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49 父の隠し事
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あの話し合いから数日後、私はヨウビル公爵家に移り住むことになり、朝から引越しの作業を進めてもらっていた。
「本当に行ってしまわれるのですね」
寂しそうに話しかけてくるソルトに微笑む。
「そう遠くない場所にあるんだから、会いたくなったらすぐに会えるし、何かあったらすぐに連絡をちょうだい? 遠慮はしないでね?」
「もちろんです。ミリエル姉さんも公爵家が嫌になったら、すぐに帰って来てくださいね?」
「結婚前からそういうことを言うのはやめてよ」
今日は天気の良い日で、風はあまりないけれど、過ごしやすい気温だし、外でお昼寝できたら、どんなに気持ちが良いのだろうと思ってしまう。
もちろん、それどころではないし、荷物を馬車に運び入れてもらったら、ヨウビル公爵家に向かうことになっている。
ポーチの隅で、邪魔にならないように二人で引越し作業を眺めていると、ソルトが口を開く。
「父上のことなんですが……」
「どうかしたの?」
「ミリエル姉さんなら、父上をどうされますか?」
「どう、とは?」
「許すべきかどうかです」
ソルトは眉を寄せて、言葉を続ける。
「父上がやったことは許せないんです。でも、苦しんで死んでほしいとまでは思わないんです」
「……追い出そうと思っていたけれど、それが出来ないということ?」
「追い出すつもりではいます。ただ、何も与えずに追い出すか、屋敷くらいは与えるべきかと……」
「レナス侯爵家にはいくつか別邸があるものね。迷うくらいなら一つくらい与えて、平民としてどう生きていくか見極めるのもいいかもね。住む家があるのなら、だいぶ楽なのではないかしら」
何が正解なのかわからない。
ソルトがお父様を許せない気持ちもわかるけれど、彼にとっては血の繋がった父だから、情も出てしまうのかもしれない。
まだ、彼は子供だし、もう少し大人になったら自分で答えを出せるでしょう。
今の私は、お父様よりかはセイ様への怒りが大きいけれど、かといって原因の一つとなった、お父様のことをしょうがないだなんて思えない。
ソルトが迷う気持ちは、本当にわかるわ。
「ちょっと!」
ソルトと二人でしんみりしていると、レジーノ様が屋敷の中から出てきて、私に叫ぶ。
「朝から騒がしいのよ、出ていく時くらい静かに出て行ってちょうだい! それから、今度、婚約披露パーティーを開くの。あなたも来てくれるわよね?」
「……断ることは出来るんですか?」
「出来るわけないでしょう! あなたは世間体的には私の妹なんだから!」
「……そうでした」
セファ伯爵令嬢達には知られたくないもの。
しょうがないわ。
そう長くもないでしょうから、世間体的には妹としての役目を果たしましょう。
「わかればいいのよ」
レジーノ様はふんと鼻を鳴らし、踝まであるピンク色のシフォンスカートを揺らして、屋敷の中に入っていった。
レジーノ様の姿が見えなくなると、ソルトが呆れた顔で言う。
「何を企んでいるのでしょうか」
「わからないわ。でも、何かしたいのは確かでしょうね」
この時は、私もソルトもレジーノ様は大人しくテイン様と結婚することにしたんだと思い込んでいた。
しばらくして、準備が終えた私は、ソルトと使用人、お父様に別れを告げて屋敷を出た。
しばらくして、ヨウビル公爵家に無事に辿り着き、屋敷の人から歓迎してもらった。
迎えに出てきてくれたジェリー様が謝ってくる。
「迎えに行けなくて悪かった。ちょっとバタついてな」
「お気になさらないでください。もし、まだ終わってないようでしたら……」
「大丈夫だ。それよりも先に伝えておきたいことがある」
「何でしょうか?」
深刻そうな表情のジェリー様に尋ねると、彼は難しい顔をして口を開く。
「テインとレジーノ嬢の婚約が破棄された」
「……え? レジーノ様もお父様も何も言ってませんでしたが……」
「婚約破棄が決まったのはさっきだ。レジーノ嬢が決まるまでは口止めしておいたんだろう。ソルトも今頃、聞かされているかもしれない。将来が見えないとわかっている男の所へ娘を嫁がせたくない気持ちはわかるから、父上も承諾したんだ」
「それはわかるのですが、レジーノ様は婚約披露パーティーをすると言っていたんです。では、他の人と……?」
尋ねると、ジェリー様は難しい顔をしたまま頷く。
「相手が誰か調べ中だが、テインじゃないことは確かだ」
レジーノ様は自分の幸せを本当に選んだだけかしら?
それだけなら良いのだけど……。
「本当に行ってしまわれるのですね」
寂しそうに話しかけてくるソルトに微笑む。
「そう遠くない場所にあるんだから、会いたくなったらすぐに会えるし、何かあったらすぐに連絡をちょうだい? 遠慮はしないでね?」
「もちろんです。ミリエル姉さんも公爵家が嫌になったら、すぐに帰って来てくださいね?」
「結婚前からそういうことを言うのはやめてよ」
今日は天気の良い日で、風はあまりないけれど、過ごしやすい気温だし、外でお昼寝できたら、どんなに気持ちが良いのだろうと思ってしまう。
もちろん、それどころではないし、荷物を馬車に運び入れてもらったら、ヨウビル公爵家に向かうことになっている。
ポーチの隅で、邪魔にならないように二人で引越し作業を眺めていると、ソルトが口を開く。
「父上のことなんですが……」
「どうかしたの?」
「ミリエル姉さんなら、父上をどうされますか?」
「どう、とは?」
「許すべきかどうかです」
ソルトは眉を寄せて、言葉を続ける。
「父上がやったことは許せないんです。でも、苦しんで死んでほしいとまでは思わないんです」
「……追い出そうと思っていたけれど、それが出来ないということ?」
「追い出すつもりではいます。ただ、何も与えずに追い出すか、屋敷くらいは与えるべきかと……」
「レナス侯爵家にはいくつか別邸があるものね。迷うくらいなら一つくらい与えて、平民としてどう生きていくか見極めるのもいいかもね。住む家があるのなら、だいぶ楽なのではないかしら」
何が正解なのかわからない。
ソルトがお父様を許せない気持ちもわかるけれど、彼にとっては血の繋がった父だから、情も出てしまうのかもしれない。
まだ、彼は子供だし、もう少し大人になったら自分で答えを出せるでしょう。
今の私は、お父様よりかはセイ様への怒りが大きいけれど、かといって原因の一つとなった、お父様のことをしょうがないだなんて思えない。
ソルトが迷う気持ちは、本当にわかるわ。
「ちょっと!」
ソルトと二人でしんみりしていると、レジーノ様が屋敷の中から出てきて、私に叫ぶ。
「朝から騒がしいのよ、出ていく時くらい静かに出て行ってちょうだい! それから、今度、婚約披露パーティーを開くの。あなたも来てくれるわよね?」
「……断ることは出来るんですか?」
「出来るわけないでしょう! あなたは世間体的には私の妹なんだから!」
「……そうでした」
セファ伯爵令嬢達には知られたくないもの。
しょうがないわ。
そう長くもないでしょうから、世間体的には妹としての役目を果たしましょう。
「わかればいいのよ」
レジーノ様はふんと鼻を鳴らし、踝まであるピンク色のシフォンスカートを揺らして、屋敷の中に入っていった。
レジーノ様の姿が見えなくなると、ソルトが呆れた顔で言う。
「何を企んでいるのでしょうか」
「わからないわ。でも、何かしたいのは確かでしょうね」
この時は、私もソルトもレジーノ様は大人しくテイン様と結婚することにしたんだと思い込んでいた。
しばらくして、準備が終えた私は、ソルトと使用人、お父様に別れを告げて屋敷を出た。
しばらくして、ヨウビル公爵家に無事に辿り着き、屋敷の人から歓迎してもらった。
迎えに出てきてくれたジェリー様が謝ってくる。
「迎えに行けなくて悪かった。ちょっとバタついてな」
「お気になさらないでください。もし、まだ終わってないようでしたら……」
「大丈夫だ。それよりも先に伝えておきたいことがある」
「何でしょうか?」
深刻そうな表情のジェリー様に尋ねると、彼は難しい顔をして口を開く。
「テインとレジーノ嬢の婚約が破棄された」
「……え? レジーノ様もお父様も何も言ってませんでしたが……」
「婚約破棄が決まったのはさっきだ。レジーノ嬢が決まるまでは口止めしておいたんだろう。ソルトも今頃、聞かされているかもしれない。将来が見えないとわかっている男の所へ娘を嫁がせたくない気持ちはわかるから、父上も承諾したんだ」
「それはわかるのですが、レジーノ様は婚約披露パーティーをすると言っていたんです。では、他の人と……?」
尋ねると、ジェリー様は難しい顔をしたまま頷く。
「相手が誰か調べ中だが、テインじゃないことは確かだ」
レジーノ様は自分の幸せを本当に選んだだけかしら?
それだけなら良いのだけど……。
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