上 下
44 / 45

43  鬱憤を晴らす

しおりを挟む
「いいかげんにしろ」

 クレイがお姉様の腕をつかんで、言葉を続けます。

「あなたは王妃様に本当にそっくりだな。気に食わない事があれば人に暴力をふるおうとする」
「皆にじゃないわ! リサにだけです!」
「家族にだって、暴力は良くないんですよ」
  
 クレイに睨まれ、お姉様は押し黙った後、彼の手を振り払い、私を睨みつけたあと、無言で部屋から出ていかれます。
 いつもなら、お母様が追いかけていくはずなのですが…。

「リサ、今まで本当にごめんなさい。あなたが生まれるべき子供だったなんて、思ってもいなかったの」
「その言い方もどうかと思われますが…」

 国花が出なければ、私は生まれるべき子供ではなかったと、遠回しに言ってらっしゃいますよね?

「いいかげんにしろ! 悪いなリサ、少し取り乱してしまっているようだ。本当におめでとう」

 お父様はお母様を叱った後に、私に向かって言って下さいました。

「ありがとうございます、お父様。これから少しずつにはなりますが、お父様の仕事を引き継いでいきたいと思っております」
「頼んだよ」
「あの、リサ殿下」

 黙っていたオッサムが私に話しかけてきます。

「僕に何か出来る事はありませんか?」
「今、考えられるとしたら、お姉様を支えてあげてほしいという事でしょうか」
「そ、それはもちろん、そうさせていただくつもりですが…」

 オッサムの言葉遣いが急に丁寧になりましたが、わざと気付かないフリをします。

「私よりもお姉様が好きだと言って婚約破棄をしたのは、あなたです。まさか、それが今更、嘘だったなんて言いませんよね?」
「それは…その、ありません」
「なら、良かったです。私の事は気になさらずに、お姉様のところへ行って下さい。もちろん、お母様もです」
「リサ…」

 お母様は困った様な顔をして言います。

「まだ、許してもらえないの? あなたが許してくれるまで、何度だって謝るつもりよ?」
「もうやめなさい。君もオッサムと一緒にブランカの所へ行ってくれ。私も後で行くから」
「ですけど…!」

 お母様が何か言おうとされましたが、お父様がひと睨みすると、黙って立ち上がり、私の方を見ました。

「お母様、お姉様があんな態度をとられるのは性格の問題もあるのかもしれませんが、お母様の責任が大きいと思われます。それに、謝ればよいというものではないんですよ。たまに喧嘩して冷たい態度をとるというなら、まだわかりますが、お母様は私に対して、そうではなかったですよね? 優しい笑顔をかけてもらった覚えなど、全く記憶にないのですが?」
「それは、事情があったからで…」
「お母様にも思うところがあったのはわかります。ですけど、それを理由に何をしても、何を言ってもいいわけではないでしょう?」
「…そ、そうね…。そうかもしれないわね…」

 私が笑顔で言うと、お母様は俯かれ、小さな声で答えた後、部屋を出ていかれます。

 多少は反省して下さるでしょうか。

「リサ殿下、また、改めてお話する機会を…」
「私の事は気になさらないでと言いましたよね? もし、私が誰か愛人を欲しくなったり、クレイと離婚したとしても、あなたを選ぶ事は絶対にありませんから、ご安心を。だって、あなたは私よりも美しくて優れたお姉様と結婚されたのですから、私なんかには興味も示さないでしょう?」
「そ、そんな事はありません! その、本当はリサ殿下の事を…」
「あ、そういうの結構です。魂胆が見え見えですので、余計に嫌になりますから」

 きっぱりと言うと、オッサムは引きつった笑みを浮かべてから立ち上がります。

「あの、リサ殿下が何を仰っているのかはわかりませんが、今日はブランカの所へ行こうと思います」
「今日だけじゃなくて良いですよ。私の所には来ていただかなくて結構です。もちろん、仕事上であればしょうがありませんが…。今は仕事の話はありませんので、さ、早くお姉様のところへ!」

 ひらひらと手を横に振ると、オッサムはがっくりと肩を落として、部屋から出ていきました。

 お母様とオッサムに言いたい事を言えて、ちょっとスッキリしました。
 
 なんだかんだと、言い返す事は子供じみている感じがして嫌だったのですが、やはり言わないとわかってもらえない時もありますものね。

 けれど、どっと疲れが襲ってきました。
 気を張っていたのですね。

「お疲れさん」

 クレイが笑顔で優しく頭を撫でてくれたので、それだけで疲れが吹っ飛びそうだなんて単純すぎるでしょうか。
 
 でも、きっと、それは幸せな事だと思うのです。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

私が死んで満足ですか?

マチバリ
恋愛
王太子に婚約破棄を告げられた伯爵令嬢ロロナが死んだ。 ある者は面倒な婚約破棄の手続きをせずに済んだと安堵し、ある者はずっと欲しかった物が手に入ると喜んだ。 全てが上手くおさまると思っていた彼らだったが、ロロナの死が与えた影響はあまりに大きかった。 書籍化にともない本編を引き下げいたしました

お父様、お母様、わたくしが妖精姫だとお忘れですか?

サイコちゃん
恋愛
リジューレ伯爵家のリリウムは養女を理由に家を追い出されることになった。姉リリウムの婚約者は妹ロサへ譲り、家督もロサが継ぐらしい。 「お父様も、お母様も、わたくしが妖精姫だとすっかりお忘れなのですね? 今まで莫大な幸運を与えてきたことに気づいていなかったのですね? それなら、もういいです。わたくしはわたくしで自由に生きますから」 リリウムは家を出て、新たな人生を歩む。一方、リジューレ伯爵家は幸運を失い、急速に傾いていった。

選ばれたのは私ではなかった。ただそれだけ

暖夢 由
恋愛
【5月20日 90話完結】 5歳の時、母が亡くなった。 原因も治療法も不明の病と言われ、発症1年という早さで亡くなった。 そしてまだ5歳の私には母が必要ということで通例に習わず、1年の喪に服すことなく新しい母が連れて来られた。彼女の隣には不思議なことに父によく似た女の子が立っていた。私とあまり変わらないくらいの歳の彼女は私の2つ年上だという。 これからは姉と呼ぶようにと言われた。 そして、私が14歳の時、突然謎の病を発症した。 母と同じ原因も治療法も不明の病。母と同じ症状が出始めた時に、この病は遺伝だったのかもしれないと言われた。それは私が社交界デビューするはずの年だった。 私は社交界デビューすることは叶わず、そのまま治療することになった。 たまに調子がいい日もあるが、社交界に出席する予定の日には決まって体調を崩した。医者は緊張して体調を崩してしまうのだろうといった。 でも最近はグレン様が会いに来ると約束してくれた日にも必ず体調を崩すようになってしまった。それでも以前はグレン様が心配して、私の部屋で1時間ほど話をしてくれていたのに、最近はグレン様を姉が玄関で出迎え、2人で私の部屋に来て、挨拶だけして、2人でお茶をするからと消えていくようになった。 でもそれも私の体調のせい。私が体調さえ崩さなければ…… 今では月の半分はベットで過ごさなければいけないほどになってしまった。 でもある日婚約者の裏切りに気づいてしまう。 私は耐えられなかった。 もうすべてに……… 病が治る見込みだってないのに。 なんて滑稽なのだろう。 もういや…… 誰からも愛されないのも 誰からも必要とされないのも 治らない病の為にずっとベッドで寝ていなければいけないのも。 気付けば私は家の外に出ていた。 元々病で外に出る事がない私には専属侍女などついていない。 特に今日は症状が重たく、朝からずっと吐いていた為、父も義母も私が部屋を出るなど夢にも思っていないのだろう。 私は死ぬ場所を探していたのかもしれない。家よりも少しでも幸せを感じて死にたいと。 これから出会う人がこれまでの生活を変えてくれるとも知らずに。 --------------------------------------------- ※架空のお話です。 ※設定が甘い部分があるかと思います。「仕方ないなぁ」とお赦しくださいませ。 ※現実世界とは異なりますのでご理解ください。

虐げられた皇女は父の愛人とその娘に復讐する

ましゅぺちーの
恋愛
大陸一の大国ライドーン帝国の皇帝が崩御した。 その皇帝の子供である第一皇女シャーロットはこの時をずっと待っていた。 シャーロットの母親は今は亡き皇后陛下で皇帝とは政略結婚だった。 皇帝は皇后を蔑ろにし身分の低い女を愛妾として囲った。 やがてその愛妾には子供が生まれた。それが第二皇女プリシラである。 愛妾は皇帝の寵愛を笠に着てやりたい放題でプリシラも両親に甘やかされて我儘に育った。 今までは皇帝の寵愛があったからこそ好きにさせていたが、これからはそうもいかない。 シャーロットは愛妾とプリシラに対する復讐を実行に移す― 一部タイトルを変更しました。

【完結】結婚してから三年…私は使用人扱いされました。

仰木 あん
恋愛
子爵令嬢のジュリエッタ。 彼女には兄弟がおらず、伯爵家の次男、アルフレッドと結婚して幸せに暮らしていた。 しかし、結婚から二年して、ジュリエッタの父、オリビエが亡くなると、アルフレッドは段々と本性を表して、浮気を繰り返すようになる…… そんなところから始まるお話。 フィクションです。

追放された悪役令嬢はシングルマザー

ララ
恋愛
神様の手違いで死んでしまった主人公。第二の人生を幸せに生きてほしいと言われ転生するも何と転生先は悪役令嬢。 断罪回避に奮闘するも失敗。 国外追放先で国王の子を孕んでいることに気がつく。 この子は私の子よ!守ってみせるわ。 1人、子を育てる決心をする。 そんな彼女を暖かく見守る人たち。彼女を愛するもの。 さまざまな思惑が蠢く中彼女の掴み取る未来はいかに‥‥ ーーーー 完結確約 9話完結です。 短編のくくりですが10000字ちょっとで少し短いです。

五歳の時から、側にいた

田尾風香
恋愛
五歳。グレースは初めて国王の長男のグリフィンと出会った。 それからというもの、お互いにいがみ合いながらもグレースはグリフィンの側にいた。十六歳に婚約し、十九歳で結婚した。 グリフィンは、初めてグレースと会ってからずっとその姿を追い続けた。十九歳で結婚し、三十二歳で亡くして初めて、グリフィンはグレースへの想いに気付く。 前編グレース視点、後編グリフィン視点です。全二話。後編は来週木曜31日に投稿します。

【完結】王子妃教育1日無料体験実施中!

杜野秋人
恋愛
「このような事件が明るみになった以上は私の婚約者のままにしておくことはできぬ!そなたと私の婚約は破棄されると思え!」 ルテティア国立学園の卒業記念パーティーで、第二王子シャルルから唐突に飛び出したその一言で、シャルルの婚約者である公爵家令嬢ブランディーヌは一気に窮地に立たされることになる。 シャルルによれば、学園で下級生に対する陰湿ないじめが繰り返され、その首謀者がブランディーヌだというのだ。 ブランディーヌは周囲を見渡す。その視線を避けて顔を背ける姿が何人もある。 シャルルの隣にはいじめられているとされる下級生の男爵家令嬢コリンヌの姿が。そのコリンヌが、ブランディーヌと目が合った瞬間、確かに勝ち誇った笑みを浮かべたのが分かった。 ああ、さすがに下位貴族までは盲点でしたわね。 ブランディーヌは敗けを認めるしかない。 だが彼女は、シャルルの次の言葉にさらなる衝撃を受けることになる。 「そして私の婚約は、新たにこのコリンヌと結ぶことになる!」 正式な場でもなく、おそらく父王の承諾さえも得ていないであろう段階で、独断で勝手なことを言い出すシャルル。それも大概だが、本当に男爵家の、下位貴族の娘に王子妃が務まると思っているのか。 これでもブランディーヌは彼の婚約者として10年費やしてきた。その彼の信頼を得られなかったのならば甘んじて婚約破棄も受け入れよう。 だがしかし、シャルルの王子としての立場は守らねばならない。男爵家の娘が立派に務めを果たせるならばいいが、もしも果たせなければ、回り回って婚約者の地位を守れなかったブランディーヌの責任さえも問われかねないのだ。 だから彼女はコリンヌに問うた。 「貴女、王子妃となる覚悟はお有りなのよね? では、一度お試しで受けてみられますか?“王子妃教育”を」 そしてコリンヌは、なぜそう問われたのか、その真意を思い知ることになる⸺! ◆拙作『熊男爵の押しかけ幼妻』と同じ国の同じ時代の物語です。直接の繋がりはありませんが登場人物の一部が被ります。 ◆全15話+番外編が前後編、続編(公爵家侍女編)が全25話+エピローグ、それに設定資料2編とおまけの閑話まで含めて6/2に無事完結! アルファ版は断罪シーンでセリフがひとつ追加されてます。大筋は変わりません。 小説家になろうでも公開しています。あちらは全6話+1話、続編が全13話+エピローグ。なろう版は続編含めて5/16に完結。 ◆小説家になろう4/26日間[異世界恋愛]ランキング1位!同[総合]ランキングも1位!5/22累計100万PV突破! アルファポリスHOTランキングはどうやら41位止まりのようです。(現在圏外)

処理中です...