上 下
17 / 45

16  意味深な発言

しおりを挟む
 クレイに私の部屋から追い出されたバーキン様は、その後、お姉様にしばらく捕まっていた様ですが、騒ぎを聞きつけた婚約者候補二人がやって来た事により、無事に解放されたようでした。
 後から恨み辛みを言われましたが、私としてはバーキン様の目的が達せられるので良いのではないかと、あの時は真剣に思っていたのだとお伝えしたところ、すぐに許していただけました。
 その日から、お姉様はバーキン様にお熱になってしまい、アール様とオッサムから敵視される様になってしまいました。

 お姉様がバーキン様に告白し、彼からフラれる様にするには、どうすれば良いかと悩んでいたある日の事。
 クレイが自分の部屋で忙しそうにしている時に、バーキン様は私の部屋へやって来て、こう言われました。

「胸の発言だけど、リサ殿下は真面目すぎるんですよ。もっと冗談は冗談として受け止めましょう」
「でも、バーキン様の私への発言はセクハラというのでしょう? 冗談にするにはちょっと…」
「なら、前に言った時に言って下さいよ!」
「あの時は驚いてしまったというのと、後からセクハラという言葉をクレイに教えてもらったんです」
「リサ殿下の計画に僕も手助けしたいと思ってるのに冷たいなあ」

 バーキン様がふてくされた顔をして言います。
 ちなみに今は侍女のフィアナが、ソファーに座っている私の後ろに立ってくれていますので、バーキン様と二人きりになっているわけではありません。
 正直、バーキン様はフィアナに興味があって、私の部屋に訪れているのではないかと思っています。

 まあ、今はその事はおいておいて、ちょうど聞きたい事があったので聞いてみます。

「そういえば、バーキン様は私達が行くパーティーには出席されるのですよね? 私とクレイは明日の朝から向かう予定ですが」
「パーティーに出席する、しないにしたって、僕も行かないと困る事になるんじゃないですか?」
「あ! お医者様としてバーキン様には、この城に来ていただいたんでした! 何かあってはいけませんし、付いてきていただかないといけませんね」
「思い出すまでは何だと思ってたんですか?」
「クレイのお友達です」

 素直に答えると、バーキン様はニッと笑って言います。

「改めて言われると、何か照れるますね」
「で、どうされる予定ですか? 私とクレイは招待して下さった辺境伯家に前日からお泊りなのですが」
「今回は僕はパーティーに出る予定はしてますが、一人で参加ですから自由にさせてもらおうかと」
「そうなのですね」
「どうしました、リサ殿下。僕が側にいないと心細いですか?」

 バーキン様が調子に乗っておられるようなので、この質問は無視する事にします。
 考えたら私、のんびりしている場合ではないのです。
 数日、仕事ができませんので、やらないといけない事がいっぱいです!

「あの、リサ殿下?」
「申し訳ないのですがお帰りいただいても? そういえばバーキン様はどうやって行かれるおつもりですか?」
「い、一緒に行かせて下さい」
「承知しました」

 バーキン様は表情をひきつらせて言った後、深々と頭を下げてお願いしてこられたので、私は笑顔で承諾しました。
 そして、部屋から出ていこうとされたバーキン様でしたが、急に足を止めて、こちらに振り返られました。

「リサ殿下」
「……はい」

 いつもと違った真剣な表情に驚きつつも返事をしました。

「クレイの事、よろしくお願い致します」

 腰を折り曲げて頭を下げるバーキン様に、友情の深さを感じ、感動しながら頷きます。

「私に出来る範囲にはなりますが、クレイを幸せにしたいと思います!」
「……ありがとうございます」

 バーキン様が笑顔を向けてこられたので、私も笑顔になりました。

「あと、パーカー嬢には気を付けて下さい」
「ポピー様にですか?」
「何もないとは思いますがね。気を付けるに越した事はないですから」

 バーキン様は意味深な発言をした後、そのまま去って行かれました。
 
 最後のポピー様に気を付けろというのは、どういう事なのでしょう?
 クレイの好きな人が悪い人だとは思えないのですが…。






 次の日、私とクレイが乗る馬車に、バーキン様も同乗される事になりました。
 バーキン様が私の隣に座ろうとなさいましたが、クレイに怒られたので、今度はクレイの横に座ろうとされましたが、拒否されておられ、少しだけ可哀想になりました。
 だって、もしかしたら、バーキン様はクレイが好きなのかもしれませんから!

 侍女のフィアナと話をしまして、今、市政では男性同士の恋愛小説が流行っていると聞きました。
 ですから、メイド達の間で、バーキン様がクレイに片思いしているのではないか、と噂されているのだそうです。

 なぜ、片思いかといいますと、クレイには私という妻がおりますから、そりゃあ、私のメイド達はバーキン様とクレイが両思いだなんて、口が裂けても言えないみたいです。

 まあ、クレイは最近までポピー様を好きでしたから、すぐには傷も癒えないでしょうし、クレイがバーキン様に対して恋愛感情を持っているようにも思えません。

 バーキン様の本命はクレイ?
 もしくは私が最初に怪しんでいたフィアナ?

 フィアナは、バーキン様の本命はクレイではなく、彼は本当に女性が好きであると断言してくれています。
 それはそれで、どうしてなのでしょう?
 フィアナを見るバーキン様の目は、他の方に向けられるものとは違うので、私はバーキン様の好きな人はフィアナだと思うのですが、フィアナはそれには答えてくれませんでした…。

「リサはどう思う?」

 いつの間にか、私の隣に座っていたクレイに尋ねられ、私は首を傾げます。

「何がでしょうか?」
「聞いてなかったのかよ」

 クレイは小さく息を吐いてから教えてくれます。

「今回のパーティーにアールが来るみたいなんだ」
「アール様が? という事はお姉様も?」

 聞き返すと、バーキン様が答えてくれます。

「大丈夫だよ、リサちゃん。ブランカ様にお願いして、彼一人だけ来てもらう様に手配した。元々、ドストコ公爵家も招待されてたみたいだから」
「…何を考えているのですか?」
「それは、クレイに聞いてくれ」
  
 そう言われたのでクレイを見ると、彼は笑顔で言います。

「アールが婚約解消せざるをえない、もしくはされる状況にもっていこう」
「どういう事ですか?」

 以前、アール様がいなければ、オッサムとお姉様が結婚しやすくなるんじゃないかと言う話をしていましたが…。

 クレイの言っている意味がわからなくて、素直に聞き返したのでした。
 
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

私が死んで満足ですか?

マチバリ
恋愛
王太子に婚約破棄を告げられた伯爵令嬢ロロナが死んだ。 ある者は面倒な婚約破棄の手続きをせずに済んだと安堵し、ある者はずっと欲しかった物が手に入ると喜んだ。 全てが上手くおさまると思っていた彼らだったが、ロロナの死が与えた影響はあまりに大きかった。 書籍化にともない本編を引き下げいたしました

【完結】結婚してから三年…私は使用人扱いされました。

仰木 あん
恋愛
子爵令嬢のジュリエッタ。 彼女には兄弟がおらず、伯爵家の次男、アルフレッドと結婚して幸せに暮らしていた。 しかし、結婚から二年して、ジュリエッタの父、オリビエが亡くなると、アルフレッドは段々と本性を表して、浮気を繰り返すようになる…… そんなところから始まるお話。 フィクションです。

追放された悪役令嬢はシングルマザー

ララ
恋愛
神様の手違いで死んでしまった主人公。第二の人生を幸せに生きてほしいと言われ転生するも何と転生先は悪役令嬢。 断罪回避に奮闘するも失敗。 国外追放先で国王の子を孕んでいることに気がつく。 この子は私の子よ!守ってみせるわ。 1人、子を育てる決心をする。 そんな彼女を暖かく見守る人たち。彼女を愛するもの。 さまざまな思惑が蠢く中彼女の掴み取る未来はいかに‥‥ ーーーー 完結確約 9話完結です。 短編のくくりですが10000字ちょっとで少し短いです。

妹に人生を狂わされた代わりに、ハイスペックな夫が出来ました

コトミ
恋愛
子爵令嬢のソフィアは成人する直前に婚約者に浮気をされ婚約破棄を告げられた。そしてその婚約者を奪ったのはソフィアの妹であるミアだった。ミアや周りの人間に散々に罵倒され、元婚約者にビンタまでされ、何も考えられなくなったソフィアは屋敷から逃げ出した。すぐに追いつかれて屋敷に連れ戻されると覚悟していたソフィアは一人の青年に助けられ、屋敷で一晩を過ごす。その後にその青年と…

悪役令嬢と呼ばれた彼女の本音は、婚約者だけが知っている

当麻月菜
恋愛
『昔のことは許してあげる。だから、どうぞ気軽に参加してね』 そんなことが書かれたお茶会の招待状を受け取ってしまった男爵令嬢のルシータのテンションは地の底に落ちていた。 実はルシータは、不本意ながら学園生活中に悪役令嬢というレッテルを貼られてしまい、卒業後も社交界に馴染むことができず、引きこもりの生活を送っている。 ちなみに率先してルシータを悪役令嬢呼ばわりしていたのは、招待状の送り主───アスティリアだったりもする。 もちろん不参加一択と心に決めるルシータだったけれど、婚約者のレオナードは今回に限ってやたらと参加を強く勧めてきて……。 ※他のサイトにも重複投稿しています。でも、こちらが先行投稿です。 ※たくさんのコメントありがとうございます!でも返信が遅くなって申し訳ありません(><)全て目を通しております。ゆっくり返信していきますので、気長に待ってもらえたら嬉しかったりします。

【完結】王子妃教育1日無料体験実施中!

杜野秋人
恋愛
「このような事件が明るみになった以上は私の婚約者のままにしておくことはできぬ!そなたと私の婚約は破棄されると思え!」 ルテティア国立学園の卒業記念パーティーで、第二王子シャルルから唐突に飛び出したその一言で、シャルルの婚約者である公爵家令嬢ブランディーヌは一気に窮地に立たされることになる。 シャルルによれば、学園で下級生に対する陰湿ないじめが繰り返され、その首謀者がブランディーヌだというのだ。 ブランディーヌは周囲を見渡す。その視線を避けて顔を背ける姿が何人もある。 シャルルの隣にはいじめられているとされる下級生の男爵家令嬢コリンヌの姿が。そのコリンヌが、ブランディーヌと目が合った瞬間、確かに勝ち誇った笑みを浮かべたのが分かった。 ああ、さすがに下位貴族までは盲点でしたわね。 ブランディーヌは敗けを認めるしかない。 だが彼女は、シャルルの次の言葉にさらなる衝撃を受けることになる。 「そして私の婚約は、新たにこのコリンヌと結ぶことになる!」 正式な場でもなく、おそらく父王の承諾さえも得ていないであろう段階で、独断で勝手なことを言い出すシャルル。それも大概だが、本当に男爵家の、下位貴族の娘に王子妃が務まると思っているのか。 これでもブランディーヌは彼の婚約者として10年費やしてきた。その彼の信頼を得られなかったのならば甘んじて婚約破棄も受け入れよう。 だがしかし、シャルルの王子としての立場は守らねばならない。男爵家の娘が立派に務めを果たせるならばいいが、もしも果たせなければ、回り回って婚約者の地位を守れなかったブランディーヌの責任さえも問われかねないのだ。 だから彼女はコリンヌに問うた。 「貴女、王子妃となる覚悟はお有りなのよね? では、一度お試しで受けてみられますか?“王子妃教育”を」 そしてコリンヌは、なぜそう問われたのか、その真意を思い知ることになる⸺! ◆拙作『熊男爵の押しかけ幼妻』と同じ国の同じ時代の物語です。直接の繋がりはありませんが登場人物の一部が被ります。 ◆全15話+番外編が前後編、続編(公爵家侍女編)が全25話+エピローグ、それに設定資料2編とおまけの閑話まで含めて6/2に無事完結! アルファ版は断罪シーンでセリフがひとつ追加されてます。大筋は変わりません。 小説家になろうでも公開しています。あちらは全6話+1話、続編が全13話+エピローグ。なろう版は続編含めて5/16に完結。 ◆小説家になろう4/26日間[異世界恋愛]ランキング1位!同[総合]ランキングも1位!5/22累計100万PV突破! アルファポリスHOTランキングはどうやら41位止まりのようです。(現在圏外)

妹に陥れられ処刑決定したのでブチギレることにします

リオール
恋愛
実の妹を殺そうとした罪で、私は処刑されることとなった。 違うと言っても、事実無根だとどれだけ訴えても。 真実を調べることもなく、私の処刑は決定となったのだ。 ──あ、そう?じゃあもう我慢しなくていいですね。 大人しくしてたら随分なめられた事態になってしまったようで。 いいでしょう、それではご期待通りに悪女となってみせますよ! 淑女の時間は終わりました。 これからは──ブチギレタイムと致します!! ====== 筆者定番の勢いだけで書いた小説。 主人公は大人しく、悲劇のヒロイン…ではありません。 処刑されたら時間が戻ってやり直し…なんて手間もかけません。とっととやっちゃいます。 矛盾点とか指摘したら負けです(?) 何でもオッケーな心の広い方向けです。

【完結】忌み子と呼ばれた公爵令嬢

美原風香
恋愛
「ティアフレア・ローズ・フィーン嬢に使節団への同行を命じる」  かつて、忌み子と呼ばれた公爵令嬢がいた。  誰からも嫌われ、疎まれ、生まれてきたことすら祝福されなかった1人の令嬢が、王国から追放され帝国に行った。  そこで彼女はある1人の人物と出会う。  彼のおかげで冷え切った心は温められて、彼女は生まれて初めて心の底から笑みを浮かべた。  ーー蜂蜜みたい。  これは金色の瞳に魅せられた令嬢が幸せになる、そんなお話。

処理中です...