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第一部
28 重いとか思われたらどうするんですか
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「あの、ありがとうございました」
「ルイス様がいたら、絶対に助けてやれと言われていたと思うからやっただけだから、別に気にしなくていいわよ」
「いいえ! 本当に助かりました!」
よく見てみると、顔見知りのメイドだったこともあり、何があったのか尋ねてみた。
すると、エレストさんから、シャツからとれたボタンを縫うようにお願いされたのはいいけれど、彼女は裁縫が得意ではなく、綺麗にボタンが付けられず、何度もエレストさんから駄目だしを食らっていたらしい。
自分が引き受けたなら、自分でやりなさいよ。
しかも駄目出しするなんて意味がわからない。
自分でやればよいのに。
と私なら言ってしまいそうだけど、彼女は言えなかったみたいだった。
それに、裁縫が得意ではないと言っているけれど、仕上がったものを見たら、別に違和感もないし、駄目だと言われた理由がさっぱりわからなかった。
ちょっとした嫌がらせみたいなもんかしら。
そのため、また文句を言われてもいい様に、私がわざわざやり直し、何か文句があるなら私に言うようにと、エレストさんに伝える様に言った。
「これ、誰のシャツ?」
「護衛騎士の方のものらしいです」
「どうしてノッカス邸のメイドが騎士のシャツのボタンをつけてあげないといけないの?」
「それは……、私にはわかりません。エレストさんの命令です」
なぜ、後から入ってきたメイドに命令されているのよ。
気の弱そうな子だし、もしかしたら昔から面倒な事は押し付けられているのかもしれない。
「別に彼女が偉いわけじゃないでしょう? 断ったら?」
「エレストさんがここに来れたのは、北の辺境伯夫人の紹介らしいです。それにエレストさんは玉の輿狙いで有名みたいです。もし、玉の輿にのってしまったら……」
「玉の輿狙い?」
「ええ。ですから、ルイス様を狙ってらっしゃるのではないかと……」
「え? そうなの?」
「はい。他のメイド達が話しているのを聞きました」
ルイス様を狙っているなんて、まあ、玉の輿狙いならそうなるわよね。
今までの人間なら、年齢の問題かどうかわからないけれど、アットンを狙う子が多かった。
だけど、アットンは伯爵、ルイス様は次期公爵なのだから、賢い人間はルイス様に目をつけるはず。
エレストさんのことは好きにはなれそうにないけど、ルイス様に目をつけたことは称賛しても良い気がする。
もちろん、ルイス様はラナの旦那様になるんだから、渡しませんけどね。
「教えてくれてありがとう」
話をしたせいで思ったよりも時間がかかってしまった。
礼を言ってから、慌てて厨房に戻ると、どこへ行っていたのかと料理長から怒られたので、ひたすら謝った。
「お待たせしました、ルイス様」
「かまわん。でも、思ったより時間がかかったな。トラブルでも会ったのか?」
それから急いで、ルイス様のところに戻ると、思った以上に戻るのに時間がかかっていたため、何かあったのかと心配してくださっていたみたいで、ホッとした表情をされた。
紅茶をいれた後、先程のやり取りを話し終えて、今度はルイス様にエレストさんの様子はどうだったか聞いてみると、ルイス様は首を傾げた。
「特に変わった様子はなかったが、まあ、あるとしたら、さっきも言ったがフィリアに意地悪されているという嘘をつかれたことくらいか」
「私のことを信じていただき、ありがとうございます」
「当たり前の話だろう? フィリアはそういうタイプじゃないことくらいわかっている。いじめるくらいなら、関わろうとしないタイプだろう? もしくは、いじめられてる相手を助けるタイプだ」
「そうですね。好きじゃない相手にわざわざ話しかけたくないですから」
「それにしても、どうして彼女はそんな嘘をついたんだろうか?」
ルイス様が胸の前で腕を組んで考え込む。
素直に伝えても良いものか。
告げ口するみたいで嫌だけれど、ルイス様自身に関わることだし、伝えておくことにする。
「ルイス様のことがお好きなのかもしれませんね」
「どうしてそうなるんだ?」
