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34 お譲りします〜妹だった者からの言葉〜
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結局、イアーラ様の居場所はわかったものの、セイ様を見つけることは出来なかった。
ある意味、遺体などが見つかっていない分、彼女が生きている可能性も高いと思われた。
イアーラ様が見つかった場所は、とある侯爵家の屋敷で、元々、そこへ出かけるという話だったんだそうだ。
となると、その侯爵家もイアーラ様に加担している可能性が高い。
詳しいことをヨウビル公爵閣下達が調べてみた結果、イアーラ様が向かったルワ侯爵夫妻とイアーラ様は過去に関わったことはなかった。
だから、最近、ルワ侯爵夫妻がイアーラ様に何か弱みを握られたのかもしれないと考えた閣下は、まず、直接、本人達にその疑問をぶつける前に証拠集めをされることになった。
そして、それと同時に、私とジェリー様との結婚の話も進められることになった。
もちろん、レジーノ様がそれに納得するわけがなく、ジェリー様がお父様と話をしに来るたびにしゃしゃり出てきていた。
今日も、エントランスホールで出迎えたジェリー様を応接室に案内するため、メイドを先頭にして廊下を歩いていると、レジーノ様は私を押しのけて、ジェリー様の横に立った。
「ジェラルド様、ミリエルと結婚だなんて早まったことはなさらないで? もともと、ミリエルはテイン様が好きだったのですよ? テイン様にフラれたから、ジェラルド様と婚約することになったのです」
「それはそうかもしれないが、あんな最低な弟をエルに会わせたのは僕なのだから、責任を取る必要はある」
「今、現在、テイン様と婚約者にさせられている私のことは可哀想だとは思ってくださいませんの?」
「テインと君との婚約は双方の合意の上だろう? エルの場合はソルトから良い人ならば紹介してあげてほしいと言われて紹介したんだ。あの時の僕は若かったとはいえ、人を見る目が養われていないのにエルにテインを紹介したんだ。責任はあるだろう?」
「で、では、ジェラルド様はミリエルを愛しているわけではないんですのね?」
その言葉を聞いたジェリー様は立ち止まり、少し後ろを歩いていた私を見た。
斜め上に視線を上げて、ドキドキして言葉を待っていると、ジェリー様は微笑んで、私に向かって答える。
「愛しているかと聞かれるとそうだと伝えたいが、君のことだろうから私のどこが良いんですか、と言うんだろうな」
「そ、それはそうです。もちろん、デートは何度も重ねてますけれど、私がジェリー様にそこまで言っていただける人間だなんて自信はありませんもの」
「そうなのか? 自分ではわからないものなんだな」
「じゃあ、ジェリー様は自分のことが素敵だと自覚してらっしゃいます?」
「特にないな。俺はモテなかったし」
たぶん、公爵令息だという立場と、顔が良すぎて近づくのも恐れ多かっただけだと思います。
そう伝えたかったけれど、レジーノ様が邪魔してくる。
「ジェラルド様がモテなかったなんて、そんなことは絶対にありませんわ! モテなかったのはミリエルのほうです。私なんかは他校の生徒からも手紙をもらうくらいでしたのよ?」
レジーノ様は勝ち誇ったような顔をして私を見てきたけれど、私は気にしないし、ジェリー様はレジーノ様に顔を向けて言う。
「それなら、僕にかまわなくてもいいだろう。その男性と一緒になればいい。どうしても、テインが嫌だと言うのであれば婚約を解消すれば良いんだから」
「そ、そんな冷たいことを仰らないでください。私は被害者ですのよ?」
「それを言えばエルもだろう? もういいかな。着いたみたいだから」
ジェリー様は苦笑して、レジーノ様が何か言う前に、メイドに案内されるまま応接室の中に入っていく。
私も一緒に入ろうとしたのだけれど、レジーノ様に腕を掴まれた。
私の様子に気が付いて足を止めたジェリー様に、ソファーに座っていてもらうようにお願いしてから、私はメイドが出てくるのを確認して部屋の扉を閉めた。
廊下で向かい合ったレジーノ様は言う。
「ジェラルド様を私に渡しなさい!」
「嫌です! どうしてそんなことをしないといけないのですか?」
「ジェラルド様はあんたみたいな女が結婚できるような人じゃないのよ!」
「そうかもしれませんが、ジェリー様は私を選んでくれています」
「うるさいのよ!」
レジーノ様は私の肩を強く押してから念押しする。
「お母様がいなくなって私は気が立ってるのよ! いい!? 言うことを聞きなさい! あなたの秘密をバラされたくないのならね! もしくは、あなたの本当の妹を私がいじめてもいいのよ?」
「……レジーノ様は、そんなにも私の婚約者が欲しいのですか?」
「そうよ! だから、私に渡しなさい!」
「……わかりました。少しお待ち下さい」
頷くと、レジーノ様は呆気にとられたような顔をしていた。
そんな彼女をその場に置いて応接室の中に入り、早速、ジェリー様に今の話を伝える。
「レジーノ様が脅してきました」
「そうか」
ジェリー様は大きな息を吐いて、立っている私を見上げる。
「どうするつもりだ?」
「計画通りにすすめてもよろしいですか?」
「面倒にはなるが、君のためならしょうがない」
苦笑するジェリー様に近寄り、彼の手を握りしめて言う。
「ありがとうございます。ご迷惑を掛けて申し訳ございません。ところで、ジェリー様、書類は持っていただいているのですか?」
「もちろんだ」
「ありがとうございます」
礼を言ったところで、お父様が応接室に入ってきた。
事情を簡単に説明すると、驚いた様子だったけれど納得してくれ、ジェリー様が持ってきていた四枚の書類にサインをしてくれた。
一応、私達は成人しているけれど、私達の住んでいる国では、婚約の問題は当主同士が決める権利があるので、レジーノ様のサインは必要ない。
これで、私の婚約者は変わった。
確認してから応接室を出ると、レジーノ様はまだ廊下にいて、私に何か言おうとしたけれど手で制す。
「レジーノ様」
「何よ」
「そんなに私の婚約者がほしいですか?」
「もちろんよ!」
「そうですか。では、そんなに欲しいのでしたらお譲りします」
大きく息を吐いてから言うと、レジーノ様は信じられないといったような表情で口を両手で覆った。
ある意味、遺体などが見つかっていない分、彼女が生きている可能性も高いと思われた。
イアーラ様が見つかった場所は、とある侯爵家の屋敷で、元々、そこへ出かけるという話だったんだそうだ。
となると、その侯爵家もイアーラ様に加担している可能性が高い。
詳しいことをヨウビル公爵閣下達が調べてみた結果、イアーラ様が向かったルワ侯爵夫妻とイアーラ様は過去に関わったことはなかった。
だから、最近、ルワ侯爵夫妻がイアーラ様に何か弱みを握られたのかもしれないと考えた閣下は、まず、直接、本人達にその疑問をぶつける前に証拠集めをされることになった。
そして、それと同時に、私とジェリー様との結婚の話も進められることになった。
もちろん、レジーノ様がそれに納得するわけがなく、ジェリー様がお父様と話をしに来るたびにしゃしゃり出てきていた。
今日も、エントランスホールで出迎えたジェリー様を応接室に案内するため、メイドを先頭にして廊下を歩いていると、レジーノ様は私を押しのけて、ジェリー様の横に立った。
「ジェラルド様、ミリエルと結婚だなんて早まったことはなさらないで? もともと、ミリエルはテイン様が好きだったのですよ? テイン様にフラれたから、ジェラルド様と婚約することになったのです」
「それはそうかもしれないが、あんな最低な弟をエルに会わせたのは僕なのだから、責任を取る必要はある」
「今、現在、テイン様と婚約者にさせられている私のことは可哀想だとは思ってくださいませんの?」
「テインと君との婚約は双方の合意の上だろう? エルの場合はソルトから良い人ならば紹介してあげてほしいと言われて紹介したんだ。あの時の僕は若かったとはいえ、人を見る目が養われていないのにエルにテインを紹介したんだ。責任はあるだろう?」
「で、では、ジェラルド様はミリエルを愛しているわけではないんですのね?」
その言葉を聞いたジェリー様は立ち止まり、少し後ろを歩いていた私を見た。
