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10 姉の勝手な考え
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「姉だから妹のものを奪っても良いだなんて話は、今、初めて聞きました。そんなことがまかり通るような世の中なら、娘を二人以上生む人はいなくなるのではないでしょうか」
真面目にこたえると、お姉様は誇らしげに胸を張る。
「あなたは、本当に何も知らないのね。私の友人は皆、そうだと言っているわ」
「類は友を呼ぶと言いますものね。ですが、お姉様、あなたやあなたのお友達の考えている意見は少数派の意見です。一般の人達は、姉だから妹のものを奪っても良いだなんて思っていませんから、そんなことを大きな声で言うものではないと思いますよ。恥をかくのはお姉様達です」
「な、なんですって!? 私が常識知らずだとでも言いたいの!?」
「そうだと思ったので、ご忠告申し上げたまでです」
軽く睨んで言うと、お姉様は顔を真っ赤にして叫ぶ。
「おかしいのはあなたなのに、どうして私が馬鹿にされないといけないのよ!? 姉のほうが偉い! それが普通でしょう!?」
「お姉様の普通と私の普通は違うんです。これ以上、この話をしても平行線でしょうし、急いでますので失礼します」
「何なのよ! おかしいのはミリーなのに! どうして、そんなに偉そうにしているのよ!」
「お友達ともう一度、よく話し合ってみてください」
お姉様を振り切ってエントランスホールに向かうと、待ってくれていたのはルドルフ様だった。
「ごきげんよう、ルドルフ様。お待たせしてしまい申し訳ございません」
「気にしないでくれ。今日の俺は従者のようなものだからな」
近付いていくと、ルドルフ様は小声でそう言って、にっこりと微笑んでくれた。
ルドルフ・ダブル辺境伯は、今年で40歳になられるとのことだけれど、三十代前半と言われても納得してしまうくらいにお若く見える。
ダークブラウンの髪はいつもボサボサで、整えてもすぐに戻ってしまうくらいにクセが強いのだそう。
戦地に出られることもあるからか、顔や手など、見えるところに傷がいっぱいあって、大柄な体格だからか、タキシードを着ておられても、辺境伯というよりかは戦士のように見える。
たくましい男性が好きな女性にはたまらないといったところかしら?
本人曰く、貴族の女性からはまったくモテないんだそう。
でも、フーラル様がいらっしゃるから、まったく気にしておられないみたい。
ただ、モテないというのは本人が言ってらっしゃるだけだし、一部の女性には人気があるのではないかと、私は勝手に思っている。
「じゃあ、行こうか。ジェラルド様が待ってる」
「はい」
頷いて歩き出すと、今度はお母様が現れた。
「ちょっと、ミリエル! あなた、レジーノに何を言ったの!?」
「……お母様、ダブル辺境伯の前ですよ?」
大きく息を吐いてから、お母様を窘めると、私の言葉は耳に届かなかったのか、レジーノと同じように顔を真っ赤にして叫ぶ。
「本当にあなたは生意気な子ね! 可愛がってもらっていた恩を忘れて!」
「お母様、いいかげんにしてください!」
「レナス侯爵夫人、お邪魔しております。正式にご挨拶したいのは山々なのですが、出発せねばならない時間ですので、ここで失礼させていただきます」
ルドルフ様はお母様が何か言い出す前に、私を促して歩き出す。
「申し訳ございませんでした」
小声で謝ると、ルドルフ様はいたずらっ子のような笑みを浮かべる。
「ジェラルド様から話は聞いていたが、個性的な奥様だ。顔を真っ赤にしてたな」
「事故にあってから、ずっとイライラしているんです」
「精神的に参ってるんだな。ヨウビル家を敵に回すからだ」
ルドルフ様は豪快に笑い、待ってくれていた馬車の扉を御者の代わりに開けてくれた。
中には、紺色のタキシード姿のジェリー様が座っていて、私と目が合うと笑顔を見せてくれた。
「家の中まで迎えにいけなくて悪かった」
そう言って、ジェリー様が私に手を差し出してくれたので、その手の上に自分の手を乗せて、馬車の中に入った。
ルドルフ様の体が大きいので、私とジェリー様は並んで座り、ジェリー様の向かい側にルドルフ様が座った。
「少し時間がかかったようだが、何かトラブルか?」
「トラブルといいますか……」
ジェリー様に尋ねられて、まず頭の中に浮かんだのは、お母様のことだったのだけど、すぐにお姉様の言っていたことを思い出して、ジェリー様に聞いてみる。
「お姉様はテイン様と結婚して、ヨウビル家に住むつもりだと言っていたんですが、そんな話が出ているのですか?」
「いや? そんな話は一切聞いてない。もし、結婚の話をイアーラ達が勝手にすすめていたとしても、結婚するのは勝手だが、ヨウビル家に住まわせるというのは父上の許可がなければ無理だ」
「もし、そんな話をしてきたら、閣下はどうされるでしょうか?」
「結婚は認めるかもしれないが、家に住むのは断るに決まってるだろう。僕だって迷惑だ」
ジェリー様は眉根を寄せてきっぱりと答えてくれた。