「ルイス様の専属メイドになって、そこからお近付きになり、ゆくゆくは結婚したいと思われているのかも? あ、これは勝手な想像で、本人に聞いたわけではございませんので!」
「俺と結婚? 公爵夫人の座を狙っているということか?」
「そうなのではないかな、と思いました。もちろん、本当かはわかりませんが……」
「まあ、自分が専属メイドになりたいから、フィリアのことを悪く言ったと言われれば、説明はつくかもしれないが納得はできんな」
ルイス様はお茶を一口飲んでから続ける。
「俺はそんな嘘に騙される人間に見えるのか?」
「見える見えないは別として、ルイス様はまだ8歳ですから、騙されると思っているのでは?」
「なめられたもんだな! 俺はそう簡単に人を好きにはならないぞ!」
「ラナのことは一目惚れでしたよね?」
「そ、それはそれだ! 内面の良さが外面にも溢れ出ていたんだから、しょうがないだろう!」
「それはしょうがないですね!」
納得すると、ルイス様は満足そうに頷いたけれど、すぐに表情を歪めた。
「さすがに俺も婚約者を決めなければいけない年齢になっているのかもしれないな」
「そうですね。早い人はもっと早くから決まっていますから」
「……フィリア! 俺は頑張るぞ!」
突然、宣言してくるルイス様に首を傾げる。
「どうされました?」
「ラナ嬢に俺のことを好きになってもらい、両思いになったら、父上達に許可を取り、ラナ嬢にプロポーズする! そして良い返事をもらえたら、ご両親に挨拶を!」
「ふられたり、重いと思われたらどうするんですか」
両拳を握りしめて力説していたルイス様の言葉を遮って尋ねると、ルイス様が情けない顔で叫ぶ。
「どうしてそんな冷たいことを言うんだ!?」
「8歳の子供が言うセリフではないかと思いまして」
「俺は次期公爵だぞ!? それくらい考えてもおかしくないだろう!?」
「ラナの気持ちを考えて下さいね」
「う……。き、きっと、ラナ嬢なら受け入れて……」
「まずは両思いになれるように頑張らないとですね!」
「うう。それはまあ、そうなんだが、おかしいな。こんな話をしていたわけではなかった様な……?」
ルイス様の言葉を聞いて、私も話が脱線してしまっていることに気が付いたのだった。
「ルイス様がいたら、絶対に助けてやれと言われていたと思うからやっただけだから、別に気にしなくていいわよ」
「いいえ! 本当に助かりました!」
よく見てみると、顔見知りのメイドだったこともあり、何があったのか尋ねてみた。
すると、エレストさんから、シャツからとれたボタンを縫うようにお願いされたのはいいけれど、彼女は裁縫が得意ではなく、綺麗にボタンが付けられず、何度もエレストさんから駄目だしを食らっていたらしい。
自分が引き受けたなら、自分でやりなさいよ。
しかも駄目出しするなんて意味がわからない。
自分でやればよいのに。
と私なら言ってしまいそうだけど、彼女は言えなかったみたいだった。
それに、裁縫が得意ではないと言っているけれど、仕上がったものを見たら、別に違和感もないし、駄目だと言われた理由がさっぱりわからなかった。
ちょっとした嫌がらせみたいなもんかしら。
そのため、また文句を言われてもいい様に、私がわざわざやり直し、何か文句があるなら私に言うようにと、エレストさんに伝える様に言った。
「これ、誰のシャツ?」
「護衛騎士の方のものらしいです」
「どうしてノッカス邸のメイドが騎士のシャツのボタンをつけてあげないといけないの?」
「それは……、私にはわかりません。エレストさんの命令です」
なぜ、後から入ってきたメイドに命令されているのよ。
気の弱そうな子だし、もしかしたら昔から面倒な事は押し付けられているのかもしれない。
「別に彼女が偉いわけじゃないでしょう? 断ったら?」
「エレストさんがここに来れたのは、北の辺境伯夫人の紹介らしいです。それにエレストさんは玉の輿狙いで有名みたいです。もし、玉の輿にのってしまったら……」
「玉の輿狙い?」
「ええ。ですから、ルイス様を狙ってらっしゃるのではないかと……」
「え? そうなの?」
「はい。他のメイド達が話しているのを聞きました」
ルイス様を狙っているなんて、まあ、玉の輿狙いならそうなるわよね。
今までの人間なら、年齢の問題かどうかわからないけれど、アットンを狙う子が多かった。
だけど、アットンは伯爵、ルイス様は次期公爵なのだから、賢い人間はルイス様に目をつけるはず。
エレストさんのことは好きにはなれそうにないけど、ルイス様に目をつけたことは称賛しても良い気がする。
もちろん、ルイス様はラナの旦那様になるんだから、渡しませんけどね。
「教えてくれてありがとう」
話をしたせいで思ったよりも時間がかかってしまった。
礼を言ってから、慌てて厨房に戻ると、どこへ行っていたのかと料理長から怒られたので、ひたすら謝った。
「お待たせしました、ルイス様」
「かまわん。でも、思ったより時間がかかったな。トラブルでも会ったのか?」
それから急いで、ルイス様のところに戻ると、思った以上に戻るのに時間がかかっていたため、何かあったのかと心配してくださっていたみたいで、ホッとした表情をされた。
紅茶をいれた後、先程のやり取りを話し終えて、今度はルイス様にエレストさんの様子はどうだったか聞いてみると、ルイス様は首を傾げた。
「特に変わった様子はなかったが、まあ、あるとしたら、さっきも言ったがフィリアに意地悪されているという嘘をつかれたことくらいか」
「私のことを信じていただき、ありがとうございます」
「当たり前の話だろう? フィリアはそういうタイプじゃないことくらいわかっている。いじめるくらいなら、関わろうとしないタイプだろう? もしくは、いじめられてる相手を助けるタイプだ」
「そうですね。好きじゃない相手にわざわざ話しかけたくないですから」
「それにしても、どうして彼女はそんな嘘をついたんだろうか?」
ルイス様が胸の前で腕を組んで考え込む。
素直に伝えても良いものか。
告げ口するみたいで嫌だけれど、ルイス様自身に関わることだし、伝えておくことにする。
「ルイス様のことがお好きなのかもしれませんね」
「どうしてそうなるんだ?」
「ルイス様の専属メイドになって、そこからお近付きになり、ゆくゆくは結婚したいと思われているのかも? あ、これは勝手な想像で、本人に聞いたわけではございませんので!」
「俺と結婚? 公爵夫人の座を狙っているということか?」
「そうなのではないかな、と思いました。もちろん、本当かはわかりませんが……」
「まあ、自分が専属メイドになりたいから、フィリアのことを悪く言ったと言われれば、説明はつくかもしれないが納得はできんな」
ルイス様はお茶を一口飲んでから続ける。
「俺はそんな嘘に騙される人間に見えるのか?」
「見える見えないは別として、ルイス様はまだ8歳ですから、騙されると思っているのでは?」
「なめられたもんだな! 俺はそう簡単に人を好きにはならないぞ!」
「ラナのことは一目惚れでしたよね?」
「そ、それはそれだ! 内面の良さが外面にも溢れ出ていたんだから、しょうがないだろう!」
「それはしょうがないですね!」
納得すると、ルイス様は満足そうに頷いたけれど、すぐに表情を歪めた。
「さすがに俺も婚約者を決めなければいけない年齢になっているのかもしれないな」
「そうですね。早い人はもっと早くから決まっていますから」
「……フィリア! 俺は頑張るぞ!」
突然、宣言してくるルイス様に首を傾げる。
「どうされました?」
「ラナ嬢に俺のことを好きになってもらい、両思いになったら、父上達に許可を取り、ラナ嬢にプロポーズする! そして良い返事をもらえたら、ご両親に挨拶を!」
「ふられたり、重いと思われたらどうするんですか」
両拳を握りしめて力説していたルイス様の言葉を遮って尋ねると、ルイス様が情けない顔で叫ぶ。
「どうしてそんな冷たいことを言うんだ!?」
「8歳の子供が言うセリフではないかと思いまして」
「俺は次期公爵だぞ!? それくらい考えてもおかしくないだろう!?」
「ラナの気持ちを考えて下さいね」
「う……。き、きっと、ラナ嬢なら受け入れて……」
「まずは両思いになれるように頑張らないとですね!」
「うう。それはまあ、そうなんだが、おかしいな。こんな話をしていたわけではなかった様な……?」
ルイス様の言葉を聞いて、私も話が脱線してしまっていることに気が付いたのだった。
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