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14 聖女にできること
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見せてもらった肖像画のエレーナ様は、とても柔らかな笑みを浮かべた、優しそうな女性だった。
勝手な思い込みでしかないけれど、ルルミー様に依存しすぎたせいで、悪い方向に進んでいってしまっただけの人のような気がした。
次の日、小島に行って力を授けてもらった後に、レッテムが近寄ってくると、わたしに話しかけてきた。
「大変だよぉ」
「どうかしたの?」
「ルルミーの力が弱まってるんだってぇ」
レッテムは表情が変わらないため、口調だけだと呑気そうに言っているように聞こえてしまい、わたしは眉根を寄せて尋ねる。
「対応はどうするつもりなの? ラエニャ様はそのことを知っているの?」
「うん。予定よりも早い時間にラエニャが交代したんだ。でね、元々の話では3人で入れ替わりだったけど、聖女全員で入れ替っていくという話になってるみたいだよぉ」
「祭壇に行ける時間が限られているから、そうしてもらえると助かるけど、そんなに良くない状況なの?」
「それくらいに魔物が結界に触れてるんだ」
魔物が結界に触れるたびに、魔物の数は減るけれど、結界にもダメージがある。
その修復がルルミー様の魔力では追いつかないようだった。
「ルルミーはソーンウェル王国の魔道具に助けられていたから、今まですごい聖女だと言われてたけど、魔道具がなかったらそうでもないんだよねぇ」
「今回はルルミー様だから駄目だというわけでもないんじゃないの?」
「……それがそうでもないんだよぉ」
レッテムが顔を下に向けた時だった。
柔らかな風が吹いたので、世界樹のほうに顔を向ける。
私と同じように近くにいた聖女たちも世界樹を見つめた。
『邪神の動きを感じます。そのため、ルルミーの任をとくようにエレーナと話をするつもりです』
神様の言葉にロマ様が眉根を寄せる。
「神様が人間のやることに介入してはいけないのではなかったのですか。ルルミーを選んだのはエレーナなのでしょう?」
『わかっています。ですが、このままでは、ルルミーが闇落ちしてしまいます』
「闇落ち?」
驚いて聞き返すと、世界樹の枝が大きく揺れた。
『エレーナはとても優しい子でした。ですから、ルルミーを選んだことを後悔すると思っていました』
「ぼくもそう思ってたよぉ。恋に落ちるまでのエレーナはとっても良い子だったんだぁ」
「神様に人の未来が見えないことは承知しております。そして、それは今までにもあったことなのでしょう。それなのに今回はどうして介入されたのですか?」
『代理というものがイレギュラーだったからです』
神様はロマ様に答えると、他国の精霊でありワニの姿をしたテイラーが言葉を発する。
「あまりの聖女らしくない行動に出しゃばった真似をしてしまった、わたくしが悪いのでございます。どうぞ、罰してくださいませ」
「本当だよ! お前のせいで無茶苦茶だ!」
ピッキーがテイラーに叫ぶと、わたしだけじゃなく他の聖女たちもピッキーを睨み付けた。
それぞれ言いたいことはあるみたいだけど、代表して、わたしがピッキーに話しかける。
「ピッキー、テイラーよりも神様の遣いである精霊らしくないのは、あなただと思うわ」
「オレは真面目にやってるよ!」
「そうとは思えない。わたしのことだって散々馬鹿にしていたじゃない。本当なら、わたしとあなたは助け合う関係にならなければいけなかったのに」
「お前がオレに助けてくれって言えば良かったんだ!」
ピッキーは鼻を鳴らして、文句を言ってきた。
「それは気づかなくてごめんなさいね。でも、そうだとしたって、あなたにテイラーを責める権利はないわ。わたしだってあなたに言われたことで傷ついて、闇落ちする可能性はあった」
「思いやりがなくて悪かったな! でも、聖女は優しいだけじゃ駄目なんだ!」
「ピッキー」
アッセムがわたしたちの会話に割って入ってこようとした。
ピッキーはこれ以上言えば、アッセムに殴られると思ったのか、橋のほうに向かって逃げていった。
わたしたち聖女は、神様の行動に疑問を持つことがあっても最終的には感謝し、神様のことを信じ続けている。
そんな聖女が神様を信仰する気持ちをなくし、神様を恨む気持ちをもつことを、わたしたちは闇落ちと言っている。
闇落ちした聖女がどうなるかというと、わたしたちが言う邪神に寝返ることになる。
問題なのは、魔物の体ではなく人間の体のまま心が闇に落ちるだけなので、結界の意味がなくなってしまうことだ。
聖女がそんなことになるわけがない。
でも、ルルミー様は代理であり、神様が選んだ聖女ではない。
聖女代理の任を解けば、彼女はまだ助かる可能性がある。
邪神が狙うのは、邪神の囁きにのってしまいそうな聖女ばかりだからだ。
『話を戻しますが、テイラーが悪いとは思っておりません。私ができなかったことをやってくれただけです』
「もし、聖女代理のまま、ルルミーが闇落ちした場合、エレーナはどうなるのですか」
