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20 父と母の喧嘩
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お茶会が終わったであろう時間に、ジェリー様に家まで送ってもらうと、使用人だけでなく、ソルトも迎えに出てきてくれた。
「おかえりなさい」
「ただいま。今日は大丈夫だった?」
「ええ。お茶会は始まる前に終わったみたいですよ」
ソルトの言葉を聞いて、私とジェリー様は思わず顔を見合わせた。
そんな私たちを見て、ソルトが微笑むので聞いてみる。
「どういうこと?」
「中で詳しく話しますよ。よろしければ、ジェラルド様も中へどうぞ」
「どんな話か気になるから、お邪魔させてもらうが、すぐにお暇するようにするよ」
「時間が許すようでしたら、ゆっくりしていってくださいね」
私が御願いすると、ジェリー様は微笑んで頷いてくれた。
その後、ジェリー様を応接室に案内してから、ソルトに少しだけジェリー様のお相手を一人でしてもらうことにした。
一日出かけていたせいで、髪や化粧が乱れていたから直したかった。
簡単に化粧を直してから、応接室に向かおうとすると、お母様が近くの部屋から現れ、廊下で通せんぼをするように立ちはだかった。
「……どうかされましたか?」
「あなた、一体、今までどこに行っていたの?」
「ジェラルド様とお出かけしていたのですが、それが何か問題でも? そのことはお姉様にはお伝えしたはずですが、お姉様は伝言を伝えることも出来ない方なのでしょうか?」
「姉に向かってなんてことを言うの!」
お母様はヒステリックな声を上げたけれど、私は冷静にこたえる。
「質問をしただけです。違うなら違うで良いのです。お姉様が伝言してくださったのであれば、お母様が聞いたことを忘れてしまっただけなのでしょう? お姉様を馬鹿にしたように聞こえてしまったのならば謝ります」
軽く頭を下げたあと、お母様の横を通り過ぎながら言う。
「ジェラルド様は今、ソルトと応接室でお話されているんです。今回のことはお伝えさせてもらいますから」
「やめなさい! 私は何もしていないでしょう!」
お母様が叫んだ時だった。
「もう、やめろ!」
今度は顔を真っ赤にしたお父様が現れた。
ここ最近、部屋に閉じこもっていて、仕事は私一人でがやることが増えていたけれど、捨てられたショックでやけ酒といったところかしら?
でも、捨てられるきっかけを作ったのはお父様だわ。
ソミユ様はソルトとひっそりと暮らしているだけで幸せだったのに、お母様が男の子を生めないからと、ソルトを彼女から引き離したんだもの。
子を奪われた母親の憎しみが、息子を奪った父親に向かってもおかしくない。
それに、ソルトが幸せになると思ったから、彼をお父様に任せたのであって、虐待されていた上に、守ろうともしなかっただなんて聞いたら腹が立つわ。
一緒にいれたら良いだけの愛人なんだから、子供は必要なかったかもしれない。
ただ、この国では、本妻に跡継ぎが出来ない時のために愛人を許しているということもあるし、実際に我が家ではそうなってしまったから、お父様の愛情が、余計に愛人にいってしまったのでしょうね。
「あなた! この子は私達を騙していたんですよ!」
「うるさい! お前が余計なことをしたせいで……!」
お父様は叫ぶと、ふらつきながらもお母様に近付き、左頬を殴った。
殴られたお母様は頬を左手でおさえて、お父様を睨む。
「何を考えていらっしゃるの!? 女性に暴力をふるうだなんて!」
「お前が大人しくソルトを認めていれば、こんなことにならなかったのに!」
「あなたが私のことをもっと考えてくださっていれば、ソルトをいじめなくても良かったわ!」
「俺が悪かっただと? ふざけるな。虐待する奴が悪いに決まっているだろう!」
「そう仕向けたのはあなただわ!」
廊下でどうしようもない夫婦喧嘩が始まってしまった。
お父様はお父様で悪いし、お母様はお母様で、お父様に相手にされないからとソルトをいじめる必要はなかった。
お母様がソルトを可愛がっていれば、お父様はソミユ様と別れなくて済んだかもしれない。
そして、お父様がお母様をもっと大事にしていれば、ソルトにお母様の憎しみが向かわなかったかもしれない。
「お前もお前だぞ! 一体、何を考えてるんだ!」
「それはエルが言いたいセリフだろう」
お父様の怒りの矛先が私に向かってきた時、お父様の背後から、ジェリー様とソルトが現れた。
ジェリー様は冷たい表情で問いかける。
「自分の家とはいえ、客が来ているのだから、そんな状態でうろつくのはどうかと思うが?」
「そ、それは……っ」
酩酊していたお父様は、一気に酔いがさめたようだった。
ジェリー様がいらっしゃるのを知らなかったようで、かなり焦っている。
