上 下
16 / 16
一家の恥と言われていた令嬢は嫁ぎ先で本領発揮する

タイミング(ルーラスside)

しおりを挟む
 初めてリルを見た時は、病気なんじゃないかと思うくらいにやせ細っていた。

 だから第一印象は病弱そうだった。

 一緒に過ごすようになって、顔色も良くなったし、骨と皮に近かったリルの体型はまだ痩せすぎではあるものの、見ていて心配になるほどではなくなった。

 色々と問題も解決し、夜に子供にならなくなったが、未だキス止まりの上に、なぜか向こうからしてくる。

 こっちとしてはリルの侍女や専属メイドから話を聞いて、ムードが必要だと散々言われてきた。

 だけど、今かと思えばするりとかわされる。
 しかも、本人に悪気がまったくないから責めることもできない。

 ただ、このままリルに押されたままでは、何か違う。

「男性だから何かしないといけないというのは違うんじゃないかしら。リルーリアがそんな気持ちになっていないと駄目よ。あなたがしたい時とリルーリアがしたい時が同じとは限らないんだから」

 母上からは何も言っていないのに、そんなことを言われてしまった。

 リルがよく読んでいる恋愛小説では、見つめ合って自然に……というパターンが多い気がする。

 だから、俺もリルがドキドキするようなシチュエーションを作れば良いのだと思ったわけだが……。

「ルーラス様、最近、私の読んでいる恋愛小説をよくお読みになっているのですが、そういうお話がお好きなのですか?」

 寝室のベッドの上で、上半身だけ起こしたリルが無邪気な笑顔を見せて聞いてきた。

「妻の好みを知るのは必要なことだろ?」
「では、私もルーラス様のお好きな本を読もうと思います!」
「いや、別に俺のことは気にしなくても」
「駄目です! 今は何を読んでおられるのですか?」
「領地管理の本」
「領地……管理」

 目をキラキラさせていたリルだったけど、目の光が失われていくのがわかった。

 こういうわかりやすいところは、いつか公爵位を授かる人間の妻としては良くないのかもしれないが、俺にしてみれば可愛らしく思えるところでもある。
 
 リルは俺が苦笑したことに気が付いて、右手を挙げて叫ぶ。

「読みます!」
「気持ちは嬉しいけど、違う意味で俺に興味を持ってほしいんだが」

 一応、俺だって年頃の男だし、リルに触れたくないわけがない。
 俺は彼女のことを異性として好きだけど、リルは妻としての義務を果たすくらいにしか思ってないことはわかっている。

 ただ、少しくらい意識してくれてもいいんじゃないか?

「違う意味ですか?」

 リルは小首を傾げたあと、ぱあっと明るい笑顔を見せる。

 あ、この笑顔は勘違いしてるな。

「キスのリベンジですね!」
「いや、まあそれもあるけど」
「お任せください!」
「なんでそうなるんだよ!? どうしてリルからしようとするんだ!?」
「妻の役目かと思いまして!」
「じゃあ、夫として言うから聞いてくれ」

 少し強い口調で言ったからか、リルが困ったような顔をする。
 俺が怒ったと思っているのかもしれない。

 そんな顔をさせたいわけじゃないから焦る。

「悪い。強く言い過ぎた」
「気になさらないでください。私のキスが下手くそなのですよね?」
「違う! そうじゃなくて」
「ルーラス様!」

 リルがぎゅうっと俺の体にしがみついてきた。
 ふわりとリルの髪から甘い花の香りがして、一瞬、理性が飛びそうになった。

「リ、リル」
「怒っていらっしゃるのですよね? 謝りますので仲直りしてもらえませんか?」

 抱きついたまま上目遣いで見られると、心臓が破裂するんじゃないかと思うくらいに痛くなった。

「怒ってなんかない。ただ、俺から」
「今日の晩、ニンニクを食べすぎてしまいました。ホクホクしておりましてつい……」
「あ、いや。俺も食べたから、それはいいんだが」
「そんな口でキスをするのは良くありません! ですので、明日の晩でよろしいでしょうか?」

 きっと料理人たちは俺を応援するためにニンニク料理を出してくれたんだと思う。
 でも、リルも食べているし、リルは口臭などをすごく気にする。

 臭いが気になるのは明日くらいからのような気がするし、別に今日は気にしなくていいんじゃないか?

