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22 お姉様よりも賢くて偉いんです
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まずは駄目元でロード様がお姉様と話をすることになった。
私のほうからお姉様に連絡しても構わないと言ったのだけど、ロード様が気を遣ってくれた形だった。
でも、結局は駄目だった。
ロード様がお姉様と約束を取り付けようとしても、私と会わせてくれないなら会わないと言い張ったのだ。
そうなるのではないだろうかと思っていたこともあり、覚悟を決めていた私は、ロード様と一緒にお姉様と会うことにした。
待ち合わせの場所は、これからお姉様に働いてもらうことになる場所を指定した。
どうして、そんなところで待ち合わせるのかと、お姉様は不思議がった。
でも、最終的に私と会えるのなら何でも良いと言って、その場所まで来てくれることになった。
お姉様と待ち合わせた場所は山奥にある採掘場だ。
これから、お姉様はそこで住み込みで働くことになる。
肉体労働をしてもらうわけではなく、お姉様が誇る武器を遺憾なく発揮してもらうために選ばれた場所だ。
お姉様は誰か1人のものにはならないとも言っていた。
それならお望み通り、みんなのレニス嬢になってもらいましょう。
*****
それから数日後の朝、私とロード様は採掘場の入口でお姉様を待っていた。
「ミレニアァッ!」
目の前に馬車が停まり、降りてきたお姉様は私の顔を見るなり笑顔で駆け寄ってこようとした。
でも、一緒に付いてきてくれていたメルちゃんとロード様が私とお姉様の間に入って動きを止めてくれる。
「そこで止まってくれ」
「ワンワンッ!!」
「ちょ、ちょっとミレニア! このモンスターとモンスターの飼い主をどうにかしてよ! せっかくの再会なのに台無しだわ!」
「お姉様、ロード様は公爵なんです。そのような失礼な発言をするのはやめてください。それから、メルちゃんはロード様の愛犬でお姉様よりも賢くて偉いんですから、モンスターだとか言わないでください」
採掘場は足場が悪いし服が汚れる可能性もあるので、私もロード様もラフな格好で来ていた。
お姉様は何も考えていなかったのか、ピンク色の丈の長いドレスを着ていて、すでにドレスの裾が砂などで汚れていた。
お姉様はそんなことなど気にした様子もなく叫ぶ。
「そんな意地悪なことを言わないでよぉ! わたし、ミレニアに会いたくて、こんな辺鄙な所まで来たのよっ? しかも、ジーギス様たちには行く場所を言うなって言うから、知られないようにするのは本当に大変だったんだから!」
お姉様が採掘場に行くと聞いたら、ジーギス様はともかく、クラッシュ様が止めてくる可能性があったので言わないように指示していた。
だから、そのことを言っているのだと思う。
なぜか体をくねくねさせているお姉様をロード様が呆れた顔で見つめていると、その視線に気が付いたお姉様は、目を輝かせて尋ねる。
「もしかして、ロード様、今までのことを反省して、この採掘場をわたしとミレニアにくれるとかですか!? 思ったよりも優しい人だったんですね!」
「僕が君に対して反省することって、今まで野放しにしていたことくらいしか思い出せないんだけど、他に何があるのかな。それから、採掘場をあげることはできないけど、君の住む家は用意してあるから安心してくれ」
「わたしの住む家って、どういうことです?」
お姉様は右手の人差し指を顎に当てて小首を傾げる。
こういう仕草をすると、ジーギス様なんかは喜ぶんでしょうけれど、ロード様は特に興味はないみたいで眉根を寄せている。
それに気が付いたお姉様が頬を膨らませた。
「まあ、失礼ね! こんなに可愛いわたしの顔を見て眉根を寄せるなんて! 紳士としてなっていませんよっ!」
「……それは悪かった。感情が表に出ないように気を付けるよ」
ロード様が素直に謝ると、大人しくしていたメルちゃんがお姉様に向かって「ウー」とうなり始めた。
「な、何なの!? どうして怒り出すのよ!? これだから、モンスターの考えていることはわからないわ!」
「君が僕をいじめてると思ったんだろう。メルは優しい子だからね」
ロード様がメルちゃんの頭を撫でると、メルちゃんはもう大丈夫だと思ったのか、唸るのをやめて尻尾を左右にゆっくりと振った。
かといって警戒を解いたわけではないようで、お姉様のほうをジッと見つめてはいる。
お姉様はメルちゃんが怖くてしょうがないのか、少しずつ後退りしながら叫ぶ。
「どうしてわたしを見てくるのよ! というか、もう嫌よ! どうして話し合いにモンスターを連れてくるのよ!? 非常識なんじゃない?」
「そうしないと君との会話が長引くと思ったからだよ。僕たちも別に暇なわけじゃない。だから、本題に入らせてもらうよ」
私たちの周りを採掘場の労働者である若い人から老人まで色々な年代の人が歩き回っている。
その人たちは皆、物珍しそうに私たちを見ながら通り過ぎていた。
過酷な労働下に置かれている人たちだからか、白いシャツらしきものの大部分が茶色く汚れていたし、汗のせいでシャツがべったりと背中に張り付いている姿を見て、お姉様は眉間にシワを寄せた。
私のほうからお姉様に連絡しても構わないと言ったのだけど、ロード様が気を遣ってくれた形だった。
でも、結局は駄目だった。
ロード様がお姉様と約束を取り付けようとしても、私と会わせてくれないなら会わないと言い張ったのだ。
そうなるのではないだろうかと思っていたこともあり、覚悟を決めていた私は、ロード様と一緒にお姉様と会うことにした。
待ち合わせの場所は、これからお姉様に働いてもらうことになる場所を指定した。
どうして、そんなところで待ち合わせるのかと、お姉様は不思議がった。
でも、最終的に私と会えるのなら何でも良いと言って、その場所まで来てくれることになった。
お姉様と待ち合わせた場所は山奥にある採掘場だ。
これから、お姉様はそこで住み込みで働くことになる。
肉体労働をしてもらうわけではなく、お姉様が誇る武器を遺憾なく発揮してもらうために選ばれた場所だ。
お姉様は誰か1人のものにはならないとも言っていた。
それならお望み通り、みんなのレニス嬢になってもらいましょう。
*****
それから数日後の朝、私とロード様は採掘場の入口でお姉様を待っていた。
「ミレニアァッ!」
目の前に馬車が停まり、降りてきたお姉様は私の顔を見るなり笑顔で駆け寄ってこようとした。
でも、一緒に付いてきてくれていたメルちゃんとロード様が私とお姉様の間に入って動きを止めてくれる。
「そこで止まってくれ」
「ワンワンッ!!」
「ちょ、ちょっとミレニア! このモンスターとモンスターの飼い主をどうにかしてよ! せっかくの再会なのに台無しだわ!」
「お姉様、ロード様は公爵なんです。そのような失礼な発言をするのはやめてください。それから、メルちゃんはロード様の愛犬でお姉様よりも賢くて偉いんですから、モンスターだとか言わないでください」
採掘場は足場が悪いし服が汚れる可能性もあるので、私もロード様もラフな格好で来ていた。
お姉様は何も考えていなかったのか、ピンク色の丈の長いドレスを着ていて、すでにドレスの裾が砂などで汚れていた。
お姉様はそんなことなど気にした様子もなく叫ぶ。
「そんな意地悪なことを言わないでよぉ! わたし、ミレニアに会いたくて、こんな辺鄙な所まで来たのよっ? しかも、ジーギス様たちには行く場所を言うなって言うから、知られないようにするのは本当に大変だったんだから!」
お姉様が採掘場に行くと聞いたら、ジーギス様はともかく、クラッシュ様が止めてくる可能性があったので言わないように指示していた。
だから、そのことを言っているのだと思う。
なぜか体をくねくねさせているお姉様をロード様が呆れた顔で見つめていると、その視線に気が付いたお姉様は、目を輝かせて尋ねる。
「もしかして、ロード様、今までのことを反省して、この採掘場をわたしとミレニアにくれるとかですか!? 思ったよりも優しい人だったんですね!」
「僕が君に対して反省することって、今まで野放しにしていたことくらいしか思い出せないんだけど、他に何があるのかな。それから、採掘場をあげることはできないけど、君の住む家は用意してあるから安心してくれ」
「わたしの住む家って、どういうことです?」
お姉様は右手の人差し指を顎に当てて小首を傾げる。
こういう仕草をすると、ジーギス様なんかは喜ぶんでしょうけれど、ロード様は特に興味はないみたいで眉根を寄せている。
それに気が付いたお姉様が頬を膨らませた。
「まあ、失礼ね! こんなに可愛いわたしの顔を見て眉根を寄せるなんて! 紳士としてなっていませんよっ!」
「……それは悪かった。感情が表に出ないように気を付けるよ」
ロード様が素直に謝ると、大人しくしていたメルちゃんがお姉様に向かって「ウー」とうなり始めた。
「な、何なの!? どうして怒り出すのよ!? これだから、モンスターの考えていることはわからないわ!」
「君が僕をいじめてると思ったんだろう。メルは優しい子だからね」
ロード様がメルちゃんの頭を撫でると、メルちゃんはもう大丈夫だと思ったのか、唸るのをやめて尻尾を左右にゆっくりと振った。
かといって警戒を解いたわけではないようで、お姉様のほうをジッと見つめてはいる。
お姉様はメルちゃんが怖くてしょうがないのか、少しずつ後退りしながら叫ぶ。
「どうしてわたしを見てくるのよ! というか、もう嫌よ! どうして話し合いにモンスターを連れてくるのよ!? 非常識なんじゃない?」
「そうしないと君との会話が長引くと思ったからだよ。僕たちも別に暇なわけじゃない。だから、本題に入らせてもらうよ」
私たちの周りを採掘場の労働者である若い人から老人まで色々な年代の人が歩き回っている。
その人たちは皆、物珍しそうに私たちを見ながら通り過ぎていた。
過酷な労働下に置かれている人たちだからか、白いシャツらしきものの大部分が茶色く汚れていたし、汗のせいでシャツがべったりと背中に張り付いている姿を見て、お姉様は眉間にシワを寄せた。
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