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9  何も思わないのでしょうか?

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 結局、日中はラルフ様が忙しい事や、ケイン様が夜まで休憩に入られるため、フレイ様の部屋に行くのは夕食後にする事になりました。
 夕食の場で顔を合わすわけですし、そこでお話を聞いても良いんですが、他言するな、部屋に来い、と言われていますから、そういうわけにもいきません。
 夕食時、フレイ様がチラチラと私に視線を送られていましたが、その度にラルフ様が反応して下さり、フレイ様は私がどうするつもりなのか知りたいけれど、話しかけられなくて困っていらっしゃる様子でした。
 今まで、全ての方がフレイ様のお部屋に行かれた訳ではなさそうですし、私が部屋に行かないと思っておられるのかもしれません。

「どうしても行くんですか」

 夕食後、部屋に戻り、フレイ様のお部屋に向かう準備をしていると、心配そうなソラに聞かれました。

 ソラがそう言いたくなる気持ちはわかります。
 私も無視しても良いかな、なんて思い始めていますし。
 でも、今回無視しても、どうせなんらかの形で接触しようとしてこられるでしょうし、面倒なことは、さっさと済ませたいのです。

「大丈夫ですよ。ラルフ様もケイン様も付いてきてくれますし」
「といっても、一緒に中に入るわけではないんでしょう?」
「そうすると、尻尾がつかめませんからね」

 私が苦笑して答えると、ソラはため息を吐いてから言う。

「厄介な人に目をつけられましたね。一体、どこでラルフ様をひっかけたんです」
「それについては近い内にお話して下さるそうです」
「そうなんですか。まあ良いでしょう。リノア様だっていつかは嫁がないといけないわけですし、世間ではあなたは婚約破棄された令嬢ですから、娶ってくれる物好きもそういないでしょうからね」

 ソラはラルフ様の部屋へと続く扉を見ながら、小声で言いました。
 普通の声の大きさでなら聞こえるはずはないですが、念の為でしょう。

「とにかく今は、フレイ様が今まで、どんな事をして妨害してきたのかが気になります」
「お前が囮になる必要はないだろ」
「ソラ、あなたの彼女が他の男に嫌なことをされたら、どう思います?」
「腹立つに決まってんだろ」
「被害にあったご令嬢方とは面識はありませんが、気持ちを考えるだけで私も腹が立つのです」

 私が言うと、ソラは小さく息を吐いてから言います。

「そう思うなら、次の犠牲者が出ないようにお前が嫁になればいい。ラルフ様自体は悪い人ではなさそうだしな。そうすれば、フレイ様の嫌がらせで泣く子はいなくなる」
「そうなのですが、まあ、フレイ様の部屋に行くと、ラルフ様達に言ってしまいましたしね」

 にっこり笑ってから言うと、ソラは呆れた表情で言います。

「失敗するなよ」
「このままでは義理の弟になるんですもの。直していただかないといけない所は直していただかないと」

 逃げてばかりいても解決はしませんし、一応、保険もかけましたし、無事に事が運ぶといいのですが…。

 そんな事を話していると、ラルフ様達が迎えに来て下さったので、フレイ様のお部屋に向かう事にしました。
 一緒に別邸の中に入ってしまうと、ラルフ様達と一緒に来た事がバレてしまう可能性がありますので、別邸の近くまで来たところで、私が先に中に入りました。
 すると、フレイ様はちゃんと手を打ってくれていたらしく、エントランスホールでフレイ様の執事の方が待っていらっしゃいました。
 ラルフ様達はまだですが、彼に案内され、フレイ様の部屋に向かう。
 キョロキョロ見回すふりをして、後ろを振り返ると、ラルフ様達が別邸の中に入ってきたのが見えました。
 とりあえず、私が執事に連れられて行くのを見た事は確かですし、後を追ってきてくださるでしょう。

 フレイ様の部屋の扉を開けられ、中に通されると、執事は中には入りませんでしたので、部屋の中にはどうやら私とフレイ様だけのようです。

 フレイ様はにっこりと満足そうな笑みを浮かべ、窓際の書物机の椅子から立ち上がると、とんでもない事を言いました。

「兄の婚約者であろうとも人が、一人で男の部屋にやって来るなんて信じられないな。ラルフ兄さんには、あなたが僕を誘惑しに来たと伝えるから覚悟しておくがいい」
「まあ、そうですよね。普通は一人で、のこのことやっては来ませんよね」
「だろう! 不埒な上に頭が足りないなんて、君はラルフ兄さんにはふさわしくない!」

 私は一応、ラルフ様達に付いてきてもらっていますし、何より、あなたがこんな事を他のご令嬢にやっていたなんて知ったら、ラルフ様が悲しむと思うのですが、それに関しては何も思わないのでしょうか?
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