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12 姉ならやりかねません
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陛下は無事にジーギス様たちの住む家に送り届けられたらしい。
でも、お姉様が私が繁華街にいることを聞きつけたようで家を出て、こちらに向かおうとしていると連絡があった。
だから、早めに買い物を済ませ、邸に帰ることになった。
「せっかく、お誘いいただいたのに申し訳ございません」
「ミレニアは悪くないって。君の気持ちに気づかないレニス嬢がおかしいんだよ。それにレニス嬢の異常さは知っているから、僕だって逃げたい」
「……ありがとうございます」
苦笑するロード様にお礼を言ったあと、違う日に改めて、ゆっくり繁華街をまわることを約束して馬車に乗り込んだ。
邸に帰ると、使用人だけでなく、メルちゃんとハヤテくんがそれはもう盛大にお出迎えしてくれた。
ハヤテくんは喜びすぎて、しゃがんだ私の顔に頭突きしてくるくらいだった。
ハヤテくんの喜びの頭突きはかなり痛かった。
でも、本人は悪気は全くないようだし、尻尾と体を振って喜びを全身で表してくれている。
その姿を見ると、痛みなんてどうでも良くなった。
ひたすら撫で回してあげていると満足したのか、ハヤテくんは今度はロード様のほうに向かっていった。
入れ替わるようにしてメルちゃんが私の所へやって来てくれる。
メルちゃんはごろんと横になって、お腹を見せてくれたので、そのお腹を優しく撫でる。
まるで、おかえりなさいと言ってくれているみたいで嬉しいわ。
毛がついちゃうのは気になるけれど、これはもうしょうがないことよね。
「メルとハヤテはミレニア様に懐いていますね」
「そうだと嬉しいわ」
出迎えてくれたメイドたちに微笑まれて、この時だけは嫌なことを忘れて笑顔で頷いた。
*****
その日の夕食を終えたあと、一緒に食事をしていたロード様に国王陛下のことを聞いてみた。
「国王陛下は王妃陛下に追い出されたとお聞きしましたが、何かあったのですか? 王太子殿下が追い出したというのならわかるのですけれど、王妃陛下はお優しい方ですし、よっぽどのことがあったのでしょうか」
「兄上に連絡を取って簡単に話を聞いてみたけど、夫婦喧嘩をしたらしいよ。言っていたように父上がジーギスの所に行くのは、もう少し後の予定だった。だけど、母上が問答無用で追い出したんだそうだ」
ロード様は苦笑して話を続ける。
「原因はレニス嬢のようだけど、父上のことは放っておいて良いんじゃないかな。一応、兄上の使いが見張ってくれてるみたいだから」
「その割には、ロード様に近付いてこようとしましたね」
「あれは、様子を見たのかもしれない。一応、僕と父上は血が繋がっているから、話したいこともあるかもしれないと思われた可能性がある」
「家族の会話をするとでも思われたんでしょうか」
まさか、実の父親が息子に迷惑をかけようだなんて思わないだろうから、止めにくかったのかもしれない。
「だろうね。こちらとしては迷惑だから、次にあんなことにはならないようにしてほしいと伝えたし、彼らの動きは逐一報告してもらうことにした」
「今は仮の家に住んでらっしゃるんですよね。ジーギス殿下は家が建ったら、公爵の仕事を始められるんでしょうか」
「今からでも始められるけど、何をしたら良いかわからないと思う。だから、マニュアルを送りつけるつもりだよ」
「今まで王子として、ジーギス殿下は何かされていたんでしょうか」
「してないと思う。君にはしているように見えてたのか?」
「いえ、全く」
私の記憶にあるジーギス殿下は、お姉様にヘラヘラしているか、私に偉そうにしている姿しかない。
こんな素敵な生活が送れるなら、もっと早くに婚約破棄してほしかったわ。
ジーギス殿下がお姉様に夢中なのは昔からのことだったんだもの。
「お姉様とジーギス様は結婚するんでしょうか」
「その可能性は高い。結婚するのはかまわないけど、ジーギスには人がいる領地は任せられないし、かといって野放しにすると人に迷惑を掛けるし、何か良い案があればいいんだけどな」
「そういえば、ジーギス様が管理する山には動物はいないんですか?」
「いるよ。狼もいるな」
「狼ですか」
「犬よりも厄介だよね。まあ、野犬も厄介だけどさ」
お姉様はそのことを知っているのかしら。
まさか、そんなことも知らずに山の中に入ったりはしないわよね?
「……どうかしたのか?」
私が急に黙り込んだからか、ロード様が不思議そうな顔で聞いてきた。
だから、素直に伝えてみる。
「あの、お姉様に1人で山に入るなと伝えてもらえないでしょうか。蝶々はわたしに似合う、とか言って蝶々を追いかけて山に入りそうな気がしてしょうがないんです」
「……子供ならわかるが、そんなことをする大人がいるのか?」
「姉ならやりかねません。さすがにわかっていて何も言わないのは、何かあった時に目覚めが悪くなりそうですので伝えるだけ伝えてほしいんです」
「わかった。君からレニス嬢への助言ではなく、僕からジーギスへの助言にしておく。それで良いか?」
「お願いします」
これで、お姉様が1人で馬鹿なことをしないだろうと安心していた。
けれど、この時の私もロード様はお姉様とジーギス殿下のことを、過大評価していたことに気付いていなかった。
でも、お姉様が私が繁華街にいることを聞きつけたようで家を出て、こちらに向かおうとしていると連絡があった。
だから、早めに買い物を済ませ、邸に帰ることになった。
「せっかく、お誘いいただいたのに申し訳ございません」
「ミレニアは悪くないって。君の気持ちに気づかないレニス嬢がおかしいんだよ。それにレニス嬢の異常さは知っているから、僕だって逃げたい」
「……ありがとうございます」
苦笑するロード様にお礼を言ったあと、違う日に改めて、ゆっくり繁華街をまわることを約束して馬車に乗り込んだ。
邸に帰ると、使用人だけでなく、メルちゃんとハヤテくんがそれはもう盛大にお出迎えしてくれた。
ハヤテくんは喜びすぎて、しゃがんだ私の顔に頭突きしてくるくらいだった。
ハヤテくんの喜びの頭突きはかなり痛かった。
でも、本人は悪気は全くないようだし、尻尾と体を振って喜びを全身で表してくれている。
その姿を見ると、痛みなんてどうでも良くなった。
ひたすら撫で回してあげていると満足したのか、ハヤテくんは今度はロード様のほうに向かっていった。
入れ替わるようにしてメルちゃんが私の所へやって来てくれる。
メルちゃんはごろんと横になって、お腹を見せてくれたので、そのお腹を優しく撫でる。
まるで、おかえりなさいと言ってくれているみたいで嬉しいわ。
毛がついちゃうのは気になるけれど、これはもうしょうがないことよね。
「メルとハヤテはミレニア様に懐いていますね」
「そうだと嬉しいわ」
出迎えてくれたメイドたちに微笑まれて、この時だけは嫌なことを忘れて笑顔で頷いた。
*****
その日の夕食を終えたあと、一緒に食事をしていたロード様に国王陛下のことを聞いてみた。
「国王陛下は王妃陛下に追い出されたとお聞きしましたが、何かあったのですか? 王太子殿下が追い出したというのならわかるのですけれど、王妃陛下はお優しい方ですし、よっぽどのことがあったのでしょうか」
「兄上に連絡を取って簡単に話を聞いてみたけど、夫婦喧嘩をしたらしいよ。言っていたように父上がジーギスの所に行くのは、もう少し後の予定だった。だけど、母上が問答無用で追い出したんだそうだ」
ロード様は苦笑して話を続ける。
「原因はレニス嬢のようだけど、父上のことは放っておいて良いんじゃないかな。一応、兄上の使いが見張ってくれてるみたいだから」
「その割には、ロード様に近付いてこようとしましたね」
「あれは、様子を見たのかもしれない。一応、僕と父上は血が繋がっているから、話したいこともあるかもしれないと思われた可能性がある」
「家族の会話をするとでも思われたんでしょうか」
まさか、実の父親が息子に迷惑をかけようだなんて思わないだろうから、止めにくかったのかもしれない。
「だろうね。こちらとしては迷惑だから、次にあんなことにはならないようにしてほしいと伝えたし、彼らの動きは逐一報告してもらうことにした」
「今は仮の家に住んでらっしゃるんですよね。ジーギス殿下は家が建ったら、公爵の仕事を始められるんでしょうか」
「今からでも始められるけど、何をしたら良いかわからないと思う。だから、マニュアルを送りつけるつもりだよ」
「今まで王子として、ジーギス殿下は何かされていたんでしょうか」
「してないと思う。君にはしているように見えてたのか?」
「いえ、全く」
私の記憶にあるジーギス殿下は、お姉様にヘラヘラしているか、私に偉そうにしている姿しかない。
こんな素敵な生活が送れるなら、もっと早くに婚約破棄してほしかったわ。
ジーギス殿下がお姉様に夢中なのは昔からのことだったんだもの。
「お姉様とジーギス様は結婚するんでしょうか」
「その可能性は高い。結婚するのはかまわないけど、ジーギスには人がいる領地は任せられないし、かといって野放しにすると人に迷惑を掛けるし、何か良い案があればいいんだけどな」
「そういえば、ジーギス様が管理する山には動物はいないんですか?」
「いるよ。狼もいるな」
「狼ですか」
「犬よりも厄介だよね。まあ、野犬も厄介だけどさ」
お姉様はそのことを知っているのかしら。
まさか、そんなことも知らずに山の中に入ったりはしないわよね?
「……どうかしたのか?」
私が急に黙り込んだからか、ロード様が不思議そうな顔で聞いてきた。
だから、素直に伝えてみる。
「あの、お姉様に1人で山に入るなと伝えてもらえないでしょうか。蝶々はわたしに似合う、とか言って蝶々を追いかけて山に入りそうな気がしてしょうがないんです」
「……子供ならわかるが、そんなことをする大人がいるのか?」
「姉ならやりかねません。さすがにわかっていて何も言わないのは、何かあった時に目覚めが悪くなりそうですので伝えるだけ伝えてほしいんです」
「わかった。君からレニス嬢への助言ではなく、僕からジーギスへの助言にしておく。それで良いか?」
「お願いします」
これで、お姉様が1人で馬鹿なことをしないだろうと安心していた。
けれど、この時の私もロード様はお姉様とジーギス殿下のことを、過大評価していたことに気付いていなかった。
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