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43 鬱憤を晴らす
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「いいかげんにしろ」
クレイがお姉様の腕をつかんで、言葉を続けます。
「あなたは王妃様に本当にそっくりだな。気に食わない事があれば人に暴力をふるおうとする」
「皆にじゃないわ! リサにだけです!」
「家族にだって、暴力は良くないんですよ」
クレイに睨まれ、お姉様は押し黙った後、彼の手を振り払い、私を睨みつけたあと、無言で部屋から出ていかれます。
いつもなら、お母様が追いかけていくはずなのですが…。
「リサ、今まで本当にごめんなさい。あなたが生まれるべき子供だったなんて、思ってもいなかったの」
「その言い方もどうかと思われますが…」
国花が出なければ、私は生まれるべき子供ではなかったと、遠回しに言ってらっしゃいますよね?
「いいかげんにしろ! 悪いなリサ、少し取り乱してしまっているようだ。本当におめでとう」
お父様はお母様を叱った後に、私に向かって言って下さいました。
「ありがとうございます、お父様。これから少しずつにはなりますが、お父様の仕事を引き継いでいきたいと思っております」
「頼んだよ」
「あの、リサ殿下」
黙っていたオッサムが私に話しかけてきます。
「僕に何か出来る事はありませんか?」
「今、考えられるとしたら、お姉様を支えてあげてほしいという事でしょうか」
「そ、それはもちろん、そうさせていただくつもりですが…」
オッサムの言葉遣いが急に丁寧になりましたが、わざと気付かないフリをします。
「私よりもお姉様が好きだと言って婚約破棄をしたのは、あなたです。まさか、それが今更、嘘だったなんて言いませんよね?」
「それは…その、ありません」
「なら、良かったです。私の事は気になさらずに、お姉様のところへ行って下さい。もちろん、お母様もです」
「リサ…」
お母様は困った様な顔をして言います。
「まだ、許してもらえないの? あなたが許してくれるまで、何度だって謝るつもりよ?」
「もうやめなさい。君もオッサムと一緒にブランカの所へ行ってくれ。私も後で行くから」
「ですけど…!」
お母様が何か言おうとされましたが、お父様がひと睨みすると、黙って立ち上がり、私の方を見ました。
「お母様、お姉様があんな態度をとられるのは性格の問題もあるのかもしれませんが、お母様の責任が大きいと思われます。それに、謝ればよいというものではないんですよ。たまに喧嘩して冷たい態度をとるというなら、まだわかりますが、お母様は私に対して、そうではなかったですよね? 優しい笑顔をかけてもらった覚えなど、全く記憶にないのですが?」
「それは、事情があったからで…」
「お母様にも思うところがあったのはわかります。ですけど、それを理由に何をしても、何を言ってもいいわけではないでしょう?」
「…そ、そうね…。そうかもしれないわね…」
私が笑顔で言うと、お母様は俯かれ、小さな声で答えた後、部屋を出ていかれます。
多少は反省して下さるでしょうか。
「リサ殿下、また、改めてお話する機会を…」
「私の事は気になさらないでと言いましたよね? もし、私が誰か愛人を欲しくなったり、クレイと離婚したとしても、あなたを選ぶ事は絶対にありませんから、ご安心を。だって、あなたは私よりも美しくて優れたお姉様と結婚されたのですから、私なんかには興味も示さないでしょう?」
「そ、そんな事はありません! その、本当はリサ殿下の事を…」
「あ、そういうの結構です。魂胆が見え見えですので、余計に嫌になりますから」
きっぱりと言うと、オッサムは引きつった笑みを浮かべてから立ち上がります。
「あの、リサ殿下が何を仰っているのかはわかりませんが、今日はブランカの所へ行こうと思います」
「今日だけじゃなくて良いですよ。私の所には来ていただかなくて結構です。もちろん、仕事上であればしょうがありませんが…。今は仕事の話はありませんので、さ、早くお姉様のところへ!」
ひらひらと手を横に振ると、オッサムはがっくりと肩を落として、部屋から出ていきました。
お母様とオッサムに言いたい事を言えて、ちょっとスッキリしました。
なんだかんだと、言い返す事は子供じみている感じがして嫌だったのですが、やはり言わないとわかってもらえない時もありますものね。
けれど、どっと疲れが襲ってきました。
気を張っていたのですね。
「お疲れさん」
クレイが笑顔で優しく頭を撫でてくれたので、それだけで疲れが吹っ飛びそうだなんて単純すぎるでしょうか。
でも、きっと、それは幸せな事だと思うのです。
クレイがお姉様の腕をつかんで、言葉を続けます。
「あなたは王妃様に本当にそっくりだな。気に食わない事があれば人に暴力をふるおうとする」
「皆にじゃないわ! リサにだけです!」
「家族にだって、暴力は良くないんですよ」
クレイに睨まれ、お姉様は押し黙った後、彼の手を振り払い、私を睨みつけたあと、無言で部屋から出ていかれます。
いつもなら、お母様が追いかけていくはずなのですが…。
「リサ、今まで本当にごめんなさい。あなたが生まれるべき子供だったなんて、思ってもいなかったの」
「その言い方もどうかと思われますが…」
国花が出なければ、私は生まれるべき子供ではなかったと、遠回しに言ってらっしゃいますよね?