精霊のリーダー格であるアッセムが尋ねると、神様は長い沈黙のあとに答える。
『エレーナの体が闇の力に侵される可能性があります。聖女の聖なる力は元々はエレーナのものです。その力が闇に変わるのです』
話をする神様の声が震え始める。
『聖女代理など認めなければ良かった。でも、そうしなければ、エレーナの命を奪わなければならなかったのです。私が選び、そして命を奪うだなんて……』
神様の涙なのか、明るい空から大粒の雨が頭上から降ってきた。
雨のように見えるのに、わたしたちの体を濡らさないことは不思議だった。
聖女の選び間違いは今までにもあった。
だけど、ここまでこじれたことはなかった。
聖女が生き方を選び間違えたことがあっても、自分でその間違いに気付けたからだと思う。
わたしには友人がいなかったから、人に惑わされずに済んだだけで、もし、ルルミー様のような友人がいたなら、どうなっていたかはわからない。
「神様、わたしたちは出来る限りのことをしようと思います。指示を出していただけませんか。失礼なことを言うようですが時間が惜しいです」
こうやって話をしている間にも、ルルミー様の感情が負に陥っていく可能性があるため、無礼だとわかっていながらも、ノナが急かした。
『そうですね。その通りです。エレーナへの交渉は私がします。聖女たちは交代しながら結界の補強に務めてください。すぐに壊れるものではありませんから、ノーンコル王国の国民にはそのことを伝えつつも避難する準備を進めさせてください』
神様からの話を聞いたわたしたち聖女はすぐに一箇所に集まって、結界を張る順番を決めていくことになった。
レッテムは神様と共にエレーナの所に行って話をしてくると言っていた。
現段階ではラエニャ様が結界を張りに行ってくれていて、今日、わたしが交代するつもりだった。
本来なら、わたしの後はルルミー様に交代という形だったのだけど、他の聖女が交代してくれることになった。
「今、ルルミーはラエニャの国にいるのよね」
「そうです。わたしがノーンコル王国に入ればラエニャ様は自分の国に戻りますし、ルルミー様はソーンウェル王国に飛ばされるんだと思います」
ロマ様に応えると、いつの間にか近くに来ていたピッキーが言う。
「おい、お前ら。今回の件で神様が悪いとか言うなよ。そうなった時、お前らのところに邪神が来るぞ。邪神は聖女を闇落ちさせようと必死だからな」
いつも腹の立つことばかり言ってくるピッキーだから、彼の言うことは聞き流してばかりだった。
でも、この言葉は心に刻んでおこうと思った。
※
次の話は少しだけ時を遡っての、ルルミー視点になります。
勝手な思い込みでしかないけれど、ルルミー様に依存しすぎたせいで、悪い方向に進んでいってしまっただけの人のような気がした。
次の日、小島に行って力を授けてもらった後に、レッテムが近寄ってくると、わたしに話しかけてきた。
「大変だよぉ」
「どうかしたの?」
「ルルミーの力が弱まってるんだってぇ」
レッテムは表情が変わらないため、口調だけだと呑気そうに言っているように聞こえてしまい、わたしは眉根を寄せて尋ねる。
「対応はどうするつもりなの? ラエニャ様はそのことを知っているの?」
「うん。予定よりも早い時間にラエニャが交代したんだ。でね、元々の話では3人で入れ替わりだったけど、聖女全員で入れ替っていくという話になってるみたいだよぉ」
「祭壇に行ける時間が限られているから、そうしてもらえると助かるけど、そんなに良くない状況なの?」
「それくらいに魔物が結界に触れてるんだ」
魔物が結界に触れるたびに、魔物の数は減るけれど、結界にもダメージがある。
その修復がルルミー様の魔力では追いつかないようだった。
「ルルミーはソーンウェル王国の魔道具に助けられていたから、今まですごい聖女だと言われてたけど、魔道具がなかったらそうでもないんだよねぇ」
「今回はルルミー様だから駄目だというわけでもないんじゃないの?」
「……それがそうでもないんだよぉ」
レッテムが顔を下に向けた時だった。
柔らかな風が吹いたので、世界樹のほうに顔を向ける。
私と同じように近くにいた聖女たちも世界樹を見つめた。
『邪神の動きを感じます。そのため、ルルミーの任をとくようにエレーナと話をするつもりです』
神様の言葉にロマ様が眉根を寄せる。
「神様が人間のやることに介入してはいけないのではなかったのですか。ルルミーを選んだのはエレーナなのでしょう?」
『わかっています。ですが、このままでは、ルルミーが闇落ちしてしまいます』
「闇落ち?」
驚いて聞き返すと、世界樹の枝が大きく揺れた。
『エレーナはとても優しい子でした。ですから、ルルミーを選んだことを後悔すると思っていました』
「ぼくもそう思ってたよぉ。恋に落ちるまでのエレーナはとっても良い子だったんだぁ」
「神様に人の未来が見えないことは承知しております。そして、それは今までにもあったことなのでしょう。それなのに今回はどうして介入されたのですか?」
『代理というものがイレギュラーだったからです』
神様はロマ様に答えると、他国の精霊でありワニの姿をしたテイラーが言葉を発する。
