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14 貧乏くじなんかじゃありません!

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 ジーギス様は無事に見つかった。
 彼は山小屋には泊まらずに歩き続けて、山の麓の町で保護されていた。

 まさか、元第3王子が山を彷徨っていたなんて思わないから、ただの道に迷った人ということで一般の人が保護してくれたのだそうだ。

 麓の町はロード様の領地でもあったため、その日の内にロード様が迷惑をかけた人に謝罪しに行った。

 助けた人は見返りを求めて助けたわけではなかったけれど、謝礼をもらって喜んでいたと聞いた。

「僕のことはさすがに知ってくれていたから、信用してくれたみたいだが、ジーギスのことをこの人が第3王子殿下だったなんて……って驚いてたよ」
「私も同じ立場でしたら、そう言ってしまうでしょうし気持ちはわかります」

 私もお姉様のせいで散々悩まされたし、本当に気持ちはわかるわ。

 お姉様があまりにも自由に生きるから、いつも、私がお姉さんだと思われてたのよね。

 たとえお姉さんだったとしても、あんな妹がいたら本当に困る。

 もう22才なんだから、大人の自覚を持って欲しいわ。
 お姉様のことだから、永遠の18歳だとか言い出しそうそうね。

「ジーギス様は大人しく家に戻られたのですか」
「それがそうじゃないんだよな」

 ロード様が呆れた顔で、ジーギス様の現状を教えてくれた。



*****




 ジーギス様の一件があった数日後、王太子殿下が新国王となり、先代の国王陛下はジーギス様との同居を本格的に始めることになった。

 先代の国王陛下であるクラッシュ様が異議申し立てをせずに大人しくジーギス様たちと住むことに決めたのは、お姉様と一緒にいられるからでしょうね。
 あとは、王妃陛下には逆らえないとかかしら。

 馬車に揺られながら、そんなことをぼんやりと考えた。

 ちなみに今は、ロード様と一緒に馬車で、ジーギス様が保護された山の向こうの町に向かっている。

 ジーギス様は無事に保護はされたけれど、山の中で虫に刺されたのか、良くない病気にかかってしまっていた。
 体調が芳しくなく、馬車での移動も苦しいということで保護された町にある小さな診療所に入院している。
 元王妃陛下に頼まれて、私とロード様はジーギス様の見舞いに行くことになったのだ。

 ロード様は私は行かなくても良いと言ってくれな。
 でも、私はロード様の婚約者であり、ロード様と住んでいることは周知の事実だ。
 仕事もしていないのに、婚約者の弟の見舞いに行かないのは、世間体が良くないと思ったので一緒に行くことを希望した。

 お姉様のスケジュールを確認して、私と鉢合わせしないようにもしている。

「ミレニアは馬車の中で待っていてもいいから。ジーギスは君に酷いことをしたわけだし、顔も見たくないだろう」
「大丈夫です。婚約破棄していただいたことには本当に感謝してるんです。ジーギス様が婚約破棄してくれなければ、私はジーギス様と結婚しないといけなかったわけですから。そんなことにならずに済んで本当に助かりました」
「……そう言ってくれるのなら良いけど」
「こちらこそ、私なんかが婚約者になってしまい申し訳ございません」
「謝らなくていいよ。こっちこそ、貧乏くじを引かせたみたいでごめん」
「貧乏くじなんかじゃありません!」

 慌てて否定すると、ロード様が優しい笑みを浮かべる。

「それなら良かった」

 その笑顔がとても可愛らしくて、胸がドキドキしてしまう。

「大丈夫か? 顔が赤いけど体調が悪いのか?」
「い、いえっ! 大丈夫です!」

 何度も首を横に振ると、ロード様は小首を傾げたけれど、それ以上は深くは聞いてこなかった。

 そうこうしている内に、ジーギス様のいる診療所に着いた。
 診療所に入ったあと、まずは私は部屋の前で待ち、ロード様だけが部屋に入った。

「ジーギス、調子はどうだ?」

 壁や扉が薄いので、中の声がはっきりと廊下からでも聞こえてくる。

「……ロード! お前のせいでこんなことになったんだぞ! くそっ! 体が思うように動かない! レニスが父上に奪われたら、お前のせいだからな!」
「父上がレニス嬢を奪ったりしたら、父上は終わりだよ。たとえ奪われたとしても、レニス嬢はすぐに君の元に戻ってくるから安心すれば良い」
「……どういうことだ?」

 ロード様の言っている意味が私もわからなくて、静かにロード様の答えを待った。

 
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