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31 元母の行方

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 昨日の夕方に馬車が山道を走っていた時、セイ様が突然、馬車を停めてくれと行ったそうだった。
 理由としては、お腹が痛くて、どうしても用を足したくなったそうで、セイ様は一緒にいた侍女達をおいて、道から外れた茂みの中に入った。
 騎士にも近づくなと命令されたそうで、命令通りに、騎士達は遠く離れた場所から見守っていたらしい。

 すると、奥の方から盗賊らしき集団が現れ、あっという間にセイ様を連れ去ってしまったのだそうだった。

 その知らせを誰に教えてもらったかと言うと、レジーノ様からだった。
 レジーノ様はお父様から、その話を聞いたらしく、まだ朝早い時間だというのに、止める使用人達の言葉など無視して、私の部屋の扉を何度も叩くものだから、扉を開けずに応対すると、セイ様についての話を聞かせてくれたのだった。

「あなたのせいなんでしょう!?」
「私のせいと言われても困ります。私は何もしていませんから」

 どうして、この人は私のことが嫌いなくせに、こう絡んでくるのかわからない。
 無視しても良かったのだけれど、答えない限り部屋には戻らない感じがしたので答えた。

「おかしいじゃないの! こんな偶然が起きるわけがないわ! 盗賊だか山賊だか知らないけれど、普段はそこに出てくることはないと聞いたわよ! あなたがお金で雇ったのね!?」
「場所を移動することだってあるでしょう。それに、私は何も知りません。まだ朝早いですし、もう少しだけ寝たいんです。大人しく部屋に帰っていただけませんか? もちろん、セイ様の無事はお祈りしておりますので」
「当たり前じゃないの! お母様に何かあったら、あなたを絶対に許さないから!」

 八つ当たりするように扉が一度だけ強く叩いたけれど、それ以上は何もせずにレジーノ様は去っていった。

 盗賊がセイ様をさらっていったということだけれど、それは盗賊のふりをした、ヨウビル公爵閣下の手先の人なのじゃないかと思われる。
 
 人をさらうだなんて、やってはいけないことだけれど、セイ様は人を殺す手伝いをしたのだし、少しは痛い目をみたほうが良いと思った。
 この国では殺人に対しての仇討ちは許されている。
 異国では、家族もろともというところもあるようだけれど、私達の住んでいる国は、殺人者本人に対してのみだ。
 その家族に関しては許されていない。
 
 ヨウビル公爵閣下はセイ様の前には現れないとは思うけれど、現ヨウビル公爵夫人を庇ったり、話を素直にされないようなら、本人が出てくる可能性があると思われる。

 直接的に命を奪ったわけではないのかもしれないけれど、死ぬかもしれないとわかっていてわざと、その場所に連れて行くことを容認したのだから、罪がないとは絶対に言えない。

 素直に話さずに、ヨウビル公爵閣下が出るようなことになれば、セイ様は二度と姿を見せることはないでしょうね。
 殺されるとまではいかないけれど、ヨウビル公爵閣下の関与を多くの人に知られても困るので、外界から遮断された場所に送られることになるでしょう。

 セイ様のことだから、殺されたり穢されたりするほうが嫌でしょうから、話せば助けてやると言われれば素直に話しそうな気がするけど、どうなるのかしら。

 ヨウビル公爵閣下が絡んでいるのではないかというのは、私の勝手な予想であって、本人から聞いたわけではない。
 もし、本人から聞いていて、何もしなかったとしたら、私も罪に問われてしまう可能性があるから、そんなことは絶対に話すような方ではないこともわかっている。
 
 ベッドに横になり、目を閉じて大きな息を吐く。

 ヨウビル公爵閣下が裏におられるのだとしたら、素直に話しても話さなくても、セイ様の未来はそう変わらない気がした。





※次話はセイ(元母)視点になります。
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