5 / 59
4 妹の婚約者候補
しおりを挟む
今までは大して仲が良くなかったのに、入院中に同盟でも組んだのか、両親は帰ってきて私の顔を見るなり、文句を言ってきた。
「婚約破棄されるだなんて、よっぽどのことをしたんだろう。あまり、勝手なことをするな。本当に嫁にいけなくなるぞ」
「そうよ。あなたにはとっとと家から出ていってほしいのに! あなたの素行が悪いから、こんなことになるんだわ」
お父様の言葉を継いだお母様は、眉を寄せて私を睨んでから言ったあと、私の喉の下を指でつついて言う。
「あなたのせいで、ヨウビル公爵家も無茶苦茶よ。本当に疫病神だわ」
お母様に言われて、私はお父様とお母様が仲良くなった理由に気が付いた。
お父様はテイン様とお姉様が結婚すれば、ヨウビル公爵家とのパイプが出来ると期待していた。
でも、今の状態だと、結婚しても意味がないと思われる。
お父様は、そんなことになったのは、私のせいだと思っているのだと思う。
実際はお姉様とテイン様のせいなんだけれど、前回、ヨウビル公爵閣下に目をつけられてしまったのは私のせいだとお父様は思っている。
お父様にとって私は、邪魔な人間になってしまったのだ。
でも、今回は二人共、それ以上、私にネチネチは言えなかった。
二人が入院中にソルトが邸内での株を上げてしまったから、お父様達の居心地がただでさえ悪いところに、ソルトの機嫌を損ねれば、余計に自分達の立場が悪くなることくらいは理解できたらしい。
お父様が屋敷に戻ってからは、ソルトは学園に通うようになり、私はお父様の仕事を手伝うようになった。
文句を言われないように動いていることもあってか、お父様は仕事の件では何も言わないけれど、かわりに私の婚約者の話をするようになった。
シーフ様の件から、私の婚約者になりたい、なってくれるという人は、今のところ誰もいない。
「お前はいつまで親のすねかじりをするつもりなんだ。婚約者くらい、自分で見つけてこい」
お父様は口を開けば、この話しかしなかった。
「ミリーの婚約者が見つかるのと、私とテイン様が結婚するのは、どちらが早いのでしょうね」
お姉様は顔を合わす度に、そんなことを言ってくる。
お姉様のほうも先は長いと思うのだけれど、相手がいる分、余裕な気持ちはわかる。
ただ、私は結婚を諦めていたし、この家を出ても生きていくのに十分なお金を手に入れた。
だから、焦らない。
お姉様はお金のことを知らないから、私がいつか、この家を出ていくつもりでいるなんて、夢にも思っていないでしょう。
すぐに出ていっても良いのだけれど、ソルトがせめて学園を卒業するまでの、あと1年間はこの家で我慢するつもりだった。
そして、その間に、新しい家や新しく住む場所で幸せに暮らしていくためのプランを考えていく。
そんなことを考えるだけで、心が弾んだ。
たまたま、全員がダイニングルームに同時期に揃ったある日のこと。
ソルト以外の三人が、私に婚約者がいないことについて話を始めた。
「ミリエルには困ったものね。ソルトがこの家を継いだらどうするつもりなのかしら」
「お母様、そんなことを言わないで。ソルトはミリーが好きだから置いてあげるに決まっているわ。ミリーはそれが迷惑だと気付かずに、一生、住み続けるのよ」
「そんなことは許さん。絶対に出ていってもらわないとな」
お母様、お姉様、お父様の順番にそう言ったあと、責めるような眼差しを私に向けてくる。
そんな視線を気にせずに食事を続けていると、ソルトが口を開く。
「ミリエル姉さんをどうこう言う前に、自分達の未来を考えたらどうですか? 僕がこの家を継いだら、父上も母上も居場所がなくなりますからね」
「俺は死ぬまで家督は譲らん!」
お父様が立ち上がって叫んだ。
「そんなことを言っていたら死が早まりますよ? 事故だって人為的だった可能性がありますし」
「なんだと!?」
「なんですって!?」
お父様とお母様が驚きの声を上げた。
「調査報告書ではそうなっていましたよ。よっぽどお二人は恨みを買ってるんですね」
ソルトはにこりと笑う。
それが本当の笑顔ではないことは、すぐにわかった。
「まさか、ソルト! あなたの仕業なの!?」
「なぜ、僕が母上にそんなことをしないといけないんです? それとも、そうされてもおかしくないことを、母上は僕にしたんですかね?」
ソルトは怒りを隠さずに冷たい声で尋ねた。
「それは……、その、わからないわ。身に覚えがないから……」
「なら、僕だって、母上を殺そうだなんて思いませんよ」
ソルトの仕業ではないことはわかっているみたいだけれど、お母様の顔は真っ青になった。
あの事故が自分の命を狙うものだった、もしくは脅しだったのかもしれないと気付いたみたい。
