3 / 35
1 出来損ないの聖女
しおりを挟む
パーティー会場に戻れるはずもなく、わたしとフワエル様はその場で別れた。
両陛下も承知のことらしく、今回の婚約破棄と聖女の入れ替えは、両陛下からフワエル様への誕生日プレゼントなのだそうだ。
両陛下のこともとても優しい方たちだと思っていた。
こんなことをする人だとは思っていなかった。
でも、国民を幸せにするための最良の方法を選んだのだから、優しいことに間違いはないわね。
フワエル様の瞳に合わせた水色のドレスが目に入るたびに涙がこぼれ、少し心を落ち着かせてから、わたし付きのメイドに声を掛けた。
悲しい出来事はこれだけではなかった。
わたしが家にたどり着いた時には、婚約破棄の件は実家にも連絡がいっていて、屋敷に入るなり、お父様から平手打ちを食らった。
「せっかく聖女に選ばれたというのに、他国の聖女と交換だと!? この恥晒しめ! お前みたいな役立たずは二度と家には入れん! 誰かがお前を迎えに来ても、自分の足でソーンウェルに向かったと言っておいてやる!」
お父様はそう叫ぶと騎士に命令して、わたしを家から追い出した。
お母様とお兄様はわたしを助けようとする様子はなく、蔑んだ目でわたしを見つめているだけだった。
*****
わたしの住んでいる世界には十の国があり、各国には一人ずつ聖なる力が使える聖女がいる。
その聖女たちは、世界の中枢にある世界樹という大木から魔力を得て聖なる力を使う。
世界樹は大きな湖の中心にある小さな小島にある。
世界樹のある小島や湖を囲むように十の国があり、世界樹から力をもらうためには、毎日争わなければならない。
どう争うのかというと、毎朝6時に世界樹の下に行き、小さな祭壇で祈りを捧げると、先着順で魔力を与えてもらえる。
どういう理由かはわからないけれど、少しでも早く祭壇にたどり着いて祈りを捧げれば、魔力が多く与えられるのだ。
そのため、昔から聖女たちは競争していた。
各国が建設した橋は不思議な力が働いていて、6時から7時の1時間しか使用ができない。
ちなみに、たとえその時間であっても聖女以外が渡ろうとしても見えない壁ではじかれてしまう。
本当なら陸地から湖の真ん中にある小島にたどり着くには、2キロ以上ある長い橋を渡らなければならない。
でも、聖女は一瞬にして、その小島にまではたどり着ける。
それなら橋は必要ないとも思うけれど、参道のようなものらしい。
わたしにとって、小島にたどり着いてからが問題だった。
大体の聖女は6時に小島にたどり着き、そこから、500メートル先にある世界樹に向かって走り、早く着いたものから魔力を与えてもらえる。
悲しいことに、わたしは走るのが遅かった。
だから、同時に走り始めた場合、10人中の9番目くらいでしかたどり着けず、聖女の能力を使うための魔力が少ししか与えてもらえない。
10番目になるのは優しいお婆さんで、いつものんびりと歩いている。
それでも、わたしよりも強い力を発揮する結界を張れるのだからすごいと思う。
このことを考えると、魔力だけが問題ではないような気もしてきた。
家を追い出されて行くあてもなかったわたしは、聖女の力を使う代わりに、無料で宿屋に泊まらせてもらい、服も宿屋の娘さんのお下がりをいただいた。
次の日、悲しい気持ちを振り払い、今日こそは何とかして一番に祭壇にたどり着くのだと意気込んで走った。
でも、わたしの足の遅さが変わるわけもなかった。
「おはよう、リーニ」
「おはようございます、リーニ様、お話は聞いておりますわよ!」
自分の不甲斐なさに泣きたくなっていると、わたしを挟むようにして並走しながら、他の国の聖女たちが話しかけてくれた。
聖女というだけあって優しい人が多い。
先に祭壇にたどり着いていた聖女たちも、魔力をもらうこともなく近くで待ってくれていた。
「おはようございます、皆様」
わたしは19歳で聖女の中では若いほうだ。
だから、別け隔てなく敬語を使っている。
力を分け与えてもらえる祭壇の前に着いたところで足を止めると、待ってくれていた人たちも集まってきた。
だから、昨日の出来事について話そうとした時だった。
「ほんと、うざいわ。どんだけトロいのよ。見てるだけでイライラする。消えて」
一番に力を与えてもらったルルミー様が、わざとわたしにぶつかって言った。
「消えるわけにはいきません」
よろめきはしたものの、何とか体勢を保って言い返すと、踝まである黒いドレスがよく似合う、細身のルルミー様は鼻で笑う。
「消えてほしいわ。目障りだもの」
「ルルミー、あなたいいかげんにしなさいよ!」
「そうよ。わざわざぶつかる必要はないでしょう。目障りだなんて言う必要もないでしょう」
他の聖女たちがルルミー様を叱ると、彼女はピンク色のウェーブのかかった髪をかきあげて言い返す。
「うるっさいわね。私たち聖女の仕事は結界を張ることや傷ついた人を治癒することでしょう。そんなことも満足にできないんだから、これくらいしても良いのよ!」
「わたしは仕事をサボっているわけではありません。それに、わざと人にぶつかるのはどうかと思いますが」
わたしが言うと、ルルミー様は突然、足元に咲いていた小さな花を踏みつけた。
そして、グリグリと黒いハイヒールの踵で花を押しつぶしながら言う。
「口答えすんじゃないわよ。この花と同じように潰すわよ」
「ルルミー様、忠告していただけるのは有り難いですが、罪のない花をわざと踏みつけるのはおやめください」
「あー、うっざ! いい子ちゃんぶって本当にキモい。あ、あんた、フワエル様にあたしのことをチクっても無駄だからね。信じないだろうし、あんたはもっと嫌われるだけだから! まあ、あたしにしてみりゃ、あんたが嫌われてくれたほうが面白いんだけどねー!」
ルルミー様は言いたいことを言い終えると、笑いながら去っていった。
ルルミー様の姿が見えなくなると、わたしの視界を埋め尽くすくらい太い幹に緑の葉が生い茂った世界樹が風もないのに揺れた。
「こんなことを言うのは失礼かもしれないけれど、フワエル殿下はルルミーの何が良かったのかしら」
「フワエル殿下の前では猫を被っているんじゃないですか」
「どうして、あんな汚い言葉を吐けるのかしら」
わたしのせいで潰された花を、治癒能力で復活させていると、聖女たちが話し始めた。
「あの子は本当に困った子よねぇ。あの子が聖女に選ばれた理由が本当にわからないわ」
聖女の最高齢である、今年70歳になる小柄なロマ様が杖をついてゆっくりとわたしのほうに近づきながら言った。
「ルルミー様は外見はとても素敵なんですけど、中身が残念ですわね」
苦笑して言うと、周りが怒り始める。
「たとえ王族が相手でも、聖女には王族に意見する権利が認められているのよ。リーニはこのままで良いの? あなたはフワエル殿下のことが本当に好きだったじゃないの」
フワエル様との話をよく聞いてくれていた、ノナが悔しそうな顔をして言った。
「好きだったけどしょうがないんです。フワエル様はルルミーが好きみたいですから」
昨日のフワエル様との話を伝えると、聖女たちの怒りはエスカレートする。
「信じられない! 結界が弱いのはリーニのせいじゃないわ。それだけ魔物が多くいるからなのに!」
結界は聖なる力で保たれている。
そして、魔物は闇の力だ。
魔物が結界に触れるたびに結界の力は弱まっていくようだから、それだけ魔物がわたしたちの国に侵入しようとしているということだとも考えられている。
「いいえ。わたしのせいです。そのせいで国民に不安な思いをさせてしまったのですから、婚約を破棄されてもしょうがないとは思います。今は魔力を授かったあとに結界を補強することが、わたしの役目です」
力強い口調で言うと、話題が変わる。
「もし、結界が弱いからという理由で婚約を破棄したとしても、ルルミーとリーニが交換される理由がわからないわ」
「そうよね。ソーンウェル王国にしてみれば、ルルミーは優秀な聖女みたいだし、普通は手放したくないはずなのに、どうしてなのかしら」
「もしかしたら、ソーンウェル王国の王族はルルミーの正体に気づいているとか?」
わたしも皆さんの会話に入ろうとした時だった。
「いつまで話をしてるんだよ。早く力を授かって戻るんだ。君たちのやることは、多くの人を幸せにできるような世界を作ることなんだよ!」
突然、わたしの目の前に現れた大きな茶色の鹿が言った。
彼は、わたしを導いてくれる精霊で名前はピッキーだ。
運動が苦手なわたしを、どんくさいと言って嫌っている。
各国には一匹ずつ精霊が補助として付いてくれている。
でも、世界樹の近くでないと話をしたり姿が見えることは普段の生活ではできない。
精霊が存在していることは、皆知っているけれど、実際に見たことのある人はそう多くはいない。
ピッキーは大きな角でグリグリとわたしの腕を押してくる。
「早く国から出ていけよ。僕はルルミーと一緒にノーンコル王国を栄えさせるから」
生意気な態度のピッキーの体は、わたしの一回り以上は大きい。
だから、力で押し返そうと思っても無駄だった。
「今度こそは上手くやれるかしら」
誰に問うわけでもなく呟いた時、ソーンウェル王国に付いている精霊でピンク色の毛を持つ、ちょっと太り気味のウサギのレッテムが話しかけてくる。
「ごめんなさぁい。ぼくがルルミーと上手くやれなかったからだよぉ」
しゅんと俯いて謝ってくるレッテムを見つめて口を開こうとすると、ピッキーの後ろ足でお尻を蹴られる。
「とっとと力をもらって帰れ! 出来損ないの聖女め!」
「わかったわよ。レッテム、また、改めて話をしましょう」
「う、うんっ! 本当にごめんねぇ」
ポロポロと涙を流すレッテムの頭を撫でてから、順番待ちをしようとした。
でも、他の聖女たちが順番を譲ってくれたおかげで、わたしは2番目に聖なる力を神様から授けてもらった。
9日に一回はいつもこうやって、順番を譲ってくれる。
どんなに遠慮しても無駄だった。
聖女たちは、わたしが努力していることを知っているからそうするのだと言う。
周りの優しさに感謝して、ノーンコル王国にできることをやってから国を出ようと思った。
両陛下も承知のことらしく、今回の婚約破棄と聖女の入れ替えは、両陛下からフワエル様への誕生日プレゼントなのだそうだ。
両陛下のこともとても優しい方たちだと思っていた。
こんなことをする人だとは思っていなかった。
でも、国民を幸せにするための最良の方法を選んだのだから、優しいことに間違いはないわね。
フワエル様の瞳に合わせた水色のドレスが目に入るたびに涙がこぼれ、少し心を落ち着かせてから、わたし付きのメイドに声を掛けた。
悲しい出来事はこれだけではなかった。
わたしが家にたどり着いた時には、婚約破棄の件は実家にも連絡がいっていて、屋敷に入るなり、お父様から平手打ちを食らった。
「せっかく聖女に選ばれたというのに、他国の聖女と交換だと!? この恥晒しめ! お前みたいな役立たずは二度と家には入れん! 誰かがお前を迎えに来ても、自分の足でソーンウェルに向かったと言っておいてやる!」
お父様はそう叫ぶと騎士に命令して、わたしを家から追い出した。
お母様とお兄様はわたしを助けようとする様子はなく、蔑んだ目でわたしを見つめているだけだった。
*****
わたしの住んでいる世界には十の国があり、各国には一人ずつ聖なる力が使える聖女がいる。
その聖女たちは、世界の中枢にある世界樹という大木から魔力を得て聖なる力を使う。
世界樹は大きな湖の中心にある小さな小島にある。
世界樹のある小島や湖を囲むように十の国があり、世界樹から力をもらうためには、毎日争わなければならない。
どう争うのかというと、毎朝6時に世界樹の下に行き、小さな祭壇で祈りを捧げると、先着順で魔力を与えてもらえる。
どういう理由かはわからないけれど、少しでも早く祭壇にたどり着いて祈りを捧げれば、魔力が多く与えられるのだ。
そのため、昔から聖女たちは競争していた。
各国が建設した橋は不思議な力が働いていて、6時から7時の1時間しか使用ができない。
ちなみに、たとえその時間であっても聖女以外が渡ろうとしても見えない壁ではじかれてしまう。
本当なら陸地から湖の真ん中にある小島にたどり着くには、2キロ以上ある長い橋を渡らなければならない。
でも、聖女は一瞬にして、その小島にまではたどり着ける。
それなら橋は必要ないとも思うけれど、参道のようなものらしい。
わたしにとって、小島にたどり着いてからが問題だった。
大体の聖女は6時に小島にたどり着き、そこから、500メートル先にある世界樹に向かって走り、早く着いたものから魔力を与えてもらえる。
悲しいことに、わたしは走るのが遅かった。
だから、同時に走り始めた場合、10人中の9番目くらいでしかたどり着けず、聖女の能力を使うための魔力が少ししか与えてもらえない。
10番目になるのは優しいお婆さんで、いつものんびりと歩いている。
それでも、わたしよりも強い力を発揮する結界を張れるのだからすごいと思う。
このことを考えると、魔力だけが問題ではないような気もしてきた。
家を追い出されて行くあてもなかったわたしは、聖女の力を使う代わりに、無料で宿屋に泊まらせてもらい、服も宿屋の娘さんのお下がりをいただいた。
次の日、悲しい気持ちを振り払い、今日こそは何とかして一番に祭壇にたどり着くのだと意気込んで走った。
でも、わたしの足の遅さが変わるわけもなかった。
「おはよう、リーニ」
「おはようございます、リーニ様、お話は聞いておりますわよ!」
自分の不甲斐なさに泣きたくなっていると、わたしを挟むようにして並走しながら、他の国の聖女たちが話しかけてくれた。
聖女というだけあって優しい人が多い。
先に祭壇にたどり着いていた聖女たちも、魔力をもらうこともなく近くで待ってくれていた。
「おはようございます、皆様」
わたしは19歳で聖女の中では若いほうだ。
だから、別け隔てなく敬語を使っている。
力を分け与えてもらえる祭壇の前に着いたところで足を止めると、待ってくれていた人たちも集まってきた。
だから、昨日の出来事について話そうとした時だった。
「ほんと、うざいわ。どんだけトロいのよ。見てるだけでイライラする。消えて」
一番に力を与えてもらったルルミー様が、わざとわたしにぶつかって言った。
「消えるわけにはいきません」
よろめきはしたものの、何とか体勢を保って言い返すと、踝まである黒いドレスがよく似合う、細身のルルミー様は鼻で笑う。
「消えてほしいわ。目障りだもの」
「ルルミー、あなたいいかげんにしなさいよ!」
「そうよ。わざわざぶつかる必要はないでしょう。目障りだなんて言う必要もないでしょう」
他の聖女たちがルルミー様を叱ると、彼女はピンク色のウェーブのかかった髪をかきあげて言い返す。
「うるっさいわね。私たち聖女の仕事は結界を張ることや傷ついた人を治癒することでしょう。そんなことも満足にできないんだから、これくらいしても良いのよ!」
「わたしは仕事をサボっているわけではありません。それに、わざと人にぶつかるのはどうかと思いますが」
わたしが言うと、ルルミー様は突然、足元に咲いていた小さな花を踏みつけた。
そして、グリグリと黒いハイヒールの踵で花を押しつぶしながら言う。
「口答えすんじゃないわよ。この花と同じように潰すわよ」
「ルルミー様、忠告していただけるのは有り難いですが、罪のない花をわざと踏みつけるのはおやめください」
「あー、うっざ! いい子ちゃんぶって本当にキモい。あ、あんた、フワエル様にあたしのことをチクっても無駄だからね。信じないだろうし、あんたはもっと嫌われるだけだから! まあ、あたしにしてみりゃ、あんたが嫌われてくれたほうが面白いんだけどねー!」
ルルミー様は言いたいことを言い終えると、笑いながら去っていった。
ルルミー様の姿が見えなくなると、わたしの視界を埋め尽くすくらい太い幹に緑の葉が生い茂った世界樹が風もないのに揺れた。
「こんなことを言うのは失礼かもしれないけれど、フワエル殿下はルルミーの何が良かったのかしら」
「フワエル殿下の前では猫を被っているんじゃないですか」
「どうして、あんな汚い言葉を吐けるのかしら」
わたしのせいで潰された花を、治癒能力で復活させていると、聖女たちが話し始めた。
「あの子は本当に困った子よねぇ。あの子が聖女に選ばれた理由が本当にわからないわ」
聖女の最高齢である、今年70歳になる小柄なロマ様が杖をついてゆっくりとわたしのほうに近づきながら言った。
「ルルミー様は外見はとても素敵なんですけど、中身が残念ですわね」
苦笑して言うと、周りが怒り始める。
「たとえ王族が相手でも、聖女には王族に意見する権利が認められているのよ。リーニはこのままで良いの? あなたはフワエル殿下のことが本当に好きだったじゃないの」
フワエル様との話をよく聞いてくれていた、ノナが悔しそうな顔をして言った。
「好きだったけどしょうがないんです。フワエル様はルルミーが好きみたいですから」
昨日のフワエル様との話を伝えると、聖女たちの怒りはエスカレートする。
「信じられない! 結界が弱いのはリーニのせいじゃないわ。それだけ魔物が多くいるからなのに!」
結界は聖なる力で保たれている。
そして、魔物は闇の力だ。
魔物が結界に触れるたびに結界の力は弱まっていくようだから、それだけ魔物がわたしたちの国に侵入しようとしているということだとも考えられている。
「いいえ。わたしのせいです。そのせいで国民に不安な思いをさせてしまったのですから、婚約を破棄されてもしょうがないとは思います。今は魔力を授かったあとに結界を補強することが、わたしの役目です」
力強い口調で言うと、話題が変わる。
「もし、結界が弱いからという理由で婚約を破棄したとしても、ルルミーとリーニが交換される理由がわからないわ」
「そうよね。ソーンウェル王国にしてみれば、ルルミーは優秀な聖女みたいだし、普通は手放したくないはずなのに、どうしてなのかしら」
「もしかしたら、ソーンウェル王国の王族はルルミーの正体に気づいているとか?」
わたしも皆さんの会話に入ろうとした時だった。
「いつまで話をしてるんだよ。早く力を授かって戻るんだ。君たちのやることは、多くの人を幸せにできるような世界を作ることなんだよ!」
突然、わたしの目の前に現れた大きな茶色の鹿が言った。
彼は、わたしを導いてくれる精霊で名前はピッキーだ。
運動が苦手なわたしを、どんくさいと言って嫌っている。
各国には一匹ずつ精霊が補助として付いてくれている。
でも、世界樹の近くでないと話をしたり姿が見えることは普段の生活ではできない。
精霊が存在していることは、皆知っているけれど、実際に見たことのある人はそう多くはいない。
ピッキーは大きな角でグリグリとわたしの腕を押してくる。
「早く国から出ていけよ。僕はルルミーと一緒にノーンコル王国を栄えさせるから」
生意気な態度のピッキーの体は、わたしの一回り以上は大きい。
だから、力で押し返そうと思っても無駄だった。
「今度こそは上手くやれるかしら」
誰に問うわけでもなく呟いた時、ソーンウェル王国に付いている精霊でピンク色の毛を持つ、ちょっと太り気味のウサギのレッテムが話しかけてくる。
「ごめんなさぁい。ぼくがルルミーと上手くやれなかったからだよぉ」
しゅんと俯いて謝ってくるレッテムを見つめて口を開こうとすると、ピッキーの後ろ足でお尻を蹴られる。
「とっとと力をもらって帰れ! 出来損ないの聖女め!」
「わかったわよ。レッテム、また、改めて話をしましょう」
「う、うんっ! 本当にごめんねぇ」
ポロポロと涙を流すレッテムの頭を撫でてから、順番待ちをしようとした。
でも、他の聖女たちが順番を譲ってくれたおかげで、わたしは2番目に聖なる力を神様から授けてもらった。
9日に一回はいつもこうやって、順番を譲ってくれる。
どんなに遠慮しても無駄だった。
聖女たちは、わたしが努力していることを知っているからそうするのだと言う。
周りの優しさに感謝して、ノーンコル王国にできることをやってから国を出ようと思った。
183
お気に入りに追加
2,255
あなたにおすすめの小説
覚悟は良いですか、お父様? ―虐げられた娘はお家乗っ取りを企んだ婿の父とその愛人の娘である異母妹をまとめて追い出す―
Erin
恋愛
【完結済・全3話】伯爵令嬢のカメリアは母が死んだ直後に、父が屋敷に連れ込んだ愛人とその子に虐げられていた。その挙句、カメリアが十六歳の成人後に継ぐ予定の伯爵家から追い出し、伯爵家の血を一滴も引かない異母妹に継がせると言い出す。後を継がないカメリアには嗜虐趣味のある男に嫁がられることになった。絶対に父たちの言いなりになりたくないカメリアは家を出て復讐することにした。7/6に最終話投稿予定。

夫の告白に衝撃「家を出て行け!」幼馴染と再婚するから子供も置いて出ていけと言われた。
window
恋愛
伯爵家の長男レオナルド・フォックスと公爵令嬢の長女イリス・ミシュランは結婚した。
三人の子供に恵まれて平穏な生活を送っていた。
だがその日、夫のレオナルドの言葉で幸せな家庭は崩れてしまった。
レオナルドは幼馴染のエレナと再婚すると言い妻のイリスに家を出て行くように言う。
イリスは驚くべき告白に動揺したような表情になる。
子供の親権も放棄しろと言われてイリスは戸惑うことばかりでどうすればいいのか分からなくて混乱した。

地味令嬢を馬鹿にした婚約者が、私の正体を知って土下座してきました
くも
恋愛
王都の社交界で、ひとつの事件が起こった。
貴族令嬢たちが集う華やかな夜会の最中、私――セシリア・エヴァンストンは、婚約者であるエドワード・グラハム侯爵に、皆の前で婚約破棄を告げられたのだ。