「あまりの聖女らしくない行動に出しゃばった真似をしてしまった、わたくしが悪いのでございます。どうぞ、罰してくださいませ」
「本当だよ! お前のせいで無茶苦茶だ!」
ピッキーがテイラーに叫ぶと、わたしだけじゃなく他の聖女たちもピッキーを睨み付けた。
それぞれ言いたいことはあるみたいだけど、代表して、わたしがピッキーに話しかける。
「ピッキー、テイラーよりも神様の遣いである精霊らしくないのは、あなただと思うわ」
「オレは真面目にやってるよ!」
「そうとは思えない。わたしのことだって散々馬鹿にしていたじゃない。本当なら、わたしとあなたは助け合う関係にならなければいけなかったのに」
「お前がオレに助けてくれって言えば良かったんだ!」
ピッキーは鼻を鳴らして、文句を言ってきた。
「それは気づかなくてごめんなさいね。でも、そうだとしたって、あなたにテイラーを責める権利はないわ。わたしだってあなたに言われたことで傷ついて、闇落ちする可能性はあった」
「思いやりがなくて悪かったな! でも、聖女は優しいだけじゃ駄目なんだ!」
「ピッキー」
アッセムがわたしたちの会話に割って入ってこようとした。
ピッキーはこれ以上言えば、アッセムに殴られると思ったのか、橋のほうに向かって逃げていった。
わたしたち聖女は、神様の行動に疑問を持つことがあっても最終的には感謝し、神様のことを信じ続けている。
そんな聖女が神様を信仰する気持ちをなくし、神様を恨む気持ちをもつことを、わたしたちは闇落ちと言っている。
闇落ちした聖女がどうなるかというと、わたしたちが言う邪神に寝返ることになる。
問題なのは、魔物の体ではなく人間の体のまま心が闇に落ちるだけなので、結界の意味がなくなってしまうことだ。
聖女がそんなことになるわけがない。
でも、ルルミー様は代理であり、神様が選んだ聖女ではない。
聖女代理の任を解けば、彼女はまだ助かる可能性がある。
邪神が狙うのは、邪神の囁きにのってしまいそうな聖女ばかりだからだ。
『話を戻しますが、テイラーが悪いとは思っておりません。私ができなかったことをやってくれただけです』
「もし、聖女代理のまま、ルルミーが闇落ちした場合、エレーナはどうなるのですか」
精霊のリーダー格であるアッセムが尋ねると、神様は長い沈黙のあとに答える。
『エレーナの体が闇の力に侵される可能性があります。聖女の聖なる力は元々はエレーナのものです。その力が闇に変わるのです』
話をする神様の声が震え始める。
『聖女代理など認めなければ良かった。でも、そうしなければ、エレーナの命を奪わなければならなかったのです。私が選び、そして命を奪うだなんて……』
神様の涙なのか、明るい空から大粒の雨が頭上から降ってきた。
雨のように見えるのに、わたしたちの体を濡らさないことは不思議だった。
聖女の選び間違いは今までにもあった。
だけど、ここまでこじれたことはなかった。
聖女が生き方を選び間違えたことがあっても、自分でその間違いに気付けたからだと思う。
わたしには友人がいなかったから、人に惑わされずに済んだだけで、もし、ルルミー様のような友人がいたなら、どうなっていたかはわからない。
「神様、わたしたちは出来る限りのことをしようと思います。指示を出していただけませんか。失礼なことを言うようですが時間が惜しいです」
こうやって話をしている間にも、ルルミー様の感情が負に陥っていく可能性があるため、無礼だとわかっていながらも、ノナが急かした。
『そうですね。その通りです。エレーナへの交渉は私がします。聖女たちは交代しながら結界の補強に務めてください。すぐに壊れるものではありませんから、ノーンコル王国の国民にはそのことを伝えつつも避難する準備を進めさせてください』
神様からの話を聞いたわたしたち聖女はすぐに一箇所に集まって、結界を張る順番を決めていくことになった。
レッテムは神様と共にエレーナの所に行って話をしてくると言っていた。
現段階ではラエニャ様が結界を張りに行ってくれていて、今日、わたしが交代するつもりだった。
本来なら、わたしの後はルルミー様に交代という形だったのだけど、他の聖女が交代してくれることになった。
「今、ルルミーはラエニャの国にいるのよね」
「そうです。わたしがノーンコル王国に入ればラエニャ様は自分の国に戻りますし、ルルミー様はソーンウェル王国に飛ばされるんだと思います」
ロマ様に応えると、いつの間にか近くに来ていたピッキーが言う。
「おい、お前ら。今回の件で神様が悪いとか言うなよ。そうなった時、お前らのところに邪神が来るぞ。邪神は聖女を闇落ちさせようと必死だからな」
いつも腹の立つことばかり言ってくるピッキーだから、彼の言うことは聞き流してばかりだった。
でも、この言葉は心に刻んでおこうと思った。
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次の話は少しだけ時を遡っての、ルルミー視点になります。
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