12 / 13
第11話 絶叫
しおりを挟む
どうしてこんな事になってしまったの――?
このまま、牢から出る事もできずに、陛下と結婚しなければならないの?
眠れないと思っていたけれど、ベッドに横になって考えていたのと精神的に疲れていたからか、いつの間にか眠ってしまっていた。
どれくらい時間が経ったのかはわからないけれど、コツコツという足音が、私のいる牢に近付いてくるのがわかって目を覚ました。
誰かが助けに来てくれたとは考えにくかった。
なぜなら、足音が軽いから。
考えられるとしたら、メイドか、もしくは…。
鉄格子の向こうに現れたのは、シラージェだった。
私の牢の中はランタンがたくさん置かれてあるおかげで明るかった為、彼女だとはっきり知る事が出来た。
3本の蝋燭が立てられた燭台と、バケツを持ったシラージェは私に声を掛けてくる。
「リゼア…、起きてる?」
「……シラージェ、こんな所に1人で何をしに来たの?」
嫌な予感しかしなくてベッドから身を起こして聞くと、蝋燭の火に照らされたシラージェの目は真っ赤で目の周りも腫れ上がっていた。
「わかっているでしょう? あなたが邪魔なの」
「何の話をしているの…?」
「助けを呼んでも無駄よ。騎士にはお金を渡して少しの間だけだけど離れてもらっているから」
「……」
鉄格子があるとはいえ、シラージェから少し離れた位置に立つと、ツンとする匂いが鼻を突いた。
「シラージェ…、あなた…」
「殺してやる!」
シラージェは叫ぶと、燭台を床に置き、持っていたバケツの中身を私に向かってかけようとしてきた。
さすがに、私もバケツの中身が何か気付いていた為、後ろに下がって避けたので体にかかる事はなかった。
けれど、地下牢の床は灯油でかなり汚れてしまった。
「別にかからなくてもいいのよ。ここに火を点ければ…」
シラージェが恐ろしい形相でそう言った時だった。
男性の叫び声が聞こえた。
「敵襲だ!」
「な、何なの!?」
シラージェは床に燭台を置いたまま困惑の声を上げる。
「逃げるぞ! この奥に隠し通路があるんだ。そこから逃げられる」
階段を駆け下りてきたのは陛下だった。
奇襲攻撃だったのか、陛下は寝巻き姿のままで、必死の形相で私の牢の鍵を開けようとしたけれど、私はそれを止める。
「逃げるのなら私を置いてどうぞ」
「……何を言ってる?」
陛下の質問には答えずにシラージェに言う。
「シラージェ、陛下と一緒に逃げなさい」
「……どういう事?」
「私は陛下と逃げるつもりはないわ」
「自分だけ助かるつもりか!?」
陛下はそう言った後、床が濡れている事に気付いて眉を寄せる。
「これは何だ…?」
「陛下と逃げても、私はシラージェに殺されます。私を人質にするつもりでしょうけれど意味はないですよ」
「シラージェ…、どういう事だ…?」
陛下が聞き返すと、シラージェが泣きながら答える。
「陛下の愛は私にだけ向けていてほしいんです!」
「それは無理だと言っているだろう! 僕の妃はリゼアに決めたんだ」
陛下に向かって私が言葉を返す。
「いいえ、陛下。あなたの妃になるのは私ではありません。私の夫になれる人はこの世に1人だけです。そして、陛下はその1人ではありません」
「いいかげんにしろ! リゼア!」
陛下が怒鳴った時だった。
「いたぞ!」
何人かの声と共に階段を駆け下りてくる音が聞こえた。
「くそっ!」
陛下はそう言って1人で奥に向かって走り出そうとする。
「待って下さい、陛下! 私も行きます!」
シラージェが叫ぶと、陛下は足を止めて信じられない事を言った。
「シラージェ、僕の事が好きなら足止めをしろ。僕を逃がす事で君の愛を証明しろ」
「……そんな」
シラージェが迷っている内に陛下が走り出し、私の所からは全く姿が見えなくなった。
「……シラージェ。もう逃げられないわ。足止めなんかは止めて逃げずに投降しなさい」
「……このままだと、陛下は処刑されるわね…?」
シラージェが震える声で聞いてきた。
「……そうね、そうなるわね」
「そんなの駄目よ。私達はずっと一緒なんだから…」
シラージェが呟いた時、兵士達が陛下を探して奥に向かって走っていった。
すると、意を決したかの様に、シラージェは床に置いていたバケツと燭台を手に取った。
バケツの中にはまだ半分くらいの灯油が入っていた。
「まさか…、シラージェ!」
シラージェはゆっくりと陛下が走っていった方向に向かって歩いていく。
その頃には兵士達の騒ぐ声が聞こえて、陛下が捕まった事がわかった。
「シラージェ、早まっては駄目よ!」
止めようとしたけれど、鍵を開けてもらえていなかった為、外に出てシラージェを止める事が出来ない。
それから1分も経たぬ内に、陛下の絶叫と兵士の怒号、そして、シラージェの笑い声が聞こえた。
「大丈夫です、陛下! 私もすぐにそちらにいきますから! 天国で2人だけの式を挙げましょうね!」
陛下の声は全く聞こえなくなり、あはははは、とシラージェの笑い声だけが響き渡ったのだった。
このまま、牢から出る事もできずに、陛下と結婚しなければならないの?