ヨウビル家に住むことは、二人が勝手に決めているのね。
テイン様もお姉様も良い大人のはずなのに、一体、何を考えているのかしら。
真面目にこたえると、お姉様は誇らしげに胸を張る。
「あなたは、本当に何も知らないのね。私の友人は皆、そうだと言っているわ」
「類は友を呼ぶと言いますものね。ですが、お姉様、あなたやあなたのお友達の考えている意見は少数派の意見です。一般の人達は、姉だから妹のものを奪っても良いだなんて思っていませんから、そんなことを大きな声で言うものではないと思いますよ。恥をかくのはお姉様達です」
「な、なんですって!? 私が常識知らずだとでも言いたいの!?」
「そうだと思ったので、ご忠告申し上げたまでです」
軽く睨んで言うと、お姉様は顔を真っ赤にして叫ぶ。
「おかしいのはあなたなのに、どうして私が馬鹿にされないといけないのよ!? 姉のほうが偉い! それが普通でしょう!?」
「お姉様の普通と私の普通は違うんです。これ以上、この話をしても平行線でしょうし、急いでますので失礼します」
「何なのよ! おかしいのはミリーなのに! どうして、そんなに偉そうにしているのよ!」
「お友達ともう一度、よく話し合ってみてください」
お姉様を振り切ってエントランスホールに向かうと、待ってくれていたのはルドルフ様だった。
「ごきげんよう、ルドルフ様。お待たせしてしまい申し訳ございません」
「気にしないでくれ。今日の俺は従者のようなものだからな」
近付いていくと、ルドルフ様は小声でそう言って、にっこりと微笑んでくれた。
ルドルフ・ダブル辺境伯は、今年で40歳になられるとのことだけれど、三十代前半と言われても納得してしまうくらいにお若く見える。
ダークブラウンの髪はいつもボサボサで、整えてもすぐに戻ってしまうくらいにクセが強いのだそう。
戦地に出られることもあるからか、顔や手など、見えるところに傷がいっぱいあって、大柄な体格だからか、タキシードを着ておられても、辺境伯というよりかは戦士のように見える。
たくましい男性が好きな女性にはたまらないといったところかしら?
本人曰く、貴族の女性からはまったくモテないんだそう。
でも、フーラル様がいらっしゃるから、まったく気にしておられないみたい。
ただ、モテないというのは本人が言ってらっしゃるだけだし、一部の女性には人気があるのではないかと、私は勝手に思っている。
「じゃあ、行こうか。ジェラルド様が待ってる」
「はい」
頷いて歩き出すと、今度はお母様が現れた。
「ちょっと、ミリエル! あなた、レジーノに何を言ったの!?」
「……お母様、ダブル辺境伯の前ですよ?」
大きく息を吐いてから、お母様を窘めると、私の言葉は耳に届かなかったのか、レジーノと同じように顔を真っ赤にして叫ぶ。
「本当にあなたは生意気な子ね! 可愛がってもらっていた恩を忘れて!」
「お母様、いいかげんにしてください!」
「レナス侯爵夫人、お邪魔しております。正式にご挨拶したいのは山々なのですが、出発せねばならない時間ですので、ここで失礼させていただきます」
ルドルフ様はお母様が何か言い出す前に、私を促して歩き出す。
「申し訳ございませんでした」
小声で謝ると、ルドルフ様はいたずらっ子のような笑みを浮かべる。
「ジェラルド様から話は聞いていたが、個性的な奥様だ。顔を真っ赤にしてたな」
「事故にあってから、ずっとイライラしているんです」
「精神的に参ってるんだな。ヨウビル家を敵に回すからだ」
ルドルフ様は豪快に笑い、待ってくれていた馬車の扉を御者の代わりに開けてくれた。
中には、紺色のタキシード姿のジェリー様が座っていて、私と目が合うと笑顔を見せてくれた。
「家の中まで迎えにいけなくて悪かった」
そう言って、ジェリー様が私に手を差し出してくれたので、その手の上に自分の手を乗せて、馬車の中に入った。
ルドルフ様の体が大きいので、私とジェリー様は並んで座り、ジェリー様の向かい側にルドルフ様が座った。
「少し時間がかかったようだが、何かトラブルか?」
「トラブルといいますか……」
ジェリー様に尋ねられて、まず頭の中に浮かんだのは、お母様のことだったのだけど、すぐにお姉様の言っていたことを思い出して、ジェリー様に聞いてみる。
「お姉様はテイン様と結婚して、ヨウビル家に住むつもりだと言っていたんですが、そんな話が出ているのですか?」
「いや? そんな話は一切聞いてない。もし、結婚の話をイアーラ達が勝手にすすめていたとしても、結婚するのは勝手だが、ヨウビル家に住まわせるというのは父上の許可がなければ無理だ」
「もし、そんな話をしてきたら、閣下はどうされるでしょうか?」
「結婚は認めるかもしれないが、家に住むのは断るに決まってるだろう。僕だって迷惑だ」
ジェリー様は眉根を寄せてきっぱりと答えてくれた。
ヨウビル家に住むことは、二人が勝手に決めているのね。
テイン様もお姉様も良い大人のはずなのに、一体、何を考えているのかしら。
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