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4  妹の婚約者候補

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 今までは大して仲が良くなかったのに、入院中に同盟でも組んだのか、両親は帰ってきて私の顔を見るなり、文句を言ってきた。

「婚約破棄されるだなんて、よっぽどのことをしたんだろう。あまり、勝手なことをするな。本当に嫁にいけなくなるぞ」
「そうよ。あなたにはとっとと家から出ていってほしいのに! あなたの素行が悪いから、こんなことになるんだわ」
 
 お父様の言葉を継いだお母様は、眉を寄せて私を睨んでから言ったあと、私の喉の下を指でつついて言う。

「あなたのせいで、ヨウビル公爵家も無茶苦茶よ。本当に疫病神だわ」

 お母様に言われて、私はお父様とお母様が仲良くなった理由に気が付いた。

 お父様はテイン様とお姉様が結婚すれば、ヨウビル公爵家とのパイプが出来ると期待していた。

 でも、今の状態だと、結婚しても意味がないと思われる。

 お父様は、そんなことになったのは、私のせいだと思っているのだと思う。
 実際はお姉様とテイン様のせいなんだけれど、前回、ヨウビル公爵閣下に目をつけられてしまったのは私のせいだとお父様は思っている。
 お父様にとって私は、邪魔な人間になってしまったのだ。

 でも、今回は二人共、それ以上、私にネチネチは言えなかった。

 二人が入院中にソルトが邸内での株を上げてしまったから、お父様達の居心地がただでさえ悪いところに、ソルトの機嫌を損ねれば、余計に自分達の立場が悪くなることくらいは理解できたらしい。

 お父様が屋敷に戻ってからは、ソルトは学園に通うようになり、私はお父様の仕事を手伝うようになった。

 文句を言われないように動いていることもあってか、お父様は仕事の件では何も言わないけれど、かわりに私の婚約者の話をするようになった。

 シーフ様の件から、私の婚約者になりたい、なってくれるという人は、今のところ誰もいない。

「お前はいつまで親のすねかじりをするつもりなんだ。婚約者くらい、自分で見つけてこい」

 お父様は口を開けば、この話しかしなかった。

「ミリーの婚約者が見つかるのと、私とテイン様が結婚するのは、どちらが早いのでしょうね」

 お姉様は顔を合わす度に、そんなことを言ってくる。
 お姉様のほうも先は長いと思うのだけれど、相手がいる分、余裕な気持ちはわかる。

 ただ、私は結婚を諦めていたし、この家を出ても生きていくのに十分なお金を手に入れた。
 だから、焦らない。

 お姉様はお金のことを知らないから、私がいつか、この家を出ていくつもりでいるなんて、夢にも思っていないでしょう。

 すぐに出ていっても良いのだけれど、ソルトがせめて学園を卒業するまでの、あと1年間はこの家で我慢するつもりだった。

 そして、その間に、新しい家や新しく住む場所で幸せに暮らしていくためのプランを考えていく。
 そんなことを考えるだけで、心が弾んだ。

 たまたま、全員がダイニングルームに同時期に揃ったある日のこと。
 ソルト以外の三人が、私に婚約者がいないことについて話を始めた。

「ミリエルには困ったものね。ソルトがこの家を継いだらどうするつもりなのかしら」
「お母様、そんなことを言わないで。ソルトはミリーが好きだから置いてあげるに決まっているわ。ミリーはそれが迷惑だと気付かずに、一生、住み続けるのよ」
「そんなことは許さん。絶対に出ていってもらわないとな」

 お母様、お姉様、お父様の順番にそう言ったあと、責めるような眼差しを私に向けてくる。

 そんな視線を気にせずに食事を続けていると、ソルトが口を開く。

「ミリエル姉さんをどうこう言う前に、自分達の未来を考えたらどうですか? 僕がこの家を継いだら、父上も母上も居場所がなくなりますからね」
「俺は死ぬまで家督は譲らん!」

 お父様が立ち上がって叫んだ。

「そんなことを言っていたら死が早まりますよ? 事故だって人為的だった可能性がありますし」
「なんだと!?」
「なんですって!?」

 お父様とお母様が驚きの声を上げた。

「調査報告書ではそうなっていましたよ。よっぽどお二人は恨みを買ってるんですね」

 ソルトはにこりと笑う。
 それが本当の笑顔ではないことは、すぐにわかった。

「まさか、ソルト! あなたの仕業なの!?」
「なぜ、僕が母上にそんなことをしないといけないんです? それとも、そうされてもおかしくないことを、母上は僕にしたんですかね?」

 ソルトは怒りを隠さずに冷たい声で尋ねた。

「それは……、その、わからないわ。身に覚えがないから……」
「なら、僕だって、母上を殺そうだなんて思いませんよ」

 ソルトの仕業ではないことはわかっているみたいだけれど、お母様の顔は真っ青になった。

 あの事故が自分の命を狙うものだった、もしくは脅しだったのかもしれないと気付いたみたい。

「それから、ミリエル姉さん、よろしければ婚約者として紹介したい人がいるんです」
「え!?」

 驚いたのは私だけじゃなく、お姉様もだった。

「ミリーに誰を紹介するつもり!?」

 お姉様はテーブルに身を乗り出して、ソルトに尋ねた。
 けれど、ソルトは素っ気なく答える。

「レジーノ様には関係ない話ですよ」
「私はミリーの姉なのよ!?」
「妹の好きな人を悪気なく奪っておいて、今さら姉だとか言われても、僕は信用しませんので」

 ソルトの言葉に対して、お姉様は言い返せずに唇を噛んだだけだった。

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