婚約破棄していただき、誠にありがとうございます!

風見ゆうみ

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43 絶対に成就しない恋だわ

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「どうしてミレニアがあなたのために子守唄を歌わないといけないんですか。どうしてもと言うのであれば、メイドに歌わせますよ」

 ロード様が呆れた顔をしてスカディ様に言った。

 スカディ様は一人で眠ることができないの?
 何かトラウマでもあるのかしら?
 というか、今までは、レジー様が眠るまで付き添っていたってこと?
 もし、そうだとしたら、レジーさんも優しいところがあるのだと感心してしまった。

「ここへ来る前に、お気に入りのぬいぐるみを父上から取り上げられてから、誰かがいてくれないと眠れないんだよ!」

 スカディ様が悲痛な声を上げてロード様に訴えた。

 お気に入りのぬいぐるみ。

 小さい頃なら気持ちはわかるけれど、この年齢でぬいぐるみはどうなのかしら。
 でも、これが女性だったら可愛いと思われるのかもしれないし、男性だから、ぬいぐるみと寝ちゃいけないだなんて偏見の目で見てはいけないわよね。

「それなら、レジー嬢と一緒に国に帰られてはどうでしょうか。ぬいぐるみを返してもらえるように、僕から連絡を入れておきますよ」
「う、うーん、でもなぁ」

 呆れた表情で言うロード様ではなく、スカディ様は私を見つめてくる。

「何かありましたでしょうか」
「いや、僕がいなくなったら、ミレニアが寂しがるかと思ったんだ」
「ご心配いただかなくても、私にはロード様という婚約者がいますし、メルちゃんとハヤテくん、ここで働いてくれている使用人たちは私にとって家族なんです。ですから、スカディ殿下がいなくなっても全く寂しくありません!」

 きっぱりと答えると、なぜか、スカディ様だけでなく、ロード様まで私を悲しげな顔をして見つめてくるので、ロード様に尋ねる。

「どうかなさいましたか?」
「いや、僕は家族扱いされてないんだなと思って」
「ロード様を家族扱いだなんて恐れ多いです!」
「婚約者なんだから、いつか家族になるじゃないか」
「婚約者だからこそです! 今はまだ家族ではないですから、そのロード様とは」

 なぜか、結婚というワードを口に出すのが恥ずかしくてモゴモゴ言っていると、レジーさんが私たちを指差して叫ぶ。

「ちょっと、そこ! 何をイチャイチャしてるのよ!」
「イチャイチャなんかしてません!」

 慌てて否定すると、ロード様は私を見つめて小さく息を吐いてから、レジーさんに顔を向けた。

「とにかく、レジー嬢、君は今すぐ部屋に戻って荷物をまとめてくれ。それから、スカディ殿下、あなたはどうされますか?」
「…僕は、僕は残る…!」
「……どうしてです?」

 ロード様がどこか不機嫌そうに尋ねると、スカディ様は私を見つめる。

「僕はっ、僕を犬たちから守ってくれたミレニアに恋をしてしまったらしい! この恋を成就させるまで帰れない!」
「一生、成就しないんで帰ってください」

 私の代わりに、ロード様がぴしゃりと言った。

 ロード様の言う通り、絶対に成就しない恋だわ。


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