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10−1  結末

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「エアリス!! あなた、やっと帰ってくる気になったの?」

 イザメル様は私を見て叫んだ。
 私はソファーに座ったまま、向かいに座っている彼女に聞き返す。

「帰ってくる気になったのか、と仰られる意味がわかりません」
「それはそうでしょう。ロンバートをあんな目に合わせておいて! 戻ってこないだなんてありえないわ!」
「私は何もしておりませんが? 大体、ご子息と私はもう赤の他人です。あの家に帰る必要はありません」
「何を言ってるの! ロンバートがあなたに謝りたいと言ってるのよ!」
「謝りたい? そんな事言われても私は興味ありません。ロンバートはある意味、あなたやオルザベートの犠牲者であるかもしれませんが、かといって許すつもりはありませんから」

 最後に暴言を吐かれた事、イザメル様から守ってくれなかった事、オルザベートと浮気した事を簡単に許す気にはなれない。
 大体、私の事を本当に好きだったのかもわからない。
 私は魅了魔法だったけれと、ロンバートはどういうつもりで私に近付いたんだろう?
 
「これだから魔法使いは嫌なのよ」
「私は正式な魔法使いではありません。魔力はありますけど、魔法の使い方がわかりませんから」
「その魔力が高い事が許せないのよ! どうせ、私達の様な魔力の少ない人間を蔑んでいるんでしょう!?」
 
 イザメル様の言葉に私とビアラは思わず顔を見合わせる。
 私はそんな事を思った事もなかったし、ビアラもそうではない感じだった。

「どうしてそんな事を思うんです」
「私がそう思うからよ」

 返された言葉の意味がわからずに、眉を寄せると、イザメル様が続ける。

「私よりも劣った人間を見ると死ねばいいのにと思う事がある。それと同じよ」
「意味がわからないんですけど、そんなひねくれた考え方する人の方が少ないですよ」

 ビアラが鼻で笑うと、イザメル様は彼女に食ってかかる。

「あなた、口の聞き方を知らないようね? 警察だかなんだか知らないけれど、どうせあなたは下っ端でどうせ平民あがりか何かでしょう? 私は伯爵の母なのよ!」
「息子さんも犯罪者なんですから、その爵位も剥奪されますよ。おめでとうございます」

 ビアラが笑顔で言った途端、座っていたイザメル様が立ち上がった。

「あなた名前を名乗りなさい! 私がこの手で潰してやるわ! あなたの上司は私の手駒なのよ」
「ビアラ・ミゼライトと申します。それにしても、嫌な世の中になりましたねぇ。お金で権力でもなんでも買えちゃうんですかぁ。あ、でも本当のお友達や家族は買えなかったみたいですけどね?」

 ビアラがわざと挑発的な態度をとると、イザメル様は案の定、彼女のかけた罠にはまった。

「この生意気な!」

 立ち上がったイザメル様は、ビアラの前まで歩いていくと、彼女の頬を殴った。

「覚えておきなさいよ。あんたなんか私の手にかかれば、命だって取れるんですからね!」
「その前に留置場ですね」
「は?」

 ビアラの言葉にイザメル様は息を荒くしながらも聞き返すので、彼女が答える。

「暴行罪です」
「は?」

 またイザメル様が聞き返すので、今度は私が答える。

「イザメル様、人を殴ったら暴行罪ですよ。それに、さっきはビアラを潰すとか何とか言ってましたよね。それは脅迫罪に当たります」
「というわけで、現行犯で逮捕しますね」

 ビアラはにっこり笑って、スーツの内ポケットの中から手錠を取り出す。

「な! そんな馬鹿な! そんな事が出来るわけないでしょう!?」
 
 そう言いながらも、イザメル様の顔は焦ったものになっていた。

「出来ますよ。だって、私、権力は怖くないですもの。今回はカイジス公爵から権限もらってますし、こんな事言ったらなんですが、今の私の立場はあなたとつながってる私の上司より上ですよ」

 ビアラがイザメル様に近付いていくと、イザメル様が後退りする。

「嫌よ、やめなさい。そんな事をしたって、すぐに留置場から出て、今度こそあなたを!」
「イザメル様、もう無理ですよ」

 言葉を遮った私を、イザメル様は睨みつけて聞いてくる。

「何が無理だって言うのよ!」
「あなたの元旦那様が、あなたの今までの悪事を証言なさるそうです」
「元…旦那…? …そんな、どうして、あの人が…」
「優しい方でしたから、今まであなたの悪事を言えなかったようです。いつか、目を覚ますのではないかと、止められなかった自分が悪いのだと。でも、カイジス公爵の説得により、あなたの罪をすべて公言するとおっしゃいました。ですから、あなたがやっていた事は明るみになります。魔法使いを虐待していた事、そして、今も軟禁しているという事も…」

 私の言葉を聞いたイザメル様は膝から崩れ落ちた。
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