42 / 59
37 義父になる人の離婚
しおりを挟む
テイン様の休みが取れたと知らされたのは、婚約者の交換騒動があった次の日の昼だった。
伯爵家からレナス侯爵家までは丸一日かかるので、テイン様を含めて話し合いをする日は五日後になり、集合場所はレナス侯爵家に決まった。
朝にレジーノ様にからまれて嫌な思いをしたけれど、彼女とさよならができる日の目処がついたため、だいぶ気持ちが楽になった。
レジーノ様は朝から、自分達の結婚を早めるようにお願いしに行ったらしく、今日はお父様はヨウビル公爵閣下の元に行っている。
だから、その日は一人で仕事が出来て、レジーノ様も特に私に絡んでくることはなく、平穏に過ぎた。
次の日、仕事をしに執務室に行くと、難しい顔をしているお父様がいた。
「どうかされましたか?」
「ヨウビル家の離婚が決まったらしい」
まさかの急展開に驚いて聞き返す。
「一体、何があったんですか?」
「夫人のほうから離婚を申し出てきたらしい」
「どういうことでしょう?」
「お前に説明をしたいからと、ジェラルド様から手紙が届いている」
そう言って、お父様は私に白い封筒を差し出してきた。
「ジェラルド様からだ。詳しい内容が書かれているらしい。今すぐ中身を読んで返事をしなさい」
「ありがとうございます」
手紙を受け取って、自分用の執務机の椅子に座る。
封はすでに切られていて取り出すだけで良かった。
ジェラルド様の書く文字は何度も見たことがあるけれど、細くて綺麗な字で、私もこんなに綺麗に文字が書けるようになりたいと憧れてしまう。
とまあ、そんなことは今はおいておいて、手紙の内容に目を通すと、イアーラ様がさすがに閣下が怪しんでいることに気が付いたようだと書かれていた。
イアーラ様は現在もルワ侯爵家に滞在していて、ヨウビル家には戻らず、書類だけで離婚を済ませようとしているらしい。
しかも、テイン様がジェラルド様と比べて酷い扱い方をされていたと慰謝料を要求しようとしているとのことだった。
跡継ぎ問題があるため、普通の長男と次男でも差があるとはよく聞くけれど、ヨウビル公爵家では特にそのような差別をしたことがなかったと、ジェラルド様は書いておられた。
慰謝料云々に関しては、後ほどの話し合いにするとして、先に離婚だけは済ませることにしたらしい。
ルワ侯爵家が不正をしている証拠も見つかったので、今日中に離婚を成立させ、明日には警察がルワ侯爵家に家宅捜索に入るとのことだった。
もし、家の中にセイ様が閉じ込められているとするのならば、その時に見つかるはず。
生きていれば、さすがにイアーラ様の罪を白状してくれると思われる。
手紙を読み終えると、仕事用で使っている便箋で、急いでジェリー様宛に手紙を書き、使用人に頼んで、すぐにヨウビル公爵家に届けてもらうことにした。
そして、次の日の朝、新聞を見てみると、一面にヨウビル公爵夫妻の離婚が決まったと大々的に書かれていた。
「ちょっと、どういうことよ、これ」
よく晴れた日だったので、窓の外に見える庭園を眺めながら部屋で朝食をとっていると、レジーノ様がやって来たので、扉は開けないまま対応する。
「何の話ですか?」
「ヨウビル公爵夫妻の離婚よ! 一体どうなってるのよ!?」
「婚約者の方のお家の話とはいえ、レジーノ様がそこまで必死になって怒る必要はありますか? それよりも、これから、世間に注目を浴びることになるのですから、行動に気を付けたほうがよろしいですよ?」
「何よ、それ! 一体、どういうことよ!? 私に何の関係があるのよ!?」
「あと三日後にはテイン様達との話し合いがあります。この家にヨウビル公爵家が集まったとわかれば、ゴシップ誌の記者は面白おかしく書こうとするでしょうからね」
「私達は貴族なのよ!? そんなことをしても良いと思ってるの!?」
「派閥が違う貴族が出資している会社は気にしないかもしれませんよ」
実際は権力を恐れて書かない可能性のほうが高いけれど、気を抜くことはいけないし、ソルトのことを考えると、レジーノ様が馬鹿なことをしないように注意はしておかないといけなかった。
レジーノ様が「何よ、それ!?」と言い返したその時、慌ただしい足音が聞こえてきた。
「レジーノ様! セイ様が見つかったそうです!」
「本当に!?」
「え!?」
メイドの声にレジーノ様だけでなく、私も反応してしまった。
※次話はイアーラ視点になります。
伯爵家からレナス侯爵家までは丸一日かかるので、テイン様を含めて話し合いをする日は五日後になり、集合場所はレナス侯爵家に決まった。
朝にレジーノ様にからまれて嫌な思いをしたけれど、彼女とさよならができる日の目処がついたため、だいぶ気持ちが楽になった。
レジーノ様は朝から、自分達の結婚を早めるようにお願いしに行ったらしく、今日はお父様はヨウビル公爵閣下の元に行っている。