眠れないと思っていたけれど、ベッドに横になって考えていたのと精神的に疲れていたからか、いつの間にか眠ってしまっていた。
どれくらい時間が経ったのかはわからないけれど、コツコツという足音が、私のいる牢に近付いてくるのがわかって目を覚ました。
誰かが助けに来てくれたとは考えにくかった。
なぜなら、足音が軽いから。
考えられるとしたら、メイドか、もしくは…。
鉄格子の向こうに現れたのは、シラージェだった。
私の牢の中はランタンがたくさん置かれてあるおかげで明るかった為、彼女だとはっきり知る事が出来た。
3本の蝋燭が立てられた燭台と、バケツを持ったシラージェは私に声を掛けてくる。
「リゼア…、起きてる?」
「……シラージェ、こんな所に1人で何をしに来たの?」
嫌な予感しかしなくてベッドから身を起こして聞くと、蝋燭の火に照らされたシラージェの目は真っ赤で目の周りも腫れ上がっていた。
「わかっているでしょう? あなたが邪魔なの」
「何の話をしているの…?」
「助けを呼んでも無駄よ。騎士にはお金を渡して少しの間だけだけど離れてもらっているから」
「……」
鉄格子があるとはいえ、シラージェから少し離れた位置に立つと、ツンとする匂いが鼻を突いた。
「シラージェ…、あなた…」
「殺してやる!」
シラージェは叫ぶと、燭台を床に置き、持っていたバケツの中身を私に向かってかけようとしてきた。
さすがに、私もバケツの中身が何か気付いていた為、後ろに下がって避けたので体にかかる事はなかった。
けれど、地下牢の床は灯油でかなり汚れてしまった。
「別にかからなくてもいいのよ。ここに火を点ければ…」
シラージェが恐ろしい形相でそう言った時だった。
男性の叫び声が聞こえた。
「敵襲だ!」
「な、何なの!?」
シラージェは床に燭台を置いたまま困惑の声を上げる。
「逃げるぞ! この奥に隠し通路があるんだ。そこから逃げられる」
階段を駆け下りてきたのは陛下だった。
奇襲攻撃だったのか、陛下は寝巻き姿のままで、必死の形相で私の牢の鍵を開けようとしたけれど、私はそれを止める。
「逃げるのなら私を置いてどうぞ」
「……何を言ってる?」
陛下の質問には答えずにシラージェに言う。
「シラージェ、陛下と一緒に逃げなさい」
「……どういう事?」
「私は陛下と逃げるつもりはないわ」
「自分だけ助かるつもりか!?」
陛下はそう言った後、床が濡れている事に気付いて眉を寄せる。
「これは何だ…?」
「陛下と逃げても、私はシラージェに殺されます。私を人質にするつもりでしょうけれど意味はないですよ」
「シラージェ…、どういう事だ…?」
陛下が聞き返すと、シラージェが泣きながら答える。
「陛下の愛は私にだけ向けていてほしいんです!」
「それは無理だと言っているだろう! 僕の妃はリゼアに決めたんだ」
陛下に向かって私が言葉を返す。
「いいえ、陛下。あなたの妃になるのは私ではありません。私の夫になれる人はこの世に1人だけです。そして、陛下はその1人ではありません」
「いいかげんにしろ! リゼア!」
陛下が怒鳴った時だった。
「いたぞ!」
何人かの声と共に階段を駆け下りてくる音が聞こえた。
「くそっ!」
陛下はそう言って1人で奥に向かって走り出そうとする。
「待って下さい、陛下! 私も行きます!」
シラージェが叫ぶと、陛下は足を止めて信じられない事を言った。
「シラージェ、僕の事が好きなら足止めをしろ。僕を逃がす事で君の愛を証明しろ」
「……そんな」
シラージェが迷っている内に陛下が走り出し、私の所からは全く姿が見えなくなった。
「……シラージェ。もう逃げられないわ。足止めなんかは止めて逃げずに投降しなさい」
「……このままだと、陛下は処刑されるわね…?」
シラージェが震える声で聞いてきた。
「……そうね、そうなるわね」
「そんなの駄目よ。私達はずっと一緒なんだから…」
シラージェが呟いた時、兵士達が陛下を探して奥に向かって走っていった。
すると、意を決したかの様に、シラージェは床に置いていたバケツと燭台を手に取った。
バケツの中にはまだ半分くらいの灯油が入っていた。
「まさか…、シラージェ!」
シラージェはゆっくりと陛下が走っていった方向に向かって歩いていく。
その頃には兵士達の騒ぐ声が聞こえて、陛下が捕まった事がわかった。
「シラージェ、早まっては駄目よ!」
止めようとしたけれど、鍵を開けてもらえていなかった為、外に出てシラージェを止める事が出来ない。
それから1分も経たぬ内に、陛下の絶叫と兵士の怒号、そして、シラージェの笑い声が聞こえた。
「大丈夫です、陛下! 私もすぐにそちらにいきますから! 天国で2人だけの式を挙げましょうね!」
陛下の声は全く聞こえなくなり、あはははは、とシラージェの笑い声だけが響き渡ったのだった。
44
お気に入りに追加
1,772
あなたにおすすめの小説
釣り合わないと言われても、婚約者と別れる予定はありません
しろねこ。
恋愛
幼馴染と婚約を結んでいるラズリーは、学園に入学してから他の令嬢達によく絡まれていた。
曰く、婚約者と釣り合っていない、身分不相応だと。
ラズリーの婚約者であるファルク=トワレ伯爵令息は、第二王子の側近で、将来護衛騎士予定の有望株だ。背も高く、見目も良いと言う事で注目を浴びている。
対してラズリー=コランダム子爵令嬢は薬草学を専攻していて、外に出る事も少なく地味な見た目で華々しさもない。
そんな二人を周囲は好奇の目で見ており、時にはラズリーから婚約者を奪おうとするものも出てくる。
おっとり令嬢ラズリーはそんな周囲の圧力に屈することはない。
「釣り合わない? そうですか。でも彼は私が良いって言ってますし」
時に優しく、時に豪胆なラズリー、平穏な日々はいつ来るやら。
ハッピーエンド、両思い、ご都合主義なストーリーです。
ゆっくり更新予定です(*´ω`*)
小説家になろうさん、カクヨムさんでも投稿中。

むしゃくしゃしてやりましたの。後悔はしておりませんわ。
緑谷めい
恋愛
「むしゃくしゃしてやりましたの。後悔はしておりませんわ」
そう、むしゃくしゃしてやった。後悔はしていない。
私は、カトリーヌ・ナルセー。17歳。
ナルセー公爵家の長女であり、第2王子ハロルド殿下の婚約者である。父のナルセー公爵は、この国の宰相だ。
その父は、今、私の目の前で、顔面蒼白になっている。
「カトリーヌ、もう一度言ってくれ。私の聞き間違いかもしれぬから」
お父様、お気の毒ですけれど、お聞き間違いではございませんわ。では、もう一度言いますわよ。
「今日、王宮で、ハロルド様に往復ビンタを浴びせ、更に足で蹴りつけましたの」

(完結)その女は誰ですか?ーーあなたの婚約者はこの私ですが・・・・・・
青空一夏
恋愛
私はシーグ侯爵家のイルヤ。ビドは私の婚約者でとても真面目で純粋な人よ。でも、隣国に留学している彼に会いに行った私はそこで思いがけない光景に出くわす。
なんとそこには私を名乗る女がいたの。これってどういうこと?
