上 下
29 / 42
第一部

28 重いとか思われたらどうするんですか

しおりを挟む
「あの、ありがとうございました」
「ルイス様がいたら、絶対に助けてやれと言われていたと思うからやっただけだから、別に気にしなくていいわよ」
「いいえ! 本当に助かりました!」

 よく見てみると、顔見知りのメイドだったこともあり、何があったのか尋ねてみた。
 すると、エレストさんから、シャツからとれたボタンを縫うようにお願いされたのはいいけれど、彼女は裁縫が得意ではなく、綺麗にボタンが付けられず、何度もエレストさんから駄目だしを食らっていたらしい。

 自分が引き受けたなら、自分でやりなさいよ。
 しかも駄目出しするなんて意味がわからない。
 自分でやればよいのに。

 と私なら言ってしまいそうだけど、彼女は言えなかったみたいだった。 

 それに、裁縫が得意ではないと言っているけれど、仕上がったものを見たら、別に違和感もないし、駄目だと言われた理由がさっぱりわからなかった。
 ちょっとした嫌がらせみたいなもんかしら。

 そのため、また文句を言われてもいい様に、私がわざわざやり直し、何か文句があるなら私に言うようにと、エレストさんに伝える様に言った。

「これ、誰のシャツ?」 
「護衛騎士の方のものらしいです」
「どうしてノッカス邸のメイドが騎士のシャツのボタンをつけてあげないといけないの?」
「それは……、私にはわかりません。エレストさんの命令です」

 なぜ、後から入ってきたメイドに命令されているのよ。

 気の弱そうな子だし、もしかしたら昔から面倒な事は押し付けられているのかもしれない。

「別に彼女が偉いわけじゃないでしょう? 断ったら?」
「エレストさんがここに来れたのは、北の辺境伯夫人の紹介らしいです。それにエレストさんは玉の輿狙いで有名みたいです。もし、玉の輿にのってしまったら……」
「玉の輿狙い?」
「ええ。ですから、ルイス様を狙ってらっしゃるのではないかと……」
「え? そうなの?」
「はい。他のメイド達が話しているのを聞きました」

 ルイス様を狙っているなんて、まあ、玉の輿狙いならそうなるわよね。
 今までの人間なら、年齢の問題かどうかわからないけれど、アットンを狙う子が多かった。
 だけど、アットンは伯爵、ルイス様は次期公爵なのだから、賢い人間はルイス様に目をつけるはず。
 エレストさんのことは好きにはなれそうにないけど、ルイス様に目をつけたことは称賛しても良い気がする。

 もちろん、ルイス様はラナの旦那様になるんだから、渡しませんけどね。

「教えてくれてありがとう」

 話をしたせいで思ったよりも時間がかかってしまった。
 礼を言ってから、慌てて厨房に戻ると、どこへ行っていたのかと料理長から怒られたので、ひたすら謝った。

「お待たせしました、ルイス様」
「かまわん。でも、思ったより時間がかかったな。トラブルでも会ったのか?」

 それから急いで、ルイス様のところに戻ると、思った以上に戻るのに時間がかかっていたため、何かあったのかと心配してくださっていたみたいで、ホッとした表情をされた。

 紅茶をいれた後、先程のやり取りを話し終えて、今度はルイス様にエレストさんの様子はどうだったか聞いてみると、ルイス様は首を傾げた。

「特に変わった様子はなかったが、まあ、あるとしたら、さっきも言ったがフィリアに意地悪されているという嘘をつかれたことくらいか」
「私のことを信じていただき、ありがとうございます」
「当たり前の話だろう? フィリアはそういうタイプじゃないことくらいわかっている。いじめるくらいなら、関わろうとしないタイプだろう? もしくは、いじめられてる相手を助けるタイプだ」
「そうですね。好きじゃない相手にわざわざ話しかけたくないですから」
「それにしても、どうして彼女はそんな嘘をついたんだろうか?」

 ルイス様が胸の前で腕を組んで考え込む。

 素直に伝えても良いものか。
 告げ口するみたいで嫌だけれど、ルイス様自身に関わることだし、伝えておくことにする。

「ルイス様のことがお好きなのかもしれませんね」
「どうしてそうなるんだ?」
「ルイス様の専属メイドになって、そこからお近付きになり、ゆくゆくは結婚したいと思われているのかも? あ、これは勝手な想像で、本人に聞いたわけではございませんので!」
「俺と結婚? 公爵夫人の座を狙っているということか?」
「そうなのではないかな、と思いました。もちろん、本当かはわかりませんが……」
「まあ、自分が専属メイドになりたいから、フィリアのことを悪く言ったと言われれば、説明はつくかもしれないが納得はできんな」

 ルイス様はお茶を一口飲んでから続ける。

「俺はそんな嘘に騙される人間に見えるのか?」
「見える見えないは別として、ルイス様はまだ8歳ですから、騙されると思っているのでは?」
「なめられたもんだな! 俺はそう簡単に人を好きにはならないぞ!」
「ラナのことは一目惚れでしたよね?」
「そ、それはそれだ! 内面の良さが外面にも溢れ出ていたんだから、しょうがないだろう!」
「それはしょうがないですね!」

 納得すると、ルイス様は満足そうに頷いたけれど、すぐに表情を歪めた。

「さすがに俺も婚約者を決めなければいけない年齢になっているのかもしれないな」
「そうですね。早い人はもっと早くから決まっていますから」
「……フィリア! 俺は頑張るぞ!」

 突然、宣言してくるルイス様に首を傾げる。

「どうされました?」
「ラナ嬢に俺のことを好きになってもらい、両思いになったら、父上達に許可を取り、ラナ嬢にプロポーズする! そして良い返事をもらえたら、ご両親に挨拶を!」
「ふられたり、重いと思われたらどうするんですか」

