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第一部
8 ふざけないで!
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悩みながらも招待状を持ち帰ったその日の夜、ジェイコブはダイアナ嬢に相変わらずメロメロな様だけれど、父親からはノッカス公爵家と、つながりのある私を逃がすなと言われているのもあってか、突然、我が家を訪ねてきた。
私が殴る前よりも鼻が曲がっている様な気がするんだけど、気にしないでおくことにする。
本来なら門前払いしたいところだけれど、お父様の立場上は厳しいので、とりあえず会ってみた。
「迷惑だから帰ってくれる?」
「フィリア、胸を大きくするには、どうしたら良いか知ってる?」
「は? 知りたくないから口にしなくていいわよ」
冷静になって思う。
なぜ、私はこんな人と結婚しようとしていたのか……。
政略結婚ということが一番にしても、気に入っていたことは確かだ。
やはり、顔だったの?
いやいや、守りたくなる様な人だったからであって、こんな性的な発言をしてくる様な人だったからではない。
こんな不快な発言をされたので、警察を呼んでもいいのだけど、彼らの仕事を増やすのも悪い気がして、少しの会話をした後は、屋敷の騎士に外へ放り出してもらっている。
律儀に応対してやる必要もないのだけど、まだ、婚約破棄が出来ていない以上、彼からの婚約破棄を認めてもらうようにお願いしなければならない。
何で、私がお願いしなければならないの!?
「フィリア、また明日も来るよ。僕としては、ダイアナを隠さなくて良くなった今は、隠すものは何もないし、君と結婚して、ダイアナを愛人にすれば良いだけの話になったからね。それに、結婚したら、君だって僕に股を開くだろう?」
「ふざけないで!」
声に出しただけのつもりだったけど、身体が勝手に動いていて、ジェイコブの頬と腹に流れる様にパンチを入れてしまった。
ジェイコブは私の足元に転がって苦しんでいる。
「さようなら」
玄関前の騎士が気をきかせて、玄関の扉を大きく開け放ってくれたので、私はそのまま、彼をボールの様に蹴り飛ばして、家から追い出して差し上げた。
エイミー様達に相談すれば、何とかしてもらえるのかもしれないけれど、私達の婚約は口約束ではないから、ジェイコブの家の了承を得ない限りは難しい。
普通、浮気した時点で契約不履行な気がするんだけど、それは私達が思う常識であって、ジェイコブの家では常識ではないみたいだった。
ノッカス公爵閣下に教えてもらって知ったのだけど、彼のお父様には未だに何人も愛人がいるらしい。
だから、息子の婚前交渉が出来なくて、辛い気持ちはわかると周りに話をしているとのことだった。
それに、男性の婚前交渉は認められているから、ジェイコブ自体はただ浮気をしただけ。
しかも、私を思って、彼女との関係を続けていると開き直っている。
これまた、意味がわからない!
どうにかして、婚約破棄してもらわないと!
ノッカス公爵家との縁は切りたくない。
イベントに行くことで婚約破棄してもらえるかはわからないけれど、望みがあるのなら行ってみるしかないわね。
******
夢を見た。
小さい頃の夢。
『わたし、将来、……のお嫁さんになってあげる』
『別にいらないよ。君にはもっと良い人がいるよ』
『やだ。わたし、お嫁さんになる。だから、ほかの人を好きになっちゃだめだよ?』
『勝手だな』
『かって、って何? 何か買ってほしいの?』
『違うよ。君はどうせ、次の日には僕を忘れるんだろう?』
『覚えてるよ! ずーっと覚えてる!』
『信用できない』
呆れ返ったような、この口調。
珍しいものではない。
けれど、誰かに似ているような気がした。
******
結局、レストランにはアットンに一緒に行ってもらうことに決めた。
ルイス様経由でお願いすると、特に嫌がる様子もなく承諾してくれたらしい。
当日の夜、髪をシニヨンにして、黒の膝丈のワンショルダーのドレスに身を包み、待ち合わせしていた店の前に行くと、紺のスーツ姿のアットンがいた。
「今日はごめんなさい」
「気にしてないよ。こっちこそ、迎えに行かなくてごめん」
「それは私が断ったんだから良いのよ」
アットンが私を迎えに来たりしたら、家族だけでなく、使用人達も誤解しそうだわ。
「自分の息子が婚約を破棄したいって言い出したのに、婚約破棄どころか、解消もしてくれないなんて無茶苦茶だな」
「悪いと思ってない人に何を言っても無駄ってことよ」
「今回のイベントでは、どうするつもり? 証拠を集めるとかしたらいいのかな?」
アットンが思ったより協力的なことに驚きながら、私は素直に答える。
「浮気に関しては開き直ってるから駄目よ。だから、責任をとらせるようなことをしてもらわないと」
「例えば?」
「というか、あの二人に子供が出来ないかしら」
「それは僕達ではどうしようもできないだろ。まあ、今の状態が続けば、近い内に出来るかもしれないけど」
「そうね。何度も関係しているみたいだしね」
頷いてから、気合を入れてアットンにお願いする。
「ジェイコブに椅子を投げつけそうになったら止めてくれる?」
「……止めるよ」
「ありがとう」
アットンは呆れた顔をしていたけれど、気にせずに、気合を入れて店に入ることにした。
私が殴る前よりも鼻が曲がっている様な気がするんだけど、気にしないでおくことにする。
本来なら門前払いしたいところだけれど、お父様の立場上は厳しいので、とりあえず会ってみた。
「迷惑だから帰ってくれる?」
「フィリア、胸を大きくするには、どうしたら良いか知ってる?」
「は? 知りたくないから口にしなくていいわよ」
冷静になって思う。
なぜ、私はこんな人と結婚しようとしていたのか……。
政略結婚ということが一番にしても、気に入っていたことは確かだ。
やはり、顔だったの?
いやいや、守りたくなる様な人だったからであって、こんな性的な発言をしてくる様な人だったからではない。
こんな不快な発言をされたので、警察を呼んでもいいのだけど、彼らの仕事を増やすのも悪い気がして、少しの会話をした後は、屋敷の騎士に外へ放り出してもらっている。
律儀に応対してやる必要もないのだけど、まだ、婚約破棄が出来ていない以上、彼からの婚約破棄を認めてもらうようにお願いしなければならない。
何で、私がお願いしなければならないの!?
「フィリア、また明日も来るよ。僕としては、ダイアナを隠さなくて良くなった今は、隠すものは何もないし、君と結婚して、ダイアナを愛人にすれば良いだけの話になったからね。それに、結婚したら、君だって僕に股を開くだろう?」
「ふざけないで!」
声に出しただけのつもりだったけど、身体が勝手に動いていて、ジェイコブの頬と腹に流れる様にパンチを入れてしまった。
ジェイコブは私の足元に転がって苦しんでいる。
「さようなら」
玄関前の騎士が気をきかせて、玄関の扉を大きく開け放ってくれたので、私はそのまま、彼をボールの様に蹴り飛ばして、家から追い出して差し上げた。
エイミー様達に相談すれば、何とかしてもらえるのかもしれないけれど、私達の婚約は口約束ではないから、ジェイコブの家の了承を得ない限りは難しい。
普通、浮気した時点で契約不履行な気がするんだけど、それは私達が思う常識であって、ジェイコブの家では常識ではないみたいだった。
ノッカス公爵閣下に教えてもらって知ったのだけど、彼のお父様には未だに何人も愛人がいるらしい。
だから、息子の婚前交渉が出来なくて、辛い気持ちはわかると周りに話をしているとのことだった。
それに、男性の婚前交渉は認められているから、ジェイコブ自体はただ浮気をしただけ。
しかも、私を思って、彼女との関係を続けていると開き直っている。
これまた、意味がわからない!
どうにかして、婚約破棄してもらわないと!
ノッカス公爵家との縁は切りたくない。
イベントに行くことで婚約破棄してもらえるかはわからないけれど、望みがあるのなら行ってみるしかないわね。
******
夢を見た。
小さい頃の夢。
『わたし、将来、……のお嫁さんになってあげる』
『別にいらないよ。君にはもっと良い人がいるよ』
『やだ。わたし、お嫁さんになる。だから、ほかの人を好きになっちゃだめだよ?』
『勝手だな』
『かって、って何? 何か買ってほしいの?』
『違うよ。君はどうせ、次の日には僕を忘れるんだろう?』
『覚えてるよ! ずーっと覚えてる!』
『信用できない』
呆れ返ったような、この口調。
珍しいものではない。
けれど、誰かに似ているような気がした。
******
結局、レストランにはアットンに一緒に行ってもらうことに決めた。
ルイス様経由でお願いすると、特に嫌がる様子もなく承諾してくれたらしい。
当日の夜、髪をシニヨンにして、黒の膝丈のワンショルダーのドレスに身を包み、待ち合わせしていた店の前に行くと、紺のスーツ姿のアットンがいた。
「今日はごめんなさい」
「気にしてないよ。こっちこそ、迎えに行かなくてごめん」
「それは私が断ったんだから良いのよ」
アットンが私を迎えに来たりしたら、家族だけでなく、使用人達も誤解しそうだわ。
「自分の息子が婚約を破棄したいって言い出したのに、婚約破棄どころか、解消もしてくれないなんて無茶苦茶だな」
「悪いと思ってない人に何を言っても無駄ってことよ」
「今回のイベントでは、どうするつもり? 証拠を集めるとかしたらいいのかな?」
アットンが思ったより協力的なことに驚きながら、私は素直に答える。
「浮気に関しては開き直ってるから駄目よ。だから、責任をとらせるようなことをしてもらわないと」
「例えば?」
「というか、あの二人に子供が出来ないかしら」
「それは僕達ではどうしようもできないだろ。まあ、今の状態が続けば、近い内に出来るかもしれないけど」
「そうね。何度も関係しているみたいだしね」
頷いてから、気合を入れてアットンにお願いする。
「ジェイコブに椅子を投げつけそうになったら止めてくれる?」
「……止めるよ」
「ありがとう」
アットンは呆れた顔をしていたけれど、気にせずに、気合を入れて店に入ることにした。
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