だから、その日は一人で仕事が出来て、レジーノ様も特に私に絡んでくることはなく、平穏に過ぎた。
次の日、仕事をしに執務室に行くと、難しい顔をしているお父様がいた。
「どうかされましたか?」
「ヨウビル家の離婚が決まったらしい」
まさかの急展開に驚いて聞き返す。
「一体、何があったんですか?」
「夫人のほうから離婚を申し出てきたらしい」
「どういうことでしょう?」
「お前に説明をしたいからと、ジェラルド様から手紙が届いている」
そう言って、お父様は私に白い封筒を差し出してきた。
「ジェラルド様からだ。詳しい内容が書かれているらしい。今すぐ中身を読んで返事をしなさい」
「ありがとうございます」
手紙を受け取って、自分用の執務机の椅子に座る。
封はすでに切られていて取り出すだけで良かった。
ジェラルド様の書く文字は何度も見たことがあるけれど、細くて綺麗な字で、私もこんなに綺麗に文字が書けるようになりたいと憧れてしまう。
とまあ、そんなことは今はおいておいて、手紙の内容に目を通すと、イアーラ様がさすがに閣下が怪しんでいることに気が付いたようだと書かれていた。
イアーラ様は現在もルワ侯爵家に滞在していて、ヨウビル家には戻らず、書類だけで離婚を済ませようとしているらしい。
しかも、テイン様がジェラルド様と比べて酷い扱い方をされていたと慰謝料を要求しようとしているとのことだった。
跡継ぎ問題があるため、普通の長男と次男でも差があるとはよく聞くけれど、ヨウビル公爵家では特にそのような差別をしたことがなかったと、ジェラルド様は書いておられた。
慰謝料云々に関しては、後ほどの話し合いにするとして、先に離婚だけは済ませることにしたらしい。
ルワ侯爵家が不正をしている証拠も見つかったので、今日中に離婚を成立させ、明日には警察がルワ侯爵家に家宅捜索に入るとのことだった。
もし、家の中にセイ様が閉じ込められているとするのならば、その時に見つかるはず。
生きていれば、さすがにイアーラ様の罪を白状してくれると思われる。
手紙を読み終えると、仕事用で使っている便箋で、急いでジェリー様宛に手紙を書き、使用人に頼んで、すぐにヨウビル公爵家に届けてもらうことにした。
そして、次の日の朝、新聞を見てみると、一面にヨウビル公爵夫妻の離婚が決まったと大々的に書かれていた。
「ちょっと、どういうことよ、これ」
よく晴れた日だったので、窓の外に見える庭園を眺めながら部屋で朝食をとっていると、レジーノ様がやって来たので、扉は開けないまま対応する。
「何の話ですか?」
「ヨウビル公爵夫妻の離婚よ! 一体どうなってるのよ!?」
「婚約者の方のお家の話とはいえ、レジーノ様がそこまで必死になって怒る必要はありますか? それよりも、これから、世間に注目を浴びることになるのですから、行動に気を付けたほうがよろしいですよ?」
「何よ、それ! 一体、どういうことよ!? 私に何の関係があるのよ!?」
「あと三日後にはテイン様達との話し合いがあります。この家にヨウビル公爵家が集まったとわかれば、ゴシップ誌の記者は面白おかしく書こうとするでしょうからね」
「私達は貴族なのよ!? そんなことをしても良いと思ってるの!?」
「派閥が違う貴族が出資している会社は気にしないかもしれませんよ」
実際は権力を恐れて書かない可能性のほうが高いけれど、気を抜くことはいけないし、ソルトのことを考えると、レジーノ様が馬鹿なことをしないように注意はしておかないといけなかった。
レジーノ様が「何よ、それ!?」と言い返したその時、慌ただしい足音が聞こえてきた。
「レジーノ様! セイ様が見つかったそうです!」
「本当に!?」
「え!?」
メイドの声にレジーノ様だけでなく、私も反応してしまった。
※次話はイアーラ視点になります。
82
お気に入りに追加
4,953
あなたにおすすめの小説
どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします
文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。
夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。
エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。
「ゲルハルトさま、愛しています」
ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。
「エレーヌ、俺はあなたが憎い」
エレーヌは凍り付いた。
幼馴染がそんなに良いなら、婚約解消いたしましょうか?
ルイス
恋愛
「アーチェ、君は明るいのは良いんだけれど、お淑やかさが足りないと思うんだ。貴族令嬢であれば、もっと気品を持ってだね。例えば、ニーナのような……」
「はあ……なるほどね」
伯爵令嬢のアーチェと伯爵令息のウォーレスは幼馴染であり婚約関係でもあった。
彼らにはもう一人、ニーナという幼馴染が居た。
アーチェはウォーレスが性格面でニーナと比べ過ぎることに辟易し、婚約解消を申し出る。
ウォーレスも納得し、婚約解消は無事に成立したはずだったが……。
ウォーレスはニーナのことを大切にしながらも、アーチェのことも忘れられないと言って来る始末だった……。
[完結]婚約破棄してください。そして私にもう関わらないで
みちこ
恋愛
妹ばかり溺愛する両親、妹は思い通りにならないと泣いて私の事を責める
婚約者も妹の味方、そんな私の味方になってくれる人はお兄様と伯父さんと伯母さんとお祖父様とお祖母様
私を愛してくれる人の為にももう自由になります
【完結】アッシュフォード男爵夫人-愛されなかった令嬢は妹の代わりに辺境へ嫁ぐ-
七瀬菜々
恋愛
ブランチェット伯爵家はずっと昔から、体の弱い末の娘ベアトリーチェを中心に回っている。
両親も使用人も、ベアトリーチェを何よりも優先する。そしてその次は跡取りの兄。中間子のアイシャは両親に気遣われることなく生きてきた。
もちろん、冷遇されていたわけではない。衣食住に困ることはなかったし、必要な教育も受けさせてもらえた。
ただずっと、両親の1番にはなれなかったというだけ。
---愛されていないわけじゃない。
アイシャはずっと、自分にそう言い聞かせながら真面目に生きてきた。
しかし、その願いが届くことはなかった。
アイシャはある日突然、病弱なベアトリーチェの代わりに、『戦場の悪魔』の異名を持つ男爵の元へ嫁ぐことを命じられたのだ。
かの男は血も涙もない冷酷な男と噂の人物。
アイシャだってそんな男の元に嫁ぎたくないのに、両親は『ベアトリーチェがかわいそうだから』という理由だけでこの縁談をアイシャに押し付けてきた。
ーーーああ。やはり私は一番にはなれないのね。
アイシャはとうとう絶望した。どれだけ願っても、両親の一番は手に入ることなどないのだと、思い知ったから。
結局、アイシャは傷心のまま辺境へと向かった。
望まれないし、望まない結婚。アイシャはこのまま、誰かの一番になることもなく一生を終えるのだと思っていたのだが………?
※全部で3部です。話の進みはゆっくりとしていますが、最後までお付き合いくださると嬉しいです。
※色々と、設定はふわっとしてますのでお気をつけください。
※作者はザマァを描くのが苦手なので、ザマァ要素は薄いです。
旦那様は大変忙しいお方なのです
あねもね
恋愛
レオナルド・サルヴェール侯爵と政略結婚することになった私、リゼット・クレージュ。
しかし、その当人が結婚式に現れません。
侍従長が言うことには「旦那様は大変忙しいお方なのです」
呆気にとられたものの、こらえつつ、いざ侯爵家で生活することになっても、お目にかかれない。
相変わらず侍従長のお言葉は「旦那様は大変忙しいお方なのです」のみ。
我慢の限界が――来ました。
そちらがその気ならこちらにも考えがあります。
さあ。腕が鳴りますよ!
※視点がころころ変わります。
※※2021年10月1日、HOTランキング1位となりました。お読みいただいている皆様方、誠にありがとうございます。
【完結】婚約破棄される前に私は毒を呷って死にます!当然でしょう?私は王太子妃になるはずだったんですから。どの道、只ではすみません。
つくも茄子
恋愛
フリッツ王太子の婚約者が毒を呷った。
彼女は筆頭公爵家のアレクサンドラ・ウジェーヌ・ヘッセン。
なぜ、彼女は毒を自ら飲み干したのか?
それは婚約者のフリッツ王太子からの婚約破棄が原因であった。
恋人の男爵令嬢を正妃にするためにアレクサンドラを罠に嵌めようとしたのだ。
その中の一人は、アレクサンドラの実弟もいた。
更に宰相の息子と近衛騎士団長の嫡男も、王太子と男爵令嬢の味方であった。
婚約者として王家の全てを知るアレクサンドラは、このまま婚約破棄が成立されればどうなるのかを知っていた。そして自分がどういう立場なのかも痛いほど理解していたのだ。
生死の境から生還したアレクサンドラが目を覚ました時には、全てが様変わりしていた。国の将来のため、必要な処置であった。
婚約破棄を宣言した王太子達のその後は、彼らが思い描いていたバラ色の人生ではなかった。
後悔、悲しみ、憎悪、果てしない負の連鎖の果てに、彼らが手にしたものとは。
「小説家になろう」「カクヨム」「ノベルバ」にも投稿しています。
公爵令嬢アナスタシアの華麗なる鉄槌
招杜羅147
ファンタジー
「婚約は破棄だ!」
毒殺容疑の冤罪で、婚約者の手によって投獄された公爵令嬢・アナスタシア。
彼女は獄中死し、それによって3年前に巻き戻る。
そして…。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる