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6  母の過去

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「ど、どういう理由で、ジェラルド様とソルトが知り合ったんです? 共通点がないじゃないですか!?」

 動揺しすぎて、挨拶をすることも忘れて聞いてしまった。
 金色の肩より少し長い髪を後ろで一つにまとめ、切れ長の目に紅色の瞳を持つジェラルド様は、困った顔をして、私の隣に座るソルトを見てから答えてくれる。

「彼と僕との共通点はあるが、君は知らなくても良いことかなと思う」
「ミリエル姉さんは気にしなくて大丈夫ですよ。気になるとは思いますが、知ったら、きっと自分を責めるんじゃないかと思うんです」
「彼はシスコンだからな。察してやってくれ」

 二人が理由をあまり話したくなさそうなので、聞いてはいけないことなのだと判断して口を閉ざす。

 それにしても、申し出はありがたいけれど、ジェラルド様は私にはもったいなさすぎるわ!
 それに、お姉様のこともある。

「ソルトから聞いているかと思いますが、お姉様はなんとしてでも、私の幸せを壊そうとしてくるはずです。ですから……」
「僕と君の仲を裂こうとすると?」
「どんな形になるかはわかりませんが、そうしようとしてくるのでは、と思います」

 表情を暗くして頷くと、ジェラルド様は整った顔に笑みを浮かべる。

「その点は気にしなくていい。正式な婚約の契約書に関しては、すでに君のお父上から承諾のサインをいただいている。ただ、相手が僕だとは知らないが」
「……どういうことでしょうか? お父様は相手が誰かもわからずにサインしたということですか?」
「そうだな。正式には名前が空白になっている状態でサインしてくれている」

 ジェラルド様の言っておられることの意味がわからなくて困惑していると、ソルトが教えてくれる。

「父上が入院している間に、他の書類に紛れ込ませて、サインだけしてもらったんです」
「お父様は内容も見ずにサインしたの?」
「……お姉様に婚約者なんて見つかるはずがないと思ってるみたいですよ」
「……それはまあ、私もそう思っていたから、お父様を責められないわね。というか、そのおかげで助かったというのもあるわ。相手がジェラルド様だなんて知ったら、お姉様だけじゃなく、お母様までもが何か言い出す可能性はあるわ」

 ソルトの言葉に頷くと、ジェラルド様が話し始める。

「君はレジーノ嬢の前ではルドルフ・ダブルという中年の男と仲の良いふりをしてもらいたい。正式に婚約するのは僕だが、それを知られないようにしてほしい。まあ、バレてもかまわないが」
「ルドルフ・ダブル様というと、辺境伯の……?」
「そうなんだ。彼は訳あって、一定の期間だけ婚約者になってくれる人を探している。レジーノ嬢が彼に近付いて面倒くさいことになったら、彼を譲ってあげればいい。君の婚約者は彼じゃないし、彼も自分の婚約者代わりが君じゃなくていいからね」
「ダブル辺境伯のご迷惑にはならないということですね?」
「ああ。レジーノ嬢にたぶらかされる人でもないよ」

 詳しく話を聞いてみると、ダブル辺境伯は平民の女性と恋に落ちたのだけれど、令息時代は彼女との結婚を認めてもらえなかった。
 けれど、先代の辺境伯が亡くなる前に彼女との結婚を認められたんだそうで、喪に服してからの結婚にしようと決められた。

 平民の女性ではあるけれど、社会的地位のある人らしいから認められたのと、息子達の熱意に根負けされたようだった。

 でも、それを親戚が認めていないらしく、婚約者を探せとうるさいらしく、結婚まで演技をしてくれる人がほしいのだと教えてくれた。

「でも、いつかはジェラルド様と私が婚約しているという話をしなければなりませんよね?」
「そのことなんだが、君に協力してもらえないかと思っている」
「……協力?」

 ジェラルド様は真剣な表情で答える。

「ああ。こんな言い方はしたくないが、今のヨウビル公爵夫人、彼女の名はイアーラと言うんだが、僕と父は彼女に復讐したい。そのためなら、レジーノ嬢を殺すことまではしないけれど、君から遠ざけることは出来る」
「ちょ……待ってください。もしかして……?」
「口にしなくてもいいよ。君の予想は当たっている。でも、あれは不運な事故だった」

 公爵家だから出来ることだったんだわ……。
 お父様達は大変な人達を敵に回してしまったのね。

 だけど、どうしてそこまでされるのかしら?

「君の母上とイアーラ、それから僕の母は親友だった。正確には僕の母だけがそう思ってただけだけど」

 ジェラルド様の元々低かった声が一段と低く冷たくなった気がした。

 亡きヨウビル公爵夫人の死因は風邪をこじらせたものだったと聞いている。

 まさか……。

「私の母は、ジェラルド様のお母様の死に関わっているのですか?」
「レジーノがお姉様のものを奪おうとするのも、遺伝かもしれません」

 私の問いかけに、ソルトが答えた。

 詳しいことはまだわからない。
 でも、予想した内容が当たっているのであれば、私は間接的に人を殺めた人間の血を引いていることになる。

 そう思うと吐き気がした。

「ミリエル姉さん、顔色が悪いです」
「悪い。今日はこの話はやめよう。急に色々な話をしてしまってすまない」
「……いいえ。私は大丈夫です。ですから聞かせていただけませんか?」
「……」

 ジェラルド様とソルトは困った顔で顔を見合わせた。

「お願いします。ちゃんと知りたいんです」

 ジェラルド様の瞳をまっすぐに見つめて言うと、彼は小さく息を吐いてから、過去の出来事について話し始めた。


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