13 / 59
12 母の過去の犯罪
しおりを挟む
二人は過去の話をしてくれたあとに、今、現在のお母様達の話もしてくれた。
聞いているだけで気が重くなる話で、よくもまあ、そんな風に生きていけるものだと呆れてしまうものだった。
次の日に、ジェリー様とルドルフ様の別邸で会って話をした。
「やはり、イアーラは女性だけの集まりの場では好き勝手やっているんだな」
「そうみたいです。お茶会の場ではターゲットを毎回作って意地悪をしているそうです。他の貴族としては、お茶会に誘いたくないようですが、イアーラ様の場合は公爵夫人なので呼ばざるを得ないみたいです」
「厄介だな」
ジェリー様は小さく息を吐いてから、話題を変えてくる。
「で、君は何かあったのか?」
「はい?」
「あまり眠れていないんじゃないか? 疲れているように見える」
「そ、そうですか? そんな風に見えますか?」
「昨日の今日だから疲れているのかもしれないが、それだけじゃないんじゃないか?」
ジェリー様はそこまで言ったあと、無言で私を見つめてくる。
結局、昨日はお母様達の話でショックを受けたということもあるけれど、私が生まれた時のことについての話が出たことから、そちらの言葉が気になって、中々、眠ることができなかった。
起きる時間になる頃には、さすがにウトウトはしていたけれど、睡眠が短いからか、いつもよりも表情に明るさがない感じだった。
こんなことをジェリー様に話しても良いのか迷っていた。
婚約者だからといって、何でもかんでも話す必要はないはず。
だって、もし、私が違う家の子供だったらと思うと、ジェリー様にも軽蔑されてしまうかもしれない。
「僕のことはまだ信用できないか? 素直にそう言ってくれたらいい。別におかしいことじゃないから」
「そういうわけじゃないんです。知られたら、嫌われてしまうかもしれないので……」
「嫌われる? 何をしたんだ? 浮気でもしたんじゃないだろうな」
「違います! そんなわけないじゃないですか!」
「じゃあ、何の罪もない人をいじめたり、殺害したとか?」
「そんなことしません!」
ムキになって叫ぶと、ジェリー様は笑う。
「じゃあ、嫌わないから安心してくれ」
「いじめをしたり、それ以上のことをすると嫌うというのはわかりますけど、浮気も駄目なんですね?」
「君は僕が浮気をしてもいいのか?」
「男性は愛人を持つことが許されていますから」
「ああ、そういうことか。僕は愛人は持たない。君だけを大事にすると誓うよ」
ジェリー様はさらりと言ってのけたけれど、私の心臓の鼓動が早くなりすぎて苦しくなった。
顔が良い上に、そんな口説き文句を言われたら、元々、浮気するつもりなんてないですけど、絶対に浮気なんてできませんよね!
私は覚悟を決めて口を開く。
「昨日、言われたんです。もし、お母様を本当のお母様と思いたくないのなら、私が生まれた日のことを調べろと」
「……なるほどな」
ジェリー様は足を組み、何か思い当たることがあるのか頷いてから顎に手を当てた。
「どういう意味でしょうか」
「君はまだ答えを聞く覚悟は出来てないんだろう?」
「……はい」
「じゃあ、今の段階では言えない」
「どういうことでしょう? 思い当たることがあるということでしょうか……」
聞きたくないと思いつつも、やはり気になって聞いてしまう。
「聞く覚悟が出来ない限り教えられない」
真剣な眼差しで見つめられて、私はごくりと唾をのみこんだ。
どうしたら良いのかわからない。
でも、いつかは絶対に知らないといけないことだわ。
覚悟を決めなくちゃ。
いつかは、絶対に知りたくなることだから。
「ジェリー様の推測を聞かせていただけませんか」
「……」
ジェリー様は無言で私を見つめる。
私に本当に覚悟が出来ているか見極めているようにも思えた。
すこしの沈黙のあと、ジェリー様が確認してくる。
「後悔しないな?」
「もちろんです」
大きく首を縦に振ると、ジェリー様は組んでいた足をほどき話し始める。
「ソルトに婚約者が出来ただろう?」
「あ、はい。セファ伯爵令嬢の次女だとお聞きしてます」
「シスコンのソルトが押し付けられたからといって、素直に女性を婚約者にするわけがない」
「……どういうことでしょう?」
「彼女、誰かの雰囲気に似てないか?」
「良さそうな、感じの」
そこまで言って、私は口を押さえた。
「私の髪色と瞳の色も同じです。それに、顔立ちも……」
「彼女の母親はイアーラと君の母親らしき人物にいじめられていた」
「そんな……。でも、私は小さい頃は何もされていませんでした! 虐待を受けるようになったのは、ソルトが来てからで」
そこまで言って、私は言葉を止めた。
お母様にも最初は後ろめたさがあったのかもしれない。
けれど、私がソルトを守るという反抗的な態度を取った。
だから、態度が豹変した?
やっぱり、自分にとって憎い女の子供だったと、いじめることに決めたの?
「でも、どうしてお母様は、自分の子供と私を取り替えた、もしくは、誰かに取り替えさせたのでしょうか?」
「……」
ジェリー様は答えはわかっているけれど、答えたくなさそうだった。
そして、私も、その答えがわかるような気がした。
「そんなことが出来る人間がいるんですか」
両手で顔を覆って呟くと、椅子が動く音と、私に近付いてくる足音が聞こえた。
「悪い奴は世の中には思った以上に多くいる。ただ、これだけは言える。君は何も悪くない。だから泣くな」
ジェリー様はそう言って、私を優しく抱きしめてくれた。
聞いているだけで気が重くなる話で、よくもまあ、そんな風に生きていけるものだと呆れてしまうものだった。
次の日に、ジェリー様とルドルフ様の別邸で会って話をした。
「やはり、イアーラは女性だけの集まりの場では好き勝手やっているんだな」
「そうみたいです。お茶会の場ではターゲットを毎回作って意地悪をしているそうです。他の貴族としては、お茶会に誘いたくないようですが、イアーラ様の場合は公爵夫人なので呼ばざるを得ないみたいです」
「厄介だな」
ジェリー様は小さく息を吐いてから、話題を変えてくる。
「で、君は何かあったのか?」
「はい?」
「あまり眠れていないんじゃないか? 疲れているように見える」
「そ、そうですか? そんな風に見えますか?」
「昨日の今日だから疲れているのかもしれないが、それだけじゃないんじゃないか?」
ジェリー様はそこまで言ったあと、無言で私を見つめてくる。
結局、昨日はお母様達の話でショックを受けたということもあるけれど、私が生まれた時のことについての話が出たことから、そちらの言葉が気になって、中々、眠ることができなかった。
起きる時間になる頃には、さすがにウトウトはしていたけれど、睡眠が短いからか、いつもよりも表情に明るさがない感じだった。
こんなことをジェリー様に話しても良いのか迷っていた。
婚約者だからといって、何でもかんでも話す必要はないはず。
だって、もし、私が違う家の子供だったらと思うと、ジェリー様にも軽蔑されてしまうかもしれない。
「僕のことはまだ信用できないか? 素直にそう言ってくれたらいい。別におかしいことじゃないから」
「そういうわけじゃないんです。知られたら、嫌われてしまうかもしれないので……」
「嫌われる? 何をしたんだ? 浮気でもしたんじゃないだろうな」
「違います! そんなわけないじゃないですか!」
「じゃあ、何の罪もない人をいじめたり、殺害したとか?」
「そんなことしません!」
ムキになって叫ぶと、ジェリー様は笑う。
「じゃあ、嫌わないから安心してくれ」
「いじめをしたり、それ以上のことをすると嫌うというのはわかりますけど、浮気も駄目なんですね?」
「君は僕が浮気をしてもいいのか?」
「男性は愛人を持つことが許されていますから」
「ああ、そういうことか。僕は愛人は持たない。君だけを大事にすると誓うよ」
ジェリー様はさらりと言ってのけたけれど、私の心臓の鼓動が早くなりすぎて苦しくなった。
顔が良い上に、そんな口説き文句を言われたら、元々、浮気するつもりなんてないですけど、絶対に浮気なんてできませんよね!
