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37 義父になる人の離婚
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テイン様の休みが取れたと知らされたのは、婚約者の交換騒動があった次の日の昼だった。
伯爵家からレナス侯爵家までは丸一日かかるので、テイン様を含めて話し合いをする日は五日後になり、集合場所はレナス侯爵家に決まった。
朝にレジーノ様にからまれて嫌な思いをしたけれど、彼女とさよならができる日の目処がついたため、だいぶ気持ちが楽になった。
レジーノ様は朝から、自分達の結婚を早めるようにお願いしに行ったらしく、今日はお父様はヨウビル公爵閣下の元に行っている。
だから、その日は一人で仕事が出来て、レジーノ様も特に私に絡んでくることはなく、平穏に過ぎた。
次の日、仕事をしに執務室に行くと、難しい顔をしているお父様がいた。
「どうかされましたか?」
「ヨウビル家の離婚が決まったらしい」
まさかの急展開に驚いて聞き返す。
「一体、何があったんですか?」
「夫人のほうから離婚を申し出てきたらしい」
「どういうことでしょう?」
「お前に説明をしたいからと、ジェラルド様から手紙が届いている」
そう言って、お父様は私に白い封筒を差し出してきた。
「ジェラルド様からだ。詳しい内容が書かれているらしい。今すぐ中身を読んで返事をしなさい」
「ありがとうございます」
手紙を受け取って、自分用の執務机の椅子に座る。
封はすでに切られていて取り出すだけで良かった。
ジェラルド様の書く文字は何度も見たことがあるけれど、細くて綺麗な字で、私もこんなに綺麗に文字が書けるようになりたいと憧れてしまう。
とまあ、そんなことは今はおいておいて、手紙の内容に目を通すと、イアーラ様がさすがに閣下が怪しんでいることに気が付いたようだと書かれていた。
イアーラ様は現在もルワ侯爵家に滞在していて、ヨウビル家には戻らず、書類だけで離婚を済ませようとしているらしい。
しかも、テイン様がジェラルド様と比べて酷い扱い方をされていたと慰謝料を要求しようとしているとのことだった。
跡継ぎ問題があるため、普通の長男と次男でも差があるとはよく聞くけれど、ヨウビル公爵家では特にそのような差別をしたことがなかったと、ジェラルド様は書いておられた。
慰謝料云々に関しては、後ほどの話し合いにするとして、先に離婚だけは済ませることにしたらしい。
ルワ侯爵家が不正をしている証拠も見つかったので、今日中に離婚を成立させ、明日には警察がルワ侯爵家に家宅捜索に入るとのことだった。
もし、家の中にセイ様が閉じ込められているとするのならば、その時に見つかるはず。
生きていれば、さすがにイアーラ様の罪を白状してくれると思われる。
手紙を読み終えると、仕事用で使っている便箋で、急いでジェリー様宛に手紙を書き、使用人に頼んで、すぐにヨウビル公爵家に届けてもらうことにした。
そして、次の日の朝、新聞を見てみると、一面にヨウビル公爵夫妻の離婚が決まったと大々的に書かれていた。
「ちょっと、どういうことよ、これ」
よく晴れた日だったので、窓の外に見える庭園を眺めながら部屋で朝食をとっていると、レジーノ様がやって来たので、扉は開けないまま対応する。
「何の話ですか?」
「ヨウビル公爵夫妻の離婚よ! 一体どうなってるのよ!?」
「婚約者の方のお家の話とはいえ、レジーノ様がそこまで必死になって怒る必要はありますか? それよりも、これから、世間に注目を浴びることになるのですから、行動に気を付けたほうがよろしいですよ?」
「何よ、それ! 一体、どういうことよ!? 私に何の関係があるのよ!?」
「あと三日後にはテイン様達との話し合いがあります。この家にヨウビル公爵家が集まったとわかれば、ゴシップ誌の記者は面白おかしく書こうとするでしょうからね」
「私達は貴族なのよ!? そんなことをしても良いと思ってるの!?」
「派閥が違う貴族が出資している会社は気にしないかもしれませんよ」
実際は権力を恐れて書かない可能性のほうが高いけれど、気を抜くことはいけないし、ソルトのことを考えると、レジーノ様が馬鹿なことをしないように注意はしておかないといけなかった。
レジーノ様が「何よ、それ!?」と言い返したその時、慌ただしい足音が聞こえてきた。
「レジーノ様! セイ様が見つかったそうです!」
「本当に!?」
「え!?」
メイドの声にレジーノ様だけでなく、私も反応してしまった。
※次話はイアーラ視点になります。
伯爵家からレナス侯爵家までは丸一日かかるので、テイン様を含めて話し合いをする日は五日後になり、集合場所はレナス侯爵家に決まった。
朝にレジーノ様にからまれて嫌な思いをしたけれど、彼女とさよならができる日の目処がついたため、だいぶ気持ちが楽になった。
レジーノ様は朝から、自分達の結婚を早めるようにお願いしに行ったらしく、今日はお父様はヨウビル公爵閣下の元に行っている。
だから、その日は一人で仕事が出来て、レジーノ様も特に私に絡んでくることはなく、平穏に過ぎた。
次の日、仕事をしに執務室に行くと、難しい顔をしているお父様がいた。
「どうかされましたか?」
「ヨウビル家の離婚が決まったらしい」
まさかの急展開に驚いて聞き返す。
「一体、何があったんですか?」
「夫人のほうから離婚を申し出てきたらしい」
「どういうことでしょう?」
「お前に説明をしたいからと、ジェラルド様から手紙が届いている」
そう言って、お父様は私に白い封筒を差し出してきた。
「ジェラルド様からだ。詳しい内容が書かれているらしい。今すぐ中身を読んで返事をしなさい」
「ありがとうございます」
手紙を受け取って、自分用の執務机の椅子に座る。
封はすでに切られていて取り出すだけで良かった。
ジェラルド様の書く文字は何度も見たことがあるけれど、細くて綺麗な字で、私もこんなに綺麗に文字が書けるようになりたいと憧れてしまう。
とまあ、そんなことは今はおいておいて、手紙の内容に目を通すと、イアーラ様がさすがに閣下が怪しんでいることに気が付いたようだと書かれていた。
イアーラ様は現在もルワ侯爵家に滞在していて、ヨウビル家には戻らず、書類だけで離婚を済ませようとしているらしい。
しかも、テイン様がジェラルド様と比べて酷い扱い方をされていたと慰謝料を要求しようとしているとのことだった。
跡継ぎ問題があるため、普通の長男と次男でも差があるとはよく聞くけれど、ヨウビル公爵家では特にそのような差別をしたことがなかったと、ジェラルド様は書いておられた。
慰謝料云々に関しては、後ほどの話し合いにするとして、先に離婚だけは済ませることにしたらしい。
ルワ侯爵家が不正をしている証拠も見つかったので、今日中に離婚を成立させ、明日には警察がルワ侯爵家に家宅捜索に入るとのことだった。
もし、家の中にセイ様が閉じ込められているとするのならば、その時に見つかるはず。
生きていれば、さすがにイアーラ様の罪を白状してくれると思われる。
手紙を読み終えると、仕事用で使っている便箋で、急いでジェリー様宛に手紙を書き、使用人に頼んで、すぐにヨウビル公爵家に届けてもらうことにした。
そして、次の日の朝、新聞を見てみると、一面にヨウビル公爵夫妻の離婚が決まったと大々的に書かれていた。
「ちょっと、どういうことよ、これ」
よく晴れた日だったので、窓の外に見える庭園を眺めながら部屋で朝食をとっていると、レジーノ様がやって来たので、扉は開けないまま対応する。
「何の話ですか?」
「ヨウビル公爵夫妻の離婚よ! 一体どうなってるのよ!?」
「婚約者の方のお家の話とはいえ、レジーノ様がそこまで必死になって怒る必要はありますか? それよりも、これから、世間に注目を浴びることになるのですから、行動に気を付けたほうがよろしいですよ?」
「何よ、それ! 一体、どういうことよ!? 私に何の関係があるのよ!?」
「あと三日後にはテイン様達との話し合いがあります。この家にヨウビル公爵家が集まったとわかれば、ゴシップ誌の記者は面白おかしく書こうとするでしょうからね」
「私達は貴族なのよ!? そんなことをしても良いと思ってるの!?」
「派閥が違う貴族が出資している会社は気にしないかもしれませんよ」
実際は権力を恐れて書かない可能性のほうが高いけれど、気を抜くことはいけないし、ソルトのことを考えると、レジーノ様が馬鹿なことをしないように注意はしておかないといけなかった。
レジーノ様が「何よ、それ!?」と言い返したその時、慌ただしい足音が聞こえてきた。
「レジーノ様! セイ様が見つかったそうです!」
「本当に!?」
「え!?」
メイドの声にレジーノ様だけでなく、私も反応してしまった。
※次話はイアーラ視点になります。
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