「セシリア、お前との婚約は破棄する。お前のような地味でつまらない女と結婚するのはごめんだ」
会場がざわめく。貴族たちは興味深そうにこちらを見ていた。私が普段から控えめな性格だったせいか、同情する者は少ない。むしろ、面白がっている者ばかりだった。

【完結】私は側妃ですか? だったら婚約破棄します
hikari
恋愛
レガローグ王国の王太子、アンドリューに突如として「側妃にする」と言われたキャサリン。一緒にいたのはアトキンス男爵令嬢のイザベラだった。
キャサリンは婚約破棄を告げ、護衛のエドワードと侍女のエスターと共に実家へと帰る。そして、魔法使いに弟子入りする。
その後、モナール帝国がレガローグに侵攻する話が上がる。実はエドワードはモナール帝国のスパイだった。後に、エドワードはモナール帝国の第一皇子ヴァレンティンを紹介する。
※ざまあの回には★がついています。

婚約破棄をされ、父に追放まで言われた私は、むしろ喜んで出て行きます! ~家を出る時に一緒に来てくれた執事の溺愛が始まりました~
ゆうき
恋愛
男爵家の次女として生まれたシエルは、姉と妹に比べて平凡だからという理由で、父親や姉妹からバカにされ、虐げられる生活を送っていた。
そんな生活に嫌気がさしたシエルは、とある計画を考えつく。それは、婚約者に社交界で婚約を破棄してもらい、その責任を取って家を出て、自由を手に入れるというものだった。
シエルの専属の執事であるラルフや、幼い頃から実の兄のように親しくしてくれていた婚約者の協力の元、シエルは無事に婚約を破棄され、父親に見捨てられて家を出ることになった。
ラルフも一緒に来てくれることとなり、これで念願の自由を手に入れたシエル。しかし、シエルにはどこにも行くあてはなかった。
それをラルフに伝えると、隣の国にあるラルフの故郷に行こうと提案される。
それを承諾したシエルは、これからの自由で幸せな日々を手に入れられると胸を躍らせていたが、その幸せは家族によって邪魔をされてしまう。
なんと、家族はシエルとラルフを広大な湖に捨て、自らの手を汚さずに二人を亡き者にしようとしていた――
☆誤字脱字が多いですが、見つけ次第直しますのでご了承ください☆
☆全文字はだいたい14万文字になっています☆
☆完結まで予約済みなので、エタることはありません!☆

義妹が大事だと優先するので私も義兄を優先する事にしました
さこの
恋愛
婚約者のラウロ様は義妹を優先する。
私との約束なんかなかったかのように…
それをやんわり注意すると、君は家族を大事にしないのか?冷たい女だな。と言われました。
そうですか…あなたの目にはそのように映るのですね…
分かりました。それでは私も義兄を優先する事にしますね!大事な家族なので!
【完結】もう…我慢しなくても良いですよね?
アノマロカリス
ファンタジー
マーテルリア・フローレンス公爵令嬢は、幼い頃から自国の第一王子との婚約が決まっていて幼少の頃から厳しい教育を施されていた。
泣き言は許されず、笑みを浮かべる事も許されず、お茶会にすら参加させて貰えずに常に完璧な淑女を求められて教育をされて来た。
16歳の成人の義を過ぎてから王子との婚約発表の場で、事あろうことか王子は聖女に選ばれたという男爵令嬢を連れて来て私との婚約を破棄して、男爵令嬢と婚約する事を選んだ。
マーテルリアの幼少からの血の滲むような努力は、一瞬で崩壊してしまった。
あぁ、今迄の苦労は一体なんの為に…
もう…我慢しなくても良いですよね?
この物語は、「虐げられる生活を曽祖母の秘術でざまぁして差し上げますわ!」の続編です。
前作の登場人物達も多数登場する予定です。
マーテルリアのイラストを変更致しました。
婚約破棄宣言は別の場所で改めてお願いします
結城芙由奈@コミカライズ発売中
恋愛
【どうやら私は婚約者に相当嫌われているらしい】
「おい!もうお前のような女はうんざりだ!今日こそ婚約破棄させて貰うぞ!」
私は今日も婚約者の王子様から婚約破棄宣言をされる。受け入れてもいいですが…どうせなら、然るべき場所で宣言して頂けますか?
※ 他サイトでも掲載しています
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる