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23 母の涙と父の言い訳
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「どういうことだ!? どうやったら子供を取り替えるなんて出来るんだ!? 普通はそんなことは出来ないだろう!?」
「そうよ! そんなことはできません! だから、取り替えだなんてありえないことなのよ!」
お母様は必死だった。
皮肉にも、お母様が必死になればなるほど、お父様はそれが真実だと思ったようだった。
「ありえない……。ああ、そうか。ミリエルは病院で生まれたんだ……! その時に自分の子供とミリエルを取り替えたのか!? でも、どうしてそんなことをする必要がある!? 意味がわからない!」
お父様は完全にパニックに陥っている感じだった。
自分の妻が弱い者いじめをしていることに薄々気が付いていたとしても、それに関しては大事になるようなことまではしないと思って、無責任だとわかっていても見て見ぬふりや聞いていないふりをしていたのかもしれない。
ヨウビル公爵夫人も同じようにしているのだから、レナス侯爵家だけが責められることもないだろうという安心感もあったんでしょうね。
実際はヨウビル公爵閣下も夫人のやっていることに気が付いてからは、彼女を泳がしておいて、被害にあった対象者に聞き取り調査などをして謝罪をしている。
相手側も一時の嫌がらせだったとして、大して気にはされていなかったのだろう。
ただ、子供の入れ替えに関しては、ヨウビル公爵夫人が指示したと言わない限り、明らかにお母様の犯罪だ。
もちろん、知っていて何も言わなかったヨウビル公爵夫人にも責任はあるだろうけれど、彼女は知っていただなんて認めないだろうし、平気でお母様を見捨てるでしょうから、このことに関しては罪に問えないでしょうね。
「違います! 私は何もしていません!」
「……ジェラルド様」
お父様はお母様に聞いても無駄だと思ったのか、ジェリー様のほうに体を向ける。
「私にそんな話を聞いてこられたということは、もう確信を持っておられるのですね?」
「……ここでは話しにくいですね」
ジェリー様がそう言って、お父様の背後を手で示すと、執事達が心配そうにこちらを見守っていた。
どこから聞いていたのかわからないけれど、お母様とお父様の言い合いに驚いて駆けつけてきたのだろう。
そして、執事の隣にはお姉様がいた。
お姉様は、私と目が合うと、なぜか満足そうに微笑んだ。
「知ってたのか」
それを見たソルトとジェリー様が同時に呟いた。
お姉様は在学中に、私から何かを奪うために、私が知らない間に学園内でも動いていたのかもしれない。
私の学年の校舎までやって来て、セファ伯爵令嬢の長女であるノマ様を見たとしたら、お姉様はどうしたかしら?
私はノマ様と面識がないからわからないけれど、もし、お姉様とそっくりだったとしたら?
お姉様のことだからきっと、好奇心も会って彼女に接触したはずだ。
そして、私と同じ誕生日、同じ場所で生まれたことを知ったとしたら?
それくらいはノマ様の口から簡単に聞き出せる情報でもあるから、面識があるなら雑談として話を聞いて、知っていた可能性はある。
ソルトとジェリー様もそういう結論に達したみたいだった。
お姉様本人の口から聞いたわけじゃないから、憶測にしか過ぎない。
だから、今は考えないことにしようと思った時、執事だけがこちらに近付いてきて、お父様とお母様に尋ねる。
「言い争っておられるようでしたので、止めに入るべきか迷っておりました。もう、お話は終わられたのでしょうか?」
話の内容を聞いている可能性は高いけれど、自分は何も聞いていないから安心してくれといった感じだった。
「いや、何でもない。ここから二人で話をする。ジェラルド様、教えていただきありがとうございました」
お父様は頭を下げると、お母様の腕をつかむ。
「場所を変えて話をするぞ」
「待って! 信じてくれないんですか!?」
「信じられないから話をするんだ。そんなに信じてほしいなら証拠を見せてくれ」
「証拠なんてあるわけないじゃないの! あなたが私を信じてくれるかだけの話だわ!」
「さっきも言っただろう。信じられない」
お父様が冷たく言い放つと、お母様の目から涙が溢れ出した。
「あなたの中には、私への愛情は一つもないのですか……」
「そうだな。結婚して子供が出来れば情が湧いてくるものかと思っていたら、そうでもなかった。酷い男だと罵ればいい。俺はいつでも君が別れたいと言い出せるように昔から冷たい態度を取り続けていたはずだ」
「……そんな! 酷すぎるわ!」
これに関しては、お母様が叫びたくなる気持ちもわかる。
お父様は、お母様のことを愛せないとわかったから冷たい態度を取り続けて、愛人のほうにばかり走っていたと言いたいらしい。
そして、それが嫌ならとっとと別れたいと言えば良かっただなんて、そんな遠回しなことをされても、いつか仲良くなりたいと努力している人間に理解するのは難しい。
「お父様は自分を正当化されようとしていますが、はっきり言って差し上げるのが優しさだったのでは? 嫌われるように仕向けるなんておかしいです。それに、結局は、お父様がソミユ様と一緒にいたかっただけでしょう?」
思わず口を出してしまうと、お父様は私を見たあと、後ろめたさを感じたのか、すぐに視線をそらした。
「そうよ! そんなことはできません! だから、取り替えだなんてありえないことなのよ!」
お母様は必死だった。
皮肉にも、お母様が必死になればなるほど、お父様はそれが真実だと思ったようだった。
「ありえない……。ああ、そうか。ミリエルは病院で生まれたんだ……! その時に自分の子供とミリエルを取り替えたのか!? でも、どうしてそんなことをする必要がある!? 意味がわからない!」
お父様は完全にパニックに陥っている感じだった。
自分の妻が弱い者いじめをしていることに薄々気が付いていたとしても、それに関しては大事になるようなことまではしないと思って、無責任だとわかっていても見て見ぬふりや聞いていないふりをしていたのかもしれない。
ヨウビル公爵夫人も同じようにしているのだから、レナス侯爵家だけが責められることもないだろうという安心感もあったんでしょうね。
実際はヨウビル公爵閣下も夫人のやっていることに気が付いてからは、彼女を泳がしておいて、被害にあった対象者に聞き取り調査などをして謝罪をしている。
相手側も一時の嫌がらせだったとして、大して気にはされていなかったのだろう。
ただ、子供の入れ替えに関しては、ヨウビル公爵夫人が指示したと言わない限り、明らかにお母様の犯罪だ。
もちろん、知っていて何も言わなかったヨウビル公爵夫人にも責任はあるだろうけれど、彼女は知っていただなんて認めないだろうし、平気でお母様を見捨てるでしょうから、このことに関しては罪に問えないでしょうね。
「違います! 私は何もしていません!」
「……ジェラルド様」
お父様はお母様に聞いても無駄だと思ったのか、ジェリー様のほうに体を向ける。
「私にそんな話を聞いてこられたということは、もう確信を持っておられるのですね?」
「……ここでは話しにくいですね」
ジェリー様がそう言って、お父様の背後を手で示すと、執事達が心配そうにこちらを見守っていた。
どこから聞いていたのかわからないけれど、お母様とお父様の言い合いに驚いて駆けつけてきたのだろう。
そして、執事の隣にはお姉様がいた。
お姉様は、私と目が合うと、なぜか満足そうに微笑んだ。
「知ってたのか」
それを見たソルトとジェリー様が同時に呟いた。
お姉様は在学中に、私から何かを奪うために、私が知らない間に学園内でも動いていたのかもしれない。
私の学年の校舎までやって来て、セファ伯爵令嬢の長女であるノマ様を見たとしたら、お姉様はどうしたかしら?
私はノマ様と面識がないからわからないけれど、もし、お姉様とそっくりだったとしたら?
お姉様のことだからきっと、好奇心も会って彼女に接触したはずだ。
そして、私と同じ誕生日、同じ場所で生まれたことを知ったとしたら?
それくらいはノマ様の口から簡単に聞き出せる情報でもあるから、面識があるなら雑談として話を聞いて、知っていた可能性はある。
ソルトとジェリー様もそういう結論に達したみたいだった。
お姉様本人の口から聞いたわけじゃないから、憶測にしか過ぎない。
だから、今は考えないことにしようと思った時、執事だけがこちらに近付いてきて、お父様とお母様に尋ねる。
「言い争っておられるようでしたので、止めに入るべきか迷っておりました。もう、お話は終わられたのでしょうか?」
話の内容を聞いている可能性は高いけれど、自分は何も聞いていないから安心してくれといった感じだった。
「いや、何でもない。ここから二人で話をする。ジェラルド様、教えていただきありがとうございました」
お父様は頭を下げると、お母様の腕をつかむ。
「場所を変えて話をするぞ」
「待って! 信じてくれないんですか!?」
「信じられないから話をするんだ。そんなに信じてほしいなら証拠を見せてくれ」
「証拠なんてあるわけないじゃないの! あなたが私を信じてくれるかだけの話だわ!」
「さっきも言っただろう。信じられない」
お父様が冷たく言い放つと、お母様の目から涙が溢れ出した。
「あなたの中には、私への愛情は一つもないのですか……」
「そうだな。結婚して子供が出来れば情が湧いてくるものかと思っていたら、そうでもなかった。酷い男だと罵ればいい。俺はいつでも君が別れたいと言い出せるように昔から冷たい態度を取り続けていたはずだ」
「……そんな! 酷すぎるわ!」
これに関しては、お母様が叫びたくなる気持ちもわかる。
お父様は、お母様のことを愛せないとわかったから冷たい態度を取り続けて、愛人のほうにばかり走っていたと言いたいらしい。
そして、それが嫌ならとっとと別れたいと言えば良かっただなんて、そんな遠回しなことをされても、いつか仲良くなりたいと努力している人間に理解するのは難しい。
「お父様は自分を正当化されようとしていますが、はっきり言って差し上げるのが優しさだったのでは? 嫌われるように仕向けるなんておかしいです。それに、結局は、お父様がソミユ様と一緒にいたかっただけでしょう?」
思わず口を出してしまうと、お父様は私を見たあと、後ろめたさを感じたのか、すぐに視線をそらした。
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