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3 偽りの力の聖女
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「聖女代理という言葉を初めて聞いたのですが、一体、どのようなものなのですか?」
「そのままの意味だ。今回は特例だと言って、丸いウサギの精霊が委任状を持って現れたらしい」
「い、委任状ですか?」
丸いウサギの精霊というのは、レッテムのことだと思われる。
レッテムは以前はもっと丸々としていたと聞いたことがある。
今も太り気味ではあるけれど、ルルミー様に交替してからストレスで多少は痩せたのかもしれない。
「ああ。本当の聖女が動けない代わりに、自分の選んだ人間に聖女を任せるという委任状だと聞いた」
「委任状があるということにも驚きですが、聖女が動けないというのはどういうことなのでしょう。聖なる力は病気や怪我を癒せるはずです」
今までに聞いたことのない話ばかりだったので、失礼だとわかっていながらも信じられなくて言ってみた。
ディオン殿下はわたしの態度に気分を害した様子もなく、質問に答えてくれる。
「本当の聖女が言うには、自分自身には聖なる力は使えないと言っていた」
「そんなことはないはずです。わたしは自分自身の傷を癒やしたことがあります」
「なら、正確に言えば再生ができないのかもしれない」
「……まさか、動けないということは足に大きな怪我をされたのですか?」
「ああ。両足が駄目になった」
目を伏せたディオン殿下を見て、よほど痛々しい状況だった、もしくは彼にとって本当の聖女が大事な人だったのかもしれないと思い、これ以上、話を聞いても良いのか迷ってしまう。
聖女の力にも限界があり、体が欠損した部分を再生することはできない。
欠損していても残っている部分を縫えば何とかなるようなものなら治癒することができる。
でも、切断されてしまった場合は難しい。
上手く繋ぎ合わせることができれば良いけれど、時間が経ってしまうと生命を守ることが優先されるため繋ぐことはできないと最年長のノマ様が教えてくれた。
本当の聖女様も間に合わなかったパターンなのね。
もしくは、このことでノマ様も知ったというところかしら。
どうしてそうなったのかはわからないけれど、本当にお気の毒だわ。
遠隔操作で聖なる力は使えない。
足がなくなっても連れて行ってもらえれば何とかなる気もするけれど、精神的にまいってしまっていた時は別だ。
聖女のそんな姿を国民に見せるわけにはいかないものね。
聖女は国民にとって希望になっていることが多いから、弱いところは見せられない。
……そういえば、ルルミー様を代理にしたという聖女がどんな方か知らないわ。
それに他のみんなも、その話をしてくれていない気がする。
代理としてルルミー様が動いているのだから、生きていらっしゃるということは間違いない。
わたしが聖女に選ばれたのは、前任者のおばあさんが亡くなってからで、約5年前になる。
その頃にはすでにソーンウェル王国の聖女はルルミー様だった。
ロマ様なら詳しい話を知っているかしら。
それとも、わざわざ他人に教えることでもないということで、他のみんなも知っているけれど、わざと口にしないのかもしれない。
多くの聖女は争い事を望まないし、人の気持ちに寄り添おうとする。
ソーンウェル王国の本当の聖女様だって同じはずだわ。
それなのに、どうしてルルミー様のような人を代理に選んだのかしら。
ルルミー様の本性を知らなかったとか、そんなことはないわよね。
そう思ったところで、ディオン殿下に聞いてみる。
「ルルミー様の本性を知っている方は多いのでしょうか」
「王族はみんな知っている。それに今回の手続きに関係した人たちも知っているな。一応、ノーンコル王国にも伝えたが気にしていないようだった」
ディオン殿下は嘲笑とも取れる笑みをみせた。
ノーンコルの王家は何を考えているのかしら。
ルルミー様は聖女の中では一番、聖女として優秀だと世間的には言われているから、その力が欲しかったとか?
そうなると、役立たずだったわたしにも責任があるのかしら。
「今回の件はどちらからの申し出だったのでしょう」
「聖女の交換のことか?」
「はい。質問ばかりで申し訳ございません」
「気にしなくて良い。ルルミーが勝手に動いていた。だから、向こうの王家からだ」
「……そうでしたか。わたしが不甲斐ないばかりにご迷惑をおかけして申し訳ございません」
「何を言っているんだ。こちらとしては君がこの国に来てくれて助かったんだ」
助かったという言葉の意味がわからなくて首を傾げる。
「どういうことでしょう。ルルミー様はしっかりと仕事をしていたのではないのでしょうか」
授けられている魔力は使わなければ体内に溜めていくことができるので、いざという時に力を一気に発揮することができる。
結界を張る場合であれば、より強固なものができるし、治癒能力だって、一度に多くの人を癒やすことができる。
だからこそ、ルルミー様は褒めそやされていた。
わたしだって、あんな嫌な性格の人でなければ、素直に尊敬できていたと思う。
「実はルルミーは聖なる力を上手く使えていない」
「……どういうことでしょうか」
「これは本人でさえも知らないことなんだが」
「本人さえも知らないのですか!?」
「ああ。伝えようとしても聞く耳を持たなくて無駄だった。あとでミーイが帰ってきたら、あいつに再現させる」
呆れたような顔をして、ディオン殿下はため息を吐く。
再現させるというのはどういうことなのか気になりはしたけれど、今は聞かないでおく。
「力が上手く使えていないというのはどういうことなのでしょうか」
「彼女には魔道具を貸していたんだ。それは魔力を増幅するものでな」
「……それって」
「そうだ。彼女の力が他の聖女よりも優れていたのは魔道具のおかげなんだ」
「そんな……!」
そうだったとしたら、ノーンコル王国に行ったルルミー様は普通の聖女になってしまったということなの?