「駄目だ、リル!」
「駄目ですよね! では、今日は離れますね」
「いや、そっちの駄目じゃなくてだな!」

 リルは良い意味でも悪い意味でもマイペースだ。
 過去に辛いことがありすぎて、鈍感になってしまっている。
 自衛本能だと思うし、繊細な性格なら早くに潰れてしまってるんだろう。

 だから、わからないことはないんだが……。

「おやすみなさい、ルーラスさま」

 ふわあと手で口を隠しながらあくびをすると、リルは横になってしまう。

「いや、リル」

 話しかけたけれど遅かった。
 彼女は幸せそうな笑みを浮かべて眠りについてしまった。

「……」
 
 寝顔があまりにも可愛いから、このままキスしようか。
 そう思ったけれど、違うような気がした。

 それに起こしてしまったら良くない。

 いつになったら俺は彼女にキスできるのか。

 それから、いつになったら初夜を迎えられるのか。

 毎日チャンスがあるはずなのに手が出せない。

 タイミングっていつなんだ!?


 
しおりを挟む
感想 41

この作品の感想を投稿する

みんなの感想(41件)

ぽん桔
2023.11.07 ぽん桔
ネタバレ含む
風見ゆうみ
2023.11.07 風見ゆうみ

番外編を読んでいただきありがとうございます!

チューの絵文字が可愛い💕
いつになったらルーラスは目標が達成できるのか?
生暖かい目で見守ってやってくださいませ(´∀`*)ウフフ

解除
ぽん桔
2023.06.12 ぽん桔
ネタバレ含む
風見ゆうみ
2023.06.12 風見ゆうみ

ぽん桔様

こちらにも足をお運びいただき、ありがとうございます✨
猫ちゃんも気に入っていただけたなら嬉しいです(*^^*)
私も犬派ですが、猫は猫で可愛いですよね(´∀`*)ウフフ

見ていただき、ありがとうございました✨

解除
ぽん桔
2023.05.23 ぽん桔
ネタバレ含む
風見ゆうみ
2023.05.23 風見ゆうみ

ぽん桔様

見ていただき、ありがとうございます✨

AIと中々仲良くなれず、かなり苦労しただけに使い物にならないという、お言葉はやはり嬉しいです(*^^*)

作品を書き続ける限り増えると思いますので、お付き合い願えますと幸せです✨

解除

あなたにおすすめの小説

【本編完結】伯爵令嬢に転生して命拾いしたけどお嬢様に興味ありません!

ななのん
恋愛
早川梅乃、享年25才。お祭りの日に通り魔に刺されて死亡…したはずだった。死後の世界と思いしや目が覚めたらシルキア伯爵の一人娘、クリスティナに転生!きらきら~もふわふわ~もまったく興味がなく本ばかり読んでいるクリスティナだが幼い頃のお茶会での暴走で王子に気に入られ婚約者候補にされてしまう。つまらない生活ということ以外は伯爵令嬢として不自由ない毎日を送っていたが、シルキア家に養女が来た時からクリスティナの知らぬところで運命が動き出す。気がついた時には退学処分、伯爵家追放、婚約者候補からの除外…―― それでもクリスティナはやっと人生が楽しくなってきた!と前を向いて生きていく。 ※本編完結してます。たまに番外編などを更新してます。

アルバートの屈辱

プラネットプラント
恋愛
妻の姉に恋をして妻を蔑ろにするアルバートとそんな夫を愛するのを諦めてしまった妻の話。 『詰んでる不憫系悪役令嬢はチャラ男騎士として生活しています』の10年ほど前の話ですが、ほぼ無関係なので単体で読めます。

【完結】婚約者が好きなのです

maruko
恋愛
リリーベルの婚約者は誰にでも優しいオーラン・ドートル侯爵令息様。 でもそんな優しい婚約者がたった一人に対してだけ何故か冷たい。 冷たくされてるのはアリー・メーキリー侯爵令嬢。 彼の幼馴染だ。 そんなある日。偶然アリー様がこらえきれない涙を流すのを見てしまった。見つめる先には婚約者の姿。 私はどうすればいいのだろうか。 全34話(番外編含む) ※他サイトにも投稿しております ※1話〜4話までは文字数多めです 注)感想欄は全話読んでから閲覧ください(汗)

五歳の時から、側にいた

田尾風香
恋愛
五歳。グレースは初めて国王の長男のグリフィンと出会った。 それからというもの、お互いにいがみ合いながらもグレースはグリフィンの側にいた。十六歳に婚約し、十九歳で結婚した。 グリフィンは、初めてグレースと会ってからずっとその姿を追い続けた。十九歳で結婚し、三十二歳で亡くして初めて、グリフィンはグレースへの想いに気付く。 前編グレース視点、後編グリフィン視点です。全二話。後編は来週木曜31日に投稿します。