「ジェラルド様! 主人を罰してください! この男は女の敵なのです!」
そんなお父様を指差して、お母様が叫んだ。
「おかえりなさい」
「ただいま。今日は大丈夫だった?」
「ええ。お茶会は始まる前に終わったみたいですよ」
ソルトの言葉を聞いて、私とジェリー様は思わず顔を見合わせた。
そんな私たちを見て、ソルトが微笑むので聞いてみる。
「どういうこと?」
「中で詳しく話しますよ。よろしければ、ジェラルド様も中へどうぞ」
「どんな話か気になるから、お邪魔させてもらうが、すぐにお暇するようにするよ」
「時間が許すようでしたら、ゆっくりしていってくださいね」
私が御願いすると、ジェリー様は微笑んで頷いてくれた。
その後、ジェリー様を応接室に案内してから、ソルトに少しだけジェリー様のお相手を一人でしてもらうことにした。
一日出かけていたせいで、髪や化粧が乱れていたから直したかった。
簡単に化粧を直してから、応接室に向かおうとすると、お母様が近くの部屋から現れ、廊下で通せんぼをするように立ちはだかった。
「……どうかされましたか?」
「あなた、一体、今までどこに行っていたの?」
「ジェラルド様とお出かけしていたのですが、それが何か問題でも? そのことはお姉様にはお伝えしたはずですが、お姉様は伝言を伝えることも出来ない方なのでしょうか?」
「姉に向かってなんてことを言うの!」
お母様はヒステリックな声を上げたけれど、私は冷静にこたえる。
「質問をしただけです。違うなら違うで良いのです。お姉様が伝言してくださったのであれば、お母様が聞いたことを忘れてしまっただけなのでしょう? お姉様を馬鹿にしたように聞こえてしまったのならば謝ります」
軽く頭を下げたあと、お母様の横を通り過ぎながら言う。
「ジェラルド様は今、ソルトと応接室でお話されているんです。今回のことはお伝えさせてもらいますから」
「やめなさい! 私は何もしていないでしょう!」
お母様が叫んだ時だった。
「もう、やめろ!」
今度は顔を真っ赤にしたお父様が現れた。
ここ最近、部屋に閉じこもっていて、仕事は私一人でがやることが増えていたけれど、捨てられたショックでやけ酒といったところかしら?
でも、捨てられるきっかけを作ったのはお父様だわ。
ソミユ様はソルトとひっそりと暮らしているだけで幸せだったのに、お母様が男の子を生めないからと、ソルトを彼女から引き離したんだもの。
子を奪われた母親の憎しみが、息子を奪った父親に向かってもおかしくない。
それに、ソルトが幸せになると思ったから、彼をお父様に任せたのであって、虐待されていた上に、守ろうともしなかっただなんて聞いたら腹が立つわ。
一緒にいれたら良いだけの愛人なんだから、子供は必要なかったかもしれない。
ただ、この国では、本妻に跡継ぎが出来ない時のために愛人を許しているということもあるし、実際に我が家ではそうなってしまったから、お父様の愛情が、余計に愛人にいってしまったのでしょうね。
「あなた! この子は私達を騙していたんですよ!」
「うるさい! お前が余計なことをしたせいで……!」
お父様は叫ぶと、ふらつきながらもお母様に近付き、左頬を殴った。
殴られたお母様は頬を左手でおさえて、お父様を睨む。
「何を考えていらっしゃるの!? 女性に暴力をふるうだなんて!」
「お前が大人しくソルトを認めていれば、こんなことにならなかったのに!」
「あなたが私のことをもっと考えてくださっていれば、ソルトをいじめなくても良かったわ!」
「俺が悪かっただと? ふざけるな。虐待する奴が悪いに決まっているだろう!」
「そう仕向けたのはあなただわ!」
廊下でどうしようもない夫婦喧嘩が始まってしまった。
お父様はお父様で悪いし、お母様はお母様で、お父様に相手にされないからとソルトをいじめる必要はなかった。
お母様がソルトを可愛がっていれば、お父様はソミユ様と別れなくて済んだかもしれない。
そして、お父様がお母様をもっと大事にしていれば、ソルトにお母様の憎しみが向かわなかったかもしれない。
「お前もお前だぞ! 一体、何を考えてるんだ!」
「それはエルが言いたいセリフだろう」
お父様の怒りの矛先が私に向かってきた時、お父様の背後から、ジェリー様とソルトが現れた。
ジェリー様は冷たい表情で問いかける。
「自分の家とはいえ、客が来ているのだから、そんな状態でうろつくのはどうかと思うが?」
「そ、それは……っ」
酩酊していたお父様は、一気に酔いがさめたようだった。
ジェリー様がいらっしゃるのを知らなかったようで、かなり焦っている。
「ジェラルド様! 主人を罰してください! この男は女の敵なのです!」
そんなお父様を指差して、お母様が叫んだ。
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