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15 父の変心

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 お姉様が流した噂については、お姉様のお友達はまだ広めるとまではしていなかったので、お姉様が恥をかくことはなさそうに思われた。
 けれど、私には考えが及ばなくても、ソルトやジェリー様は違った。

 ソルトはお姉様からこんな話を聞いたのだと、わざとジェリー様に連絡した。
 ジェリー様はそれをヨウビル公爵閣下に伝え、閣下はお姉様とテイン様が嘘の噂を流そうとしたとして、二人を罰することに決めた。

 テイン様にはジェリー様のほうから、私の婚約者はルドルフ様ではないと伝えられたそうで、それを聞いたテイン様は真っ青な顔になっていたらしい。
 
 テイン様には閣下が罰を与えられ、財政の苦しい伯爵家に働きに行かせることになった。
 使用人として働いていた時は、公爵家から給料を出すことになっていたけれど、今回は歩合制ということで、伯爵家から成果を認めてもらえない限り、お給料は入らない。
 食と住に関しては伯爵家が負担し、衣服に関しては公爵家が負担しているから、生きていく分には特に困らない。
 けれど、自由に使えるお金はないし、今すぐにお姉様と結婚だなんてできそうになかった。

 テイン様が住み込みで働くことになった、レノ伯爵家は私の友人の家で、友人もまだお嫁にいっていないため、テイン様の話は彼女からも聞けることになった。

 お姉様に対する罰に関しては、お父様の判断に委ねられた。
 そのためか、お父様は私とお姉様を執務室に呼び寄せて、お姉様にだけ罵声を浴びせた。

「何を勝手なことをしてくれたんだ! レジーノ! どれだけお前は頭が悪いんだ!?」
「酷いです! お父様だってルドルフ様だと思っておられたんでしょう!? それなら、お父様だって頭が悪いんじゃないですか!?」
「相手はダブル辺境伯なのだと思っていたが、私は何もしていない! お前は真偽をしっかり確認せずに、ダブル辺境伯のところまで押しかけて、彼に訳のわからない話までしたんだろう!? ダブル辺境伯から話を聞いた貴族達は、お前を笑いものにしているんだぞ!? いや、お前を管理できなかった私までもが悪者だ!」
「悪いのは私じゃありません! ミリーです!」

 お姉様は泣きながら私を指差した。
 すると、私が何か言う前にお父様がお姉様に向かって怒鳴る。

「うるさい! ミリエルの曖昧な言葉に騙された、お前が一番悪いんだ!」
「ど、どうしてですか、お父様!? 否定しなかったのはミリーなんですよ!? ミリーが否定してくれていたら、こんなことにならなかったのに!」

 今までのお父様なら、私に対して怒っていてもおかしくない。
 私の相手がジェリー様だとはまだ知らないはずなのに、どうして私を庇うのかしら?

「ミリーのせいばかりにするな! もちろん、ミリーが否定していれば、こんなことにはならなかったのかもしれないが、どうせお前は、ミリエルの本当の婚約者に近付いて、ミリエルの婚約者を奪おうとするのだろう!?」
「そんなっ! どうして、そんな酷いことを私がすると思われるのですか!?」
「してきたと聞いているし、テイン様との婚約のことだって、ミリエルを苦しめるために、わざと黙っていたんだろう!?」
「黙っていることに関して、お父様は何も言わなかったじゃないですか!」
「妹を苦しめるためにやっていたのだとは思っていなかった」

 お父様はしれっとした顔で答えた。

 明らかにお父様はお姉様を切り捨てにかかってるわ。
 一体、何があったの?

「お父様、もしかして、ミリーから何か言われたのですか!? ミリーの言うことなんて嘘ばっかりなんですよ!?」
「違う。ミリエルからじゃない」

 触れられたくない話なのか、お父様は話を切り上げようとする。

「レジーノ、お前は50日間の謹慎だ。部屋から出るな。それくらい経てば、お前がやった馬鹿なことへの関心も薄れてはいるだろう」
「……っ! 私が悪いと仰るんですか!? ミリーが悪いんじゃないですか! ミリーがわざと意地悪をして教えなかったんです!」
「お姉様、意地悪をして教えなかったんじゃありません。お姉様が勝手に決めつけて話すから否定も肯定もしなかっただけです。決めつけている人に何を言っても無駄でしょう? お姉様の思い込みに対して肯定すれば嘘をついたことになりますから、何も言わなかっただけです」
「ミリー! あなたのせいで、私とテイン様の結婚がいつになるかわからなくなったのよ!? しかも公爵家に住む予定だったのに!」

 お姉様がつかみかかってこようとしたけれど、お父様が机を叩いて止める。

「いいかげんにしろ! 公爵家に住めるわけがないだろう!」
「ど、どうしてですか?」
「ヨウビル公爵はお前とテイン様がミリエルにしたことに対して怒っておられる。お前だって恐ろしい目にあったのだからわかるだろう!」
「――っ!」

 お姉様は何か思い出したのか、びくりと体を震わせた。

 どうやら、私が知らない間に、お姉様は閣下から何かされていたみたいね。
 それがどんなことなのか、さっぱりわからないけれど……。

 私がここにいてもあまり意味はなさそう。

「お父様、私はもう良いでしょうか?」
「ああ。レジーノとの話が長引きそうだ。あとで呼ぶから今は出て行っていい」
「ありがとうございます」

 お姉様は何か言いたげに私を見てきたけれど、気にせずに執務室を出た。

 すると、待っていてくれたのか、ソルトが廊下に立っていて近寄ってくると、小声で聞いてくる。

「父上の様子がおかしかったでしょう?」
「ええ」

 正直に頷くと、ソルトは微笑む。

「ジェリー様から頼まれて、僕の本当の母に告げ口したんですよ。思った以上に効果がありましたね」
「どういうこと?」
「父上の本命は、僕の本当の母上だということですよ」

 ソルトの言葉を聞いて、お父様が豹変した理由がわかり、納得できたようなそうでないような複雑な気分になってしまった。
 
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