「いいかげんにしろ! 悪いなリサ、少し取り乱してしまっているようだ。本当におめでとう」
お父様はお母様を叱った後に、私に向かって言って下さいました。
「ありがとうございます、お父様。これから少しずつにはなりますが、お父様の仕事を引き継いでいきたいと思っております」
「頼んだよ」
「あの、リサ殿下」
黙っていたオッサムが私に話しかけてきます。
「僕に何か出来る事はありませんか?」
「今、考えられるとしたら、お姉様を支えてあげてほしいという事でしょうか」
「そ、それはもちろん、そうさせていただくつもりですが…」
オッサムの言葉遣いが急に丁寧になりましたが、わざと気付かないフリをします。
「私よりもお姉様が好きだと言って婚約破棄をしたのは、あなたです。まさか、それが今更、嘘だったなんて言いませんよね?」
「それは…その、ありません」
「なら、良かったです。私の事は気になさらずに、お姉様のところへ行って下さい。もちろん、お母様もです」
「リサ…」
お母様は困った様な顔をして言います。
「まだ、許してもらえないの? あなたが許してくれるまで、何度だって謝るつもりよ?」
「もうやめなさい。君もオッサムと一緒にブランカの所へ行ってくれ。私も後で行くから」
「ですけど…!」
お母様が何か言おうとされましたが、お父様がひと睨みすると、黙って立ち上がり、私の方を見ました。
「お母様、お姉様があんな態度をとられるのは性格の問題もあるのかもしれませんが、お母様の責任が大きいと思われます。それに、謝ればよいというものではないんですよ。たまに喧嘩して冷たい態度をとるというなら、まだわかりますが、お母様は私に対して、そうではなかったですよね? 優しい笑顔をかけてもらった覚えなど、全く記憶にないのですが?」
「それは、事情があったからで…」
「お母様にも思うところがあったのはわかります。ですけど、それを理由に何をしても、何を言ってもいいわけではないでしょう?」
「…そ、そうね…。そうかもしれないわね…」
私が笑顔で言うと、お母様は俯かれ、小さな声で答えた後、部屋を出ていかれます。
多少は反省して下さるでしょうか。
「リサ殿下、また、改めてお話する機会を…」
「私の事は気になさらないでと言いましたよね? もし、私が誰か愛人を欲しくなったり、クレイと離婚したとしても、あなたを選ぶ事は絶対にありませんから、ご安心を。だって、あなたは私よりも美しくて優れたお姉様と結婚されたのですから、私なんかには興味も示さないでしょう?」
「そ、そんな事はありません! その、本当はリサ殿下の事を…」
「あ、そういうの結構です。魂胆が見え見えですので、余計に嫌になりますから」
きっぱりと言うと、オッサムは引きつった笑みを浮かべてから立ち上がります。
「あの、リサ殿下が何を仰っているのかはわかりませんが、今日はブランカの所へ行こうと思います」
「今日だけじゃなくて良いですよ。私の所には来ていただかなくて結構です。もちろん、仕事上であればしょうがありませんが…。今は仕事の話はありませんので、さ、早くお姉様のところへ!」
ひらひらと手を横に振ると、オッサムはがっくりと肩を落として、部屋から出ていきました。
お母様とオッサムに言いたい事を言えて、ちょっとスッキリしました。
なんだかんだと、言い返す事は子供じみている感じがして嫌だったのですが、やはり言わないとわかってもらえない時もありますものね。
けれど、どっと疲れが襲ってきました。
気を張っていたのですね。
「お疲れさん」
クレイが笑顔で優しく頭を撫でてくれたので、それだけで疲れが吹っ飛びそうだなんて単純すぎるでしょうか。
でも、きっと、それは幸せな事だと思うのです。
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