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エピローグ
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令嬢からお話を聞いたあと、私は彼女達に談話室で待っていてもらい、ラルフ様を呼びに執務室までやって来た。
「ラルフ様、お忙しいところ申し訳ないのですが、ご令嬢方がラルフ様とお話したいみたいです」
「俺ももう一度詫びをいれなければいけないと思っていた。教えてくれてありがとう」
書類から顔を上げて、私に笑顔を向けてくれましたが、どうやらお忙しいようで、すぐに立ち上がってはくれません。
お待たせしてはいけませんので、ラルフ様の背中の方にまわり、後ろから彼の首に抱きついてみた。
「リッ、リノア!?」
突然の行動に驚かれたのか、ラルフ様は持っていたペンを落としてしまい、書類の上に黒い大きな丸が出来てしまいました。
それに気が付いたラルフ様は慌てて、ペンをペン差しに置くと、私の手に触れながら聞いてこられます。
「どうかしたのか? 君が、こんな…」
「私に内緒で、ラルフ様と会ってくださると言ってくださったご令嬢方のお家に伺ってらしたのですね」
「…ああ。ちゃんと謝らないといけないことだろう? もちろん、謝ってすむものでもないが」
令嬢から聞かされた話は、ラルフ様が謝りに来て下さった際、彼女を傷つけたと怒ったご主人が、頭を下げるラルフ様にお茶をかけたそうなのです。
彼女自身は過去の出来事として、ラルフ様への怒りはあまりなかったようなのですが、ご主人にしてみれば、大事な女性を悲しい目に合わせるきっかけを作り、それに今まで気付かなかったラルフ様に怒りを覚えたのでしょう。
ですが、ラルフ様が帰られて、冷静に戻ったご主人はラルフ様にあんな事をしてしまった、と卒倒されたようなのです。
そりゃそうですよね。
相手が嫌な貴族の方でしたら、その場で殺されていたかもしれません。
ただ、ご主人はいつ殺されるかわからない、と眠れない夜を過ごしているそうなのです。
お気の毒なので、どうにかしてあげたいですよね。
「お茶をかけられた事、怒ってませんよね?」
「大事な人が傷付いたんだ。怒って当然だからな」
「罵声を浴びせられた事も?」
「それも当たり前だろう。忙しいを理由にして、家族や婚約者候補を放っておいたんだからな」
男性は仕事が嫌だと言いながらも、なんだかんだと仕事を優先して、家族を顧みない方がいらっしゃるようですが、ラルフ様も同じだったのでしょう。
家族だから大丈夫。
婚約者だから大丈夫。
大丈夫な確証なんて何一つなかったのに。
「私は、寂しかったら寂しいと言いますし、怒ったら怒ったと言います。他の令嬢の様に我慢したりしません。もちろん、それはラルフ様にだけです。社交場や外では、ちゃんと感情をコントロールするようにいたします!」
「それは嫁に来てくれるという事かな?」
冗談のように笑われるラルフ様に、私は頷く。
「そうですね」
「…ん? 今、なんて言ったんだ?」
「ふふふ、秘密です」
笑ってから、ラルフ様から素早く離れて、扉の前まで走り、ドアノブに手をかける。
「ラルフ様、令嬢方がお待ちです。仕事がお忙しいのはわかりますが、そのせいで色んな事があったんです! これ以上、失礼な事をしてはいけませんよ!」
「いや、そうなんだが、今、さっき、なんて言った?」
ラルフ様は勢いよく立ち上がられましたが、それについては無視する事にします。
だって、またどんな事が起こるかわかりませんからね。
私に敵対心を持っているメイド達はまだ残っていますし、一人ぼっちになってしまったカーミラ様は私に婚約を解消するよう、どうにかして要求してくるでしょう。
行き過ぎた行動に対して、ラルフ様が見てみぬふりをするなら、チャンスはないのです。
とまあ、婚約解消なり破棄したくても、私には決定権があるようでないものですが。
だから、ラルフ様を信じてみる事にします。
「行きますよ!」
私は扉を開き、部屋の外へ大きく足を踏み出した。
「ラルフ様、お忙しいところ申し訳ないのですが、ご令嬢方がラルフ様とお話したいみたいです」
「俺ももう一度詫びをいれなければいけないと思っていた。教えてくれてありがとう」
書類から顔を上げて、私に笑顔を向けてくれましたが、どうやらお忙しいようで、すぐに立ち上がってはくれません。
お待たせしてはいけませんので、ラルフ様の背中の方にまわり、後ろから彼の首に抱きついてみた。
「リッ、リノア!?」
突然の行動に驚かれたのか、ラルフ様は持っていたペンを落としてしまい、書類の上に黒い大きな丸が出来てしまいました。
それに気が付いたラルフ様は慌てて、ペンをペン差しに置くと、私の手に触れながら聞いてこられます。
「どうかしたのか? 君が、こんな…」
「私に内緒で、ラルフ様と会ってくださると言ってくださったご令嬢方のお家に伺ってらしたのですね」
「…ああ。ちゃんと謝らないといけないことだろう? もちろん、謝ってすむものでもないが」
令嬢から聞かされた話は、ラルフ様が謝りに来て下さった際、彼女を傷つけたと怒ったご主人が、頭を下げるラルフ様にお茶をかけたそうなのです。
彼女自身は過去の出来事として、ラルフ様への怒りはあまりなかったようなのですが、ご主人にしてみれば、大事な女性を悲しい目に合わせるきっかけを作り、それに今まで気付かなかったラルフ様に怒りを覚えたのでしょう。
ですが、ラルフ様が帰られて、冷静に戻ったご主人はラルフ様にあんな事をしてしまった、と卒倒されたようなのです。
そりゃそうですよね。
相手が嫌な貴族の方でしたら、その場で殺されていたかもしれません。
ただ、ご主人はいつ殺されるかわからない、と眠れない夜を過ごしているそうなのです。
お気の毒なので、どうにかしてあげたいですよね。
「お茶をかけられた事、怒ってませんよね?」
「大事な人が傷付いたんだ。怒って当然だからな」
「罵声を浴びせられた事も?」
「それも当たり前だろう。忙しいを理由にして、家族や婚約者候補を放っておいたんだからな」
男性は仕事が嫌だと言いながらも、なんだかんだと仕事を優先して、家族を顧みない方がいらっしゃるようですが、ラルフ様も同じだったのでしょう。
家族だから大丈夫。
婚約者だから大丈夫。
大丈夫な確証なんて何一つなかったのに。
「私は、寂しかったら寂しいと言いますし、怒ったら怒ったと言います。他の令嬢の様に我慢したりしません。もちろん、それはラルフ様にだけです。社交場や外では、ちゃんと感情をコントロールするようにいたします!」
「それは嫁に来てくれるという事かな?」
冗談のように笑われるラルフ様に、私は頷く。
「そうですね」
「…ん? 今、なんて言ったんだ?」
「ふふふ、秘密です」
笑ってから、ラルフ様から素早く離れて、扉の前まで走り、ドアノブに手をかける。
「ラルフ様、令嬢方がお待ちです。仕事がお忙しいのはわかりますが、そのせいで色んな事があったんです! これ以上、失礼な事をしてはいけませんよ!」
「いや、そうなんだが、今、さっき、なんて言った?」
ラルフ様は勢いよく立ち上がられましたが、それについては無視する事にします。
だって、またどんな事が起こるかわかりませんからね。
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行き過ぎた行動に対して、ラルフ様が見てみぬふりをするなら、チャンスはないのです。
とまあ、婚約解消なり破棄したくても、私には決定権があるようでないものですが。
だから、ラルフ様を信じてみる事にします。
「行きますよ!」
私は扉を開き、部屋の外へ大きく足を踏み出した。
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