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8  姉の興味

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 その後、何とか感情を落ち着かせて話し合いをした結果、まずは、私とジェラルド様の距離を縮めることにした。
 あと、私がルド様と呼ぶのは、ルドルフ様だけのことだと、ソルト以外の私の家族とイアーラ様、そしてテイン様に思い込ませることに決めた。

 私とジェラルド様の距離を縮めるということを決めた理由は、お互いに信頼関係が出来ない限り、難しいことを頼みづらいという話になったからだ。
 お互いに言いたいことを言ったほうがやりやすいし、そのためには、人となりを知ろうという結論に達した。

 私とジェラルド様の仲を家族達にバレないようにするため、繁華街などに出かけるのではなく、ルドルフ様の別邸で会うことにした。

 ジェラルド様と私の婚約を知っている、他の貴族に誤解をされては困るため、ルドルフ様の別邸には、いずれ結婚されるという女性、フーラル様に来てもらい、変な噂が立たないように手は打った。

 ヨウビル公爵が私の家族や自分の家族に、私とジェラルド様の婚約をまだ知らせていないという話を仲の良い高位貴族の何人かにされ、その際に私と様が婚約しているという話をしている人がいたら、黙って聞いているだけで、相手がジェラルド様である言わないことを約束してもらったらしい。

 そして、もし、そんな人が私達の家族以外にいれば報告が入れてもらえることになった。

 ジェラルド様とレストランでお会いしてから、十日後の朝、ルドルフ様の家に向かう準備をしていると、お姉様が部屋にやってきて、ノックもせずに勝手に入ってきた。

「ねえ、婚約したって本当なの?」
「そうですけど……。お姉様とはこれ以上、話をしたくないので帰っていただけますか?」
「相手はルドルフ様だと聞いたけれど……」
「……」
「ねぇ、聞いてるの!?」
「今日もルド様の家に行きますが?」
「あの方、好きな人がいらっしゃるって知っていた?」

 お姉様は帰るつもりがまったくないのか、勝手に話し始める。

「あなたのこと好きじゃないのに嫁にしようとしてるのよ? あなたは愛人にされるの。それはわかっているの?」
「自分の婚約者のことを妹が好きだからって、自分と婚約していることを内緒にしたりしている人がいますし、そんな人よりかは誠実だと思いますが?」
「なんですって!?」

 嫌味に気が付いたお姉様が私に向かってこようとしたけれど、開け放たれていた扉の向こうから、ソルトの声が聞こえてきた。

「レジーノ様、遊んでないで仕事してくださいよ。仕事しないんなら、婚約者と早く結婚して、家から出ていってください」
「うるさいわね! 愛人の子のくせに!」
「愛人の子がこの家を継ぐんですよ。早く出ていきたいでしょう? 僕だって早く追い出したいので、意見が一致しましたね」

 ソルトの言葉を聞いたお姉様は、私に向かってくるのをやめて、ソルトのほうへ向かっていく。

「ミリーに渡しても良いと思えるのはあなただけだわ!」
「それは僕にとっては最高の褒め言葉です」

 ソルトが笑顔で言うと、お姉様はイライラしながらも自分の仕事である、お母様の助手をしに向かったようだった。

「ソルト、わざとやってるわね?」
「付きまとわれてもうざいじゃないですか」

 ソルトは答えたあと、慌てて口を手で覆う。

「うざいは駄目ですよね。鬱陶しい」
「人に向かって言って良い言葉ではないけれど、今回は良いことにしておくわ。他人に言っては駄目よ?」
「わかってますよ。僕は次期当主ですからね」

 ソルトのおかげで、私は無事にルドルフ家の別邸に向かうことができた。

 ルドルフ家の別邸は私の家よりも敷地は狭いけれど、お花が好きだというフーラル様のために、庭園は綺麗に整えられていて、中庭の噴水の近くにあるガゼボは、ルドルフ様とフーラル様のお気に入りの場所らしい。
 今回は、その場所を私達にすすめてくださった。

 そのため、持参してきた昼食をガゼボ内のテーブルに広げて、食事をしながら話すことにした。

「レジーノ嬢の様子はどうだ?」
「私とルドルフ様が婚約すると、思い込んでくれているみたいです。ソルトが上手く誘導してくれているので助かります」
「ソルトは君以外の家族を嫌っているからな。気持ちはわからないでもないが」

 改めて見ると、ジェラルド様は長身痩躯の美男子で、今まで売れ残っていたことが驚きだった。

 私はどちらかというと外見で一目惚れしてしまうタイプなので、ジェラルド様を見ると、胸が高鳴ってしょうがない。

 ただ、私だって勉強した。
 テイン様の時だって、外見に一目惚れして痛い目にあったのだから。

 ジェラルド様は私より五つ年上の23歳。
 スタイルも良いし、何度も言うけれど、顔が良い!
 なのに、婚約者がいないのはどうして?
 考えられるとしたら、イアーラ様が縁談を邪魔してた?

「ミリー」
「は、はいっ!?」

 突然、ジェラルド様が言うものだから、慌てて持っていたカップをソーサーに戻して尋ねる。

「あの、ミリーとは?」
「テインから聞いたことがある。君は家族からミリーと呼ばれているんだろう?」
「それは姉が決めた愛称で姉しか呼んでいません。ですから、他の人にはミリエルと呼んでもらっています」
「他と一緒なのは嫌だな。じゃあ、エルでどうだ?」
「えっと、はい。かまいません」

 そんな風に呼ばれたことがなかったから、特別感があって、何だかドキドキしてしまい、声が裏返りそうになった。
 
「僕のことはジェリーと呼んでくれ。ただ、他の人に話す時はルドで」
「承知いたしました。あの、ジェリー様、これから、私はどうすれば良いのでしょうか」
「どうとは?」
「お姉様はルドルフ様に興味を持ち始めています。ですから、それに対しての対策と、ジェリー様達は、私のお母様やイアーラ様に、どのような罰を望まれているのかお聞かせ願いたいんです。それによって、私も動きを考えないといけませんので」
「そうだな。ダブル辺境伯の件に関しては、レジーノ嬢に何をされても、彼の意思が揺らぐことはないから大丈夫だと思うが、もしもの場合の手も打っておこう」

 ジェリー様はそこで言葉を区切り、私に視線をしっかりと合わせてから、言葉を続ける。

「君の手を汚したくない。だから、君にはイアーラ達の悪事を暴く手助けをしてほしい。どうせ、彼女達のことだ。母上が亡くなったあとも、ターゲットを変えて何かしているはずだ。女性達から上手く聞き出してくれないか」
「承知しました」

 お母様の目に留まれば暴力をふるわれるから、それが嫌で、社交場だけでなく家の中でも大人しくしていた。
 だけど、これからは暴力をふるわれるのを覚悟して、動くようにしないと。

「あと、これだけは守って欲しいことがある」
「何でしょうか」
「もし、理不尽な暴力をふるわれるようなら、計画なんてどうでもいい。僕のところに来い」
「……ありがとうございます」

 深い意味なんてないことはわかっている。
 わかっているのに、ときめいてしまうのは、まだ私の精神がお子様だということなんでしょうね。

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