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27 姉の謎発言
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「言っておられる意味がわからないのですが?」
どうしてそんなことになるのかわからなくて聞いてみると、お姉様は憐憫するような目を私に向けて答える。
「そのままの意味よ。侯爵令嬢でも侯爵令息でもなくなるんだから、この家にいれるわけがないでしょう!?」
テイン様がレナス侯爵家を継げると本気で思っているのね。
お姉様が思っていることがわかった私は、少し考えてから尋ねてみる。
「ずっと気になっていたんですけど」
「何かしら?」
「お姉様のその自信はどこからくるのですか?」
「そんなの決まっているでしょう。できるとわかっているからよ」
勝ち誇った顔で言うお姉様に対して、私はやっぱり不思議でたまらなくて首を傾げる。
「テイン様が婿養子になることを、ヨウビル公爵閣下は認めないでしょうし、レナス家を継ぐことも難しいと思うのですが……」
「そんなことないわ! 女性が継げる世の中なら、本当は私が継いでいたはずなんだから!」
こんなことを思ってはいけないとわかっているけれど、お姉様に限っては、女性が継げない世の中で良かったと思う。
お姉様以外に関しては、優秀な女性が認めてもらえないという納得できないものになるから、問題視はされているのはわかる。
「お姉様は長女ですものね。男女関係なく生まれた順でいくのであれば、お姉様が跡を継ぐことになったでしょう。でも、残念ながら、そうではない世の中ですのでお姉様は継げません」
「わかってるわ! だからテインを婿養子にするのよ! そうすれば、テインは長男扱いになるから継げるわよね!?」
「世間的には血の繋がりを重視されると思いますよ」
「……え?」
お姉様は眉を寄せて聞き返してくる。
もちろん、血縁者よりも婿養子を優先する場合もある。
けれど、それは婿養子が優秀で血縁者が犯罪者だったり、病気だったり、もしくは本人が辞退するなど、よっぽどの理由がある時に限る。
「いくら婿養子になっても意味がないと思います。もちろん、お父様からなにかの爵位をもらうことができるかもしれませんから、今の状態よりかは良いかもしれませんが」
「今の状態より良いって、どういうことよ!?」
「そのままの意味です。ヨウビル公爵閣下はテイン様のこともジェラルド様と同じように可愛がってこられたんだと思います。だから、伯爵位を譲るつもりでいた。でも、テイン様は良くないことをされましたよね。だったら、伯爵位を譲ることをやめる可能性もあります」
閣下は血が繋がっていないとか、そういうことで贔屓をしたくなかったんじゃないかと思われる。
直接聞いたわけでもないけれど、ジェリー様を見ているとそう思った。
子供が出来なかった人達が養子をもらって家族になるように、血の繋がりだけが大事というわけではないもの。
ヨウビル公爵家に来た頃のテイン様はまだ幼かったから、余計に可愛く思えたでしょうし、お母様の犯罪はテイン様の犯罪ではないから、爵位を譲るつもりだったと思われる。
「だから、何なの!?」
言葉を止めて考えていると、お姉様が先を促してきたので答える。
「伯爵位を譲ってもらえなかったらどうなるか、お姉様だってわかっているのでしょう? だから、婿養子にさせて、レナス侯爵家を継がせようとしたのでは?」
「そうよ。テインのほうがソルトよりも年上だし!」
「年上だとかは関係ありません。ヨウビル公爵閣下に見放されているような人に、さすがのお父様もレナス家を継がせようだなんて思いませんよ」
私の言葉を聞いたお姉様は、そのことに今頃気が付いたのか、顔を真っ赤にした。
言われてもわからないほどの馬鹿じゃなくて良かったわ。
「テイン様に婿養子になってもらうことは勝手になされば良いことだと思いますが、ソルトがこの家を継いだあとは、お姉様達はどうなるかわかりませんね?」
「ちょっと!」
立ち去ろうとしたけれど、お姉様はドレスを握りしめ、悔しそうな顔をして呼び止めてきた。
「何でしょうか?」
「そんなことを言ったら、あなただってこの家にいられなくなるわよ!?」
「ソルトは私を追い出すような真似はしないと思いますし、ソルトが跡を継ぐ時期がわかれば、ジェリー様との結婚を考えればいいだけでしょう?」
「そんなの許さないわ!」
「許さないと言われましても……。別にお姉様に許してもらわなくても困りません」
「ミリー、一応、私はあなたの姉なのよ?」
お姉様が何を言いたいのかわからず無言で見つめる。
すると、お姉様はとんでもないことを言い出した。
「妹なんだから姉が困っているのを助けなさいよ」
「意味がわかりません。大体、困っていると言われましても、お姉様とテイン様のことは自分達が悪いんじゃないですか」
「……そうだわ」
お姉様は少し考えたあと、笑顔になって言う。
「ミリー、あなたはテインが好きだったわよね?」
「昔は、そうでしたけど」
「私は妹思いだから、あなたにテインを譲るわ! そのかわり、私にジェラルド様を譲りなさい! 前々から、彼のことは気になっていたのよ!」
「……」
あまりの馬鹿げた話に、改めてこの人と血が繋がっていなくて良かったと思った。
※以下は宣伝です!
拙作をお読みいただき、本当にありがとうございます!
他作品になりますが、「こんなはずじゃなかった? それは残念でしたね」の書籍化が決まりました。
10月からは他サイト様に移行しますが、ご興味ある方は読んでいただけますと嬉しいです
どうしてそんなことになるのかわからなくて聞いてみると、お姉様は憐憫するような目を私に向けて答える。
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お姉様が思っていることがわかった私は、少し考えてから尋ねてみる。
「ずっと気になっていたんですけど」
「何かしら?」
「お姉様のその自信はどこからくるのですか?」
「そんなの決まっているでしょう。できるとわかっているからよ」
勝ち誇った顔で言うお姉様に対して、私はやっぱり不思議でたまらなくて首を傾げる。
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「そんなことないわ! 女性が継げる世の中なら、本当は私が継いでいたはずなんだから!」
こんなことを思ってはいけないとわかっているけれど、お姉様に限っては、女性が継げない世の中で良かったと思う。
お姉様以外に関しては、優秀な女性が認めてもらえないという納得できないものになるから、問題視はされているのはわかる。
「お姉様は長女ですものね。男女関係なく生まれた順でいくのであれば、お姉様が跡を継ぐことになったでしょう。でも、残念ながら、そうではない世の中ですのでお姉様は継げません」
「わかってるわ! だからテインを婿養子にするのよ! そうすれば、テインは長男扱いになるから継げるわよね!?」
「世間的には血の繋がりを重視されると思いますよ」
「……え?」
お姉様は眉を寄せて聞き返してくる。
もちろん、血縁者よりも婿養子を優先する場合もある。
けれど、それは婿養子が優秀で血縁者が犯罪者だったり、病気だったり、もしくは本人が辞退するなど、よっぽどの理由がある時に限る。
「いくら婿養子になっても意味がないと思います。もちろん、お父様からなにかの爵位をもらうことができるかもしれませんから、今の状態よりかは良いかもしれませんが」
「今の状態より良いって、どういうことよ!?」
「そのままの意味です。ヨウビル公爵閣下はテイン様のこともジェラルド様と同じように可愛がってこられたんだと思います。だから、伯爵位を譲るつもりでいた。でも、テイン様は良くないことをされましたよね。だったら、伯爵位を譲ることをやめる可能性もあります」
閣下は血が繋がっていないとか、そういうことで贔屓をしたくなかったんじゃないかと思われる。
直接聞いたわけでもないけれど、ジェリー様を見ているとそう思った。
子供が出来なかった人達が養子をもらって家族になるように、血の繋がりだけが大事というわけではないもの。
ヨウビル公爵家に来た頃のテイン様はまだ幼かったから、余計に可愛く思えたでしょうし、お母様の犯罪はテイン様の犯罪ではないから、爵位を譲るつもりだったと思われる。
「だから、何なの!?」
言葉を止めて考えていると、お姉様が先を促してきたので答える。
「伯爵位を譲ってもらえなかったらどうなるか、お姉様だってわかっているのでしょう? だから、婿養子にさせて、レナス侯爵家を継がせようとしたのでは?」
「そうよ。テインのほうがソルトよりも年上だし!」
「年上だとかは関係ありません。ヨウビル公爵閣下に見放されているような人に、さすがのお父様もレナス家を継がせようだなんて思いませんよ」
私の言葉を聞いたお姉様は、そのことに今頃気が付いたのか、顔を真っ赤にした。
言われてもわからないほどの馬鹿じゃなくて良かったわ。
「テイン様に婿養子になってもらうことは勝手になされば良いことだと思いますが、ソルトがこの家を継いだあとは、お姉様達はどうなるかわかりませんね?」
「ちょっと!」
立ち去ろうとしたけれど、お姉様はドレスを握りしめ、悔しそうな顔をして呼び止めてきた。
「何でしょうか?」
「そんなことを言ったら、あなただってこの家にいられなくなるわよ!?」
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「許さないと言われましても……。別にお姉様に許してもらわなくても困りません」
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お姉様が何を言いたいのかわからず無言で見つめる。
すると、お姉様はとんでもないことを言い出した。
「妹なんだから姉が困っているのを助けなさいよ」
「意味がわかりません。大体、困っていると言われましても、お姉様とテイン様のことは自分達が悪いんじゃないですか」
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お姉様は少し考えたあと、笑顔になって言う。
「ミリー、あなたはテインが好きだったわよね?」
「昔は、そうでしたけど」
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