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 ソルトはお姉様だけでなく、両親からも質問攻めにされたけれど、私が相手を気に入らない限り進まない話だから、まだ両親達には相手が誰だか話さないと突っぱねた。
 
 だから、私はソルトの言葉は、その場しのぎの嘘かもしれないと思った。

 だって、私と婚約しても良いだなんて思う人が、この世にいるとは思えなかったから。

 食事を終えた私とソルトは、ダイニングルームを一緒に出て、先程の話を私の部屋ですることにした。

「ソルト、本当に私に婚約者になってくれそうな人を紹介してくれるの?」
「はい。元々は、ルドがテインなんて馬鹿を紹介したから悪いのだということで、ルドのほうから、誰でも良いというのであれば、自分に責任を取らせてくれと言ってきたんです」
「ちょっと待って、意味がわからないわ。ルドって誰?」
「元々は僕の友人の紹介でテインと知り合ったでしょう?」

 テイン様と知り合えるように、そのきっかけを作ってくれたのは、ソルトの友人の子爵令息だったのを思い出す。

 そういえば、私はその彼に会ったことがないわ。
 お礼もソルトから伝えてもらっていた。

「そういえばそうだったわね……。もしかして、その人が私の婚約者になろうとしてくれているの?」
「はい。その人、本当は子爵令息じゃないんですよ。ルドは彼が自分でつけた呼び名ですし。ミリエル姉さんに嘘をついていたことは謝ります。本当にごめんなさい」
「そんな……、謝らなくてもいいわ。その方にだって何か事情があったのでしょう? 名前や身分を偽っていたことで私が被害を被ったわけではないんだから気にしないで」

 私が優しく言うと、頭を下げたままだったソルトは顔を上げてホッとしたような顔をした。

「良かったです。ありがとうございます」
「私もテイン様に知り合えた嬉しさで、ちゃんと、その方にお礼ができていなかったしね」
「子供の頃の話ですし、彼は正体を知られたくなかったので良いと思います。それに結果は悪かったですしね」

 ソルトは胸の前で腕を組んでから、ため息を吐いた。

「どんな方なの? 別に無理をしてもらわなくてもいいのよ?」
「無理はしていませんし、会ってみればわかりますよ。ミリエル姉さんにとって悪い相手ではないはずです。ただ、問題があるといえばありますが……」

 ソルトはうーんと唸ってから、すぐに微笑む。

「きっとレジーノ達は自滅するでしょうから大丈夫でしょう」
「あなたを信用していないわけじゃないのよ。でも、お姉様の執念は普通じゃないわ。どうして、あそこまで私の不幸を願うのかわからないけれど、その方に迷惑をかける可能性もあるわ」
「ミリエル姉さんに執着する理由を僕も気になって調べましたが、レジーノは幼い頃は僕を気に入っていたようです」
「は……はい?」

 初耳だったので、驚いて声が裏返ってしまう。

「僕をおもちゃにしたかったみたいです」
「……」

 気に入っていたというのは、好きだというほうだと勘違いしていた。
 そうじゃなくて、嫌な意味だったのね……。

「私、お母様のことは気付いていたけれど、お姉様のことは気付いていなかったわ。ごめんなさい」
「気にしないでください。レジーノに僕は何もされてませんから」
「なら良いのだけど……」
「謝らないといけないのは僕のほうです。僕とミリエル姉さんが仲良くなったから、レジーノはおもちゃを取られたと思ったようです」
「そんな……! あなたはおもちゃなんかじゃないわ!」

 私が叫ぶと、ソルトは苦笑する。

「自分の母が僕をいたぶっているのですから、自分もしても良いと思ったのでは?」
「……そんな!」
「ミリエル姉さんがいてくれたおかげで、僕はレジーノには嫌なことをされずに済みました。だけど、そのせいでレジーノに目をつけられてしまった。本当にごめんなさい」
「ソルトが謝ることじゃないわ! 悪いのはお母様とお姉様、そして、放置していたお父様でしょう?」

 座っていた椅子から立ち上がって叫ぶと、ソルトは微笑んで頷く。

「そうです。ただ、それがあったからこそ、ルドと知り合えたわけですが……」

 ソルトはそこで言葉を区切り、改めて聞いてくる。

「どうされますか? とりあえず、会うだけ会ってみますか?」
「そ、そうね……。身分は子爵令息、ではないのよね?」
「はい。でも、貴族です。ミリエル姉さんも知っていますよ」
「私も知っている?」
「はい。身分的には良い相手だと思います。環境は良くないですが……」

 ソルトはわざと、相手が誰だか教えないようにしているみたいだった。
 私に意地悪するような子じゃない。

 だから、彼にとっては私に好条件な人を紹介してくれるつもりなのだと思い、会うだけ会ってみることに決めた。

 テイン様を紹介してしまったことを申し訳ないと思ってくれているようだし、気にされなくて良いということだけでも伝えようと思った。

 それから数日後、私は婚約者候補の男性と対面した。

「ミリエル姉さん、紹介しますね。彼が姉さんにテイン様を紹介した、ルドです」
「あんな馬鹿なことをする奴だとは思ってなかった。本当にすまなかった」

 待ち合わせをしたレストランの個室に現れた彼を見た時には、驚きすぎて声も出なかった。

 冷静に考えれば予測できていた。
 でも、まさか、そんなことはないと選択肢から勝手に除外していたのだ。

 白いテーブルをはさんだ向かい側に座り、私に向かって頭を下げている男性は、ヨウビル公爵家の嫡男で、現在のヨウビル公爵夫人の連れ子であるテイン様にとっては血の繋がらない兄、ジェラルド様だった。


 
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