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11  突然の来訪

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 クレイから一緒に行ってほしいと頼まれたパーティーの日にちが一ヶ月先でしたので、私と彼は、婚約者状態をダラダラと続けるのではなく、とりあえず籍だけ入れる事に決めました。
 そう、白い結婚をしたのです。
 その際、結婚式や結婚記念のパーティは開かない事に決めました。
 なぜなら、白い結婚ですのに、結婚式をしてしまったら、キスをしろだの何だのと言われても困るからです。
 パーティーをしない理由については、対外的には婚約披露パーティーをしたばかりの為、やめておくという理由にしました。
 他国から無駄に贅沢をしていると思われても困りますし。
 国民の皆様に顔見せするパレードも、寒い時期という事で止めておきました。

 寝室は一応、作りはしましたが、今もお互いの部屋で寝ています。
 
 正式に婿入りしてくれたクレイと共に、自分達に与えられた仕事をこなしつつも、どうやって、お姉様とオッサムの結婚を少しでも早くにすすめられるかを、二人で毎日、仕事の合間を縫って考えていました。
 今日も仕事終わりに、私の部屋でクレイと作戦会議です。

「とにかく、アールとかいう奴が邪魔だな。こいつに好きな女でも出来ればいいんだが…、ちょっと調べてみるか」
「そうですね。アール様がいるから、オッサムとお姉様の婚約が正式に出来ないわけですし」

 正直にいえば、アール様は性格が良くないだけで、私達の計画に巻き込まれる被害者なのかもしれませんが、こうなったのも彼の弟のせいでもありますから、そこは諦めてもらいましょう。
 それにあの人、いつも嫌な感じで、パーティーでは暴言を吐いてこられましたし。

「アールって奴は、本当にブランカが好きなのか?」
「わかりません。オッサムと同じで王配になりたいだけかもしれませんから」
「という事は、他に好きな女がいてもおかしくないよな?」
「どうなのでしょう。お姉様は見た目は可愛らしいですし、アール様の前では、可愛い女性を演じているはずです。お姉様の性格が悪いとわかっているのは、私やクレイ、それから私に優しくしてくれる使用人達だけだと思いますから」
「いや、そういうのは必ずボロが出るはずなんだ。アールやオッサム達はまだしも、ブランカの周りの使用人達は彼女の本性を知っているけど、彼女が女王になると思って従順なふりをしているのかもしれない」

 クレイの言葉を聞いて、何だかお姉様が可哀想になってきました。

「お姉様個人を大事にしてくれている人って、案外、少ないのかもしれませんね」
「そうだとしても、お前が気にしてやる必要はない。お前は自分の事だけを今は考えろ」
「お姉様の事は良いとして、女王になるというなら、色々と考えないといけない事は山積みですよ」
「それは、ブランカ達が結婚してから考えればいい。エンディ様は元気になられたし、急がなくてもいいだろ」

 私が女王になるとわかってからのお父様は、たちまち健康になられ、今まで黙って何も言わずにいた、お母様やお姉様の私への悪質な態度を叱って下さるようになりました。
 今までは、お姉様が女王になるとばかり思っていらっしゃったので、甘やかしてしまっていた、と言い訳されておられましたが、それって、私にとっては納得できないものなんですけどね。
 怒らないといけない時は怒らないといけないんです!

「そうですね。お父様には今まで休んでおられた分、頑張っていただきましょう」
「厳しいな、おい」
「それはそうでしょう。お父様がしっかりして下さっていれば、私が女王にならなくて良かったかもしれません!」
「今のブランカを見てると、良い女王になるとは思えないけどな」
「クレイはお姉様と会ってるんですか?」

 発言が気になって尋ねると、クレイは眉根を寄せて答えてくれます。

「自分が相手にされないのが気に食わないみたいで、何かと絡んでくるんだ。アールやオッサムはブランカが俺に絡むのが気に食わないみたいだな。俺の顔を見るたびに、何かいちゃもんをつけてくる」
「…そうだったのですね」

 朝昼晩のご飯は、クレイと2人で食べる様になりましたから、私はお母様達との接触時間が大幅に減ったので助かっていたんですけれど、知らない間に、お姉様はクレイに接触していたみたいですね。
 しかも、アール様達まで…。
 お姉様がクレイに色目を使ってるのが気に食わないとかでしょうか…。
 お姉様は私が先に結婚したのが悔しくてしょうがないみたいですし、私からクレイを奪おうとしているのかもしれません。
 お姉様は浮気したら絶対に許さないと、何度もアール様に言っているのを聞いていますし、浮気は嫌いなはず。
 だから、さすがにそうじゃないと思いたいです。
 婚約者候補が二人もいるのに、他の人にちょっかいをかけるのは浮気になるでしょうから。

「ブランカに関しては自分は女王になるんだと、やたらとアピールしてくるから余計に面白い。まあ、俺は王配に興味はないって答えてるけどな」
「お姉様の自信はどこから来るのでしょうか…」
「わからん。とりあえず、俺とお前がとっとと結婚したのも気に食わないみたいだな」
「悔しいなら、自分達も早く結婚したら良いだけですのに…」
「アールかオッサムか決めかねてるんじゃないか?」

 私が小首を傾げた時、部屋の扉がノックされ、侍女からクレイと私宛にお客様が来ていると告げられました。

「誰でしょう? 今日は誰とも約束もしていませんし、どちらかならまだしも、私とクレイの二人だなんて…」

 困惑して疑問を口に出してみると、クレイが侍女に尋ねます。

「訪ねてきた相手の名前は?」
「バーキン・サルケス様と名乗っておられました」

 侍女の答えを聞いて、クレイは私に顔を向けて言う。

「前に話をしていた医者だ。こっちから行くと言ってたのに、待ちきれなくて来たみたいだな」
「わざわざ足を運んでくれたのですね?」 

 クレイに頷いてから、侍女に応接間に通す様に指示をしてから、クレイに聞いてみます。

「正装した方がいいですか?」
「あんな奴をもてなす必要はない」
「クレイ、何だか機嫌が悪いですね。そんなに苦手なのですか?」
「苦手も何も、ポピーの心を奪っておいて、彼女の気持ちにこたえてやらない奴を好きなわけないだろ」
「え? もしかして、紹介してくれるお医者様って、ポピー様の思い人なのですか!?」

 私の問いかけに、クレイは仏頂面で頷いたのでした。
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