「それから、ミリエル姉さん、よろしければ婚約者として紹介したい人がいるんです」
「え!?」
驚いたのは私だけじゃなく、お姉様もだった。
「ミリーに誰を紹介するつもり!?」
お姉様はテーブルに身を乗り出して、ソルトに尋ねた。
けれど、ソルトは素っ気なく答える。
「レジーノ様には関係ない話ですよ」
「私はミリーの姉なのよ!?」
「妹の好きな人を悪気なく奪っておいて、今さら姉だとか言われても、僕は信用しませんので」
ソルトの言葉に対して、お姉様は言い返せずに唇を噛んだだけだった。
「婚約破棄されるだなんて、よっぽどのことをしたんだろう。あまり、勝手なことをするな。本当に嫁にいけなくなるぞ」
「そうよ。あなたにはとっとと家から出ていってほしいのに! あなたの素行が悪いから、こんなことになるんだわ」
お父様の言葉を継いだお母様は、眉を寄せて私を睨んでから言ったあと、私の喉の下を指でつついて言う。
「あなたのせいで、ヨウビル公爵家も無茶苦茶よ。本当に疫病神だわ」
お母様に言われて、私はお父様とお母様が仲良くなった理由に気が付いた。
お父様はテイン様とお姉様が結婚すれば、ヨウビル公爵家とのパイプが出来ると期待していた。
でも、今の状態だと、結婚しても意味がないと思われる。
お父様は、そんなことになったのは、私のせいだと思っているのだと思う。
実際はお姉様とテイン様のせいなんだけれど、前回、ヨウビル公爵閣下に目をつけられてしまったのは私のせいだとお父様は思っている。
お父様にとって私は、邪魔な人間になってしまったのだ。
でも、今回は二人共、それ以上、私にネチネチは言えなかった。
二人が入院中にソルトが邸内での株を上げてしまったから、お父様達の居心地がただでさえ悪いところに、ソルトの機嫌を損ねれば、余計に自分達の立場が悪くなることくらいは理解できたらしい。
お父様が屋敷に戻ってからは、ソルトは学園に通うようになり、私はお父様の仕事を手伝うようになった。
文句を言われないように動いていることもあってか、お父様は仕事の件では何も言わないけれど、かわりに私の婚約者の話をするようになった。
シーフ様の件から、私の婚約者になりたい、なってくれるという人は、今のところ誰もいない。
「お前はいつまで親のすねかじりをするつもりなんだ。婚約者くらい、自分で見つけてこい」
お父様は口を開けば、この話しかしなかった。
「ミリーの婚約者が見つかるのと、私とテイン様が結婚するのは、どちらが早いのでしょうね」
お姉様は顔を合わす度に、そんなことを言ってくる。
お姉様のほうも先は長いと思うのだけれど、相手がいる分、余裕な気持ちはわかる。
ただ、私は結婚を諦めていたし、この家を出ても生きていくのに十分なお金を手に入れた。
だから、焦らない。
お姉様はお金のことを知らないから、私がいつか、この家を出ていくつもりでいるなんて、夢にも思っていないでしょう。
すぐに出ていっても良いのだけれど、ソルトがせめて学園を卒業するまでの、あと1年間はこの家で我慢するつもりだった。
そして、その間に、新しい家や新しく住む場所で幸せに暮らしていくためのプランを考えていく。
そんなことを考えるだけで、心が弾んだ。
たまたま、全員がダイニングルームに同時期に揃ったある日のこと。
ソルト以外の三人が、私に婚約者がいないことについて話を始めた。
「ミリエルには困ったものね。ソルトがこの家を継いだらどうするつもりなのかしら」
「お母様、そんなことを言わないで。ソルトはミリーが好きだから置いてあげるに決まっているわ。ミリーはそれが迷惑だと気付かずに、一生、住み続けるのよ」
「そんなことは許さん。絶対に出ていってもらわないとな」
お母様、お姉様、お父様の順番にそう言ったあと、責めるような眼差しを私に向けてくる。
そんな視線を気にせずに食事を続けていると、ソルトが口を開く。
「ミリエル姉さんをどうこう言う前に、自分達の未来を考えたらどうですか? 僕がこの家を継いだら、父上も母上も居場所がなくなりますからね」
「俺は死ぬまで家督は譲らん!」
お父様が立ち上がって叫んだ。
「そんなことを言っていたら死が早まりますよ? 事故だって人為的だった可能性がありますし」
「なんだと!?」
「なんですって!?」
お父様とお母様が驚きの声を上げた。
「調査報告書ではそうなっていましたよ。よっぽどお二人は恨みを買ってるんですね」
ソルトはにこりと笑う。
それが本当の笑顔ではないことは、すぐにわかった。
「まさか、ソルト! あなたの仕業なの!?」
「なぜ、僕が母上にそんなことをしないといけないんです? それとも、そうされてもおかしくないことを、母上は僕にしたんですかね?」
ソルトは怒りを隠さずに冷たい声で尋ねた。
「それは……、その、わからないわ。身に覚えがないから……」
「なら、僕だって、母上を殺そうだなんて思いませんよ」
ソルトの仕業ではないことはわかっているみたいだけれど、お母様の顔は真っ青になった。
あの事故が自分の命を狙うものだった、もしくは脅しだったのかもしれないと気付いたみたい。
「それから、ミリエル姉さん、よろしければ婚約者として紹介したい人がいるんです」
「え!?」
驚いたのは私だけじゃなく、お姉様もだった。
「ミリーに誰を紹介するつもり!?」
お姉様はテーブルに身を乗り出して、ソルトに尋ねた。
けれど、ソルトは素っ気なく答える。
「レジーノ様には関係ない話ですよ」
「私はミリーの姉なのよ!?」
「妹の好きな人を悪気なく奪っておいて、今さら姉だとか言われても、僕は信用しませんので」
ソルトの言葉に対して、お姉様は言い返せずに唇を噛んだだけだった。
107
お気に入りに追加
4,953
あなたにおすすめの小説
どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします
文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。
夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。
エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。
「ゲルハルトさま、愛しています」
ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。
「エレーヌ、俺はあなたが憎い」
エレーヌは凍り付いた。
【完結】今世も裏切られるのはごめんなので、最愛のあなたはもう要らない
曽根原ツタ
恋愛
隣国との戦時中に国王が病死し、王位継承権を持つ男子がひとりもいなかったため、若い王女エトワールは女王となった。だが──
「俺は彼女を愛している。彼女は俺の子を身篭った」
戦場から帰還した愛する夫の隣には、別の女性が立っていた。さらに彼は、王座を奪うために女王暗殺を企てる。
そして。夫に剣で胸を貫かれて死んだエトワールが次に目が覚めたとき、彼と出会った日に戻っていて……?
──二度目の人生、私を裏切ったあなたを絶対に愛しません。
★小説家になろうさまでも公開中
幼馴染がそんなに良いなら、婚約解消いたしましょうか?
ルイス
恋愛
「アーチェ、君は明るいのは良いんだけれど、お淑やかさが足りないと思うんだ。貴族令嬢であれば、もっと気品を持ってだね。例えば、ニーナのような……」
「はあ……なるほどね」
伯爵令嬢のアーチェと伯爵令息のウォーレスは幼馴染であり婚約関係でもあった。
彼らにはもう一人、ニーナという幼馴染が居た。
アーチェはウォーレスが性格面でニーナと比べ過ぎることに辟易し、婚約解消を申し出る。
ウォーレスも納得し、婚約解消は無事に成立したはずだったが……。
ウォーレスはニーナのことを大切にしながらも、アーチェのことも忘れられないと言って来る始末だった……。
【完結】アッシュフォード男爵夫人-愛されなかった令嬢は妹の代わりに辺境へ嫁ぐ-
七瀬菜々
恋愛
ブランチェット伯爵家はずっと昔から、体の弱い末の娘ベアトリーチェを中心に回っている。
両親も使用人も、ベアトリーチェを何よりも優先する。そしてその次は跡取りの兄。中間子のアイシャは両親に気遣われることなく生きてきた。
もちろん、冷遇されていたわけではない。衣食住に困ることはなかったし、必要な教育も受けさせてもらえた。
ただずっと、両親の1番にはなれなかったというだけ。
---愛されていないわけじゃない。
アイシャはずっと、自分にそう言い聞かせながら真面目に生きてきた。
しかし、その願いが届くことはなかった。
アイシャはある日突然、病弱なベアトリーチェの代わりに、『戦場の悪魔』の異名を持つ男爵の元へ嫁ぐことを命じられたのだ。
かの男は血も涙もない冷酷な男と噂の人物。
アイシャだってそんな男の元に嫁ぎたくないのに、両親は『ベアトリーチェがかわいそうだから』という理由だけでこの縁談をアイシャに押し付けてきた。
ーーーああ。やはり私は一番にはなれないのね。
アイシャはとうとう絶望した。どれだけ願っても、両親の一番は手に入ることなどないのだと、思い知ったから。
結局、アイシャは傷心のまま辺境へと向かった。
望まれないし、望まない結婚。アイシャはこのまま、誰かの一番になることもなく一生を終えるのだと思っていたのだが………?
※全部で3部です。話の進みはゆっくりとしていますが、最後までお付き合いくださると嬉しいです。
※色々と、設定はふわっとしてますのでお気をつけください。
※作者はザマァを描くのが苦手なので、ザマァ要素は薄いです。
[完結]本当にバカね
シマ
恋愛
私には幼い頃から婚約者がいる。
この国の子供は貴族、平民問わず試験に合格すれば通えるサラタル学園がある。
貴族は落ちたら恥とまで言われる学園で出会った平民と恋に落ちた婚約者。
入婿の貴方が私を見下すとは良い度胸ね。
私を敵に回したら、どうなるか分からせてあげる。
【完結】婚約者が好きなのです
maruko
恋愛
リリーベルの婚約者は誰にでも優しいオーラン・ドートル侯爵令息様。
でもそんな優しい婚約者がたった一人に対してだけ何故か冷たい。
冷たくされてるのはアリー・メーキリー侯爵令嬢。
彼の幼馴染だ。
そんなある日。偶然アリー様がこらえきれない涙を流すのを見てしまった。見つめる先には婚約者の姿。
私はどうすればいいのだろうか。
全34話(番外編含む)
※他サイトにも投稿しております
※1話〜4話までは文字数多めです
注)感想欄は全話読んでから閲覧ください(汗)
旦那様は大変忙しいお方なのです
あねもね
恋愛
レオナルド・サルヴェール侯爵と政略結婚することになった私、リゼット・クレージュ。
しかし、その当人が結婚式に現れません。
侍従長が言うことには「旦那様は大変忙しいお方なのです」
呆気にとられたものの、こらえつつ、いざ侯爵家で生活することになっても、お目にかかれない。
相変わらず侍従長のお言葉は「旦那様は大変忙しいお方なのです」のみ。
我慢の限界が――来ました。
そちらがその気ならこちらにも考えがあります。
さあ。腕が鳴りますよ!
※視点がころころ変わります。
※※2021年10月1日、HOTランキング1位となりました。お読みいただいている皆様方、誠にありがとうございます。
【完結】婚約破棄される前に私は毒を呷って死にます!当然でしょう?私は王太子妃になるはずだったんですから。どの道、只ではすみません。
つくも茄子
恋愛
フリッツ王太子の婚約者が毒を呷った。
彼女は筆頭公爵家のアレクサンドラ・ウジェーヌ・ヘッセン。
なぜ、彼女は毒を自ら飲み干したのか?
それは婚約者のフリッツ王太子からの婚約破棄が原因であった。
恋人の男爵令嬢を正妃にするためにアレクサンドラを罠に嵌めようとしたのだ。
その中の一人は、アレクサンドラの実弟もいた。
更に宰相の息子と近衛騎士団長の嫡男も、王太子と男爵令嬢の味方であった。
婚約者として王家の全てを知るアレクサンドラは、このまま婚約破棄が成立されればどうなるのかを知っていた。そして自分がどういう立場なのかも痛いほど理解していたのだ。
生死の境から生還したアレクサンドラが目を覚ました時には、全てが様変わりしていた。国の将来のため、必要な処置であった。
婚約破棄を宣言した王太子達のその後は、彼らが思い描いていたバラ色の人生ではなかった。
後悔、悲しみ、憎悪、果てしない負の連鎖の果てに、彼らが手にしたものとは。
「小説家になろう」「カクヨム」「ノベルバ」にも投稿しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる