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24 「僕は間違ってなんかない!」

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「ふ、不誠実と言うが、僕は王太子なんだから、ある程度のことは許されるんだ!」
「そうよ! レイシール様は何をしても許されて当たり前なのよ!」

 ロアリン様はレイシール様の肩を持つことにより、今回も助けてもらうつもりのようだった。

 でも、そんなことはさせないわ。

「おーたいしって、えらいんでしゅか?」

 首を傾げてダニエル殿下に尋ねると、ダニエル殿下は苦笑して頷く。

「そうだな。偉い人だな」
「じゃあ、よけーにわるいことしちゃ、だめなんじゃないんでしゅか?」
「そうだな」

 ダニエル殿下は優しい眼差しで私を見つめてから、レイシール様に視線を向ける。

「聞こえましたか? 子供でもわかることがわからない兄上が少し心配になりますね」
「う、うるさい!」

 レイシール様は叫ぶと、八つ当たりするかのように、ロアリン様のほうを向いて怒鳴る。

「せっかく助けてやったのに、この恩知らず! 君とダニエルとの婚約はなくなったんだ! だから、君はこの城内に住む資格はない! 今すぐ出ていけ!」
「そんな! レイシール様!」
「うるさい! もっと重い罰を受けたいのか!?」
「違います! レイシール様! 私はあなたを愛しています! ですから、私があなたを落とし穴に落とそうだなんて思うわけがありません!」
「愛しているだと!? そんな言葉を信用できるわけないだろう! 軽々しく口にするな!」

 レイシール様の言葉を聞いて「それは私のセリフだ」と言いたくなった。

 皆、愛しているという言葉を簡単に使いすぎだわ。
 というか、言えば良いってものじゃないのよ。

「レイシール様! 本当に私はあなたのことを!」
「あら、レイシール様、こんな所にいらしたんですね!」

 ロアリン様が訴えている途中に現れたのは、メイド服姿のベラだった。
 ベラを見たレイシール様の頬が緩む。

「ベラ、僕の好きな服を着てくれているんだね」
「そんなことよりもレイシール様、土がいっぱい付いていますわ。一体、何があったんです?」
「ロアリンに落とし穴に落とされたんだ」
「私ではありません!」

 ロアリン様は金切り声を上げて否定した。

 そんなロアリン様に、ベラは余裕の笑みを見せる。

「まあ怖い! 落とし穴を掘って落としたい相手がいたのかしら」
「そ、そんな訳無いでしょう!」
「レイシール様、怖い!」

 必死の形相で叫ぶロアリン様を、ベラはわざとらしく怖がってみせ、レイシール様にしがみついた。

「レイシール様から離れなさい!」

 何かの糸が切れたかのように、ロアリン様は叫んだかと思うと、ベラに掴みかかった。

「きゃあっ!」
「レイシール様から離れなさいと言っているでしょう!」
「嫌よ!」
「いい加減にしろ、ロアリン!」

 レイシール様が叱責したけど、ベラとロアリン様は取っ組み合いの喧嘩を始めてしまった。

「……行こうか」

 ダニエル殿下が私とデルトロさんに声を掛けてきた。
 あまりにもくだらなすぎて見ていられなかった。

 私たちが頷くと、ダニエル殿下は大きなため息を吐いて、レイシール様に話しかける。

「兄上」
「なんだよ!? 今は忙しいんだ!」
「落とし穴のことも、二人が喧嘩をしていることも、兄上が原因だということを忘れないでください」
「そうでしゅ。ふせーじつだからだめなんでしゅ! ロアリンしゃまもよくないでしゅが、レイシールしゃまが、さいしょから、しゅきなひとは、けっこんしゅるまでは、ひとりだけにしておけば、よかったはなしでしゅ」

 ダニエル殿下の言葉に付け足すと、レイシール様は叫ぶ。

「うるさい! 僕は間違ってなんかない!」

 まるで耳が痛くなる話は聞きたくないと言わんばかりに、レイシール様は私たちに背中を向けた。

 その後は、私とデルトロさんとダニエル殿下で、私の部屋へ向かった。
 私の部屋で三人で話をしながら、夕食をとった後、雑談をしていると、私の部屋にダニエル殿下の側近がやって来た。

「ダニエル殿下、ロアリン様が城内から追い出されました」
「……そうか。報告ありがとう」

 ダニエル殿下は頷いてから、部屋の扉を閉めて、私たちに目を向けた。

「聞こえたよな?」
「はい」

 城内から追い出されたというのは、どんな状態なのかしら。
 まさか、着の身着のままで追い出したんじゃないわよね?

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