役立たずの聖女はいらないと他国に追いやられましたが、色々あっても今のほうが幸せです

風見ゆうみ

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6  聖女代理の力

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 大人しくてウジウジしているエレーナ様というのは、一体どんな方なのか想像がつかないわ。
 わたしのような人だとピッキーは言っていたけど、もしそうだったとしたら仲良くなることはできるのかしら。
 もしくは同族嫌悪で嫌がられてしまうかもしれない。

 他の聖女たちにエレーナ様のことを聞いてみると、彼女たちが話しかけても嫌がられたようで、あまり知らないと言われてしまった。
 嫌がっている相手に無理に話しかけるのも迷惑だものね。
 そんなことを聞いたら、余計に話しかけにくくなった。

「話しかけてみても良いかは、ソーンウェル王国の両陛下やディオン殿下に聞いてみたらどうかしら」

 悩んでいると、ノナがアドバイスしてくれた。

「ありがとう。そうしてみる」

 ノナとは仲が良いけれど、親しき仲にも礼儀ありだと思って、普段は敬語を使うようにしている。
 それなのに、気が抜けると敬語を忘れてしまう。

 ノナはそのことを気にする様子もないし、いつも敬語はいらないと言ってくれていて、わたしにとっては本当に頼りになるお姉さんだ。

 他の聖女たちも優しいし、お世話になっているから、いつか新たな聖女が来ることがあれば、わたしも先輩としてサポートしていきたいと思う。

 新しい聖女は、できればルルミー様の代わりだと有り難いわ。
 ロマ様にはゆっくりしてほしい気持ちはあるけれど、まだまだお話したいことがいっぱいあるもの。
 エレーナ様が委任する相手を変えてくださったら良いのだけれど、そう上手くはいかないわよね。

 ノナや他の聖女たちと情報交換をしていた時だった。
 柔らかな風が吹いたかと思うと、わたしの長い黒髪や他の聖女たちの髪が宙を舞う。

 これは神様からのメッセージがある時で、世界樹に注目するようにという合図だ。

 世界樹の葉が優しく揺れて、柔らかな心地よい女性の声が聞こえてくる。

『魔物たちがノーンコル王国周辺に集結しようとしています。ルルミーだけでは対処できない可能性があるため、隣接国の聖女は結界の範囲を広めてください』

 わたしたちの国と国の間には、どちらの国の国土でもなく、魔物が自由に行き来できる森がある。
 東西南北であらわすと、ソーンウェル王国であれば北の方角に湖や小島があり、東には魔物のいる森を挟んでノーンコル王国があり、西には魔物のいる森を挟んでロマ様がいるフェリスタ王国がある。
 南の方角は魔物が暮らすための土地が広がっていて、全ての国が湖を囲んでいるから、国によって湖の方角なども違ってくる。
 
 魔物がいる森を設けることにより、他国からの侵略がしにくいようにしているという噂もあるけれど、昔からずっとそうなので真意はわからない。
 危険のない商人や旅行者のために、結界が張られた国と国とを繋ぐ細い道が湖に沿って一本ずつ作られていて、人間はそこを行き来する。
 魔物見学ツアーといって、その道を観光客に歩かせたりすることもある。

 わたしたちの世界の魔物は、見た目は森にいる肉食動物に近い見た目だ。
 でも、火を怖がらないし、人間を見つければすぐに襲いかかってくる。
 普段は結界に近い場所に魔物は寄ってこないのだけれど、気性の荒い魔物は結界に体当りするなどして、自らの命を削っていく。
 そして、それを見た他の魔物たちは見えない壁が恐ろしいものなのだと理解して遠ざかるというものだ。
 ただ、体当りされるたびに、その部分の結界が少しではあるが弱まってしまうので要注意だ。

『リーニ、聞こえていますか?』
「は、はい! 申し訳ございません。あの、結界を広めることはかまわないのですが、現在そこにいる魔物たちはどうなるのでしょう」

 世界樹に向かって問いかけると、答えが返ってくる。

『可哀想なことをしますが、結界の力で追い出すしかありません』

 わたしがノーンコル王国の結界ギリギリまでソーンウェル王国の結界を広げれば、ノーンコル王国でいう西側の魔物の居場所はなくなるので、ルルミー様が警戒する地域は北側だけで良いことになる。

 範囲が広いけれど、東西の確認をしなくて良いのは、かなり楽だと思う。

「どうして魔物たちがノーンコル王国に集まっているんですの?」

 ノーンコル王国の東側に位置する国の聖女、ラエニャ様が尋ねた。

『ルルミーには大きな力がないと気づいたからです』

 神様の言葉を聞いて、わたしたちは困惑して顔を見合わせた。
 代表して、ラエニャ様がまた尋ねる。

「ですが、ルルミーはいつも一番に祭壇に着いていますわ。彼女に大きな力がないと言われてしまったら、わたくしたちはどうなるのです?」
『ルルミーは聖女代理ですから、聖なる力を使う能力をエレーナから借りていることになります。そのため、他の聖女に比べて体内で保持できる魔力のキャパシティが少ないのです』

 わたしたちが100%だとすれば、ルルミー様は最大で70くらいしか魔力を授かれないのだという。

 だから、本人は知らないようだけれど、魔道具で聖なる力の効力を増幅させていたのね。
 普通は聖なる力を増幅させるなんて人間側でできることではないはず。
 それができるようになっているのは、今回は特例として認められているからでしょうね。

『リーニ、あなたはエレーナが気になるようですが、聖なる力が使えない現在のエレーナは聖女ではなく、元聖女といっても過言ではありません。ただ、そのことに触れてしまうと、エレーナは居場所を失ったと思うでしょう』

 やっぱり、あの家からエレーナ様を出て行かせようとしないのは、使用人や両陛下、ディオン殿下たちの配慮なのね。
 そして、神様も無駄に彼女の心を傷つけるようなことがないように、そして、エレーナ様を傷つけてしまったと、わたしが傷つくことがないように助言してくださっていることがわかった。

「承知いたしました」

 わたしが頷くと、神様は話題を戻す。

『本当の聖女であるエレーナではなく、代理人のルルミーでは三方を守るのは厳しいでしょうから、ラエニャとリーニには彼女のサポートをお願いします』
「「承知いたしました」」

 わたしとラエニャ様の声が重なった。

 エレーナ様に、わたしは近づかないほうが良いのね。
 わたし
はソーンウェル王国の聖女になってしまった。
 だから、彼女が聖女に戻りたいと思った時は、ノーンコル王国の聖女になるということだ。

 エレーナ様の居場所を奪ってしまったのかと思うと胸が痛い。
 でも、聖なる力を取り戻さなければ、エレーナ様はソーンウェル王国にいられる。

 それでいいのよね?

 それよりも今は、結界が破られて大変なことになる前に、わたしにできることをしようと思った。
 




世界地図の説明が下手で申し訳ないです。
ルーレットを思い浮かべていただき、真ん中が湖で、その真ん中に小島。
その周りが各国と森、その外側全体が魔物や動物が住んでいると考えてもらえたらと思います。
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