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20 本気で言われたわけじゃないですよね?
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その日の晩は、ランドン辺境伯は別邸に泊まっていかれたようで、休日だった騎士様達が出勤して、彼が勝手な動きをしないように見張ってくれていたようです。
ランドン辺境伯について、ラルフ様にも昨日の夕食時にお話を聞いてみましたが、戦地での怠慢な態度については、王家にも連絡がいっていて、最悪の場合、責任を取る人間として据え置かれているようです。
敵の大将の首を、なんてなった時に、ランドン辺境伯のものを差し出すつもりのようです。
だから、ラルフ様は「やはり、何かあった時のために、生きていてもらわないといけないな」なんて事を言っておられました。
普段の仕事は、ちゃんとしておられるようですし、すぐには困らない、というのもあるのでしょう。
ただ、死にたくないから前に出ないのに、裏では何かあった時に命を差し出される事になっている事を本人が知らないのは気の毒な気もしますが、ラルフ様達だって、よっぽどじゃない限りやらないでしょうし、やっぱり知らない方が幸せなんでしょうね。
次の日の昼、一緒に昼食を取ろうと、ラルフ様の所へ行きましたが、お出かけされているようでいらっしゃいませんでした。
こんな感じで今まで、婚約者の方を放っておいたのかもしれません。
もちろん、戦地に行かれていたのですから、帰ってきた時には、たまった仕事を片付けたくなるのもあるのでしょうけど。
ため息を吐いてから、何気なしに部屋の窓から外を見てみると、ランドン辺境伯とミラルル様が歩いている姿が見えました。
そういえば、あのお二人ですが、なぜ婚約解消しないかというと、お互いに都合が良いからだそうです。
ミラルル様はラルフ様の傍に居たいから結婚したくない。
ランドン辺境伯は好きな彼女と結婚したいから結婚したくない。
婚約者同士でいれば、お互いにいつまでも結婚しなくて済むというわけです。
ただ、それだとランドン辺境伯は好きな方とも結婚できないのですが…。
ラルフ様と、夕食でしか顔を合わせない生活が3日ほど続いた日の事でした。
令嬢達から返事がきましたので、そのお話をしようと思って、タイミングを見計らっていたら、お昼すぎに、隣の部屋から物音が聞こえた気がして部屋を出ると、ケイン様がラルフ様の部屋の前に立っておられました。
「あ、リノア様」
「ラルフ様はお帰りですか?」
「ああ、まあ、帰ってはいるんですが、これからちょっと仮眠に入られます。何かお急ぎの御用でも?」
困ったような顔をして聞いてこられるので、首を傾げて聞いてみる。
「仮眠という事は、昨晩はあまり眠られてない?」
「昨日の夜の当番の人間から聞いたところによると、一睡もしていないみたいです。ですから、その…」
「眠らせてさしあげたいのですね。お気持ちはわかります。眠らなければ判断能力も鈍ってしまいますでしょうし、ラルフ様がお目覚めになられたらお声がけ願っても?」
「承知しました」
頷かれたケイン様の表情がどこか重い感じがして、不思議に思って尋ねてみる。
「ケイン様、どうかされましたか?」
「あ、いや、その、何でもないです」
ケイン様が苦笑すると、隣に立っていた、ケイン様のペアの騎士の方が彼の肩を叩いて言います。
「少し休憩してきて下さい。女性の話ですし、リノア様に相談にのってもらったらどうです?」
「いや、ご迷惑だろ」
「構いませんよ。私の部屋で話しましょう。女性の部屋ですから、二人きりにはなれませんので、ソラも同席させても良いですか?」
「かまいません。彼にも話しましたから」
はあ、とため息を吐いてから、ケイン様は頭を下げられてから続けます。
「ミリーの事で聞いてほしい事があるんです」
場所を移動し、ケイン様にソファーに座ってもらい、私も向かい側に座ったところで尋ねる。
「ミリー様が何か?」
「こっ、こんかつを」
「はい?」
「ミリーが婚活を始めるって言い出したんです!」
「そ、そうなのですか! 失礼ですが、ミリー様は」
「今年で19歳になりました」
男爵令嬢で19歳でしたら、この国では、まだそこまで焦る必要もないかと思われますが、やはり、ラルフ様を忘れる為でしょうか。
なんだか申し訳ない気もしますが、ケイン様もいらっしゃる事ですし、あまり気にしなくても大丈夫ですかね。
「ケイン様が立候補されては?」
「な、なんて言ったらいいんですか?」
「はい?」
「どう切り出したら良いんでしょうか?」
ケイン様は真剣な表情で聞いてこられますが、簡単な事なのでは?
「想いを告げられたら良いのです!」
「お前みたいな女をもらってくれるのは俺だけだ! とかでいいですか!?」
「駄目です」
「駄目に決まってんだろ」
私の言葉と同時にソラが後ろからケイン様の頭を叩きました。
さっきの言葉、本気で言われたわけじゃないですよね?