斜め上に視線を上げて、ドキドキして言葉を待っていると、ジェリー様は微笑んで、私に向かって答える。
「愛しているかと聞かれるとそうだと伝えたいが、君のことだろうから私のどこが良いんですか、と言うんだろうな」
「そ、それはそうです。もちろん、デートは何度も重ねてますけれど、私がジェリー様にそこまで言っていただける人間だなんて自信はありませんもの」
「そうなのか? 自分ではわからないものなんだな」
「じゃあ、ジェリー様は自分のことが素敵だと自覚してらっしゃいます?」
「特にないな。俺はモテなかったし」
たぶん、公爵令息だという立場と、顔が良すぎて近づくのも恐れ多かっただけだと思います。
そう伝えたかったけれど、レジーノ様が邪魔してくる。
「ジェラルド様がモテなかったなんて、そんなことは絶対にありませんわ! モテなかったのはミリエルのほうです。私なんかは他校の生徒からも手紙をもらうくらいでしたのよ?」
レジーノ様は勝ち誇ったような顔をして私を見てきたけれど、私は気にしないし、ジェリー様はレジーノ様に顔を向けて言う。
「それなら、僕にかまわなくてもいいだろう。その男性と一緒になればいい。どうしても、テインが嫌だと言うのであれば婚約を解消すれば良いんだから」
「そ、そんな冷たいことを仰らないでください。私は被害者ですのよ?」
「それを言えばエルもだろう? もういいかな。着いたみたいだから」
ジェリー様は苦笑して、レジーノ様が何か言う前に、メイドに案内されるまま応接室の中に入っていく。
私も一緒に入ろうとしたのだけれど、レジーノ様に腕を掴まれた。
私の様子に気が付いて足を止めたジェリー様に、ソファーに座っていてもらうようにお願いしてから、私はメイドが出てくるのを確認して部屋の扉を閉めた。
廊下で向かい合ったレジーノ様は言う。
「ジェラルド様を私に渡しなさい!」
「嫌です! どうしてそんなことをしないといけないのですか?」
「ジェラルド様はあんたみたいな女が結婚できるような人じゃないのよ!」
「そうかもしれませんが、ジェリー様は私を選んでくれています」
「うるさいのよ!」
レジーノ様は私の肩を強く押してから念押しする。
「お母様がいなくなって私は気が立ってるのよ! いい!? 言うことを聞きなさい! あなたの秘密をバラされたくないのならね! もしくは、あなたの本当の妹を私がいじめてもいいのよ?」
「……レジーノ様は、そんなにも私の婚約者が欲しいのですか?」
「そうよ! だから、私に渡しなさい!」
「……わかりました。少しお待ち下さい」
頷くと、レジーノ様は呆気にとられたような顔をしていた。
そんな彼女をその場に置いて応接室の中に入り、早速、ジェリー様に今の話を伝える。
「レジーノ様が脅してきました」
「そうか」
ジェリー様は大きな息を吐いて、立っている私を見上げる。
「どうするつもりだ?」
「計画通りにすすめてもよろしいですか?」
「面倒にはなるが、君のためならしょうがない」
苦笑するジェリー様に近寄り、彼の手を握りしめて言う。
「ありがとうございます。ご迷惑を掛けて申し訳ございません。ところで、ジェリー様、書類は持っていただいているのですか?」
「もちろんだ」
「ありがとうございます」
礼を言ったところで、お父様が応接室に入ってきた。
事情を簡単に説明すると、驚いた様子だったけれど納得してくれ、ジェリー様が持ってきていた四枚の書類にサインをしてくれた。
一応、私達は成人しているけれど、私達の住んでいる国では、婚約の問題は当主同士が決める権利があるので、レジーノ様のサインは必要ない。
これで、私の婚約者は変わった。
確認してから応接室を出ると、レジーノ様はまだ廊下にいて、私に何か言おうとしたけれど手で制す。
「レジーノ様」
「何よ」
「そんなに私の婚約者がほしいですか?」
「もちろんよ!」
「そうですか。では、そんなに欲しいのでしたらお譲りします」
大きく息を吐いてから言うと、レジーノ様は信じられないといったような表情で口を両手で覆った。
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