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3 知ろうともしなかっただけですよね?

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 私が黙り込んでいると、カーミラ様は座ったまま、ラルフ様がいた時とは打って変わって厳しい表情で私を睨みながら言われます。

「ラルフは早くに父を亡くして家督を継いだんです」
「聞き及んでおります」

 私が首を縦に振ると、カーミラ様はまくし立ててこられます。

「私がどれだけ苦労してあの子を育て上げたか、あなたにはわからないでしょう? 本当に大変だったのよ!」
「私には子供がおりませんので、察する事が出来ず、申し訳ございません」
「なら、ラルフに婚約を解消すると言ってちょうだい!」
「承知しました」
「でしょうね。そりゃあ、すぐには無理よね…、って、あなた、今なんて言ったの?」

 お話で読んだことのあるような、お約束な反応という気もするのですが、カーミラ様は呆気にとられた表情で私に聞き返してきました。

 ですので、もう一度言葉にする。

「承知しました、と言いました」
「ちょっと! どういう事なの!? あの子の何が不満だっていうのよ!」

 カーミラ様がまた私を睨みつけて叫びました。

 うーん。
 なんて言葉をお返しするのが正しいんでしょうか。
 婚約を解消しろと言ってきたのはそちらなのに、こちらがわかりましたと頷いた途端、ラルフ様の何が不満なのか、と言われましても…。

「ラルフ様自身というわけではなく、家庭環境…と言ったらいいのでしょうか。このまま一緒に暮らしていくとなりますと、ちょっと難しいと言いますか…」
 
 言葉を選びながら、ゆっくりと口にしていくと、カーミラ様は立ち上がり叫びました。

「うだうだと言い訳はもういいわ! あの子が不満というわけではなく、私が不満という事ね!」
「えっと、そこまでは言っておりませんが…」

 苦笑して首を横に振る。

 たとえ、そう思っていたとしても口に出してしまえば、ただの常識のない人間ですよね?
 それにわざわざ頷けば、余計に面倒くさそうです。

 って、ソラに面倒くさがりと言われていたのでした。

「そう! なら良いの! あ、もう一度言うけれど、私から解消しろだなんて言われただなんて、ラルフに口が裂けても言わないでちょうだいね!」
「お伝えしたらどうなるのです?」
「さっきも言ったでしょう。あなたは確か伯爵家の令嬢だったわよね? 伯爵家を一つ潰すくらい簡単に出来るのよ?」

 そんな権限が辺境伯の母というだけで、ラルフ様の許可なく出来る事なのでしょうか?
 詳しい事はわかりませんが、出来るのかもしれませんし頷いておく。

「わかりました。ラルフ様に言えば、ブルーミング家がなくなるという事ですね」
「あなたは本当に物わかりが良くて助かるわ! 今までのお嬢さん達は、嫌だ、解消したくない、って首を横に振るんだもの。まあ、ラルフは男性としてとても魅力的だから、気持ちがわからないわけではないのだけど」

 ラルフ様を思い浮かべられているのか、カーミラ様はうっとりした目を宙に向けて言われました。

 もしかして、ラルフ様と亡くなられた彼のお父様は顔が似ていたりするんでしょうか?
 だから、カーミラ様はラルフ様に執着しているとか?
 まあ、ラルフ様は素敵ですし、お母様が自慢に思う気持ちもわからないではないですが、ちょっといきすぎな気がします。
 ラルフ様には申し訳ないですが、こんな姑はお断りですので、たぶん駄目だと言われるでしょうけど、婚約を解消する話をしなければなりませんね。
 …そういえば。

「あの、お聞きしても良いでしょうか?」
「何かしら?」
「ラルフ様を結婚させたくない理由があったりするのですか?」
「どういう事?」
「いえ。このままでは、ラルフ様は独身のままですよね?」
「当たり前じゃないの。ラルフをどこの誰だかわからない女に渡すわけにはいかないの!」

 興奮気味に答えてくださいましたが、どこの誰だかは調べればわかりますでしょうに。
 今までだって、ラルフ様のお見合い相手の事を知ろうともしなかっただけですよね?
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