旦那の真実の愛の相手がやってきた。今まで邪魔をしてしまっていた妻はお祝いにリボンもおつけします

暖夢 由
恋愛
「キュリール様、私カダール様と心から愛し合っておりますの。 いつ子を身ごもってもおかしくはありません。いえ、お腹には既に育っているかもしれません。 子を身ごもってからでは遅いのです。 あんな素晴らしい男性、キュリール様が手放せないのも頷けますが、カダール様のことを想うならどうか潔く身を引いてカダール様の幸せを願ってあげてください」 伯爵家にいきなりやってきた女(ナリッタ)はそういった。 女は小説を読むかのように旦那とのなれそめから今までの話を話した。 妻であるキュリールは彼女の存在を今日まで知らなかった。 だから恥じた。 「こんなにもあの人のことを愛してくださる方がいるのにそれを阻んでいたなんて私はなんて野暮なのかしら。 本当に恥ずかしい… 私は潔く身を引くことにしますわ………」 そう言って女がサインした書類を神殿にもっていくことにする。 「私もあなたたちの真実の愛の前には敵いそうもないもの。 私は急ぎ神殿にこの書類を持っていくわ。 手続きが終わり次第、あの人にあなたの元へ向かうように伝えるわ。 そうだわ、私からお祝いとしていくつか宝石をプレゼントさせて頂きたいの。リボンもお付けしていいかしら。可愛らしいあなたととてもよく合うと思うの」 こうして一つの夫婦の姿が形を変えていく。 --------------------------------------------- ※架空のお話です。 ※設定が甘い部分があるかと思います。「仕方ないなぁ」とお赦しくださいませ。 ※現実世界とは異なりますのでご理解ください。

妹に傷物と言いふらされ、父に勘当された伯爵令嬢は男子寮の寮母となる~そしたら上位貴族のイケメンに囲まれた!?~

サイコちゃん
恋愛
伯爵令嬢ヴィオレットは魔女の剣によって下腹部に傷を受けた。すると妹ルージュが“姉は子供を産めない体になった”と嘘を言いふらす。その所為でヴィオレットは婚約者から婚約破棄され、父からは娼館行きを言い渡される。あまりの仕打ちに父と妹の秘密を暴露すると、彼女は勘当されてしまう。そしてヴィオレットは母から託された古い屋敷へ行くのだが、そこで出会った美貌の双子からここを男子寮とするように頼まれる。寮母となったヴィオレットが上位貴族の令息達と暮らしていると、ルージュが現れてこう言った。「私のために家柄の良い美青年を集めて下さいましたのね、お姉様?」しかし令息達が性悪妹を歓迎するはずがなかった――

平凡令嬢の婚活事情〜あの人だけは、絶対ナイから!〜

本見りん
恋愛
「……だから、ミランダは無理だって!!」  王立学園に通う、ミランダ シュミット伯爵令嬢17歳。  偶然通りかかった学園の裏庭でミランダ本人がここにいるとも知らず噂しているのはこの学園の貴族令息たち。  ……彼らは、決して『高嶺の花ミランダ』として噂している訳ではない。  それは、ミランダが『平凡令嬢』だから。  いつからか『平凡令嬢』と噂されるようになっていたミランダ。『絶賛婚約者募集中』の彼女にはかなり不利な状況。  チラリと向こうを見てみれば、1人の女子生徒に3人の男子学生が。あちらも良くない噂の方々。  ……ミランダは、『あの人達だけはナイ!』と思っていだのだが……。 3万字少しの短編です。『完結保証』『ハッピーエンド』です!

捨てたのはあなたではなく私のほうです

風見ゆうみ
恋愛
私が幼い頃からお慕いしている方はコロール王国の王太子殿下であるオーランド・テードン様。 彼は何者かに、光属性である浄化魔法を毎日かけなければ死んでしまう呪いをかけられる。 テンディー公爵家の長女であり、使える人間が少ないと言われる光属性の魔法が使える私 、ミーアはそのことにより殿下に見初められて1年後には婚約者になった。 他国の王族を招いて行われた婚約披露パーティーで、オーランド殿下と親友のセフィラが抱き合っている場面を見てしまう。 殿下とセフィラはいつしか恋仲になっており、セフィラが殿下の呪いを解いたため、二人は邪魔な私を殺そうとしてきた。 隣国の王太子であるヒース様に間一髪で助けられた私だったけれど、父と兄に裏切られ国外に追放されてしまう。 契約した動物と意思疎通の出来るヒース様から、動物の世話係として雇われた私のもとにオーランド殿下から「助けてほしい」と手紙が届くが―― ※第一部完結。第二部はのんびり更新。 ※動物がたくさん出ます。 ※史実とは関係なく、設定もゆるゆるのご都合主義です。 ※現実世界のお話ではなく、この話上での世界観や設定であるとご了承いただいた上でお読み下さいませ。

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。