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14.5 狙われている者(ルルミー視点)
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南の地には転移する魔道具を使って連れてきてもらったので、一瞬で来ることができた。
最初は楽勝だと思った。
だけど、ここのところ予想通りに上手くいっていなくて、今回もそうだった。
本当にやんなっちゃうわ。
私が連れてこられた場所は森の中で、当たり前だけど木はたくさんあるし、足下は草もいっぱい生えてて歩きにくい。
しかも、色んな所に虫がたくさんいて気持ち悪いったらありゃしない。
葉が生い茂っているせいで日の光は届かないけど、広範囲を明るく出来る魔法を使える人がいたから、視界は悪くなかった。
結界は透明だから、その向こうが見えるんだけど、結界の向こうは隙間もないくらいに魔物でひしめき合っていた。
思った以上に、魔物の数が多いわね。
というか、動物の姿をしてるけど可愛さなんかなくて気持ち悪い。
だって、凶暴な顔してるし、よだれとか垂らしてるんだもん。
神様から話は聞いていたけど、ここまで酷いなんて思ってなかった。
こんなに多いなら、すごく多いってもっと言っておくべきじゃない?
まあ、すぐに結界は破られるもんじゃないし、焦ることもないんだけど。
それよりも、結界に触れて死んでいく魔物って一瞬で消えちゃうのね。
あちらこちらから断末魔が聞こえてくる。
近づかなきゃいいのに馬鹿みたい。
あたしが魔物が死んでいくのを見て笑ってるから、魔物たちは余計に向かってこようとする。
これが人間なら、向かっていっても無駄だとわかってやめるはず。
それなのに向かってくるのは知能がないからだわ。
ずっと眺めていたい光景だけれど、一緒に付いてきてくれている騎士があたしを見ていることに気がついたのと、フワエル殿下が近づいてきたのがわかって笑みを浮かべるのをやめた。
そして、泣き真似を始める。
「怖い。怖いです、フワエル殿下ぁ」
「怖いなら結界をちゃんと張ったほうが良いよ。そうじゃないと魔物が入ってきて、もっと怖い思いをしないといけなくなるからね」
「それはわかっているんですけど、近くに立つと魔物さんたちが私を見て向かってこようとするんです! 結界に触れたら魔物さんは死んじゃうじゃないですか。なんだか見ていたら可哀想で」
「君が優しい人だってことはわかったよ。だけど、ここで何もしなかったら、君はリーニと同じで、役立たずの聖女だと言われることになるよ」
フワエル殿下の言葉が、あたしの胸に突き刺さった。
「ちょっと待ってください! リーニ様と私が同じ?」
「え、あ、いや、違うよ。何もしなければそうだと言っただけだ。君にはリーニとは違って実力があるじゃないか」
「……そうですよね」
面倒くさがっていたら、あのクズ女と同じレベルだなんてやってらんないわ。
さっさと片付けちゃいましょう。
弱っている結界を修復するなんて、今まで何度もやってきたことだから簡単だもの。
そう思っていたのに、あたしが思っていた以上に、結界が強固なものにならないことに気がついた。
「一体、どうなってんのよ」
「どうかしたのか?」
フワエル殿下が呑気そうに聞いてくる。
あたしには透明な膜みたいに見える結界が彼には見えない。
こうなんですよー、って伝えたってわかんないんだから、聞いてくるなっての。
「ごめんなさい、フワエル殿下、少しお時間がかかりそうです」
「そうなのか。でも、しょうがない。リーニよりも早いしね。魔物が入ってこれないように慎重になるのは良いことだよ」
フワエル殿下は笑顔で「僕は先に帰って待っているね」と付け加えてから、本当に帰って行った。
何なのよ、あの男!
あのクズ女が好きだっただけあるわね。
エレーナから聖女の力を貸すから、クズ女が一番嫌がることをしてくれと言われた時、フワエル殿下を奪うことに決めた。
その話をした時、エレーナは戸惑っていた。
そんなことをしたら、ディオン殿下が余計にクズ女を好きになるんじゃないかと。
そんなことはわかってたわ。
だけど、クズ女が一番嫌がることはそれだし、クズ女の本性を知ってディオン殿下は彼女を嫌いになるはずだと伝えたら、エレーナはあたしに聖なる力をくれた。
本当にちょろい。
神様があまちゃんだから、エレーナみたいな女を聖女に選ぶのよ。
悪いのは神様。
エレーナを利用しているあたしじゃない。
それにしても変だわ。
授けられた魔力が今までよりも少ないからって、こんなに疲れるもの?
まだ10分も経っていないのに疲れてきた。
こんなことを、いつまで続けりゃいいの?
そう思った時、目の前の意識が一変して、あたしは室内にいた。
状況を確認する前に、メイド姿の女が話しかけてくる。
「ラエニャ様がノーンコル王国に入国されました。結界のことはご心配なさらないでくださいませ」
「どういうことよ!?」
「そのままの意味でございます。お疲れのようですから、お風呂などいかがでしょうか。わたくし共の国では温泉がとても人気なのです」
「……おんせん?」
「ええ。ご存知ないようでしたら、ぜひ、一度お試しくださいませ」
ラエニャがノーンコル王国で結界を張ることは聞いていたし、メイドがラエニャからの手紙を預かってくれていて、ここがラエニャの住んでいる家だとわかったから、のんびりさせてもらうことにした。
聖女からの手紙は聖女にしか読めないものになっているし、嘘の手紙だということはありえないからね。
「おんせんのあとは美味しいものが食べたいわ」
「承知いたしました。嫌いな食べ物などはございますか」
「特にないけど、美味しい魚料理が食べたいわ」
「ご用意するように伝えます」
やったわ。
地獄から天国に来た感じ。
足は痛いけど歩けないことはないし、こうやって各国からもてなしを受けるのは良いわね。
明日はソーンウェル王国に行かなくちゃいけないというのは憂鬱だけど。
『邪魔な聖女たちめ』
不意に、あたしのお婆ちゃんみたいな低い声が耳元で聞こえたような気がして、あたりを見回したけど、そんな声を出しそうな人はいなかった。
疲れているから幻聴を聞いてしまったのかも。
そう思って、気にしないことにした。
最初は楽勝だと思った。
だけど、ここのところ予想通りに上手くいっていなくて、今回もそうだった。
本当にやんなっちゃうわ。
私が連れてこられた場所は森の中で、当たり前だけど木はたくさんあるし、足下は草もいっぱい生えてて歩きにくい。
しかも、色んな所に虫がたくさんいて気持ち悪いったらありゃしない。
葉が生い茂っているせいで日の光は届かないけど、広範囲を明るく出来る魔法を使える人がいたから、視界は悪くなかった。
結界は透明だから、その向こうが見えるんだけど、結界の向こうは隙間もないくらいに魔物でひしめき合っていた。
思った以上に、魔物の数が多いわね。
というか、動物の姿をしてるけど可愛さなんかなくて気持ち悪い。
だって、凶暴な顔してるし、よだれとか垂らしてるんだもん。
神様から話は聞いていたけど、ここまで酷いなんて思ってなかった。
こんなに多いなら、すごく多いってもっと言っておくべきじゃない?
まあ、すぐに結界は破られるもんじゃないし、焦ることもないんだけど。
それよりも、結界に触れて死んでいく魔物って一瞬で消えちゃうのね。
あちらこちらから断末魔が聞こえてくる。
近づかなきゃいいのに馬鹿みたい。
あたしが魔物が死んでいくのを見て笑ってるから、魔物たちは余計に向かってこようとする。
これが人間なら、向かっていっても無駄だとわかってやめるはず。
それなのに向かってくるのは知能がないからだわ。
ずっと眺めていたい光景だけれど、一緒に付いてきてくれている騎士があたしを見ていることに気がついたのと、フワエル殿下が近づいてきたのがわかって笑みを浮かべるのをやめた。
そして、泣き真似を始める。
「怖い。怖いです、フワエル殿下ぁ」
「怖いなら結界をちゃんと張ったほうが良いよ。そうじゃないと魔物が入ってきて、もっと怖い思いをしないといけなくなるからね」
「それはわかっているんですけど、近くに立つと魔物さんたちが私を見て向かってこようとするんです! 結界に触れたら魔物さんは死んじゃうじゃないですか。なんだか見ていたら可哀想で」
「君が優しい人だってことはわかったよ。だけど、ここで何もしなかったら、君はリーニと同じで、役立たずの聖女だと言われることになるよ」
フワエル殿下の言葉が、あたしの胸に突き刺さった。
「ちょっと待ってください! リーニ様と私が同じ?」
「え、あ、いや、違うよ。何もしなければそうだと言っただけだ。君にはリーニとは違って実力があるじゃないか」
「……そうですよね」
面倒くさがっていたら、あのクズ女と同じレベルだなんてやってらんないわ。
さっさと片付けちゃいましょう。
弱っている結界を修復するなんて、今まで何度もやってきたことだから簡単だもの。
そう思っていたのに、あたしが思っていた以上に、結界が強固なものにならないことに気がついた。
「一体、どうなってんのよ」
「どうかしたのか?」
フワエル殿下が呑気そうに聞いてくる。
あたしには透明な膜みたいに見える結界が彼には見えない。
こうなんですよー、って伝えたってわかんないんだから、聞いてくるなっての。
「ごめんなさい、フワエル殿下、少しお時間がかかりそうです」
「そうなのか。でも、しょうがない。リーニよりも早いしね。魔物が入ってこれないように慎重になるのは良いことだよ」
フワエル殿下は笑顔で「僕は先に帰って待っているね」と付け加えてから、本当に帰って行った。
何なのよ、あの男!
あのクズ女が好きだっただけあるわね。
エレーナから聖女の力を貸すから、クズ女が一番嫌がることをしてくれと言われた時、フワエル殿下を奪うことに決めた。
その話をした時、エレーナは戸惑っていた。
そんなことをしたら、ディオン殿下が余計にクズ女を好きになるんじゃないかと。
そんなことはわかってたわ。
だけど、クズ女が一番嫌がることはそれだし、クズ女の本性を知ってディオン殿下は彼女を嫌いになるはずだと伝えたら、エレーナはあたしに聖なる力をくれた。
本当にちょろい。
神様があまちゃんだから、エレーナみたいな女を聖女に選ぶのよ。
悪いのは神様。
エレーナを利用しているあたしじゃない。
それにしても変だわ。
授けられた魔力が今までよりも少ないからって、こんなに疲れるもの?
まだ10分も経っていないのに疲れてきた。
こんなことを、いつまで続けりゃいいの?
そう思った時、目の前の意識が一変して、あたしは室内にいた。
状況を確認する前に、メイド姿の女が話しかけてくる。
「ラエニャ様がノーンコル王国に入国されました。結界のことはご心配なさらないでくださいませ」
「どういうことよ!?」
「そのままの意味でございます。お疲れのようですから、お風呂などいかがでしょうか。わたくし共の国では温泉がとても人気なのです」
「……おんせん?」
「ええ。ご存知ないようでしたら、ぜひ、一度お試しくださいませ」
ラエニャがノーンコル王国で結界を張ることは聞いていたし、メイドがラエニャからの手紙を預かってくれていて、ここがラエニャの住んでいる家だとわかったから、のんびりさせてもらうことにした。
聖女からの手紙は聖女にしか読めないものになっているし、嘘の手紙だということはありえないからね。
「おんせんのあとは美味しいものが食べたいわ」
「承知いたしました。嫌いな食べ物などはございますか」
「特にないけど、美味しい魚料理が食べたいわ」
「ご用意するように伝えます」
やったわ。
地獄から天国に来た感じ。
足は痛いけど歩けないことはないし、こうやって各国からもてなしを受けるのは良いわね。
明日はソーンウェル王国に行かなくちゃいけないというのは憂鬱だけど。
『邪魔な聖女たちめ』
不意に、あたしのお婆ちゃんみたいな低い声が耳元で聞こえたような気がして、あたりを見回したけど、そんな声を出しそうな人はいなかった。
疲れているから幻聴を聞いてしまったのかも。
そう思って、気にしないことにした。
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