婚約破棄していただき、誠にありがとうございます!

風見ゆうみ

文字の大きさ
上 下
19 / 52

17 家に戻られてはいかがです?

しおりを挟む
「ミ、ミレニア! わたし、わたし! お姉様よ!」

 お姉様は私の姿を見とめると、門番が制するのもおかまいなしに鉄柵を掴んで叫ぶ。

「助けて、ミレニア! わたし、このままではジーギス様かクラッシュ様のものになっちゃうわ! わたしは皆のものなのよ! そんなことがあってはいけないと、あなたも思うでしょう!?」

 お姉様の叫びを聞き、呆れて物が言えなくなっていると、メルちゃんがお姉様を見て唸り始めた。
 前に乱暴されそうになったから、完全に敵とみなしたみたいね。

 メルちゃんが敵意をむき出しにしたから、ハヤテくんまでもが歯をむき出しにして唸り始める。
 お姉様はそんなメルちゃんたちを見て、焦った顔をして鉄柵から離れた。

「ちょっ、ちょっと、ミレニア! どうして、そんなモンスターたちと一緒にいて平気でいられるのよ! 離れたほうがいいわ。そんなモンスターと一緒にいたら危険よ! ミレニア、こっちに来て! わたしと一緒に逃げましょう」
「一緒に逃げてどうするんですか」

 相手にしてはいけないとわかっているのに、いつものくせで言葉を返してしまった。

「どうするかって、それは決まってるでしょう。どうしたら、わたしがジーギス様とクラッシュ様のものにならないかを一緒に考えましょう」
「そんなことくらい自分で考えてください。お姉様、私はこの子たちと生きていきますので、もう、お姉様は必要ないんです」

 ハヤテくんを抱っこして、メルちゃんの横にしゃがんでから言うと、お姉様は驚愕の表情を浮かべる。

「ちょっとミレニア、あなた正気なの!? それに、いつの間にあなたはモンスター使いになったの!?」

 ……モンスター使いって何かしら?
 職業にそんなものがあるのかしら。

 ああ、そうだった。
 お姉様の発言について、真面目に考えても時間の無駄よね。

 立ち上がって、お姉様に話しかける。

「お姉様、一体、あなたはここに何をしに来られたんでしょうか。私を迎えに来たというのであれば、そんなことは頼んでもいませんし迷惑です。今も言いましたが、私はここでこの子たちと一緒に暮らしていくと決めたんです。ですからお姉様、私のことは諦めてジーギス様に執着してあげてください」
「……どうしちゃったのよ、ミレニア? あなた、頭がおかしくなっちゃったの?」
「私は正常です。……あの、もう姉を馬車に乗せて帰ってくれないかしら」

 お姉様を乗せてきたらしい馬車の近くに御者らしき男性と侍女らしき女性が立っていたので話しかけた。

 すると、侍女らしき女性は何度も大きく頷いたあと、お姉様に近づいて声を掛ける。

「レニス様、ご迷惑になっているようですし、もう帰りましょう。それに、ジーギス様のものになるのが、どうしていけないのですか? ジーギス様は公爵閣下なのですよ」
「うるさいわね! そんなの言わなくてもわかるでしょう。わたしという素晴らしい人間がたった1人のものになるなんておかしいからよ! どれだけの男性を悲しませることになると思ってるの」

 そんなこと知ったことではない。
 それに、悲しむ人はそんなにいないと思う。
 私は侍女にお姉様を任せることに決め、近くにいる御者に話しかける。

「次に、お姉様からここに行けと言われても絶対に連れてこないでちょうだい。もし、連れてきたりしたら、あなたの立場が危うくなると思っておいてね」
「承知しました。二度とレニス様を連れてくるようなことはいたしません」

 御者は深々と頭を下げて言った。
 長居をする必要もないので、ハヤテくんたちとこの場を去ろうとすると、お姉様が叫んでくる。

「聞いてよ、ミレニア! わたしのことをわかってくれるのはミレニアだけなの! 今まではミレニアがいてくれたから、わたしは誰のものにもならずに済んだのよ! わたしはわたしのものなの! だから、わたしがわたしのものでいられるように協力してほしいと言っているだけよ!」
「とりあえず、お姉様、家に戻られてはいかがです? ジーギス様のいる家ではなく、伯父様がいる家です」
「……え?」

 わたしの提案を聞いたお姉様は、きょとんとした顔になって小首を傾げた。

「どうして家に帰らないといけないの? あ、ミレニアも一緒に帰るってこと? それなら帰るわ!」
「違います。私はもう、ここに住むと決めたと言ったでしょう」
「モンスターとわたしなら、モンスターを選ぶと言うの!?」
「当たり前じゃないですか。お姉様とは違ってハヤテくんとメルちゃんは私がいなくなったら、きっと悲しむでしょうし、私もお姉様といるより、メルちゃんたちと一緒にいたいです」

 いなくなったら、という言葉に反応したのか、先程まで唸っていたメルちゃんが私を見上げて「くぅーん」と鳴いた。

 こんな姿を見たら、離れられるわけないわよね!

 ハヤテくんは意味がわかっていないみたいだけれど、とにかく、お姉様が気に食わないらしく、私の腕の中で未だに威嚇を続けている。

 私に言われた言葉がショックだったのか、お姉様が両手で顔を覆って叫ぶ。

「嘘よ、そんな。わたしのミレニアがモンスターのものになってしまっただなんて!」

 わたしはお姉様のものになったつもりは一度もないわ。
 言い返すべきか迷っていると、突然、メルちゃんがソワソワし始め、ハヤテくんも威嚇をやめた。

 それと同時に、お姉様が私の背後を指さして叫ぶ。

「ミレニアがおかしくなっちゃったのは、全部、魔王のせいだわ! 魔王が悪いのよ、魔王が! 絶対に許さないから!」
「僕は魔王じゃないと言ってるだろう」

 大きなため息と共に私の背後に現れたのはロード様だった。

 
しおりを挟む
感想 57

あなたにおすすめの小説

若奥様は緑の手 ~ お世話した花壇が聖域化してました。嫁入り先でめいっぱい役立てます!

古森真朝
恋愛
意地悪な遠縁のおばの邸で暮らすユーフェミアは、ある日いきなり『明後日に輿入れが決まったから荷物をまとめろ』と言い渡される。いろいろ思うところはありつつ、これは邸から出て自立するチャンス!と大急ぎで支度して出立することに。嫁入り道具兼手土産として、唯一の財産でもある裏庭の花壇(四畳サイズ)を『持参』したのだが――実はこのプチ庭園、長年手塩にかけた彼女の魔力によって、神域霊域レベルのレア植物生息地となっていた。 そうとは知らないまま、輿入れ初日にボロボロになって帰ってきた結婚相手・クライヴを救ったのを皮切りに、彼の実家エヴァンス邸、勤め先である王城、さらにお世話になっている賢者様が司る大神殿と、次々に起こる事件を『あ、それならありますよ!』とプチ庭園でしれっと解決していくユーフェミア。果たして嫁ぎ先で平穏を手に入れられるのか。そして根っから世話好きで、何くれとなく構ってくれるクライヴVS自立したい甘えベタの若奥様の勝負の行方は? *カクヨム様で先行掲載しております

お二人共、どうぞお幸せに……もう二度と勘違いはしませんから

結城芙由奈@2/28コミカライズ発売
恋愛
【もう私は必要ありませんよね?】 私には2人の幼なじみがいる。一人は美しくて親切な伯爵令嬢。もう一人は笑顔が素敵で穏やかな伯爵令息。 その一方、私は貴族とは名ばかりのしがない男爵家出身だった。けれど2人は身分差に関係なく私に優しく接してくれるとても大切な存在であり、私は密かに彼に恋していた。 ある日のこと。病弱だった父が亡くなり、家を手放さなければならない 自体に陥る。幼い弟は父の知り合いに引き取られることになったが、私は住む場所を失ってしまう。 そんな矢先、幼なじみの彼に「一生、面倒をみてあげるから家においで」と声をかけられた。まるで夢のような誘いに、私は喜んで彼の元へ身を寄せることになったのだが―― ※ 他サイトでも投稿中   途中まで鬱展開続きます(注意)

将来を誓い合った王子様は聖女と結ばれるそうです

きぬがやあきら
恋愛
「聖女になれなかったなりそこない。こんなところまで追って来るとはな。そんなに俺を忘れられないなら、一度くらい抱いてやろうか?」 5歳のオリヴィエは、神殿で出会ったアルディアの皇太子、ルーカスと恋に落ちた。アルディア王国では、皇太子が代々聖女を妻に迎える慣わしだ。しかし、13歳の選別式を迎えたオリヴィエは、聖女を落選してしまった。 その上盲目の知恵者オルガノに、若くして命を落とすと予言されたオリヴィエは、せめてルーカスの傍にいたいと、ルーカスが団長を務める聖騎士への道へと足を踏み入れる。しかし、やっとの思いで再開したルーカスは、昔の約束を忘れてしまったのではと錯覚するほど冷たい対応で――?

婚約破棄されましたが、帝国皇女なので元婚約者は投獄します

けんゆう
恋愛
「お前のような下級貴族の養女など、もう不要だ!」  五年間、婚約者として尽くしてきたフィリップに、冷たく告げられたソフィア。  他の貴族たちからも嘲笑と罵倒を浴び、社交界から追放されかける。 だが、彼らは知らなかった――。 ソフィアは、ただの下級貴族の養女ではない。 そんな彼女の元に届いたのは、隣国からお兄様が、貿易利権を手土産にやってくる知らせ。 「フィリップ様、あなたが何を捨てたのかーー思い知らせて差し上げますわ!」 逆襲を決意し、華麗に着飾ってパーティーに乗り込んだソフィア。 「妹を侮辱しただと? 極刑にすべきはお前たちだ!」 ブチギレるお兄様。 貴族たちは青ざめ、王国は崩壊寸前!? 「ざまぁ」どころか 国家存亡の危機 に!? 果たしてソフィアはお兄様の暴走を止め、自由な未来を手に入れられるか? 「私の未来は、私が決めます!」 皇女の誇りをかけた逆転劇、ここに開幕!

寵愛のいる旦那様との結婚生活が終わる。もし、次があるのなら緩やかに、優しい人と恋がしたい。

にのまえ
恋愛
リルガルド国。公爵令嬢リイーヤ・ロイアルは令嬢ながら、剣に明け暮れていた。 父に頼まれて参加をした王女のデビュタントの舞踏会で、伯爵家コール・デトロイトと知り合い恋に落ちる。 恋に浮かれて、剣を捨た。 コールと結婚をして初夜を迎えた。 リイーヤはナイトドレスを身に付け、鼓動を高鳴らせて旦那様を待っていた。しかし寝室に訪れた旦那から出た言葉は「私は君を抱くことはない」「私には心から愛する人がいる」だった。 ショックを受けて、旦那には愛してもられないと知る。しかし離縁したくてもリルガルド国では離縁は許されない。しかしリイーヤは二年待ち子供がいなければ離縁できると知る。 結婚二周年の食事の席で、旦那は義理両親にリイーヤに子供ができたと言い出した。それに反論して自分は生娘だと医師の診断書を見せる。 混乱した食堂を後にして、リイーヤは馬に乗り伯爵家から出て行き国境を越え違う国へと向かう。 もし、次があるのなら優しい人と恋がしたいと…… お読みいただき、ありがとうございます。 エブリスタで四月に『完結』した話に差し替えいたいと思っております。内容はさほど、変わっておりません。 それにあたり、栞を挟んでいただいている方、すみません。

もう私、好きなようにさせていただきますね? 〜とりあえず、元婚約者はコテンパン〜

野菜ばたけ@既刊5冊📚好評発売中!
ファンタジー
「婚約破棄ですね、はいどうぞ」 婚約者から、婚約破棄を言い渡されたので、そういう対応を致しました。 もう面倒だし、食い下がる事も辞めたのですが、まぁ家族が許してくれたから全ては大団円ですね。 ……え? いまさら何ですか? 殿下。 そんな虫のいいお話に、まさか私が「はい分かりました」と頷くとは思っていませんよね? もう私の、使い潰されるだけの生活からは解放されたのです。 だって私はもう貴方の婚約者ではありませんから。 これはそうやって、自らが得た自由の為に戦う令嬢の物語。 ※本作はそれぞれ違うタイプのざまぁをお届けする、『野菜の夏休みざまぁ』作品、4作の内の1作です。    他作品は検索画面で『野菜の夏休みざまぁ』と打つとヒット致します。

【完結】偽物と呼ばれた公爵令嬢は正真正銘の本物でした~私は不要とのことなのでこの国から出ていきます~

Na20
恋愛
私は孤児院からノスタルク公爵家に引き取られ養子となったが家族と認められることはなかった。 婚約者である王太子殿下からも蔑ろにされておりただただ良いように使われるだけの毎日。 そんな日々でも唯一の希望があった。 「必ず迎えに行く!」 大好きだった友達との約束だけが私の心の支えだった。だけどそれも八年も前の約束。 私はこれからも変わらない日々を送っていくのだろうと諦め始めていた。 そんな時にやってきた留学生が大好きだった友達に似ていて… ※設定はゆるいです ※小説家になろう様にも掲載しています

悪女と呼ばれた死に戻り令嬢、二度目の人生は婚約破棄から始まる

冬野月子
恋愛
「私は確かに19歳で死んだの」 謎の声に導かれ馬車の事故から兄弟を守った10歳のヴェロニカは、その時に負った傷痕を理由に王太子から婚約破棄される。 けれど彼女には嫉妬から破滅し短い生涯を終えた前世の記憶があった。 なぜか死に戻ったヴェロニカは前世での過ちを繰り返さないことを望むが、婚約破棄したはずの王太子が積極的に親しくなろうとしてくる。 そして学校で再会した、馬車の事故で助けた少年は、前世で不幸な死に方をした青年だった。 恋や友情すら知らなかったヴェロニカが、前世では関わることのなかった人々との出会いや関わりの中で新たな道を進んでいく中、前世に嫉妬で殺そうとまでしたアリサが入学してきた。

処理中です...