婚約者の裏切りにざまぁします。コメディ風味。
※この小説は独自の世界観で書いておりますので一切史実には基づきません。
※ゆるふわ設定のご都合主義です。
※元サヤはありません。

断罪される一年前に時間を戻せたので、もう愛しません
天宮有
恋愛
侯爵令嬢の私ルリサは、元婚約者のゼノラス王子に断罪されて処刑が決まる。
私はゼノラスの命令を聞いていただけなのに、捨てられてしまったようだ。
処刑される前日、私は今まで試せなかった時間を戻す魔法を使う。
魔法は成功して一年前に戻ったから、私はゼノラスを許しません。

【完結済】次こそは愛されるかもしれないと、期待した私が愚かでした。
こゆき
恋愛
リーゼッヒ王国、王太子アレン。
彼の婚約者として、清く正しく生きてきたヴィオラ・ライラック。
皆に祝福されたその婚約は、とてもとても幸せなものだった。
だが、学園にとあるご令嬢が転入してきたことにより、彼女の生活は一変してしまう。
何もしていないのに、『ヴィオラがそのご令嬢をいじめている』とみんなが言うのだ。
どれだけ違うと訴えても、誰も信じてはくれなかった。
絶望と悲しみにくれるヴィオラは、そのまま隣国の王太子──ハイル帝国の王太子、レオへと『同盟の証』という名の厄介払いとして嫁がされてしまう。
聡明な王子としてリーゼッヒ王国でも有名だったレオならば、己の無罪を信じてくれるかと期待したヴィオラだったが──……
※在り来りなご都合主義設定です
※『悪役令嬢は自分磨きに忙しい!』の合間の息抜き小説です
※つまりは行き当たりばったり
※不定期掲載な上に雰囲気小説です。ご了承ください
4/1 HOT女性向け2位に入りました。ありがとうございます!
王太子殿下から婚約破棄されたのは冷たい私のせいですか?
ねーさん
恋愛
公爵令嬢であるアリシアは王太子殿下と婚約してから十年、王太子妃教育に勤しんで来た。
なのに王太子殿下は男爵令嬢とイチャイチャ…諫めるアリシアを悪者扱い。「アリシア様は殿下に冷たい」なんて男爵令嬢に言われ、結果、婚約は破棄。
王太子妃になるため自由な時間もなく頑張って来たのに、私は駒じゃありません!

【完結】仕事を放棄した結果、私は幸せになれました。
キーノ
恋愛
わたくしは乙女ゲームの悪役令嬢みたいですわ。悪役令嬢に転生したと言った方がラノベあるある的に良いでしょうか。
ですが、ゲーム内でヒロイン達が語られる用な悪事を働いたことなどありません。王子に嫉妬? そのような無駄な事に時間をかまけている時間はわたくしにはありませんでしたのに。
だってわたくし、週4回は王太子妃教育に王妃教育、週3回で王妃様とのお茶会。お茶会や教育が終わったら王太子妃の公務、王子殿下がサボっているお陰で回ってくる公務に、王子の管轄する領の嘆願書の整頓やら収益やら税の計算やらで、わたくし、ちっとも自由時間がありませんでしたのよ。
こんなに忙しい私が、最後は冤罪にて処刑ですって? 学園にすら通えて無いのに、すべてのルートで私は処刑されてしまうと解った今、わたくしは全ての仕事を放棄して、冤罪で処刑されるその時まで、押しと穏やかに過ごしますわ。
※さくっと読める悪役令嬢モノです。
2月14~15日に全話、投稿完了。
感想、誤字、脱字など受け付けます。
沢山のエールにお気に入り登録、ありがとうございます。現在執筆中の新作の励みになります。初期作品のほうも見てもらえて感無量です!
恋愛23位にまで上げて頂き、感謝いたします。

拝啓 お顔もお名前も存じ上げない婚約者様
オケラ
恋愛
15歳のユアは上流貴族のお嬢様。自然とたわむれるのが大好きな女の子で、毎日山で植物を愛でている。しかし、こうして自由に過ごせるのもあと半年だけ。16歳になると正式に結婚することが決まっている。彼女には生まれた時から婚約者がいるが、まだ一度も会ったことがない。名前も知らないのは幼き日の彼女のわがままが原因で……。半年後に結婚を控える中、彼女は山の中でとある殿方と出会い……。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる