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6  「コーンスープが出なかったか?」

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 今日の晩から、食事は自分で厨房まで行って、作る工程を確認することにした。
 その場で毒見をしてもらってから、近くにある使用人たちが使う食堂で食事をしようと考えたのだ。
 自分の部屋で食事をすることも考えた。
 でも、一人で倒れた場合、発見が遅れて……という最悪の場合を考えて、人前で食べることに決めた。

 レイシール様と一緒に食べるのは気分的に嫌だったから選択肢に入れなかった。
 両陛下は自室で食事をとられるから、ご一緒することはできないし余計にだ。

 今日の夜は、パンとコーンスープ、茹でた野菜とマッシュポテトにステーキだった。

 いつもの毒見役は今日は休みの日らしく、違う女性が毒見をしてくれた。

 少し時間を空けてから、食事を済ませる。

 特に味が変だったというわけではなく、違和感もなく食事を終えた。

 毒見に時間がかかってしまったため、多くいた使用人たちも食べ終えた頃にはまばらになっていた。
 食器を返し、食堂を出ようとしたところで、ダニエル殿下と出くわした。

 ダニエル殿下は私を見て驚いた顔をする。

「どうしてこんなところに?」

 あなたの婚約者に命を狙われているからです。

 と言ってもいいものか迷う。

 ダニエル殿下は私よりも一つ年下だ。
 それでも、長身痩躯に眉目秀麗という、見た目に非の打ち所がないせいか、勝手に苦手意識を持ってしまい、年下だということを忘れてしまう。
 漆黒の黒髪で後ろ髪の一部だけが少し長いという変わった髪型をしていて、その一部はまるで動物の尻尾みたいに見える。
 私よりも薄いオレンジ色の瞳をついつい見つめてしまっていると、ダニエル殿下はなぜか焦った顔をした。
 
 答えを返していないことを思い出すと同時に、彼がここにいることも変だと思って首を傾げる。

「諸事情で人の多いところで食べることに決めたんです。ダニエル殿下こそ、どうしてこちらに?」
「兄上は僕と一緒に食べることを嫌がるから、一人で食べることにしたんだ」
「そうだったんですね。では、お部屋で食事をされてはいかがでしょう?」
「片付けが面倒だから」
「メイドがやってくれるのでは?」
「仕事を増やすみたいで嫌なんだ」

 ダニエル殿下はほとんど初対面の私に対して、嫌な顔を一つせずに質問に答えてくれた。

 あんなお兄様ですし、一緒に食べないほうが気が楽ではないですか?

 と言いたくなるのを何とかこらえた。

 ここ何日か、我慢ばかりしている。
 愚痴を言える相手が欲しくてたまらない。

 ダニエル殿下はレイシール様の味方ではなさそうだし、話が合うかしら?

「実は、ロアリン様から脅迫されていまして、レイシール様と食事をとることは良くないかと思ったんです」
「ロアリン嬢から脅迫? 一体、どういうこと?」

 ダニエル殿下に聞き返された時、突然、胸が苦しくなった。

「どうしたんだ!?」

 その場に崩れ落ちた私にダニエル殿下がしゃがみ込んで叫ぶ。
 
「あ……」

 胸が苦しくて言葉が出ない。

 どんどん、視界が狭くなっていく。
 
 どういうこと?
 さっきの食事に毒が入っていたの?

 胸だけではなく、全身が痛くなってきた。
 何の毒なの?
 レイシール様のことで死ぬなんて絶対に嫌よ!

 そう思った時、急に体が楽になった。

「エアリー嬢! 今日、もしかして、食事にコーンスープが出なかったか?」
「は、はい」
「君はロアリン嬢に脅迫されていると言ったよね?」
「ふぁい」

 体はもう苦しくないのに、視界は狭いし、さっきよりもダニエル殿下が大きく見える。
 しかも、何だか体がスースーする。

「ほあっ!?」

 その時、私は気が付いた。
 自分の体が自分が着ていたはずの服に埋まっていることを。

「失礼する」

 騒ぎを聞きつけた人が集まってきたからか、ダニエル殿下は私に向かって一声掛けると、私の服ごと私を抱きかかえて、急いで食堂を出た。

「ダニエルでんか、わたし」
「あなたはロアリン嬢に殺されかけた。でも、俺の友人があなたを助けたらしい。いや、助けるなら、こんなことをするなよという話だが」

 パニックになっている私を落ち着かせるように、ダニエル殿下は小走りでどこかへ向かいながら、私の背中を優しく撫でる。

 ダニエル殿下の腕の中でもぞもぞと体を動かし、窓に映る自分を見た。

 窓の中に映った自分らしきものは、2歳児くらいの幼女だった。
 
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