「そのままの意味だ。今回は特例だと言って、丸いウサギの精霊が委任状を持って現れたらしい」
「い、委任状ですか?」
丸いウサギの精霊というのは、レッテムのことだと思われる。
レッテムは以前はもっと丸々としていたと聞いたことがある。
今も太り気味ではあるけれど、ルルミー様に交替してからストレスで多少は痩せたのかもしれない。
「ああ。本当の聖女が動けない代わりに、自分の選んだ人間に聖女を任せるという委任状だと聞いた」
「委任状があるということにも驚きですが、聖女が動けないというのはどういうことなのでしょう。聖なる力は病気や怪我を癒せるはずです」
今までに聞いたことのない話ばかりだったので、失礼だとわかっていながらも信じられなくて言ってみた。
ディオン殿下はわたしの態度に気分を害した様子もなく、質問に答えてくれる。
「本当の聖女が言うには、自分自身には聖なる力は使えないと言っていた」
「そんなことはないはずです。わたしは自分自身の傷を癒やしたことがあります」
「なら、正確に言えば再生ができないのかもしれない」
「……まさか、動けないということは足に大きな怪我をされたのですか?」
「ああ。両足が駄目になった」
目を伏せたディオン殿下を見て、よほど痛々しい状況だった、もしくは彼にとって本当の聖女が大事な人だったのかもしれないと思い、これ以上、話を聞いても良いのか迷ってしまう。
聖女の力にも限界があり、体が欠損した部分を再生することはできない。
欠損していても残っている部分を縫えば何とかなるようなものなら治癒することができる。
でも、切断されてしまった場合は難しい。
上手く繋ぎ合わせることができれば良いけれど、時間が経ってしまうと生命を守ることが優先されるため繋ぐことはできないと最年長のノマ様が教えてくれた。
本当の聖女様も間に合わなかったパターンなのね。
もしくは、このことでノマ様も知ったというところかしら。
どうしてそうなったのかはわからないけれど、本当にお気の毒だわ。
遠隔操作で聖なる力は使えない。
足がなくなっても連れて行ってもらえれば何とかなる気もするけれど、精神的にまいってしまっていた時は別だ。
聖女のそんな姿を国民に見せるわけにはいかないものね。
聖女は国民にとって希望になっていることが多いから、弱いところは見せられない。
……そういえば、ルルミー様を代理にしたという聖女がどんな方か知らないわ。
それに他のみんなも、その話をしてくれていない気がする。
代理としてルルミー様が動いているのだから、生きていらっしゃるということは間違いない。
わたしが聖女に選ばれたのは、前任者のおばあさんが亡くなってからで、約5年前になる。
その頃にはすでにソーンウェル王国の聖女はルルミー様だった。
ロマ様なら詳しい話を知っているかしら。
それとも、わざわざ他人に教えることでもないということで、他のみんなも知っているけれど、わざと口にしないのかもしれない。
多くの聖女は争い事を望まないし、人の気持ちに寄り添おうとする。
ソーンウェル王国の本当の聖女様だって同じはずだわ。
それなのに、どうしてルルミー様のような人を代理に選んだのかしら。
ルルミー様の本性を知らなかったとか、そんなことはないわよね。
そう思ったところで、ディオン殿下に聞いてみる。
「ルルミー様の本性を知っている方は多いのでしょうか」
「王族はみんな知っている。それに今回の手続きに関係した人たちも知っているな。一応、ノーンコル王国にも伝えたが気にしていないようだった」
ディオン殿下は嘲笑とも取れる笑みをみせた。
ノーンコルの王家は何を考えているのかしら。
ルルミー様は聖女の中では一番、聖女として優秀だと世間的には言われているから、その力が欲しかったとか?
そうなると、役立たずだったわたしにも責任があるのかしら。
「今回の件はどちらからの申し出だったのでしょう」
「聖女の交換のことか?」
「はい。質問ばかりで申し訳ございません」
「気にしなくて良い。ルルミーが勝手に動いていた。だから、向こうの王家からだ」
「……そうでしたか。わたしが不甲斐ないばかりにご迷惑をおかけして申し訳ございません」
「何を言っているんだ。こちらとしては君がこの国に来てくれて助かったんだ」
助かったという言葉の意味がわからなくて首を傾げる。
「どういうことでしょう。ルルミー様はしっかりと仕事をしていたのではないのでしょうか」
授けられている魔力は使わなければ体内に溜めていくことができるので、いざという時に力を一気に発揮することができる。
結界を張る場合であれば、より強固なものができるし、治癒能力だって、一度に多くの人を癒やすことができる。
だからこそ、ルルミー様は褒めそやされていた。
わたしだって、あんな嫌な性格の人でなければ、素直に尊敬できていたと思う。
「実はルルミーは聖なる力を上手く使えていない」
「……どういうことでしょうか」
「これは本人でさえも知らないことなんだが」
「本人さえも知らないのですか!?」
「ああ。伝えようとしても聞く耳を持たなくて無駄だった。あとでミーイが帰ってきたら、あいつに再現させる」
呆れたような顔をして、ディオン殿下はため息を吐く。
再現させるというのはどういうことなのか気になりはしたけれど、今は聞かないでおく。
「力が上手く使えていないというのはどういうことなのでしょうか」
「彼女には魔道具を貸していたんだ。それは魔力を増幅するものでな」
「……それって」
「そうだ。彼女の力が他の聖女よりも優れていたのは魔道具のおかげなんだ」
「そんな……!」
そうだったとしたら、ノーンコル王国に行ったルルミー様は普通の聖女になってしまったということなの?
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