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9  姉の執着

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 ジェリー様との婚約が決まってからは、ルドルフ様と婚約したと勘違いしているお姉様は、毎日うるさかった。
 先日の件もそうだけれど、食事の時に顔を合わせることがあれば「ルド様と上手くいっているのか」などと聞いてくる。

 ジェリー様とは上手くいっているので、「ルド様とは上手くいっているわ」と答えると、あからさまに悔しそうな顔をするので、最近はその顔を見て笑える余裕も出てきた。
 ジェリー様とも上手くやっていけそうな自信が出てきているということもあって、心に余裕がでてきたのだと思う。

 もし、私のお相手がジェリー様とお姉様にバレても、絶対に奪われないという気持ちにもなっていたから余計にかもしれない。

「ルド様と仲良くなるのが早くないですか? お姉様はやっぱり顔が良い男性が好きですね」

 少し拗ねたように言うソルトが可愛くて、私よりも背の高い彼の頭を手を伸ばして撫でると、口をとがらせる。

「もう、子供じゃないんですけど」
「そうね、知ってるわ。だから、あなたも婚約者と仲良くしないとね」
「義理の母とレジーノのせいで女性は苦手なんです。もちろん、努力はしますけど」

 ソルトは不満げな顔をして答えた。

 ジェリー様が言っていたとおり、ソルトはシスコンなところがある。
 そんな彼に、先日、婚約者ができた。

 お姉様達は嫌がらせのつもりで彼に婚約者を作らせたみたいだけど、ソルトだって婚約者は必要だし、お相手の令嬢も伯爵令嬢で性格の良さそうな人だった。

 ソルトには色々と助けてもらったし、辛い思いをさせたから、絶対に幸せになってほしい。

 お姉様やお母様には邪魔はさせないわ!

 気合いを入れてからは、お父様の仕事を手伝うと同時に、お母様のスケジュールを把握することにした。

 お母様の詳しいスケジュールは私のほうではつかみにくいけれど、お父様の予定はすぐにわかる。

 お父様が出席するパーティーには、お母様も一緒に行くことが多いので、お母様達が行かないパーティーに出席することに決めた。

 本人が近くにいる場合、悪い噂は話しにくいだろうと思ったからだ。

 ジェリー様がドレスを送ってくれることにはなったけれど、情報収集だけなら、卒業祝いとしてソルトが買ってくれたドレスがあるため、近いうちに行われるパーティーにはそのドレスを着て行くことにした。

 当日、パーティーに出かける準備をしていると、お姉様が部屋にやってきた。

「どう? 私がチェックしてあげましょうか?」
「お姉様と私の趣味は合わないから結構よ」
「そんなことないわよ。今日のドレスは可愛いわ。私もそんなドレスが欲しいもの」

 お姉様の欲しがりが、またはじまったわ。
 子供の頃は「ちょうだい」と言われて、それに対して嫌だと言ったら、お母様から叱られて、叱られている間にお姉様に奪われているパターンが多かったけれど、私だってもう子供じゃない。

「このドレスはソルトが送ってくれたものなんです。やはり、ソルトはセンスが良いのですね」

 ダークブルーのイブニングドレスで、私には大人っぽい気がしていたけれど、学園を卒業して大人になるのだからと、ソルトが送ってくれたのだ。

 さすがのお姉様も、ソルトの送ったものを欲しいとは言いたくないようだった。

「そ、そう。ソルトが選んだの。やっぱり、よく見てみたら、あんまり良くなさそうね。生地も安っぽいし」
「お姉様は見る目がないんですね。この生地、最高級だと聞いてますけど」
「う、うるさいわね! 値段の問題じゃないのよ!」
「……そうですか」

 話している間に、メイドが急いで準備を整えてくれ、それと同時に、お迎えの馬車がやって来たという連絡もあったので、エントランスホールに向かうことにした。

「ミリー、あなたに話しておきたいことがあるんだけど、私とテインは近いうちに結婚する予定なの」
「結婚?」

 予想外の言葉に驚いて反応してしまうと、お姉様はにたりと笑って答える。

「そうよ。結婚したら、私はヨウビル公爵邸に住むことになるの」
「……どういうことですか?」
「テインは次男だから公爵家は継げないけれど、長男のジェラルド様が後を継ぐまでは、公爵令息扱いだから、ヨウビル公爵家で一緒に住むことになるの。ジェラルド様が後を継がれたら、テインは伯爵の爵位をもらうらしいわ」
「侯爵令嬢から伯爵夫人になられるわけですね」

 お姉様の前を通り過ぎながら言うと、お姉様は不機嫌そうに眉を寄せた。

「辺境伯だって侯爵家よりも下じゃないの! 偉そうなこと言わないで!」
「辺境伯家は伯爵家よりも上ですよ。爵位でいえばですけど」
「テインが伯爵の爵位をもらっても、私達は公爵家に住み続けるつもりよ!」
「はい?」

 お姉様が意味のわからないことを言い出したので、相手にしてはいけないとわかっていながらも、足を止めて聞き返した。
 すると、お姉様は微笑んで言う。

「私が男性に人気があるのは知っているでしょう?」
「ええ、まあ……」
「ジェラルド様だって、お願いすれば家に置いてくれると思うの」
「無理だと思いますけど」
「あなたにわかるわけないでしょう。それよりも早く、新しい婚約者を探したほうが良いわよ?」
「どういう意味でしょうか?」
「私とテインは婚前旅行でルドルフ様の領地に行くつもりなの」

 お姉様の考え方は、私のものは私のもの。
 妹のものは私のもの。
 他人のものは興味のあるものだけ私のものってとこかしら?
  
 もしかして、お姉様、ソルトのことが好きなのかしら。
 だから、ソルトが懐いている私にだけ執着するの?

 ……考えても無駄ね。
 ルドルフ様を欲しいと言い出されても、私には大して痛みはないし。

「婚前旅行ですか。おめでとうございます」
「ごめんね、ミリー。あなた、テインのことが本当に好きだったものね。あなたの大事なものばかり奪うけれど許してね? だって、私は姉なんだもの。妹のものを奪っても当然でしょう?」

 申し訳ないですが、お姉様。
 私にとってテイン様は、道端に落ちているゴミと同じようなもので、見かけたらゴミ箱へ、くらいの気持ちしか、もう残ってないんです。

 
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