上 下
10 / 30

8 貸したくないという理由ではないのですかね?

しおりを挟む
 私が何を忘れているのか、非常に気になるのは確かですが、忘却の魔法の話については長くなりそうな気もしますし、まずはフレイ様からの呼び出しについての話を優先する事にします。

「そのお話も気になるのは山々なのですが、朝食後にお願いしたい事がございまして…」
「どうした?」

 ラルフ様にしてみれば、今の話より気になる事がある方が不思議だったようで、軽く首を傾げられました。

 なんて言ったら良いのでしょう。
 フレイ様には他言するな、と言われていますし。

「あの、フレイ様のお部屋は、どこにあるのでしょうか」
「は?」

 ラルフ様の眉間のシワがより深くなりました。

「フレイ様のお部屋の場所が知りたくて。まだ、侍女やメイド達も来たばかりで、このお屋敷の事はわかりませんし」
「それはそうかもしれないが、なぜ、フレイ限定なんだ?」
「あ、いえ。深い意味はないのですが…」

 なんて答えたら良いのでしょう。
 素直にお手紙の事を伝えるべきなんでしょうけど、内緒にする様に言われている事をペラペラ話すのも、どうかと思ってしまいますし。

「皆さんのお部屋の場所が知りたかっただけなのです」

 苦しい言い訳とはわかっていますが伝えてみると、ラルフ様はやはり納得されていないようです。
 
 まあ、それはそうですよね。
 皆さんのお部屋なら、フレイ様を名指しする必要ありませんものね。
 
「どうしてフレイが気になるんだ。リノアはああいうタイプが好みなのか?」
「はい?」

 真剣な眼差しでラルフ様は私を見てこられますが、一体、何を言ってらっしゃるのでしょう?
 もしかして、私が弟のフレイ様に興味を持っていると思われていらっしゃる?

「えーと。どうしてそんな事を思われるのでしょうか?」
「…まずは、君から答えてくれ」
「フレイ様が恋愛対象としての好みかと聞かれているのでしたら違います。フレイ様がどのような方か詳しくは存じませんから、見た目だけでは判断できないというのがございますので」
「他のご令嬢はフレイの見た目だけで恋に落ちるぞ?」
「それを言いましたら、ラルフ様の外見だけで恋に落ちるご令嬢もいらっしゃると思いますが…」

 二人共イケメンさんですからね。
 ラルフ様はちょっと近寄りがたいですが、フレイ様は可愛らしい感じですから、女性も声をかけやすいだけなのかと思われます。
 私だって、初対面でどちらに話しかけますか、と聞かれたら、フレイ様と答えるかもです。
 
「ならいいんだ。ここに来た令嬢のメイド達が、うちのメイドにフレイの部屋を聞いてくるらしいんだ。聞いてこなかった令嬢に関しては何もないんだが、聞いてきた令嬢に関しては、なぜか、その日に家を出てしまう事が多い」
「そ、そうなのですか…」

 明らかに怪しいですね。
 もしかして、部屋に呼び出して、何か人には言えない事をしている、とか?

「家を出る際に、ご令嬢方はどんな様子なのでしょう?」
「泣いていたりする者が多いが、フレイに結婚を迫る者もいるな」
「ラルフ様はフレイ様にその話をしてみた事は?」
「聞いてはいるが、フレイは俺の為にやっている事だから、何も悪い事はしていないと言うんだ。令嬢達も詳しい話は聞かないでほしいと懇願してくるし」

 ラルフ様が困ったように言われます。
 
 うーん。
 これは、大体、部屋に行ったら何をされそうなわかる気がします。
 
「あの、それからそのご令嬢達がどうなったかはわかりますか?」
「違う者と縁談がうまくいった者もいるが、ほとんどはまだ一人でいるな。あと、フレイも誰とも結婚する気がないようだ」
「最低なのです」
「どうした?」
「あ、いえ。私の推測ですから何でもないのです」

 ラルフ様に真実を伝えるべきか迷って、一度は首を横に振った。
 推測を伝えるのもどうかと思いますし、伝えてしまえば、被害にあった令嬢が傷付いてしまうかもしれません。
 かといって、これ以上、被害者を増やすわけにはいかないですし、って、このままでは次の被害者は私になるわけですしね。

「あの、ラルフ様」
「どうした?」
「ケイン様はフレイ様のお部屋を知ってらっしゃいます?」
「知ってはいるが…」
「では、ケイン様をお借りしてもよろしいでしょうか?」

 笑顔でお願いすると、ラルフ様は明らかに不機嫌そうな顔をされて、首を横に振られます。

「駄目だ」
「だ、駄目ですか?」

 ケイン様に付いてきてもらえば、何かあった時にすぐに助けてもらえそうだと思ったのですが…。
 それに、現行犯でおさえられるでしょうし。

「俺も行こう」

 ん?
 断られた理由って、ケイン様を貸したくないという理由ではないのですかね? 
 
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

私、侯爵令嬢ですが、家族から疎まれ、皇太子妃になる予定が、国難を救うとかの理由で、野蛮な他国に嫁ぐことになりました。でも、結果オーライです

もぐすけ
恋愛
 カトリーヌは王国有数の貴族であるアードレー侯爵家の長女で、十七歳で学園を卒業したあと、皇太子妃になる予定だった。  ところが、幼少時にアードレー家の跡継ぎだった兄を自分のせいで事故死させてしまってから、運命が暗転する。両親から疎まれ、妹と使用人から虐められる日々を過ごすことになったのだ。  十二歳で全寮制の学園に入ってからは勉学に集中できる生活を過ごせるようになるが、カトリーヌは兄を事故死させた自分を許すことが出来ず、時間を惜しんで自己研磨を続ける。王妃になって世のため人のために尽くすことが、兄への一番の償いと信じていたためだった。  しかし、妹のシャルロットと王国の皇太子の策略で、カトリーヌは王国の皇太子妃ではなく、戦争好きの野蛮人の国の皇太子妃として嫁がされてしまう。  だが、野蛮だと思われていた国は、実は合理性を追求して日進月歩する文明国で、そこの皇太子のヒューイは、頭脳明晰で行動力がある超美形の男子だった。  カトリーヌはヒューイと出会い、兄の呪縛から少しずつ解き放され、遂にはヒューイを深く愛するようになる。  一方、妹のシャルロットは王国の王妃になるが、思い描いていた生活とは異なり、王国もアードレー家も力を失って行く……

私を運命の相手とプロポーズしておきながら、可哀そうな幼馴染の方が大切なのですね! 幼馴染と幸せにお過ごしください

迷い人
恋愛
王国の特殊爵位『フラワーズ』を頂いたその日。 アシャール王国でも美貌と名高いディディエ・オラール様から婚姻の申し込みを受けた。 断るに断れない状況での婚姻の申し込み。 仕事の邪魔はしないと言う約束のもと、私はその婚姻の申し出を承諾する。 優しい人。 貞節と名高い人。 一目惚れだと、運命の相手だと、彼は言った。 細やかな気遣いと、距離を保った愛情表現。 私も愛しております。 そう告げようとした日、彼は私にこうつげたのです。 「子を事故で亡くした幼馴染が、心をすり減らして戻ってきたんだ。 私はしばらく彼女についていてあげたい」 そう言って私の物を、つぎつぎ幼馴染に与えていく。 優しかったアナタは幻ですか? どうぞ、幼馴染とお幸せに、請求書はそちらに回しておきます。

変装して本を読んでいたら、婚約者さまにナンパされました。髪を染めただけなのに気がつかない浮気男からは、がっつり慰謝料をせしめてやりますわ!

石河 翠
恋愛
完璧な婚約者となかなか仲良くなれないパメラ。機嫌が悪い、怒っていると誤解されがちだが、それもすべて慣れない淑女教育のせい。 ストレス解消のために下町に出かけた彼女は、そこでなぜかいないはずの婚約者に出会い、あまつさえナンパされてしまう。まさか、相手が自分の婚約者だと気づいていない? それならばと、パメラは定期的に婚約者と下町でデートをしてやろうと企む。相手の浮気による有責で婚約を破棄し、がっぽり違約金をもらって独身生活を謳歌するために。 パメラの婚約者はパメラのことを疑うどころか、会うたびに愛をささやいてきて……。 堅苦しいことは苦手な元気いっぱいのヒロインと、ヒロインのことが大好きなちょっと腹黒なヒーローの恋物語。 ハッピーエンドです。 この作品は他サイトにも投稿しております。 扉絵は写真ACよりチョコラテさまの作品(作品ID261939)をお借りしています。

婚約破棄でみんな幸せ!~嫌われ令嬢の円満婚約解消術~

春野こもも
恋愛
わたくしの名前はエルザ=フォーゲル、16才でございます。 6才の時に初めて顔をあわせた婚約者のレオンハルト殿下に「こんな醜女と結婚するなんて嫌だ! 僕は大きくなったら好きな人と結婚したい!」と言われてしまいました。そんな殿下に憤慨する家族と使用人。 14歳の春、学園に転入してきた男爵令嬢と2人で、人目もはばからず仲良く歩くレオンハルト殿下。再び憤慨するわたくしの愛する家族や使用人の心の安寧のために、エルザは円満な婚約解消を目指します。そのために作成したのは「婚約破棄承諾書」。殿下と男爵令嬢、お二人に愛を育んでいただくためにも、後はレオンハルト殿下の署名さえいただければみんな幸せ婚約破棄が成立します! 前編・後編の全2話です。残酷描写は保険です。 【小説家になろうデイリーランキング1位いただきました――2019/6/17】

追放された悪役令嬢はシングルマザー

ララ
恋愛
神様の手違いで死んでしまった主人公。第二の人生を幸せに生きてほしいと言われ転生するも何と転生先は悪役令嬢。 断罪回避に奮闘するも失敗。 国外追放先で国王の子を孕んでいることに気がつく。 この子は私の子よ!守ってみせるわ。 1人、子を育てる決心をする。 そんな彼女を暖かく見守る人たち。彼女を愛するもの。 さまざまな思惑が蠢く中彼女の掴み取る未来はいかに‥‥ ーーーー 完結確約 9話完結です。 短編のくくりですが10000字ちょっとで少し短いです。

断罪シーンを自分の夢だと思った悪役令嬢はヒロインに成り代わるべく画策する。

メカ喜楽直人
恋愛
さっきまでやってた18禁乙女ゲームの断罪シーンを夢に見てるっぽい? 「アルテシア・シンクレア公爵令嬢、私はお前との婚約を破棄する。このまま修道院に向かい、これまで自分がやってきた行いを深く考え、その罪を贖う一生を終えるがいい!」 冷たい床に顔を押し付けられた屈辱と、両肩を押さえつけられた痛み。 そして、ちらりと顔を上げれば金髪碧眼のザ王子様なキンキラ衣装を身に着けたイケメンが、聞き覚えのある名前を呼んで、婚約破棄を告げているところだった。 自分が夢の中で悪役令嬢になっていることに気が付いた私は、逆ハーに成功したらしい愛され系ヒロインに対抗して自分がヒロインポジを奪い取るべく行動を開始した。

裏切りの公爵令嬢は処刑台で笑う

千 遊雲
恋愛
公爵家令嬢のセルディナ・マクバーレンは咎人である。 彼女は奴隷の魔物に唆され、国を裏切った。投獄された彼女は牢獄の中でも奴隷の男の名を呼んでいたが、処刑台に立たされた彼女を助けようとする者は居なかった。 哀れな彼女はそれでも笑った。英雄とも裏切り者とも呼ばれる彼女の笑みの理由とは? 【現在更新中の「毒殺未遂三昧だった私が王子様の婚約者? 申し訳ありませんが、その令嬢はもう死にました」の元ネタのようなものです】

私を拒絶した王太子をギャフンと言わせるために頑張って来たのですが…何やら雲行きが怪しいです

Karamimi
恋愛
公爵令嬢のセイラは、子供の頃からずっと好きだった王太子、ライムの婚約者選びの為のお茶会に意気揚々と参加した。そんな中ライムが、母親でもある王妃に 「セイラだけは嫌だ。彼女以外ならどんな女性でも構わない。だから、セイラ以外の女性を選ばせてほしい」 と必死に訴えている姿を目撃し、ショックを受ける。さらに王宮使用人たちの話を聞き、自分がいかに皆から嫌われているかを思い知らされる。 確かに私は少し我が儘で気も強い。でも、だからってそこまで嫌がらなくても…悔しくて涙を流すセイラ。 でも、セイラはそこで諦める様な軟な女性ではなかった。 「そこまで私が嫌いなら、完璧な女性になってライムをギャフンと言わせていやる!」 この日から、セイラの王太子をギャフンと言わせる大作戦が始まる。 他サイトでも投稿しています。 ※少し長くなりそうなので、長編に変えました。 よろしくお願いいたしますm(__)m

処理中です...