ランドン辺境伯について、ラルフ様にも昨日の夕食時にお話を聞いてみましたが、戦地での怠慢な態度については、王家にも連絡がいっていて、最悪の場合、責任を取る人間として据え置かれているようです。
敵の大将の首を、なんてなった時に、ランドン辺境伯のものを差し出すつもりのようです。
だから、ラルフ様は「やはり、何かあった時のために、生きていてもらわないといけないな」なんて事を言っておられました。
普段の仕事は、ちゃんとしておられるようですし、すぐには困らない、というのもあるのでしょう。
ただ、死にたくないから前に出ないのに、裏では何かあった時に命を差し出される事になっている事を本人が知らないのは気の毒な気もしますが、ラルフ様達だって、よっぽどじゃない限りやらないでしょうし、やっぱり知らない方が幸せなんでしょうね。
次の日の昼、一緒に昼食を取ろうと、ラルフ様の所へ行きましたが、お出かけされているようでいらっしゃいませんでした。
こんな感じで今まで、婚約者の方を放っておいたのかもしれません。
もちろん、戦地に行かれていたのですから、帰ってきた時には、たまった仕事を片付けたくなるのもあるのでしょうけど。
ため息を吐いてから、何気なしに部屋の窓から外を見てみると、ランドン辺境伯とミラルル様が歩いている姿が見えました。
そういえば、あのお二人ですが、なぜ婚約解消しないかというと、お互いに都合が良いからだそうです。
ミラルル様はラルフ様の傍に居たいから結婚したくない。
ランドン辺境伯は好きな彼女と結婚したいから結婚したくない。
婚約者同士でいれば、お互いにいつまでも結婚しなくて済むというわけです。
ただ、それだとランドン辺境伯は好きな方とも結婚できないのですが…。
ラルフ様と、夕食でしか顔を合わせない生活が3日ほど続いた日の事でした。
令嬢達から返事がきましたので、そのお話をしようと思って、タイミングを見計らっていたら、お昼すぎに、隣の部屋から物音が聞こえた気がして部屋を出ると、ケイン様がラルフ様の部屋の前に立っておられました。
「あ、リノア様」
「ラルフ様はお帰りですか?」
「ああ、まあ、帰ってはいるんですが、これからちょっと仮眠に入られます。何かお急ぎの御用でも?」
困ったような顔をして聞いてこられるので、首を傾げて聞いてみる。
「仮眠という事は、昨晩はあまり眠られてない?」
「昨日の夜の当番の人間から聞いたところによると、一睡もしていないみたいです。ですから、その…」
「眠らせてさしあげたいのですね。お気持ちはわかります。眠らなければ判断能力も鈍ってしまいますでしょうし、ラルフ様がお目覚めになられたらお声がけ願っても?」
「承知しました」
頷かれたケイン様の表情がどこか重い感じがして、不思議に思って尋ねてみる。
「ケイン様、どうかされましたか?」
「あ、いや、その、何でもないです」
ケイン様が苦笑すると、隣に立っていた、ケイン様のペアの騎士の方が彼の肩を叩いて言います。
「少し休憩してきて下さい。女性の話ですし、リノア様に相談にのってもらったらどうです?」
「いや、ご迷惑だろ」
「構いませんよ。私の部屋で話しましょう。女性の部屋ですから、二人きりにはなれませんので、ソラも同席させても良いですか?」
「かまいません。彼にも話しましたから」
はあ、とため息を吐いてから、ケイン様は頭を下げられてから続けます。
「ミリーの事で聞いてほしい事があるんです」
場所を移動し、ケイン様にソファーに座ってもらい、私も向かい側に座ったところで尋ねる。
「ミリー様が何か?」
「こっ、こんかつを」
「はい?」
「ミリーが婚活を始めるって言い出したんです!」
「そ、そうなのですか! 失礼ですが、ミリー様は」
「今年で19歳になりました」
男爵令嬢で19歳でしたら、この国では、まだそこまで焦る必要もないかと思われますが、やはり、ラルフ様を忘れる為でしょうか。
なんだか申し訳ない気もしますが、ケイン様もいらっしゃる事ですし、あまり気にしなくても大丈夫ですかね。
「ケイン様が立候補されては?」
「な、なんて言ったらいいんですか?」
「はい?」
「どう切り出したら良いんでしょうか?」
ケイン様は真剣な表情で聞いてこられますが、簡単な事なのでは?
「想いを告げられたら良いのです!」
「お前みたいな女をもらってくれるのは俺だけだ! とかでいいですか!?」
「駄目です」
「駄目に決まってんだろ」
私の言葉と同時にソラが後ろからケイン様の頭を叩きました。
さっきの言葉、本気で言われたわけじゃないですよね?
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