 両拳を握りしめて力説していたルイス様の言葉を遮って尋ねると、ルイス様が情けない顔で叫ぶ。

「どうしてそんな冷たいことを言うんだ!?」
「8歳の子供が言うセリフではないかと思いまして」
「俺は次期公爵だぞ!? それくらい考えてもおかしくないだろう!?」
「ラナの気持ちを考えて下さいね」
「う……。き、きっと、ラナ嬢なら受け入れて……」
「まずは両思いになれるように頑張らないとですね!」
「うう。それはまあ、そうなんだが、おかしいな。こんな話をしていたわけではなかった様な……?」

 ルイス様の言葉を聞いて、私も話が脱線してしまっていることに気が付いたのだった。
しおりを挟む
感想 54

あなたにおすすめの小説

交換された花嫁

秘密 (秘翠ミツキ)
恋愛
「お姉さんなんだから我慢なさい」 お姉さんなんだから…お姉さんなんだから… 我儘で自由奔放な妹の所為で昔からそればかり言われ続けてきた。ずっと我慢してきたが。公爵令嬢のヒロインは16歳になり婚約者が妹と共に出来きたが…まさかの展開が。 「お姉様の婚約者頂戴」 妹がヒロインの婚約者を寝取ってしまい、終いには頂戴と言う始末。両親に話すが…。 「お姉さんなのだから、交換して上げなさい」 流石に婚約者を交換するのは…不味いのでは…。 結局ヒロインは妹の要求通りに婚約者を交換した。 そしてヒロインは仕方無しに嫁いで行くが、夫である第2王子にはどうやら想い人がいるらしく…。

蔑ろにされた王妃と見限られた国王

奏千歌
恋愛
※最初に公開したプロット版はカクヨムで公開しています 国王陛下には愛する女性がいた。 彼女は陛下の初恋の相手で、陛下はずっと彼女を想い続けて、そして大切にしていた。 私は、そんな陛下と結婚した。 国と王家のために、私達は結婚しなければならなかったから、結婚すれば陛下も少しは変わるのではと期待していた。 でも結果は……私の理想を打ち砕くものだった。 そしてもう一つ。 私も陛下も知らないことがあった。 彼女のことを。彼女の正体を。

この度、皆さんの予想通り婚約者候補から外れることになりました。ですが、すぐに結婚することになりました。

鶯埜 餡
恋愛
 ある事件のせいでいろいろ言われながらも国王夫妻の働きかけで王太子の婚約者候補となったシャルロッテ。  しかし当の王太子ルドウィックはアリアナという男爵令嬢にべったり。噂好きな貴族たちはシャルロッテに婚約者候補から外れるのではないかと言っていたが

一年で死ぬなら

朝山みどり
恋愛
一族のお食事会の主な話題はクレアをばかにする事と同じ年のいとこを褒めることだった。 理不尽と思いながらもクレアはじっと下を向いていた。 そんなある日、体の不調が続いたクレアは医者に行った。 そこでクレアは心臓が弱っていて、余命一年とわかった。 一年、我慢しても一年。好きにしても一年。吹っ切れたクレアは・・・・・

平凡令嬢の婚活事情〜あの人だけは、絶対ナイから!〜

本見りん
恋愛
「……だから、ミランダは無理だって!!」  王立学園に通う、ミランダ シュミット伯爵令嬢17歳。  偶然通りかかった学園の裏庭でミランダ本人がここにいるとも知らず噂しているのはこの学園の貴族令息たち。  ……彼らは、決して『高嶺の花ミランダ』として噂している訳ではない。  それは、ミランダが『平凡令嬢』だから。  いつからか『平凡令嬢』と噂されるようになっていたミランダ。『絶賛婚約者募集中』の彼女にはかなり不利な状況。  チラリと向こうを見てみれば、1人の女子生徒に3人の男子学生が。あちらも良くない噂の方々。  ……ミランダは、『あの人達だけはナイ!』と思っていだのだが……。 3万字少しの短編です。『完結保証』『ハッピーエンド』です!

骸骨と呼ばれ、生贄になった王妃のカタの付け方

ウサギテイマーTK
恋愛
骸骨娘と揶揄され、家で酷い扱いを受けていたマリーヌは、国王の正妃として嫁いだ。だが結婚後、国王に愛されることなく、ここでも幽閉に近い扱いを受ける。側妃はマリーヌの義姉で、公式行事も側妃が請け負っている。マリーヌに与えられた最後の役割は、海の神への生贄だった。 注意:地震や津波の描写があります。ご注意を。やや残酷な描写もあります。

会うたびに、貴方が嫌いになる

黒猫子猫(猫子猫)
恋愛
長身の王女レオーネは、侯爵家令息のアリエスに会うたびに惹かれた。だが、守り役に徹している彼が応えてくれたことはない。彼女が聖獣の力を持つために発情期を迎えた時も、身体を差し出して鎮めてくれこそしたが、その後も変わらず塩対応だ。悩むレオーネは、彼が自分とは正反対の可愛らしい令嬢と親しくしているのを目撃してしまう。優しく笑いかけ、「小さい方が良い」と褒めているのも聞いた。失恋という現実を受け入れるしかなかったレオーネは、二人の妨げになるまいと決意した。 アリエスは嫌そうに自分を遠ざけ始めたレオーネに、動揺を隠せなくなった。彼女が演技などではなく、本気でそう思っていると分かったからだ。

婚約破棄が国を亡ぼす~愚かな王太子たちはそれに気づかなかったようで~

みやび
恋愛
冤罪で婚約破棄などする国の先などたかが知れている。 全くの無実で婚約を破棄された公爵令嬢。 それをあざ笑う人々。 そんな国が亡びるまでほとんど時間は要らなかった。

処理中です...