと申します」
「エレーナ・ボレルコットです」

 カーテシーをすると、エレーナ様は軽く頭を下げて名乗ってくれた。
 
 わたしに対する敵意は、フワエル様のおかげで少しはなくなったのかと思ったその時、エレーナ様が口を開く。

「どうして、リーニ様ばっかりなんですか!」
「はい?」
「ディオン殿下の時だってそうでしたけど、どうして、フワエル殿下までリーニ様にこだわっているんですか。もしかして、魅了魔法でもかけているんですか?」
「そんなものを使っていたら、さすがに神様から何か言われます。それに、魅了魔法はわたしには使えません。大体、フワエル殿下はわたしにこだわってなんていません。ルルミー様とわたしを交換したくらいなんですから」
「でも、フワエル殿下は聖女ならリーニ様のほうが良いって言っているんです!」

 フワエル殿下は何を考えているのかしら。
 たとえ、そんなことを思っていたとしても本人に言うことじゃないでしょう。
 人への思いやりをどこかに置き忘れてきたんじゃないの?

「フワエル殿下は聖女を選ぶ立場ではありませんから、気になさらないことが一番です。それに、フワエル殿下は他の聖女のことを知ったら、わたしよりも他の聖女が良いと言い出すに違いありません」

 フワエル様もノーンコル王国の国王陛下も、わたしのことを役立たずだと思っている。
 だから、ルルミー様のように外見が良くて聖女としての実力もある彼女を選んだ。
 二人はノーンコル王国が魔物に攻め込まれることを恐れているから、実力のある聖女がほしくてたまらないのでしょう。

 今のところ、エレーナ様の実力がわからないことと、足に障害があることから、何かあった時にすぐに動けないという不安感があって、フワエル様は聖女はエレーナ様よりもわたしのほうが良いと言っているのだと思う。

「わたしよりもエレーナ様のほうが聖女として優れているということが判断されれば、フワエル殿下はわたしのほうが良いだなんて言い出すことはないかと思います」
「……本当ですか? 嘘を言って、私を騙そうとしているんじゃないですよね?」

 エレーナ様は可愛らしい顔を歪めて聞いてくる。
 自分で言うのも悲しくなるけれど、真実だと思うから口を開く。

「フワエル殿下はわたしが役立たずだから婚約破棄したんです。騙すつもりはありませんが、わたしを疑いたい気持ちもわかります。ですから、自分の目で判断してください」
「どうすれば良いんですか?」
「エレーナ様はもう、聖なる力を授かったんですよね?」
「ええ。ピッキーに乗せてもらったから、とても早く着いたんです」
「でしたら、多くの力を授かっているかと思いますので、治癒能力を見せて差し上げてはどうでしょうか」
「力を見せたら、私はフワエル殿下に認めてもらえるのでしょうか」
「先ほども言いましたが、判断するのはわたしではありません。気になるのでしたら、帰ってすぐに確かめてみてはいかがでしょうか」
「わかりました」

 エレーナ様は頷くと、ピッキーに話しかける。

「今日はもう帰ります。ピッキー、これからもよろしくね」
「わかったよ。だけど、オレとの約束も忘れないでくれよ」
「わかっています。ですが、まずは私のことからです」

 ピッキーとエレーナ様との約束が少し気になったけれど、二人にわざわざ声をかける気にもならないので、祭壇の順番待ちの列に並んだ。

 すると、前に並んでいた聖女が話しかけてきた。

「エレーナ様にはじめましてって言っておられましたけど、はじめましてではないのではないですか」
「そんなことないですよ。今日、初めてお会いしましたから」
「初めてのはずはないんですけれど、そう言われてみれば、自分たちからコンタクトを取らない限り、聖女同士に関わりはないですものね」

 力を授かる順番が回ってきたので、意味深な言葉を残して、話しかけてくれた聖女は行ってしまった。
 だから、レッテムに聞いてみる。

「わたしとエレーナ様は会ったことがあるのかしら」
「うん。でも、会ったというよりかはすれ違うくらいのものかなぁ。リーニは新入りさんで、しかも足が遅かったし体力もなかったから、走っている時は人の顔を見てなかったもんねぇ」
「そ、そうだったのね。それは失礼なことをしていたんだと反省するわ」

 だから、エレーナ様ははじめまして、と返してくれなかったのね。
 選ばれてすぐのわたしは、祭壇に向かう道の途中で息切れして、足が動かなくなっていたから、他の聖女のことを気にしていられなかった。
 って、そんなことは言い訳にならないかしら。

「おい、今の見たか」

 レッテムと話をしていると、エレーナ様を送り終えたピッキーが近寄ってきた。

「今のって何かしら」
「エレーナがオレを頼っていただろ?」
「頼っていた? ああ、背中に乗せてあげていたってこと?」
「そうだ。お前だってあんな風にオレを使えば良かったんだ」
「どうして、そんなことを言うの? 体調が悪かったり怪我をしているとか事情があるならまだしも、健康なんだから自分で走れるわ」

 はっきりと応えると、ピッキーはなぜか怒り始めた。

「そんなんだから婚約破棄されるんだよ! お前をもらってくれる奴なんて人間にはいないんだからな!」

 ピッキーはわたしのことが本当に好きなのかしら。
 そうだとすると、言っていることが幼稚すぎるし、申し訳ないけれど、こういうタイプは好みではない。

「そんなことないよぉ。ディオン殿下はリーニをもらってくれると思うよぉ」
「な、なんだって!?」

 レッテムの言葉を聞いたピッキーが大きな唾を飛ばしながら叫んだ。
 
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