私は覚悟を決めて口を開く。
「昨日、言われたんです。もし、お母様を本当のお母様と思いたくないのなら、私が生まれた日のことを調べろと」
「……なるほどな」
ジェリー様は足を組み、何か思い当たることがあるのか頷いてから顎に手を当てた。
「どういう意味でしょうか」
「君はまだ答えを聞く覚悟は出来てないんだろう?」
「……はい」
「じゃあ、今の段階では言えない」
「どういうことでしょう? 思い当たることがあるということでしょうか……」
聞きたくないと思いつつも、やはり気になって聞いてしまう。
「聞く覚悟が出来ない限り教えられない」
真剣な眼差しで見つめられて、私はごくりと唾をのみこんだ。
どうしたら良いのかわからない。
でも、いつかは絶対に知らないといけないことだわ。
覚悟を決めなくちゃ。
いつかは、絶対に知りたくなることだから。
「ジェリー様の推測を聞かせていただけませんか」
「……」
ジェリー様は無言で私を見つめる。
私に本当に覚悟が出来ているか見極めているようにも思えた。
すこしの沈黙のあと、ジェリー様が確認してくる。
「後悔しないな?」
「もちろんです」
大きく首を縦に振ると、ジェリー様は組んでいた足をほどき話し始める。
「ソルトに婚約者が出来ただろう?」
「あ、はい。セファ伯爵令嬢の次女だとお聞きしてます」
「シスコンのソルトが押し付けられたからといって、素直に女性を婚約者にするわけがない」
「……どういうことでしょう?」
「彼女、誰かの雰囲気に似てないか?」
「良さそうな、感じの」
そこまで言って、私は口を押さえた。
「私の髪色と瞳の色も同じです。それに、顔立ちも……」
「彼女の母親はイアーラと君の母親らしき人物にいじめられていた」
「そんな……。でも、私は小さい頃は何もされていませんでした! 虐待を受けるようになったのは、ソルトが来てからで」
そこまで言って、私は言葉を止めた。
お母様にも最初は後ろめたさがあったのかもしれない。
けれど、私がソルトを守るという反抗的な態度を取った。
だから、態度が豹変した?
やっぱり、自分にとって憎い女の子供だったと、いじめることに決めたの?
「でも、どうしてお母様は、自分の子供と私を取り替えた、もしくは、誰かに取り替えさせたのでしょうか?」
「……」
ジェリー様は答えはわかっているけれど、答えたくなさそうだった。
そして、私も、その答えがわかるような気がした。
「そんなことが出来る人間がいるんですか」
両手で顔を覆って呟くと、椅子が動く音と、私に近付いてくる足音が聞こえた。
「悪い奴は世の中には思った以上に多くいる。ただ、これだけは言える。君は何も悪くない。だから泣くな」
ジェリー様はそう言って、私を優しく抱きしめてくれた。
90
お気に入りに追加
4,953
あなたにおすすめの小説
婚約破棄ですか???実家からちょうど帰ってこいと言われたので好都合です!!!これからは復讐をします!!!~どこにでもある普通の令嬢物語~
tartan321
恋愛
婚約破棄とはなかなか考えたものでございますね。しかしながら、私はもう帰って来いと言われてしまいました。ですから、帰ることにします。これで、あなた様の口うるさい両親や、その他の家族の皆様とも顔を合わせることがないのですね。ラッキーです!!!
壮大なストーリーで奏でる、感動的なファンタジーアドベンチャーです!!!!!最後の涙の理由とは???
一度完結といたしました。続編は引き続き書きたいと思いますので、よろしくお願いいたします。
公爵令嬢の辿る道
ヤマナ
恋愛
公爵令嬢エリーナ・ラナ・ユースクリフは、迎えた5度目の生に絶望した。
家族にも、付き合いのあるお友達にも、慕っていた使用人にも、思い人にも、誰からも愛されなかったエリーナは罪を犯して投獄されて凍死した。
それから生を繰り返して、その度に自業自得で凄惨な末路を迎え続けたエリーナは、やがて自分を取り巻いていたもの全てからの愛を諦めた。
これは、愛されず、しかし愛を求めて果てた少女の、その先の話。
※暇な時にちょこちょこ書いている程度なので、内容はともかく出来についてはご了承ください。
追記
六十五話以降、タイトルの頭に『※』が付いているお話は、流血表現やグロ表現がございますので、閲覧の際はお気を付けください。
そう言うと思ってた
mios
恋愛
公爵令息のアランは馬鹿ではない。ちゃんとわかっていた。自分が夢中になっているアナスタシアが自分をそれほど好きでないことも、自分の婚約者であるカリナが自分を愛していることも。
※いつものように視点がバラバラします。
悪役令嬢になるのも面倒なので、冒険にでかけます
綾月百花
ファンタジー
リリーには幼い頃に決められた王子の婚約者がいたが、その婚約者の誕生日パーティーで婚約者はミーネと入場し挨拶して歩きファーストダンスまで踊る始末。国王と王妃に謝られ、贈り物も準備されていると宥められるが、その贈り物のドレスまでミーネが着ていた。リリーは怒ってワインボトルを持ち、美しいドレスをワイン色に染め上げるが、ミーネもリリーのドレスの裾を踏みつけ、ワインボトルからボトボトと頭から濡らされた。相手は子爵令嬢、リリーは伯爵令嬢、位の違いに国王も黙ってはいられない。婚約者はそれでも、リリーの肩を持たず、リリーは国王に婚約破棄をして欲しいと直訴する。それ受け入れられ、リリーは清々した。婚約破棄が完全に決まった後、リリーは深夜に家を飛び出し笛を吹く。会いたかったビエントに会えた。過ごすうちもっと好きになる。必死で練習した飛行魔法とささやかな攻撃魔法を身につけ、リリーは今度は自分からビエントに会いに行こうと家出をして旅を始めた。旅の途中の魔物の森で魔物に襲われ、リリーは自分の未熟さに気付き、国営の騎士団に入り、魔物狩りを始めた。最終目的はダンジョンの攻略。悪役令嬢と魔物退治、ダンジョン攻略等を混ぜてみました。メインはリリーが王妃になるまでのシンデレラストーリーです。
虐げられていた姉はひと月後には幸せになります~全てを奪ってきた妹やそんな妹を溺愛する両親や元婚約者には負けませんが何か?~
***あかしえ
恋愛
「どうしてお姉様はそんなひどいことを仰るの?!」
妹ベディは今日も、大きなまるい瞳に涙をためて私に喧嘩を売ってきます。
「そうだぞ、リュドミラ!君は、なぜそんな冷たいことをこんなかわいいベディに言えるんだ!」
元婚約者や家族がそうやって妹を甘やかしてきたからです。
両親は反省してくれたようですが、妹の更生には至っていません!
あとひと月でこの地をはなれ結婚する私には時間がありません。
他人に迷惑をかける前に、この妹をなんとかしなくては!
「結婚!?どういうことだ!」って・・・元婚約者がうるさいのですがなにが「どういうこと」なのですか?
あなたにはもう関係のない話ですが?
妹は公爵令嬢の婚約者にまで手を出している様子!ああもうっ本当に面倒ばかり!!
ですが公爵令嬢様、あなたの所業もちょぉっと問題ありそうですね?
私、いろいろ調べさせていただいたんですよ?
あと、人の婚約者に色目を使うのやめてもらっていいですか?
・・・××しますよ?
ヴェルセット公爵家令嬢クラリッサはどこへ消えた?
ルーシャオ
恋愛
完璧な令嬢であれとヴェルセット公爵家令嬢クラリッサは期待を一身に受けて育ったが、婚約相手のイアムス王国デルバート王子はそんなクラリッサを嫌っていた。挙げ句の果てに、隣国の皇女を巻き込んで婚約破棄事件まで起こしてしまう。長年の王子からの嫌がらせに、ついにクラリッサは心が折れて行方不明に——そして約十二年後、王城の古井戸でその白骨遺体が発見されたのだった。
一方、隣国の法医学者エルネスト・クロードはロロベスキ侯爵夫人ことマダム・マーガリーの要請でイアムス王国にやってきて、白骨死体のスケッチを見てクラリッサではないと看破する。クラリッサは行方不明になって、どこへ消えた? 今はどこにいる? 本当に死んだのか? イアムス王国の人々が彼女を惜しみ、探そうとしている中、クロードは情報収集を進めていくうちに重要参考人たちと話をして——?
初耳なのですが…、本当ですか?
あおくん
恋愛
侯爵令嬢の次女として、父親の仕事を手伝ったり、邸の管理をしたりと忙しくしているアニーに公爵家から婚約の申し込みが来た!
でも実際に公爵家に訪れると、異世界から来たという少女が婚約者の隣に立っていて…。
お二人共、どうぞお幸せに……もう二度と勘違いはしませんから
結城芙由奈
恋愛
【もう私は必要ありませんよね?】
私には2人の幼なじみがいる。一人は美しくて親切な伯爵令嬢。もう一人は笑顔が素敵で穏やかな伯爵令息。
その一方、私は貴族とは名ばかりのしがない男爵家出身だった。けれど2人は身分差に関係なく私に優しく接してくれるとても大切な存在であり、私は密かに彼に恋していた。
ある日のこと。病弱だった父が亡くなり、家を手放さなければならない
自体に陥る。幼い弟は父の知り合いに引き取られることになったが、私は住む場所を失ってしまう。
そんな矢先、幼なじみの彼に「一生、面倒をみてあげるから家においで」と声をかけられた。まるで夢のような誘いに、私は喜んで彼の元へ身を寄せることになったのだが――
※ 他サイトでも投稿中
途中まで鬱展開続きます(注意)
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる