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43 婚約者の元継母の悪因悪果(イアーラside)
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「そんな! そんな罰は嫌です! それなら普通の罰にしてください!」
私は必死に元夫であるヨウビル公爵に訴えた。
隣国の国王の側室同士の争いが激しいのは有名な話で、いじめが酷いという話も聞いている。
とくに新入りいびりはひどいというから余計にだ。
そんなところへ絶対に行きたくはないわ!
「イアーラ様は選ばれた方なのですから、どんなところにいっても上手くやれるのではないですか?」
「ふざけたことを言わないでちょうだい! 私はそんな世界とは無縁の人間なのよ! そんなところに行かないといけないのはあなたのほうよ!」
ミリエルが生意気な口を叩くものだから言い返してやった。
彼女はセイの子供ではない。
あの、セファ伯爵夫人の娘だ。
少し強い言葉を返せば、何も言えなくなるに決まっている。
そう思っていたのに――。
「どうして、私が隣国の国王陛下の愛人にならないといけないのですか? 私には婚約者がいますのに」
「そ、そういえば、あなた、テインと結婚するそうね?」
「……一度といいますか、一瞬はそうなる予定でしたが、そうではなくなったんです」
意味ありげな言葉を吐いてからミリエルが苦笑する。
一体、どういうことなの?
意味がわからなかった。
テインからはミリエルと結婚すると聞いているのに、そうではなくなったとは、どういうことなの?
「もう二度と会えないだろうから、今のうちに教えてやってくれ」
ヨウビル公爵に促され、ミリエルは少し申し訳無さそうな顔をして私に目を向ける。
「一度、テイン様と私、ジェリー様とレジーノ様に婚約者が入れ替わったのですが、すぐにレジーノ様から婚約者の変更の依頼がありまして、私とジェリー様、レジーノ様とテイン様の婚約に戻りました」
そう言ったミリエルの肩をジェリーが微笑んで優しく抱き寄せたので、ミリエルは少し恥ずかしそうにしたけれど、ジェラルドを見て微笑んだ。
自分達は上手くいっていると見せつけてくれているというわけ!?
なんて奴らなの!?
「まさか、あなた、テイン達を騙したの!?」
「内容の確認をしていないレジーノ様が悪いのです。テイン様は何も知らないところで話がすすめられておりましたから、少し気の毒ではありますが」
「そうよ、テインは被害者だわ!」
「……よくわからないのですが、イアーラ様は私とテイン様との結婚を望んでおられたのですか?」
「べ、別にそういうわけじゃ……」
「なら、レジーノ様との結婚を喜ぶべきではないのですか?」
そこまで言ったところで、ミリエルは小さく息を吐く。
「ここで、こんな話をしていても意味がありませんね。イアーラ様、あなたが今まで知らなかった気持ちを隣国で知ってください。そして、どんな気持ちになるか、理解して反省していただければ嬉しいです」
ミリエルが言葉を終えると、ジェラルドがミリエルを促す。
「僕達はもう行こう。父上、後はお任せします」
ミリエルは私とヨウビル公爵に軽く一礼したあと、ジェラルドと一緒に部屋を出ていく。
二人が出て行ったあとは扉が開け放たれたままで、廊下には黒のスーツの男達以外に、ヨウビル公爵の護衛達が立っている姿が見えた。
「では、イアーラ、君も行こうか」
「お待ちください! 刑はまだ確定したわけではないのでしょう!?」
「確定したんだよ。迅速に仕事をすすめてもらったからね」
ヨウビル公爵の声も言葉も表情も全てが冷たかった。
きっと、お金を渡して手続きを早めたんだわ。
なんて酷い人なの!
「ご案内いたします」
ヨウビル公爵の護衛と今までは見えていなかった女性の警察官が中に入ってきて、私の腕をつかんで歩き出す。
「ちょっと、ちょっと待ちなさい! まだ私は納得していないわ!」
どうにかして逃げようと腕を振り回そうとしたけれど、がっしりと捕まえられていて無駄だった。
「ああ、そうだ、これは言っておかないといけなかったな」
部屋から連れ出されそうになっている私の背中に、ヨウビル公爵が声を掛けたため、警察官達の足が止まった。
体は前を向いたままで後ろを振り返ると、ヨウビル公爵が微笑む。
「ここ最近、側室内では風邪が流行っているらしく、体が弱っている人間は亡くなっているようだ。気をつけるんだな」
「そんな! 私はそんなに体力があるわけでは!」
そこまで言って気が付いた。
そうだわ。
状況は違えど、私はソワレに同じことをしたのだわ……。
「まさか、あなたは……っ!」
知っていたのかと聞こうとしたけれど、警察官達に引きずられるようにして連れて行かれてしまい、ヨウビル公爵の姿は見えなくなった。
私は必死に元夫であるヨウビル公爵に訴えた。
隣国の国王の側室同士の争いが激しいのは有名な話で、いじめが酷いという話も聞いている。
とくに新入りいびりはひどいというから余計にだ。
そんなところへ絶対に行きたくはないわ!
「イアーラ様は選ばれた方なのですから、どんなところにいっても上手くやれるのではないですか?」
「ふざけたことを言わないでちょうだい! 私はそんな世界とは無縁の人間なのよ! そんなところに行かないといけないのはあなたのほうよ!」
ミリエルが生意気な口を叩くものだから言い返してやった。
彼女はセイの子供ではない。
あの、セファ伯爵夫人の娘だ。
少し強い言葉を返せば、何も言えなくなるに決まっている。
そう思っていたのに――。
「どうして、私が隣国の国王陛下の愛人にならないといけないのですか? 私には婚約者がいますのに」
「そ、そういえば、あなた、テインと結婚するそうね?」
「……一度といいますか、一瞬はそうなる予定でしたが、そうではなくなったんです」
意味ありげな言葉を吐いてからミリエルが苦笑する。
一体、どういうことなの?
意味がわからなかった。
テインからはミリエルと結婚すると聞いているのに、そうではなくなったとは、どういうことなの?
「もう二度と会えないだろうから、今のうちに教えてやってくれ」
ヨウビル公爵に促され、ミリエルは少し申し訳無さそうな顔をして私に目を向ける。
「一度、テイン様と私、ジェリー様とレジーノ様に婚約者が入れ替わったのですが、すぐにレジーノ様から婚約者の変更の依頼がありまして、私とジェリー様、レジーノ様とテイン様の婚約に戻りました」
そう言ったミリエルの肩をジェリーが微笑んで優しく抱き寄せたので、ミリエルは少し恥ずかしそうにしたけれど、ジェラルドを見て微笑んだ。
自分達は上手くいっていると見せつけてくれているというわけ!?
なんて奴らなの!?
「まさか、あなた、テイン達を騙したの!?」
「内容の確認をしていないレジーノ様が悪いのです。テイン様は何も知らないところで話がすすめられておりましたから、少し気の毒ではありますが」
「そうよ、テインは被害者だわ!」
「……よくわからないのですが、イアーラ様は私とテイン様との結婚を望んでおられたのですか?」
「べ、別にそういうわけじゃ……」
「なら、レジーノ様との結婚を喜ぶべきではないのですか?」
そこまで言ったところで、ミリエルは小さく息を吐く。
「ここで、こんな話をしていても意味がありませんね。イアーラ様、あなたが今まで知らなかった気持ちを隣国で知ってください。そして、どんな気持ちになるか、理解して反省していただければ嬉しいです」
ミリエルが言葉を終えると、ジェラルドがミリエルを促す。
「僕達はもう行こう。父上、後はお任せします」
ミリエルは私とヨウビル公爵に軽く一礼したあと、ジェラルドと一緒に部屋を出ていく。
二人が出て行ったあとは扉が開け放たれたままで、廊下には黒のスーツの男達以外に、ヨウビル公爵の護衛達が立っている姿が見えた。
「では、イアーラ、君も行こうか」
「お待ちください! 刑はまだ確定したわけではないのでしょう!?」
「確定したんだよ。迅速に仕事をすすめてもらったからね」
ヨウビル公爵の声も言葉も表情も全てが冷たかった。
きっと、お金を渡して手続きを早めたんだわ。
なんて酷い人なの!
「ご案内いたします」
ヨウビル公爵の護衛と今までは見えていなかった女性の警察官が中に入ってきて、私の腕をつかんで歩き出す。
「ちょっと、ちょっと待ちなさい! まだ私は納得していないわ!」
どうにかして逃げようと腕を振り回そうとしたけれど、がっしりと捕まえられていて無駄だった。
「ああ、そうだ、これは言っておかないといけなかったな」
部屋から連れ出されそうになっている私の背中に、ヨウビル公爵が声を掛けたため、警察官達の足が止まった。
体は前を向いたままで後ろを振り返ると、ヨウビル公爵が微笑む。
「ここ最近、側室内では風邪が流行っているらしく、体が弱っている人間は亡くなっているようだ。気をつけるんだな」
「そんな! 私はそんなに体力があるわけでは!」
そこまで言って気が付いた。
そうだわ。
状況は違えど、私はソワレに同じことをしたのだわ……。
「まさか、あなたは……っ!」
知っていたのかと聞こうとしたけれど、警察官達に引きずられるようにして連れて行かれてしまい、ヨウビル公爵の姿は見えなくなった。
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